きまり)” の例文
さかづきをさめるなり汽車きしやつていへ夫婦ふうふ身体からだは、人間にんげんだかてふだか区別くべつかない。遥々はる/″\た、とはれてはなんとももつきまりわるい。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「いいじゃありませんか。もうきまりのわりいお年でもないでしょう」おゆうは顔をあからめながら言って、二人を見比べた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「だツてきまりが惡いんですもの………」とうそでない證據しようこといふやうに顏をあからめ、「をとこかたツてものは、他の事を其様に根堀ねほ葉堀はほりなさるもんじやないわ。」
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
こうなって見ると、もうひそまッているも何となくきまりが悪くなって来たから、文三が素知らぬ顔をしてふッと奥座敷を出る、その顔をお鍋は不思議そうにながめながら
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
どのとほりもどのとほりもから/\で、かへつてほこりくらゐだから、足駄あしだなんぞ穿いちやきまりわるくつてあるけやしない。つまりところんでゐる我々われ/\は一世紀せいきがたおくれることになるんだね
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
時々とき/″\同室どうしつ者等ものらけて、ひとりまどところつて、なにかをむねけて、かしらかゞめて熟視みいつてゐる樣子やうすたれ近着ちかづきでもすれば、きまりわるさうにいそいでむねからなにかをつてかくしてしまふ。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
はじめあさまだきにうままぐさの一かごるにすぎないけれど、くやうなのもとにはたやうやきまりがついて村落むらすべてがみな草刈くさかりこゝろそゝやうれば、わか同志どうしあひさそうてはとほはやし小徑こみちわけく。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それも出世して立派になつてゐるのなら、さうも思はないけれど、つまらない風采なりをして、何だか大変やつれて、私もきまりが悪かつたから、能くは見なかつたけれど、気の毒のやうに身窄みすぼらしい様子だつたわ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ゆるさうして如何だと再度ふたゝびとはれ今はつゝみもならざれば自己おのれは本町小西屋の召仕めしつかひなることより婚姻とまできまりしが今朝こんてう箇樣々々かやう/\醫師いし來りて大藤の娘お光は云々かく/\と云たりしに主個あるじ長左衞門は大きに驚きすぐ管伴ばんたうの忠兵衞を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
一々の物の形を正しく拵えて行くのがきまり
旦那、顔を見っこなし……きまりが悪い……何と、もし、これで別嬪の姉さんを引寄せようという腹だ、おかしな腹だ、たぬきの腹だね。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お島の体は、単衣ひとえもののこの頃では、夕方の涼みに表へ出るのもきまりのわるいほど、月が重っていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
時々ときどき同室どうしつ者等ものらけて、ひとりまどところって、なにかをむねけて、かしらかがめて熟視みいっている様子ようすたれかもし近着ちかづきでもすれば、きまりわるそうにいそいでむねからなにかをってかくしてしまう。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
御早おはやう」と挨拶あいさつした。かれ今朝けさまたとくに參禪さんぜんましたのちうしてあんかへつてはたらいてゐたのである。宗助そうすけはわざ/\おこされてもなかつた自分じぶん怠慢たいまんかへりみて、まつたきまりわるおもひをした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
お前様のおきまりだ。
吹通ふきとほしのかぜすなきて、雪駄せつたちやら/\とひととほる、此方こなた裾端折すそはしをりしか穿物はきものどろならぬ奧山住おくやまずみ足痕あしあとを、白晝はくちういんするがきまりわるしなどかこつ。
森の紫陽花 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「まさか……きまりがわりいじゃありませんか」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
きまりが悪うございますわ。……(太郎は米搗き、次郎は夕な、夕な。)……薄暮合うすくれあいには、よけい沢山たんと飛びますの。」
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どのくらいか臆病おくびょうづらを下げて、きまりの悪いおもいをしたか知れやしねえ、畜生め、ひとが臆病だと思いやあがって
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
浅間あさましい、……きまりが悪い。……由紀は、いまは活きていられない。——こうしていても、貴方(とはじめて顔を振向けて、)私のだいている顔も手も皆見える。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「何だじゃないわ。お気を着けなさいよ。梅次ねえさんの事なんか言って、兄さんがほかの方にきまりが悪いわ。」
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私はきまりが悪うございましたけれども、そっと気をつけましたんですが、こういう処で話をする事ではない。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
きまりが悪いと云えば、私は今、毛筋立を突張つっぱらして、薄化粧はいけれども、のぼせて湯から帰って来ると、染ちゃんお客様が、ッて女房おかみさんが言ったでしょう。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
きまりの悪いことも何にもない。誰も見やしないから、これから先は、人ッ子一人居やしない、よ、そうおし
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
云ったんだから、あの人につけても、お前さんが毎晩来てくれなくッちゃきまりが悪いわ。後生ですよ。その代り、この蒲団は、誰の手も触らせないでこうやって
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
