すゝ)” の例文
しかしあのたくましいムツソリニも一わんの「しるこ」をすゝりながら、天下てんか大勢たいせいかんがへてゐるのはかく想像さうぞうするだけでも愉快ゆくわいであらう。
しるこ (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そのといつたら美しい女のすゝり泣きをするやうな調子で、聴衆ききては誰一人今日までこんな美しい音楽を耳にした事はないらしかつた。
熱い味噌汁をすゝり乍ら、八五郎は肩をそびやかします。この男の取柄は、全くこの忠實と、疲れを知らぬ我武者羅だつたかも知れません。
すこふところ窮屈きうくつでなくなつてからはなが休憇時間きうけいじかんには滅多めつたなはふこともなく風呂ふろつてははなしをしながら出殼でがらちやすゝつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
けるいぬほふりて鮮血せんけつすゝること、うつくしくけるはな蹂躙じうりんすること、玲瓏れいろうたるつきむかうて馬糞ばふんなげうつことのごときは、はずしてるベきのみ。
蛇くひ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「あんまりどす。」とお信さんは恨めしさうにすゝり泣きを始めた「お父つあん等、自分めんめの子お産みやしたことおへんよつてお知りんのどす。」
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
でも平中は、あまり不思議でたまらないので、その筥を引き寄せて、中にある液体を少しすゝって見た。と、やはり非常に濃い丁子の匂がした。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
子供は気を呑まれて一寸ちよつと静かになつたが、直ぐ低いすゝり泣きから出直して、前にも増した大袈裟おほげさな泣き声になつた。
An Incident (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
不思議ふしぎなこともあるものです。それが今日けふは、なにをおもひだしたのか、めると、めそめそすゝきをしながら、何處どこへかつてしまひました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
不思議なことには、熱い涙が人知れず其顔を流れるといふ様子で、時々すゝり上げたり、そつと鼻をんだりした。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
しかし何の物音も聽えず、すゝなきの聲もしなかつた。この上五分間も、あの死のやうな沈默が續いたなら、私は盜人のやうに錠前ぢやうまへをこぢ開けたに違ひない。
そこでは流石さすがにゆつくりと膳につく気もなかつた。立ちながら紅茶を一杯すゝつて、タヱルで一寸ちよつと口髭くちひげこすつて、それを、其所そこへ放り出すと、すぐ客間へ
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「まア、あなたも。わたしどうしたらいゝでせう。」とおかみさんはとう/\音高く涙をすゝり上げた。
にぎり飯 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
彼奴あいつト通りの奴じゃアありませんから、襤褸褞袍ぼろどてらを女に着せて、膏薬を身体中へ貼り付けて来て、いごけねえから此方こっちうちへおいて重湯でもすゝらせてくれろと云って
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
... 内へ這入はいって見ますると、可哀相に、此有様です」と言来いいきたりて老女は真実あわれに堪えぬ如く声をすゝりて泣出せしかば目科は之を慰めて「いやお前がそうまで悲むは尤もだが、 ...
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
「はア」と自分はぬるい茶を一杯すゝつてから、「それでですナア、今喞筒ポンプを稽古して居るのは?」
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
「今日は出来るだけ幸福でなくちや。」とそんなことを考へながら、彼は熱い珈琲をすゝつた。
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
部屋に錠をおろして置いて暗い階段を三つくだる。入口いりくちを出て台所の硝子戸がらすどをコツコツ遣つて見たがだマリイは起きて居ない。𤍠い珈琲キヤツフエ牛乳ちゝとをすゝつてく事は出来なかつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「ひよつとすると私は半分位此手を切るかも知れません。その時は御婦人方の中どなたかが血をすゝつたり、白いハンケチでいて下さるでせうな。では早速乍ら取りかゝりませう。」
手品師 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
あさには患者等くわんじやらは、中風患者ちゆうぶくわんじやと、油切あぶらぎつた農夫のうふとのほかみんな玄關げんくわんつて、一つ大盥おほだらひかほあらひ、病院服びやうゐんふくすそき、ニキタが本院ほんゐんからはこんでる、一ぱいさだめられたるちやすゞうつはすゝるのである。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
川島先生が息をむ一瞬のあひだ身動きの音さへたゝずしづまつた中に、突然佐伯の激しいすゝきが起つた。と、他人ひとごとでも見聞きするやうにぽツんとしてゐた私の名が、霹靂へきれきの如くに呼ばれた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
わが小蒸汽こじようきへかねしごとつひすゝり泣くに………
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
相變らずの氣紛きまぐれらしい樣子に、平次は大した氣にも留めず、煙草を呑んで茶をすゝつて、お墓詣りらしい三崎町の往來を眺めてゐると
