ほろ)” の例文
それから中一年置いて、家康が多年目の上のこぶのように思った小山の城が落ちたが、それはもう勝頼のほろびる悲壮劇ひそうげきの序幕であった。
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
白百合しらゆり紅百合べにゆり鳶尾草いちはつの花、信頼心しんらいしんの足りない若いものたちよりも、おまへたちのはうがわたしはすきだ、ほろんだ花よ、むかしの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
そのうち牛若うしわかはだんだんものがわかってました。おとうさんが平家へいけのためにほろぼされたことを人からいて、くやしがってきました。
牛若と弁慶 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
しかし、A病院エーびょういんは、いまも繁栄はんえいしているけれど、慈善病院じぜんびょういんは、B医師ビーいし死後しご、これをひとがなかったためにほろびてしまいました。
三月の空の下 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ロレ さうした過激くわげき歡樂くわんらくは、とかく過激くわげきをはりぐる。煙硝えんせうとが抱合だきあへばたちま爆發ばくはつするがやうに、勝誇かちほこ最中さなかにでもほろせる。
「なあに、窮迫がどれほどひどくなったって、この俺をほろぼせるものではない。俺は、泥まみれになったって俺の道を歩き続けるのだ。」
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
ひとしく臣職しんしょくのものではないか。時来れば、宗家徳川もほろんでよし、尾州紀伊水藩びしゅうきいすいはんの三家、もとより歴史の興亡にまかせて可なりである。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もすこしいつて見れば、それどころかあんまり頭が早くつて、冴えて冷たくさへなつてゐたのだ。で、無論、眞の江戸氣質などは、ほろびたのだ。
凡愚姐御考 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
わたし日本につぽんにおいても、文化ぶんかすゝむにしたがつて、田舍ゐなかにあるふる風俗ふうぞく道具類どうぐるいが、次第しだいほろくことを殘念ざんねんおもふので
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
永代橋えいたいばしを渡って帰って行くのが堪えられぬほどつらく思われた。いっそ、明治が生んだ江戸追慕の詩人斎藤緑雨さいとうりょくうの如くほろびてしまいたいような気がした。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
雌花めばなだけでついに雄蕋おしべにめぐり合うことなくほろびて行く植物の種類の最後の一花、そんなふうにも真佐子が感ぜられるし、何か大きな力に操られながら
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
〔評〕榎本武揚えのもとぶやう等五稜郭りようかくの兵已に敗る。海律全書かいりつぜんしよ二卷を以て我が海軍におくつて云ふ、是れ嘗て荷蘭おらんだに學んでたる所なり、身と倶にほろぶることを惜しむと。
親房ちかふさの第二子顕信あきのぶの子守親もりちか陸奥守むつのかみに任ぜらる……その孫武蔵むさしに住み相模さがみ扇ヶ谷おうぎがやつに転ず、上杉家うえすぎけつかう、上杉家うえすぎけほろぶるにおよびせいおうぎに改め後青木あおきに改む
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
妾は、自分の力を信じているのでございます。あんな男一人ほろぼすのには余る位の力を、持っているように思います。お父様! どうか妾を信じて下さいまし。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ほろびにいたる門は大きく、その道は広く、これより入る者多し。生命にいたる門は狭く、その路は細く、これを見出す者少なし。(マタイ伝第七章一三、一四節)
キリスト教入門 (新字新仮名) / 矢内原忠雄(著)
變な信心にり固まつて、少し氣が變になりかけた兼松は、それが惡事とは思はなかつた。それどころか佛敵をほろぼすのは、功徳の一つだと思ひ込んだに違ひない
受るがせめての罪ほろぼし然樣じや/\とひとごとやがて千太郎の亡骸なきがらに打向ひあまりあなた樣の御身の上の御爲を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ついで実朝の家督相続となった一方、梶原かじわら一族がほろび、比企判官ひきはんがん一家が滅び、仁田四郎にたんのしろうが殺されると云う陰惨な事件が続いて、右大将家の覇業はぎょうも傾きかけたのを見ると
頼朝の最後 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ほろびの風が吹きつのりはじめた、……この伝えの里は儂と共に滅びて行きまするのじゃ。……お願い致しまするぞ。儂に代ってなよたけのいいつたえを信じて下され。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
むかし、三べう(七六)洞庭どうていひだりにし、(七七)彭蠡はうれいみぎにせしが、徳義とくぎをさまらず、これほろぼせり。
甲谷はだんだんほろんで行く自信のために、今はますます宮子に手を延ばさずにはおれなかった。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
近頃はそんなものを見物する旅客もまれになり、いつか知らずほろびてしまったのだそうである。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
なに二世にせなぞがあるものか、たましひほろびないでも、ねば夫婦ふうふはわかれわかれだ。』
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
みことにかかってほろぼされた賊徒ぞくとかず何万なんまんともれぬ。で、それが一だん怨霊おんりょうとなってすきうかがい、たまたまこころよからぬ海神かいじんたすけけをて、あんな稀有けう暴風雨あらしをまきおこしたのじゃ。
