くゞ)” の例文
旧字:
吉田は刺客に立ち向つて、肩先を深く切られて、きずのために命をおとしたが、横井は刺客の袖の下をくゞつて、都筑と共に其場を逃げた。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
さて、かつしやい、わしはそれからひのきうらけた、いはしたからいはうへた、なかくゞつて草深くさふかこみち何処どこまでも、何処どこまでも。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
すると野菜畑を隔てた遠くの肉桂の林の中から二三人の子供が驚いて飛び出すや、彼等は繋みの底をくゞつてバラ/\と逃げ出した。
肉桂樹 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
勘次かんじは一整骨醫せいこついもんくゞつてからは、世間せけんには這麽こんな怪我人けがにんかずるものだらうかとえず驚愕おどろき恐怖おそれとのねんあつせられてたが
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「違ふよ、親分、あれは、おらぢやねえ、先をくゞつて二人も殺されちや、町内の十七娘が種切れになるから。大急ぎでお袖を締めたんだ」
くゞりしとか申程にいやしく見えしよしすれば貴公樣あなたさまなどは御なりは見惡ふいらせられても泥中でいちう蓮華はちすとやらで御人品は自然おのづからかはらと玉程に違ふを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
こと今日こんにちは鉄道も有り電信も有る世界にて警察の力をくゞおおせるとは到底とうてい出来ざる所にして、おそかれ早かれ露見して罰せらるゝは一つなり。
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
元気のよいお文を先きに立てて、源太郎は太い腰を曲げながら、ヨタヨタと店の暖簾のれんくゞつて、賑やかな道頓堀の通りへ出た。
鱧の皮 (新字旧仮名) / 上司小剣(著)
と突退けますので、此方こっちからくゞってこうとしますると又突退けられます。向うに亥太郎と文治の姿が見えながら近寄ることが出来ませぬ。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あの船の窓から高い岸の上を通る雪仕度の人を見ることが出来た。それから私達は船橋の下なぞをくゞり抜けたことも有つた。
突貫 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
くゞりから這入ると玄関迄の距離は存外短かい。長方形の御影みかげ石が々々とびに敷いてある。玄関は細い奇麗な格子でて切つてある。電鈴ベルを押す。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
なぜなら、丁度、あの一瞬間、中尉は巻煙草に火をつけるために、からだをこゞめてゐた、それが、偶然針金の下をくゞるかたちになつたからです。
けむり(ラヂオ物語) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
カーテンをくゞつてあがりこむと、そこには五十がらみの、親方風の職人が、茶ぶ台のそばにあぐらをかいてのんでゐた。
老残 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
淺草の觀音堂の階段に夜明よあかしをした事もある。木賃宿の行燈あんどうに夜半驚いて虱をさぐり、銘酒屋の曉を人に襲はれ、裏露地をくゞつて逃れ去つた事もある。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
その男は金網を調べてみたが、何処に一つこはれた所も無かつた。で、この鼠は以前子鼠であつた頃網の目をくゞつてちよく/\走り込んだものと判つた。
土堤の中途でみのると同じ行先きへ落合はうとする舊い知人の二三人に出逢ひながら、師匠の門をくゞつた時は、義男と約束した時間よりもおくれてゐた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
余り小癪こしやくに触るつて言ふんで、何でも五六人ばかりで、なぐりに懸つた風なもんだが、巧にその下をくゞつて狐のやうに、ひよん/\げて行つて了つたさうだ。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
その火のなかをくゞつて、槍や刀で攻め込んで行く。その勇しいこと、考へても身體がぞく/\するやうだ。
正雪の二代目 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
其貝層そのかいそうのシキまで掘下ほりさげてると、萬鍬まんぐわつめなかうまくゞつて、つちなかから、にゆツと突起物とつきぶつ
それにも拘らず、私の前の塀と、その、開いてゐる塀の戸がぼんやり見分けられた。この戸口を、私は、新しい案内人とくゞつた。彼女は、背後の戸を閉め、ぢやうをかけた。
くゞるべき所やあるとこゝかしこをたづね、つゞをかけたる所にいたり、くゞりいでんとしてこゝに入ればそこあるゆゑ、いでんとするに口にとがりのあごありていづる事あたはず。
天才が一たび高尚な情操をくゞつて※び出せば、山河も鳴動する、草木も感泣する。かう云ふ力を得てから、初めて人心を制服することも出來る、また慰籍することも出來る。
神秘的半獣主義 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
幾度水にくゞツたかと思はれる銘仙めいせんあはせに、新しい毛襦子けじゆすえりをかけて、しやツきりした姿致やうす長火鉢ながひばちの傍に座ツてゐるところは、是れが娘をモデルに出す人柄ひとがらとは思はれぬ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
宗教画にいろどられた高い門をくゞつてにぎやかな街へ出た。朴氏は勧工場くわんこうばへ私をれて行つたが、私は汽車賃がいづれ又追加される様な気がして莫斯科モスコオの記念の品も買ふ気にはなれなかつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
正太しようたくゞりをけて、ばあとひながらかほすに、ひとは二三げんさき軒下のきしたをたどりて、ぽつ/\と後影うしろかげれだれだ、おいお這入はいりよとこゑをかけて、美登利みどり足駄あしだつツかけばきに
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