しか卯平うへい僅少きんせう厚意こういたいしてくぼんだ茶色ちやいろしがめるやうにして、あらひもせぬから兩端りやうはしちひさなあな穿うがつてすゝるのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
たまには茶入や黒茶碗をはないとも限らないが、それは自分で薄茶をすゝらうためではなくて、物好きな東京の成金に売りつけようとするからだ。
それからまたパリのあるカツフエにやはり紅毛人こうもうじん畫家ぐわか一人ひとり、一わんの「しるこ」をすゝりながら、——こんな想像さうぞうをすることは閑人かんじん仕事しごと相違さうゐない。
しるこ (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
弟子ガ一ト匙ズツユックリ/\ト、アイスクリームノかたまりヲ口ノ中ヘ入レテヤル。ソノ合間々々ニ紅茶ヲすゝル。
瘋癲老人日記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
うしませう」とすゝいた。宗助そうすけ再度さいど打撃だげきをとこらしくけた。つめたいにくはひになつて、其灰そのはひまたくろつちくわするまで一口ひとくち愚癡ぐちらしい言葉ことばさなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
私は酒はあまりらない方だから、すこし甘口ではあるが白葡萄酒の玻璃盃さかづきに一ぱい注いであるのを前に置いて、それをすこしづゝ遣つたり、乳色のした牡蠣かきの汁をすゝつたり
(新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ちかづけば木蔭の噴水より水の滴るひゞきしづけき夜に恰も人のすゝり泣くが如くなるを聞き付け、其のほとりのベンチに腰掛け、水の面に燈影の動き砕くるさまを見入りて、独り湧出る空想に耽り候。
夜あるき (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ふまでもないにくほふつてすゝるに仔細しさいはないが、をつと香村雪枝かむらゆきえとか。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と文治のあさましき姿を見ては水洟みずっぱなすゝって居ります。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
またかすかなすゝり泣き……
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
幸ひ間もなく正氣づきましたが、餘程ひどくおびえたものと見えて、すゝり泣いたりふるへたりするばかりで、容易よういに口も利けません。
勘次かんじたゞひゞきてながら容易よういめぬあつ茶碗ちやわんすゝつた。おつぎも幾年いくねんはぬ伯母をばひとなづこいやう理由わけわからぬやう容子ようすぬすた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
藤原氏は予言者のヨハネのやうなしかつべらしい口もとをして言つた。たつた一つヨハネと違ふのは、いなごの代りに今のさきお茶をすゝつた事だつた。
食刀ナイフくや否や、代助はすぐ紅茶々碗をつて書斎へ這入はいつた。時計を見るともう九時すぎであつた。しばらく、にはながめながら、茶をすゝばしてゐると、門野かどの
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
炉の火はさかんに燃えた。叔母もすゝり上げながら耳を傾けた。聞いて見ると、父の死去は、老の為でもなく、病の為でも無かつた。まあ、言はゞ、職業の為に突然な最後を遂げたのであつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ぼくいまもペンをつたまま、はるかにニユウヨオクのあるクラブに紅毛人こうもうじん男女だんぢよが七八にん、一わんの「しるこ」をすゝりながら、チヤアリ、チヤプリンの離婚問題りこんもんだいなんかをはなしてゐる光景くわうけい想像さうぞうしてゐる。
しるこ (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
いなごひるかへる蜥蜴とかげごどきは、もつとよろこびてしよくするものとす。す(おう)よ、ねがはくはせめて糞汁ふんじふすゝることをめよ。もしこれ味噌汁みそしる洒落しやれもちゐらるゝにいたらば、十萬石まんごくいねおそらく立處たちどころれむ。
蛇くひ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
障子の外には、シクシクとすゝり泣く聲、言ふまでもなく、話の樣子を心配したお初が、其處に立つて何も彼も聽いたのでせう。
博士は水つぽい吸物すひものすゝりながら、江戸つ子に附物つきものの、東京以外の土地は巴里パリーだらうが、天国だらうが、みんな田舎だと見下みくだしたやうな調子で
やく三十分ののち彼は食卓に就いた。あつい紅茶をすゝりながら焼麺麭やきぱん牛酪バタを付けてゐると、門野かどのと云ふ書生が座敷から新聞を畳んで持つて来た。四つ折りにしたのを座布団のわきへ置きながら
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
お末はすゝり上げ乍ら、母親の側へ寄つて
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ガラツ八はさう言ひながらも、惡い心持がしないらしく、縁臺に腰をおろして、お町がくんでくれたぬるい茶をすゝります。
俳優中村梅玉の楽みは、金をめるのと、夕方庭の石燈籠にを入れて、ゆつくりお茶をすゝるのと、この二つださうだ。
いや、そればかりでなく、隣りの部屋ですゝり泣く聲が次第に大きくなつて、やがてそれは押へきれない嗚咽をえつと變り、平次と八五郎を驚かすのです。
二人は外套室クローク・ルウムに外套を置いて、かねて馴染の小ぢんまりした部室へやに入つて往つた。そして香気かをりの高いココアをすゝりながら、好きなお喋舌しやべりに語り耽つた。
平次は叔母さんがれてくれた、去年貰つた新茶の、火が戻つてすつかり臭くなつたのを、それでも有難さうにすゝつて、八の報告を促します。
舌触りのいい肉汁スウプすゝりさして、大帝はひよいと顔を持ち上げた。そしてそばにゐた別荘の主人に呼びかけた。