)” の例文
が動くと、クスクスと笑うものがあるので、誰と低くきくと、あたしだよと答えるのは姉さんで、そっとうようにして上陸あがる——
うつくしいてて、たまのやうなこいしをおもしに、けものかはしろさらされたのがひたしてある山川やまがは沿うてくと、やまおくにまたやまがあつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
だが、その夜は、あいにく、にもめぐまれず、しかもそれ以後まもなく、二人の恋は、致命的な事件に会わねばならなかった。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
片足かたあしは、みづ落口おちくちからめて、あしのそよぐがごとく、片足かたあしさぎねむつたやうにえる。……せきかみみづ一際ひときはあをんでしづかである。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
自分が眠っている間も、あの人たちはじっと身動きもせずに立ちつづけているのだろう、と思うとたまらないなさがこみ上げて来た。
「わたくしは一番いちばん半兵衛はんべえ後家ごけ、しのと申すものでございます。実はわたくしのせがれ新之丞しんのじょうと申すものが大病なのでございますが……」
おしの (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そして少しかみてが、滝ともともつかない急な流れでゆきどまりとなり、その下に、大人の胸ほどの深さのひろいふちをこさえていました。
山の別荘の少年 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
疲れるにつれて、こんどはたまらなくなくなって来た。わっと泣きたいような、いきなり往来の真ン中にぶっ倒れてみたいような……。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
春の徴兵適齢者ちょうへいてきれいしゃたちは、報告書と照らしあわされて、品評会ひんぴょうかいの菜っ葉や大根のようにその場で兵種がきめられ、やがて年のがせまるころ
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
その谷川の早いすえがロアール川の支流しりゅうの一つへ流れこんで行く、その岸の小さな家で、わたしは子どもの時代を送った。
いずれも力のはいる見物みもので、三十余組の勝負に時はようやく移って正午に一息つき、日のようやく傾く頃、武州高槻たかつき柳剛流りゅうごうりゅう師範あま某と
ましてこんなに年を取つて、住み馴れた家を追はれ、嫌ひな人の所へなんか連れて来られて、どんなにないであらう。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そのほか、山の神さまや川のの神さまにいたるまで、いちいちもれなくお供えものをおあげになって、ていちょうにお祭りをなさいました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
「十八日。晴。朝飯より出立。よう迄小坂五六あり。当駅より人車に而布袋ほてい村迄、夫より歩行、午後一時頃味野あぢの村へ著。」
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
茱萸ぐみばやしに、今井四郎兼平のひきいる六千余騎は、わしを渡って日宮ひのみや林に陣を構え、大将義仲は、一万余騎を引き連れ、埴生はにゅうに陣を敷いた。
第一にまず四ツ谷永住町ながずみちょう太田おおた五斗兵衛ごとべえ、つづいては牛込の小林玄竜げんりゅう、それから下谷竹町の三ノ熊右衛門くまえもんと、たった三人しきゃいねえんだよ。
其夜そのよとこりしかども、さりとは肝癪かんしやくのやるなく、よしや如何いかなる用事ようじありとても、れなき留守るす無斷むだん外出ぐわいしつ殊更ことさら家内かないあけはなしにして
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
こいつァどうも御挨拶ごあいさつだ。ひとらない、おせんのはだかをのぞかせた挙句あげくはなのあるのが不思議ふしぎだといわれたんじゃ、まつろうがありやせん。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
風のためか、今まで聞えなかった遠くのの音が、ひびいて参りました。坊さんの梟はゴホンゴホンと二つ三つせきばらいをしてまたはじめました。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
彼は唯、学問に没頭することによって、僅かにない失恋の悲しみをまぎらそうとした。北川氏はそれらの事情を知り過ぎる程よく知っていた。
恐ろしき錯誤 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
松代は、なさそうに、嘉津子の頭を自分の胸へぐっとかかえた。嘉津子は母親の胸の中で静かに歔欷すすりなきを始めた。
栗の花の咲くころ (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
水はせいぜい膝がしらぐらいの深さしかないが、五けんほどの幅で、岩にせかれながら相当早いをつくって流れている。ちょっと手軽にゆきそうもない。
キャラコさん:04 女の手 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そのかわりに二人の心は、日が暮れるのを待ちかねてこの地境の黒い土の上でを楽しみ合うのでした。
(新字新仮名) / 夢野久作(著)
三十五の出戻り、存分にみにくい中年女は、この若い二人のやるない戀路を、格子かうし獅噛しがみついて、大向うから濡れ場を見るやうな熱心さで眺めてゐたのでした。
この子の巴里を迎い入れる天稟てんぴんも私の好尚の第一意義に合致するのはうれしくもないことだった。
