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小鼠
薄く照して来る荒物屋の店の
灯かげでお涌がすかして見ると、小さい生きものは、
小鼠のやうな耳のある頭を顔中口にして、右へ左へ必死に
噛みつかうとしてゐる。
岡田は草稿を
懐に
捩ぢ込んで、机の所へ
小鼠のやうに走り戻つて、鉄の
文鎮を手に持つた。そして
跣足で庭に飛び下りて、
植込の中を
潜つて、
塀にぴつたり身を寄せた。
……
灰色で
毛の
禿げた
古鼠が、
八九疋の
小鼠をちよろ/\と
連れて
出て、
日比谷を
一散歩と
言つた
面で、
桶の
輪ぐらゐに、ぐるりと
一巡二三度して、すまして
又縁の
下へ
入つて
行く。