“夜中(よなか)” の例文
なんでも夜中(よなか)すぎになると、天子(てんし)さまのおやすみになる紫宸殿(ししいでん)のお屋根(やね)の上になんとも知(し)れない気味(きみ)の悪(わる)い声(こえ)で鳴(な)くものがあります。
鵺 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
さうしちや馬(うま)の裾湯(すそゆ)沸(わ)えてねえつて云(ゆ)つちや家族(うち)の者(もの)こと追(お)ひ出(だ)してなあ、百姓(ひやくしやう)はおめえ夜中(よなか)まで眠(ねむ)んねえで待(ま)つちや居(ゐ)らんねえな
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
駅へついてみて、私は長野か小諸(こもろ)か、どこかあの辺を通過してゐる夜中(よなか)に、姉は彼女の七十年の生涯(しやうがい)に終りを告げたことを知つた。
町の踊り場 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
私(わたし)たちが、せっかく、一夜(や)をそこにあかそうと思(おも)って止(と)まると、枝(えだ)が意地悪(いじわる)く、夜中(よなか)に、私(わたし)たちの体(からだ)を揺(ゆ)すって、振(ふ)り落(お)とそうとする。
美しく生まれたばかりに (新字新仮名) / 小川未明(著)
それから、彼女は夜中(よなか)にいく度となく目を覚ました。そして暁がすべての幸福を彼女に齎すやうに、只一秒も早く空の白むのを待った。
青白き夢 (新字旧仮名) / 素木しづ(著)
幸(さいはひ)に御米(およね)の産氣(さんけ)づいたのは、宗助(そうすけ)の外(そと)に用(よう)のない夜中(よなか)だつたので、傍(そば)にゐて世話(せわ)の出來(でき)ると云(い)ふ點(てん)から見(み)れば甚(はなは)だ都合(つがふ)が好(よ)かつた。
門 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ま夜中(よなか)ごろ、若者はもういちど火をかきたてようと思いました。そして、火をプウプウふいていますと、だしぬけにすみっこのほうから
と、口ぎたなく云いちらした末、なけなしの金を妻に算段させて、夜(よる)夜中(よなか)でも、おつみや日吉に酒を買いにやらせるのだった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
同(おなじ)やうに吹通(ふきとほ)しの、裏(うら)は、川筋(かはすぢ)を一(ひと)つ向(むか)うに、夜中(よなか)は尾長猿(をながざる)が、キツキと鳴(な)き、カラ/\カラと安達(あだち)ヶ原(はら)の鳴子(なるこ)のやうな、黄金蛇(こがねへび)の聲(こゑ)がする。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
戸外(そと)も真暗で寒かった。ふだんなら気味が悪くって、とても夜中(よなか)にひとりで歩くことなんかできないのだけれども、その晩だけはなんともなかった。
火事とポチ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そこで諭吉(ゆきち)は、ま夜中(よなか)の十二時(じ)ごろに江戸(えど)をでて、夜(よる)の東海道(とうかいどう)をあるいて、夜明(よあ)けごろに横浜(よこはま)につきました。さっそく海岸(かいがん)のほうへいってみました。
そうした場合(ばあい)には、むろん私(わたくし)の方(ほう)でもよく注意(ちゅうい)してきいて上(あ)げ、夜中(よなか)であるから良(い)けないなどとは決(けっ)して申(もう)しませぬ。
ええ、辛抱(しんぼう)しますとも、夜中(よなか)ンなろうが、夜(よ)が明(あ)けようが、ここは滅多(めった)に動(うご)くンじゃないけれど、お前(まえ)がもしか門違(かどちが)いで、おせんの家(うち)でもない人(ひと)の……
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
僕はよくこの辺を通るので、気をつけて見ているのですが、いつも戸が締めてあって空家かと思うと、夜中(よなか)に燈火が漏(も)れていたりする、実に変な家です。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
何(な)んだか知りませんが、其の旦那てえのが些(ちっ)とも来るのを見た事がねえ、何でも夜中(よなか)に来るんでげしょうよ何処(どこ)かへ参詣(おまいり)に行(ゆ)くって時々出え/\したが
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