桐油合羽とういうがつぱちいさくたゝんで此奴こいつ真田紐さなだひもみぎつゝみにつけるか、小弁慶こべんけい木綿もめん蝙蝠傘かうもりがさを一ぽん、おきまりだね。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「へ、……どういたして、こうなるとわっしきまりが悪い、」とおもてを背けて、たじたじになった罪の無さ。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それを大袈裟おおげさに礼を言って、きまりを悪がらせた上に、姿とは何事です。幽霊ゆうれいじゃあるまいし、心持こころもちを悪くする姿というがありますか。図体ずうたいとか、さまとかいうものですよ。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おや、おや。」と口のうち、女中はきまりの悪そうに顔を赤らめながら、変な顔をして座中をみまわすと、誰も居ないでしんとして、かまの湯がチンチン、途切れてはチンという。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ふむ、」と心あるかしらは返事まで物々しい。ちと応答うけこたえを仰山にされたので、源次は急にきまりが悪そう。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ふ、」と泣くでもなし、笑うでもなし、きまり悪げに、面を背けて、目が見えないのも忘れたらしい。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あなたもいやだといふし、それわたしも、そりや樣子やうすつてて、一所いつしよ苦勞くらうをしてれたからツたつても、ねえさんにはきまりわるくツて、うちへおまをすわけにはかないしさ。
三尺角拾遺:(木精) (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あなたもいやだというし、それにわたしも、そりゃ様子を知って居て、一所いっしょに苦労をしてれたからッたっても、姉さんにはきまりが悪くッて、うちへお連れ申すわけにはかないしさ。
木精(三尺角拾遺) (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蝙蝠こうもりのはりかえ直しと夫婦になって暮している処へ、のたれ込んで、しょう事なしかどづけに出たんですがね、その身になってもお前さん、見得じゃないけれどきまりが悪くッて
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、お三輪が湯をしに来合わせて、特に婦人客おんなきゃく背後うしろへ来て、きまりの悪そうに手をいた。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
きまりも悪し、おもてを背けて店口から奥へ抜けようとすると、おなじく駒下駄を手に提げて裏口からはらりと入って来た、前日の美人とぱったり逢った。袖も摺合すれあうばかり敷居で行違ゆきちがう。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
障子ふすまは閉切ってございましたっけ、ものの小半時ったと思うと、見ていた私は吃驚びっくりして、地震だ地震だ、ときまりの悪い大声を立てましたわ、何の事はない、お居間の瓦屋根が
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小母さんでもうござんす。構わないでうちへいらっしゃいよ。玄関の書生さんはおんなのお客様をじろじろ見るからきまりが悪かったら遠慮は無いわ、ずんずん庭の方からいらっしゃい。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はい、こうして鉦太鼓で探捜さがしに出ます騒動ではございますが、捜されます御当人のうちへ、声が聞えますような近い所で、名を呼びましては、表向おもてむきの事でもきまりが悪うございましょう。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と強く手を引いてたすけ入れたのでありまする。お雪はそんなうちにも、きまりが悪かったと見え、ぼんやり顔をばあからめまして、あわれ霜に悩む秋の葉は美しく、蒲団のそばへ坐りました。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
内じゃがえんに知己ちかづきがあるようで、まことに近所へきまりが悪い。それに、聞けば芸者屋待合なんぞへ、主に出入ではいりをするんだそうだから、娘たちのためにもならず、第一家庭の乱れです。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「失敬な。」も口のうちで、島野は顔を見らるるときまり悪そうに四辺あたりをきょろきょろ。茶店のむすめは、目の前にほっかりと黒毛のこまが汗ばんで立ってるのをはばかって、洋盃コップもたらした。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「お願いだから、可いんだから、それでないと実に面目を失する。こうやって顔を合していても冷汗が出るほど、何だかきまりが悪いんだ、夜々中よるよなか見ず知らずが入込んで、どうも変だ。」
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うっかり口に出そうな挨拶こんにちはを、唇で噛留かみとめて、心着くと、いつの間にか、足もやや近づいて、帽子に手を掛けていたきまりの悪さに、背を向けて立直ると、雲低く、下谷したや、神田の屋根一面
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いやもう、しっとり冷汗ひやあせを掻いたと言う事、——こりゃなるほど。きまりがよくない。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もっと早くから、来よう、来ようと思ったんだけれど、きまりが悪いしねえ、それに私見たようなものには逢って下さらないでしょうと思って、学校の帰りに幾度いくたびも九段まで来て止したの。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わざわざ呼留よびとめて、災難をのがれたとまで事を誇大こだいにして、礼なんぞおっしゃって、元来、私は余計なお世話だと思って、御婦人ばかりの御住居おすまいだと聞いたにつけても、いよいよきまりが悪くって
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
オイ、姉や、わっしが肩へつかまりねえ、わけなしだ。お前ンとこまで送ってやろうと、穿物はきもの突懸つっかけておいて、しゃがんで背中を向けますとね、そんな中でもきまりのわるそうに淋しい顔をして、うじうじ。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
人のあごをしゃくうような手つきで、銭を強請ねだる、爪の黒いてのひらへ持っていただけの小遣こづかいを載せると、目をみはったが、黄色い歯でニヤリとして、身体からだでようとしたので、きまりが悪く退すさったうなじ
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……知らぬ間に肥満女ふとっちょの込入ったのと、振向いた娘の顔とを等分に見較べて(和女あんたきまりが悪いやろ。そしたらわしが方へ来てあがりなはるか。ああ、そうしなはれ、)と莞爾々々にこにこ笑う、気のい男さ。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)