彼は追い/\数がえて来る松明たいまつのあいだをたくみにくゞり抜けながら、やがて自分でもかゞり火の燃えさしを取って振りかざした。自分の手に照明があると、自分の姿が却って人に見えにくゝなる。
ただ少數の軍勢をアレースの壁くゞらせて
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
門のくゞり戸がかすかにいた。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
布團の上から突く叩くの亂暴を働いたさうで、幸ひ宗吉は氣が付いてかいくゞるやうに逃げたから助かつたが、でも大變な傷ですよ
吃驚びっくりして、背後うしろは見ないで、抜けたり、くゞったり、呼吸いきぐるしいほどの中をもぐって出て、まず水のある処へ行きましたがね。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
水司又市は十方でぶう/\/\/\と吹く竹螺たけぼらを聞きまして、多勢の百姓共に取捲とりまかれては一大事と思いまして、何処どこを何うくゞったか
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
彼は三十分と立たないうちに、吾家わがいへ門前もんぜんた。けれどももんくゞる気がしなかつた。かれは高いほしいたゞいて、しづかな屋敷町やしきまちをぐる/\徘徊した。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
私の父は若い時分継母のはからひで勘当同様の姿で家を出され、放浪中は土方の群れにも交つて刃ものの間をくゞつて来た人であることは聞いてゐた。
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
何でも御贔屓ごひいきがひにしばゐを見に来たのだが、いつもの気紛れで貞奴さだやつこでも調弄からかはうと思つて楽屋口をくゞつたらしかつた。
聞て三五郎是は有難しと後について大方丈を通拔とほりぬけ鼓樓ころうの下をくゞりて和尚の座敷の縁側えんがはまかり出平伏なすに此時可睡齋かすゐさいは靜かにころもの袖をかき合せながら三五郎を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
船頭は為方がなしに、『こつちにしませう!』と言つて、また橋の下をくゞつた。辛うじて船を岸につけることが出来た。船頭はかれを旅舎に導くべく先に立つた。
船路 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
勘次かんじ依然いぜんとして俛首うなだれたまゝつひとなり主人しゆじんもんくゞつた。燒趾やけあといしずゑとゞめて清潔きれいはらはれてあつた。中央ちうあうおほきかつた建物たてものうしなつてには喬木けうぼくかこまれてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
みのるはまだ/\、男と一所の貧乏きうぼうな生活の爲に厭な思ひをして質店しちみせの軒さへくゞるけれども、義男は女の好む藝術の爲に新らしい書物一とつ供給あてがふ事を知らなかつた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
岡田は草稿をふところぢ込んで、机の所へ小鼠こねずみのやうに走り戻つて、鉄の文鎮ぶんちんを手に持つた。そして跣足はだしで庭に飛び下りて、植込うゑごみの中をくゞつて、へいにぴつたり身を寄せた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
停車場前の空地には、既に馬から下りて、見送りの人々に挨拶する壮年わかものもあつた。斯の混雑の中をくゞり抜けて、私は途中で一緒に成つた広岡学士と共に塾の体操教師を探した。
突貫 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
右へ延びた方の廊の端に門番の女が住んで居て翁の製作室アトリエが右手の階下にあることを教へてれた。僕達は薔薇ばらの花の絡んで居る鉄柵の小門こもんくゞつて中庭を経て階下の室の鈴を押した。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
こはい顔をした郵便配達は、かう言つて、一間も此方こつちから厚い封書を銀場へ投げ込むと、クルリと身体の向を変へて、靴音荒々しく、板場で焼くうなぎの匂を嗅ぎながら、暖簾のれんくゞつて去つた。
鱧の皮 (新字旧仮名) / 上司小剣(著)
かの水面すゐめんつもりたる雪したよりとけこほりたる雪の力も水にちかきはよわくなり、ながれは雪にふさがれてせまくなりたるゆゑ水勢すゐせいます/\はげしく、陽気やうきて雪のやはらかなる下をくゞり、つゝみのきるゝがごとく
文字もんじけて人中ひとなかけつくゞりつ、筆屋ふでやみせへをどりめば、三五らう何時いつみせをば賣仕舞うりしまふて、腹掛はらがけのかくしへ若干金なにがしかをぢやらつかせ、弟妹おとうといもとひきつれつゝきなものをばなんでもへの大兄樣おあにいさん
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
綱の先は井戸の車をくゞつて向う側の井桁の上に乘せた大釜の下に入つてゐるのだ、——いや大釜の下に敷いた釜敷かましきの端に縛つてあるのさ。
すると丁度隣の土蔵が塗直しで足場が掛けてあってとまが掛っているから、それをくゞって段々参ると、下の方ではワア/\と云う人声ひとごえ、もううなると
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
其中そのなかくゞつたがあふぐとこずえしろい、つきかたち此処ここでもべつにかはりはかつた、浮世うきよ何処どこにあるか十三夜じふさんやで。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その男はお茶もろくに飲まないで、そこ/\に挨拶して帰つた。そして二度と藹山の門をくゞらうともしなかつた。
卯平うへい時々とき/″\東隣ひがしとなりもんをもくゞつた。主人夫婦しゆじんふうふ丈夫ぢやうぶだといつてもやつれた卯平うへいるとあはれになつて
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
私は思ふ、若い心に取つては、実にこの無法なる要求と想像との中をいかにくゞりぬけて行くかといふことが一にかゝつて其人の力と、精神と、強弱とに存するといふことを。
エンジンの響 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)