門前もんぜん)” の例文
のきいた運転士うんてんしくるまをつけたところが、はたしてそれであつた、かれ門前もんぜんくるまをおりて、右側みぎがわ坂道さかみち爪先上つまさきあがりにのぼつてつた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
そのとき、あちらに、くら提燈ちょうちんえたのであります。それは、ちょうどてら門前もんぜんであって、まだ露店ろてんているのでした。
幸福のはさみ (新字新仮名) / 小川未明(著)
かれなにをする目的めあてもなくへやなかがつた。障子しやうじけておもてて、門前もんぜんをぐる/\まはつてあるきたくなつた。はしんとしてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
はまなべ、あをやぎの時節じせつでなし、鰌汁どぢやうじる可恐おそろしい、せい/″\門前もんぜんあたりの蕎麥屋そばやか、境内けいだい團子屋だんごやで、雜煮ざふにのぬきでびんごと正宗まさむねかんであらう。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
慶応義塾けいおうぎじゅくはこのころ、弟子いよいよすすみ、その数すでに数百に達し、また旧日のにあらず。或夜あるよ神明社しんめいしゃほとりより失火し、予が門前もんぜんまで延焼えんしょうせり。
參詣人さんけいにんへも愛想あいそよく門前もんぜん花屋はなや口惡くちわかゝ兎角とかく蔭口かげぐちはぬをれば、ふるしの浴衣ゆかた總菜そうざいのおのこりなどおのずからの御恩ごおんかうむるなるべし
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
不思議に思ってますます耳を澄ましていると、合の手のキャンキャンが次第に大きく、高くなって、遂にはいびきの中を脱け出し、其とは離ればなれに、確に門前もんぜんに聞える。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
学校の門前もんぜんを車は通り抜けた。そこに傘屋かさやがあった。家中うちじゅうを油紙やしぶ皿や糸や道具などで散らかして、そのまんなかに五十ぐらいの中爺ちゅうおやじがせっせと傘を張っていた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
よつ三升みます目印めじるし門前もんぜんいちすにぞ、のどづゝ往来わうらいかまびすしく、笑ふこゑ富士ふじ筑波つくばにひゞく。
落語の濫觴 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
人通りといっては一人もない此方こなたの岸をば、意外にも突然二台の人力車じんりきしゃが天神橋の方からけて来て、二人の休んでいる寺の門前もんぜんで止った。大方おおかた墓参りに来たのであろう。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
つい門前もんぜん雑木林ぞうきばやしの中でがさ/\音がするので、ふっと見ると、昨夜此処に寝たと見えて、一人ひとりの古い印半纏しるしばんてんを着た四十ばかりの男が、ねむたい顔して起き上り、欠伸あくびをして往って了うた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
天滿與力てんまよりき何某なにがしが、門前もんぜん旅籠屋はたごやとまり、大醉たいすゐして亂暴らんばうし、拔刀ばつたう戸障子としやうじやぶつたが、多田院ただのゐん寺武士てらざむらひ劍術けんじゆつらないので、おさへにくことも出來できなかつたといふはなし
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
京になきうまきお萩と門前もんぜんの茶みせに憩ひ褒めつつうぶ
閉戸閑詠 (新字旧仮名) / 河上肇(著)
斯て生駒家の家來は評定所の門前もんぜんに控居て御下知を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
と、大九郎だいくろう門前もんぜんから苦笑くしょうしながらもどってきた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
座敷ざしきればすぐがけうへだが、おもてからまはると、とほりを半町はんちやうばかりて、さかのぼつて、また半町はんちやうほどぎやくもどらなければ、坂井さかゐ門前もんぜんへはられなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
正吉しょうきちは、おてら門前もんぜんに、ただ一つ提燈ちょうちんをつけて、露店ろてんしているひとがあるのをとおくからながめました。
幸福のはさみ (新字新仮名) / 小川未明(著)
ゆき後朝あしたすゑつむはな見參げんざんまへのこヽろなるべし、さて笑止せうしとけなしながらこヽろにかヽれば、何時いつ門前もんぜんとほときれとなくかへりて、ることもれかしとちしが
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ヒイヽン! しつ、どうどうどうと背戸せどまわひづめおとえんひゞいて親仁おやぢは一とううま門前もんぜん引出ひきだした。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
人通ひとどほりとつては一人もない此方こなたの岸をば、意外にも突然とつぜん二台の人力車が天神橋てんじんばしはうからけて来て、二人の休んでゐる寺の門前もんぜんとまつた。大方おほかた墓参はかまゐりに来たのであらう。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
黄金作こがねづくりの大小だいせう門前もんぜん茶店ちやみせげられて、丸腰まるごしになつたのを不平ふへいおもふうで、ひと退けながらやつて天滿與力てんまよりきは、玄竹げんちく脇差わきざしをしてゐるのをて、しからんといふふう
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
彼は三十分と立たないうちに、吾家わがいへ門前もんぜんた。けれどももんくゞる気がしなかつた。かれは高いほしいたゞいて、しづかな屋敷町やしきまちをぐる/\徘徊した。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
和出來わでき猪八戒ちよはつかい沙悟淨さごじやうのやうな、へんなのが二人ふたりしやち城下じやうかころちて、門前もんぜんときつたつて、みぎ度胸どきようだからまでおびえまいよ。紹介せうかいをしよう。……(かくはま)にも。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ある早春そうしゅんのこと、あたりのいい、てら門前もんぜんで、みせをひらいて、草花くさばなや、なえっているおとこがありました。これを勇吉ゆうきちは、やまゆりのを二つってかえりました。
雲のわくころ (新字新仮名) / 小川未明(著)
長吉ちようきち門前もんぜん産聲うぶごゑげしものと大和尚夫婦だいおしようふうふ贔屓ひゐきもあり、おな學校がくかうへかよへば私立しりつ私立しりつとけなされるもこゝろわるきに、元來ぐわんらい愛敬あいけうのなき長吉ちようきちなればこゝろから味方みかたにつくものもなきあはれさ
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
だれあはたゞしく門前もんぜんけて行く足音あしおとがした時、代助だいすけあたまなかには、大きな俎下駄まないたげたくうから、ぶらさがつてゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
おもはずこゑだかにまけましよまけましよとあとふやうにりぬ、人波ひとなみにのまれて買手かひてまなこくらみしをりなれば、現在げんざい後世ごせねがひに一昨日おとつひたりし門前もんぜんわすれて、かんざしほん七十五せん懸直かけねすれば
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
二人ふたりは、ともにうちますけれど、すぐ門前もんぜんからみぎひだりわかかれてしまいます。そして、いつもいっしょにいることはありませんでした。いもうとは、広々ひろびろとした、のよくたる野原のはらにいきました。
灰色の姉と桃色の妹 (新字新仮名) / 小川未明(著)
官人は少時しばし茫然ぼうぜんとして門前もんぜんもやたたずんだ。
雨ばけ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
この医者が大へんな変人で、患者をまるで玩具おもちゃか人形のように扱かう愛嬌あいきょうのない人です。それで、はやらないかといえば不思議なほどはやって門前もんぜんいちをなすありさまです。
おはなし (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
良久やゝひさしうありておくさま大方おほかたゑいめぬれば、よろづにおのがみだるゝあやしきこゝろれとしかりて、かへれば盃盤狼藉はいばんらうぜきありさま、人々ひと/″\むかひのくるま門前もんぜん綺羅星きらほしとならびて、何某樣たれさまちのこゑにぎはしく
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
銀杏いちょうが一本、門前もんぜんにあった」
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)