お前の生れる時に我身(おりゃ)夜中(よなか)にこの横町(よこちょう)の彼(あ)の産婆(ばば)さんの処に迎いに行たことがある、その産婆さんは今も達者にし居る、それからお前が段々大きくなって
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ヴォンブ湖(こ)のゆるんだ氷も、夜中(よなか)に動きはじめて、とうとう、その一つのすみが岸(きし)にとどいてしまいました。
白粉花(おしろいばな)、夜中(よなか)に表を叩(たゝ)くから、雨戸(あまど)を明けてふと見れば、墓場の上の狐火(きつねび)か、暗闇(くらがり)のなかにおまへの眼が光る。噫、おしろい、おしろい、汚(よご)れた夜(よる)の白粉花(おしろいばな)。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
そして彼女(あれ)はグリスビイ・リトリイトの番人をしてゐる息子を連れて來て、私の奧さまがお手のものゝ夜中(よなか)に寢てる人間に火をつけたり、刺(さ)し殺さうとしたり
その眼があまりきつそうなので、真暗(まっくら)な夜中(よなか)にでも、昼間と同じようによく見える力をそなえているに違いないと、パーシウスは思わずにはいられませんでした。
そうですね……もうずっと昔(むかし)のことです。汽車をうんてんして、ある山奥(おく)を、夜中(よなか)に走っていました。
ばかな汽車 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
夜中(よなか)にある土地で馬車を降り、そこには足を留めずに、そこから約十二マイルかそれ以上も後戻りして、兵営と海軍工廠とのある処まで行き、そこで情報を蒐集した
牧野は夜中(よなか)のランプの光に、脂(あぶら)の浮いた顔を照させながら、もどかしそうな声を出す事もあった。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
東紅梅町(ひがしこうばいちやう)のあの家は書斎も客室(きやくま)も二階にあつたのでした。階下(した)に二室(ふたま)続いてあつた六畳に分(わか)れて親子は寝て居ました。亡霊の私が出掛けて行(ゆ)くのは無論夜(よる)の夜中(よなか)なのです。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
赤塚氏例のごと見舞ひ給ひ、今日(けふ)陸にての買物のしくじりなど真面目(まじめ)に語られ候(さふらふ)。この夜中(よなか)には船の度度(たびたび)停(とゞ)まれるを感じ申し候(さふらふ)。ゆきちがひになる船のためにか候(さふら)ひけん。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛、与謝野晶子(著)
「宵のうちに入つて、夜中(よなか)に仕事をしたか、でなければ、家の中に引入れた者があつた筈だ」
さ夜中(よなか)と夜(よ)は深(ふ)けぬらし雁(かり)が音(ね)の聞(きこ)ゆる空(そら)に月(つき)渡(わた)る見(み)ゆ 〔巻九・一七〇一〕 柿本人麿歌集
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
夜中(よなか)に起上(おきあが)って、戸の下に鍵(かぎ)をおき、梱(こり)をかついで出ていってしまうのだった。そして幾月(いくつき)も姿(すがた)を見せなかった。それからまた戻(もど)ってきた。夕方(ゆうがた)、誰かが戸にさわる音(おと)がする。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
唯(たゞ)亂暴(らんぼう)一途(づ)に品川(しながは)へも足(あし)は向(む)くれど騷(さわ)ぎは其座(そのざ)限(ぎ)り、夜中(よなか)に車(くるま)を飛(と)ばして車町(くるまゝち)の破落戸(ごろ)がもとをたゝき起(おこ)し、それ酒(さけ)かへ肴(さかな)と、紙入(かみい)れの底(そこ)をはたきて無理(むり)を徹(とほ)すが道樂(だうらく)なりけり
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
破(やぶ)れたストーヴについて、不自由(ふじいう)な外出(がいしゅつ)について、封(ふう)を切(き)られた手紙(てがみ)について、不親切(ふしんせつ)な軍医(ぐんい)について、横(よこ)っ面(つら)へ竹刀(しない)を飛(と)ばす班長(はんちょう)について、夜中(よなか)にみんな叩(たた)き起(おこ)す警報(けいほう)について
「手前(てめえ)何だってそんなところにうろうろしているんだ。夜(よる)夜中(よなか)人を叩き起しやがって」
乞食 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