ほろ交替こうたいしゆく者にたいする抒情的じょじょうてきな愛も、おのずから説明がつくわけです。
「はつ恋」解説 (新字新仮名) / 神西清(著)
誠意は凋み——信頼はほろぼされてしまつた! ロチスター氏は最早私には以前の彼ではない。何故なら、彼は私の思つてゐた彼ではなかつたのだから。私は不埓ふらちを彼にはさうとは思はない。
ポムペイのほろびた原因げんいん降灰こうはひにあることは、空中くうちゆうから寫眞しやしんでもわかるとほり、各家屋かくかおく屋根やね全部ぜんぶけてゐて、四壁しへき完備かんびしてゐることによつてもわかるが、西暦せいれき千九百六年せんくひやくろくねん大噴火だいふんかのとき
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
いやびっくりさせるばかりじゃない、世界をほろぼすことだってできる。
電人M (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
とうとう吸血鬼はほろんだのであろうか。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
天が平氏をほろぼすのを待ちましょう。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
そのくにほろびることにもなります。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
いのちの火もまたほろぶ彼やいかに。
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
をくひあてゝほろばゞや
友に (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
聲はたちまちほろぶめり
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ときほろびよけよ
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
ほろぼさむ
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
亞米利加あめりか薄荷はくか鐵線蓮かざぐるま留紅草るこうさう、もつと優しい鳩のやうな肉よりも、おまへたちの方がわたしはすきだ。ほろんだ花よ、むかしの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
若者わかものは、自分じぶん父親ちちおやが、海嘯つなみほろびてしまったこのまちを、ふたたびあたらしくてたひとであることをかたりました。船長せんちょうは、うなずきました。
塩を載せた船 (新字新仮名) / 小川未明(著)
とおっしゃって、弓矢ゆみや太刀たちをおりになり、身方みかた軍勢ぐんぜいのまっさきっていさましくたたかって、ほとけさまのてきのこらずほろぼしておしまいになりました。
夢殿 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
一新いつしんはじめ、大久保公遷都せんとけんじて曰ふ、官軍已につと雖、東賊とうぞく猶未だほろびず、宜しく非常ひじやうだんを以て非常の事を行ふべしと。先見の明と謂ふ可し。
将軍をあやめ、主人の子をも害し、また主家の三好をほろぼしたり、その夫人を奪ったり、大仏殿を焼いたりなど——これはできないという良心の躊躇ちゅうちょすらないおとこである。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
武田のほろびた天正十年ほど、徳川家の運命のはかり乱高下らんこうげした年はあるまい。明智光秀あけちみつひでが不意に起って信長を討ち取る。羽柴秀吉はしばひでよし毛利もうり家と和睦わぼくして弔合戦とむらいがっせんに取って返す。
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
……竹の里の伝説はほろんでも、なよたけの姿は決して亡びはしません! なよたけはこの竹の里を捨てて、今こそ僕のものになるのです! 今こそ僕の妻になるのです!
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
およ人間にんげんほろびるのは、地球ちきう薄皮うすかはやぶれてそらからるのでもなければ、大海だいかい押被おツかぶさるのでもない飛騨国ひだのくに樹林きはやしひるになるのが最初さいしよで、しまいにはみんなどろなかすぢくろむしおよ
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
これはたん旅人たびゞと面白おもしろおもはせるためにまうけられたものではなくて、だん/\文明ぶんめいすゝむにしたがひ、むかし風俗ふうぞく面白おもしろ建築物けんちくぶつ次第しだいほろんでくのを保存ほぞんするために出來できたものであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
それは何でもない。間近い城東電車のポールが電力線にスパークする光なのだが、小初はながめているうちに——そうさ、自分に関係のない歓楽ならさっさと一ひらめきにほろびてしまうがいい、と思った。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ほろび易き形や物に淡くなり、永く続くであろうところの心と美とは濃くなってゆく事が必要である。こういう風にして初めて限りもなく都合の良い友情とか善意とかいうものが広く成り立つのである。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
海にほろび、土と朽ちじ。
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
マルタゴン、鈴なり花のマルタゴン、名指なざしてもいいが、ほかの怪物くわいぶつよりもおまへたちのはうがわたしはすきだ。ほろんだ花よ、むかしの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
ほかの生物せいぶつ生存競争せいぞんきょうそうほろびても、協力生活きょうりょくせいかつをするありの種族しゅぞくだけはさかえるのだ、世界せかいじゅうどこでも、ありのいないところはないだろう。
戦友 (新字新仮名) / 小川未明(著)