オペラの辻 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そうなると貴女とだって、今までのように贅沢ぜいたくを楽しむことが出来なくなるじゃありませんか。僕の病気が再発しても、最早もはや博士は救って下さいません。
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
たゞ左右さいう斷崕だんがい其間そのあひだ迂回うねながるゝ溪水たにがはばかりである。辿たどつておくおくへとのぼるにれて、此處彼處こゝかしこ舊遊きういうよどみ小蔭こかげにはボズさんの菅笠すげがさえるやうである。
都の友へ、B生より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
つくえくんなどは、こんどはたらきにれば、きっとおもいもののだいにでもなるだろう。そうすれば、一生いっしょうかぶがない。乳母車うばぐるまさんだって、どうせらくはありっこない。
春さきの古物店 (新字新仮名) / 小川未明(著)
うかがないので、味噌みそとか、ゴマのようなものを混ぜて買って来ては、結構利潤りじゅんがのぼっていた。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
終生浮ぶのなき凌辱りょうじょくこうむりながら、なお儒教的教訓の圧制に余儀なくせられて、ひそかに愛の欠乏に泣きつつあるは、妾の境遇に比して、その幸不幸如何いかなりやなど
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
そのお前の持つている大刀や弓矢を以つて、大勢の神をば坂の上に追い伏せ河のに追いはらつて
かはいしふみわたりぬばたまの黒馬くろまつねにあらぬかも 〔巻十三・三三一三〕 作者不詳
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
それというのも、義務ぎむとか責任せきにんとかいうことを、まじめに正直しょうじきに考えておったらば、実際じっさい人間のはない。手足をばくして水中すいちゅうにおかれたとなんのわるところもない。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
抜いたのは同時だったが、虚心流きょしんりゅう捨身すてみの剣の前に、四人の供はたちまち地にって……身を捨ててこそ浮かぶもある喬之助の強刃ごうじん白蛇はくだのごとくおどって慶之助に追い迫った。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
さてなる事は、かはひろにてかれうみおきたる所洪水こうずゐなどにてかはりて河原かはらとなりしが幾とせたちてもうみたる子くさらず、ふたゝび瀬となればその子生化せいくわしてさけとなる。
それで、彼女の、甘ったるく、ない、恋路の夢が、突如として、中断されてしまった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
それはあまの町から来てゐる金持の家の子で、惣兵衛そうべゑといふ名だつた。惣兵衛ちやんがみんなから仲間はづれになるのは、お坊ちやん育ちで我儘わがままで、わからずやだつたからである。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
しかし、二人の胸の中にう想いは、ヴァイオリンの音になって、高く低く聞こえている。その音は、あらゆる人の世の言葉にも増して、ない悲しみを現わしたものである。
秋の歌 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
どんなにまた煩悶はんもんをしておいでになる夜であろうなどと考えると苦しくなって、こんなない苦しみばかりをせねばならぬ恋というものをなぜおもしろいことに人は思うのであろうと
源氏物語:40 夕霧二 (新字新仮名) / 紫式部(著)
彼女はときどきに肩をふるわせて、ないようにすすり泣きをしていた。
半七捕物帳:02 石灯籠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
私はない焦燥しょうそうを感じる。このままこの黴臭い息づまるような空気の中で、——女中部屋の中で、一生を過ごさねばならないのではないか、こういった不安に私はしょっちゅう襲われた。
しかその種々いろ/\さけびの錯雜さくざつしてきこえるこゑ自分じぶん心部むねからあるものつかんでくやうで、自然しぜんにそれへみゝすますとなんだかのないやうな果敢はかなさをかんじてなみだちた。なみだ卯平うへい白髮しらがしたゝつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
つかの間に危うきをむさぼりて、長きふちと変らば……
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いつまでってもうかはないことになる。
絶對なんざあ、たつがあるまい。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
を行く魚もふちにあり
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
きりふかかはなりて
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
はやうち
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
去年、秀吉のやな戦捷せんしょうのとき、家康から秀吉への賀の使者として、初花はつはなの茶入れをたずさえ、石川数正がえらばれて大坂へ行った。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
田圃が湖にならぬが不思議で、どうどうとになって、前途ゆくて一叢ひとむらやぶが見える、それを境にしておよそ二町ばかりの間まるで川じゃ。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)