五五ぬば玉の夜中(よなか)の潟(かた)にやどる月は、五六鏡の山の峯に清(す)みて、五七八十(やそ)の湊(みなと)の八十隈(やそくま)もなくておもしろ。五八沖津嶋山、五九竹生嶋(ちくぶしま)、波に六〇うつろふ六一朱(あけ)の垣(かき)こそおどろかるれ。
夜中(よなか)になって、宿屋にいた人たちがのこらず寝しずまろうというとき、どこかでしくしくすすり泣く声がして、いつまでもやまないものですから、みんな気にして起きあがって、いったい
夜中(よなか)に開くのもある。明け方に音がするというのは変な話だという。
巨椋池の蓮 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
折(おり)も折、このまっくらな夜中(よなか)だというのに、なんということだろう。
幽霊船の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
五一 山にはさまざまの鳥住(す)めど、最も寂(さび)しき声の鳥はオット鳥なり。夏の夜中(よなか)に啼(な)く。浜の大槌(おおづち)より駄賃附(だちんづけ)の者など峠を越え来たれば、遥(はるか)に谷底にてその声を聞くといえり。昔ある長者の娘あり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
私と話しとうなると、夜(よる)夜中(よなか)でも電話りんりんかかって来ます。
卍 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
夜中(よなか)に夢を見て唱歌を歌つてゐたことを思ひ出したのである。
半日 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
月ほそく光りたり真の夜中(よなか)に、懺悔(ざんげ)せよとか
真珠抄 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
夜中(よなか)に怪猫(かいべう)が現(あら)はれて私(わたし)の胸(むね)を押(おさ)へた。
ねこ (旧字旧仮名) / 北村兼子(著)
「夜中(よなか)に、なんごとですか」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
まだ夜(よ)は夜中(よなか)
桜さく島:春のかはたれ (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
太郎(たろう)のお父(とう)さんは、太郎(たろう)が、どうしているだろうと思(おも)って、夜中(よなか)に、戸(と)を開(あ)けてみました。けれど、太郎(たろう)は、どこにもいませんでした。
竹馬の太郎 (新字新仮名) / 小川未明(著)
するとその晩(ばん)夜中(よなか)過(す)ぎになって、しっかりしめておいたはずのおもての戸(と)がひとりでにすうっとあいて、だれかが入(はい)って来(き)た様子(ようす)です。
山姥の話 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
其(そ)の日(ひ)の夜中(よなか)に彼等(かれら)は立(た)つた。勘次(かんじ)は自分(じぶん)も急(いそ)ぐし使(つかひ)を疲(つか)れた足(あし)で歩(ある)かせることも出來(でき)ないので霞(かすみ)ヶ浦(うら)を汽船(きせん)で土浦(つちうら)の町(まち)へ出(で)た。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
けれども、ま夜中(よなか)ごろには、風がばかにつめたくなってきて、いくら火をたいても、ちっともあたたかくなりませんでした。
それだからこうやって、夜夜中(よなか)開放(あけっぱな)しの門も閉めておく、分ったかい。家(うち)へ帰るならさっさと帰らっせえよ、俺(わし)にかけかまいはちっともねえ。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夜中(よなか)からぐつすり寐(ね)た。何時(いつ)もの様に起きるのが、ひどく辛(つら)かつた。顔(かほ)を洗(あら)ふ所で、同じ文科の学生に逢(あ)つた。顔丈は互に見知り合(あ)ひである。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
と云う塩梅、よる夜中(よなか)でも、いゝ塩梅に寝附いたから疲れを休めようと思って、ごろりと寝ようとすると
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ニールスは、なにもかもがまたもとの姿(すがた)にかえったのを見て、うれしくなりました。けれど、寒(さむ)さは夜中(よなか)よりも、かえっていまのほうが、きびしく感じられます。