したゝ)” の例文
かれのしづくとともに汝そののちふみのうちにて我にこれをしたゝらし、我をして滿たされて汝等の雨をほかの人々にも降らさしむ。 七六—七八
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
大戸は開いてゐるので、風が吹きこみ、蒔の下半身から水がしたゝり、紫色にくろずんだ頬を固く痙攣ひきつつたまゝ速く荒い呼吸をしてゐた。
鳥羽家の子供 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
と云ってると、不思議な事にはたれも机の傍へ寄りもしないのに、位牌の前に据えた盃がひッくりかえり、酒がこぼれてポタ/\したゝりました。
それだのにおなゆきいたゞいたこゝのひさしは、彼女かのぢよにそのつたこゝろあたゝめられて、いましげもなくあいしづくしたゝらしてゐるのだ。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
こしらへたやうな愛嬌はしたゝるばかり、先づは平凡な唯の娘ですが、その後ろに控へたお幽といふのは、これこそ非凡の娘でした。
浜勇はまゆうちゅうてその頃はあまり流行らない顔だしたが、まン丸い愛嬌のしたゝるような可愛い妓だしてな、まア、役徳ちゅう奴で
はかますそを、サラ/\といしくゞつて、くさした細流さいりうあり。さかはたら/\としづくしぼつて、がけからみちしたゝるのである。
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
其の生血のしたゝる樣な作者の昂奮した野心は、あの『社會百面相』といふ奇妙な名の一册に書き止められてゐる。その本の名も今は大方忘られて了つた。
硝子窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
そして指の節々には、殆ど一本も残らず、大きなあかぎれが深い口をあけて居た。時々赤い血が小指の節などからしたゝつた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
今もなほどこかの隅で嗚咽をえつの声がきこえる感がして自分の雨に濡れた冷たい裾にも血のしたゝるのかとをののかれるのであつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
男體山は右手の前面に湖岸から直ちに四千尺の高さをもつて美しい傾斜で、翠色したゝるばかりに聳え立つてゐる。
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
案じ夏とて谷間に雪あるにをとこ單衣ひとへぎぬにてのぼられぬ梢のしづくいはほしたゝり何とてそれにてしのがれんあはせを贈りまゐらせたやとの情の孤閨を守るをんなが夫が遠征の先へ新衣を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
卯平うへいはすや/\と呼吸こきふ恢復くわいふくしたまゝくちかない。ぴしや/\と飛沫しぶきどろりつゝ粟幹あはがらのきからもゆきけてしたゝいきほひのいゝ雨垂あまだれまないでよるつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
と、とこなる一刀スラリと拔きて、青燈の光に差し付くれば、爛々たる氷の刃に水もしたゝらんず無反むそり切先きつさき、鍔をふくんで紫雲の如く立上たちのぼ燒刃やきばにほひ目もむるばかり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
お時はしたゝるやうな色氣いろけを眼元に含ませて、こんなことを言つた。お時の妹のお今といふ十一になるのが、宵張よひツぱりをして起きてゐるだけで、他の子供等は皆寢て了つた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
のべければ先々ゆるりと安座あんざして火にあたり給へといふ吉兵衞は世にも有難ありがたく思ひ火にあたれば今まで氷たる衣類いるゐの雪もとけかみよりはしづくしたゝり衣服はしぼるが如くなればかの男もこれを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それから裾を引きずる緋のうちかけを纒うた尼さんの衣をしたゝあざやかな眞紅に燃え立たせた。
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
何處いづく押流おしながされたかかげかたちもなく、秘密造船所ひみつざうせんじよ一時いちじまつた海水かいすいひたされたとえて、水面すいめんから餘程よほどたか屏風岩べうぶいわ尖頭せんとうにも、みにく海草かいさうのこされて、その海草かいさうからしたゝつる水玉みづたま
あなたの祕密の隱れたいづみを、發見出來ないかどうか、同情の香油の一滴をしたゝらすことが出來る、大理石の胸の一つの隙間すきまを見出すことが出來ないかどうか、私はやつて見ませう。
猶その上にもしたゝるやうな艶味つやを持たせてやる事を知らない義男は、たゞ自分の不足な力だけを女の手で物質的に補はせさへすればそれで滿足してゐられる樣な男なのだと云ふ事が
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
それでこの御二方おふたかたの神樣は天からの階段にお立ちになつて、そのほこをさしおろして下の世界をかき𢌞され、海水を音を立ててかき𢌞して引きあげられた時に、矛の先からしたゝる海水が
むかし蒼海と手を携へてこゝに遊びし事あり、巌にしたゝ涓水けんすゐに鉱気ありければ、これを浴室にうつし、薪火しんくわをもて暖めつゝ、近郷近里の老若男女、春冬の閑時候に来り遊ぶの便に供せり。
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
夕日なゝめに差し入る狭き厨房くりや、今正に晩餐ばんさんの準備最中なるらん、冶郎蕩児やらうたうじ魂魄たましひをさへつなぎ留めたるみどりしたゝらんばかりなるたけなす黒髪、グル/\と引ツつめたる無雑作むざふさ櫛巻くしまき紅絹裏もみうらの長き袂
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「僕に呉れたのか。そんなら早くけやう」と云ひながら、すぐ先刻さつき大鉢おほはちなかんだ。くきながすぎるので、みづねて、しさうになる。代助はしたゝくきまたはちからいた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
近いものよりは却て遠い昔の記憶が軒にしたゝる雨だれの如く、とぎれ/\に浮んで來る。私はよく子供の時分に、大雨の晴れた午後ひるすぎ四手網よつであみを持つて、場末の町の小流こながれに小魚こうをあさつた事がある。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
灣をはなれて山路にかゝり、黒松内くろまつないで停車蕎麥を食ふ。蕎麥の風味が好い。蝦夷えぞ富士〻〻〻〻と心がけた蝦夷富士を、蘭越驛らんこしえきで仰ぐを得た。形容端正、絶頂まで樹木を纏うて、秀潤しうじゆん黛色たいしよくしたゝるばかり。
熊の足跡 (旧字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
三角の尻尾の先端さきゆ濁る水のまだしたゝりて河馬は動かず
河馬 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
紫の紅のしたゝり花におちて成りしかひなの夢うたがふな
みだれ髪 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
蝋燭の蝋がぽた/\と土の上にしたゝる。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
まだきしたゝことうましにほひは
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
生きてしたゝる乳緑の
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
お角は二十四五の年増盛り、柳橋で左褄ひだりづまを取つてゐる頃から、江戸中の評判になつた女で、その濃婉のうゑんさはしたゝるばかりでした。
私は次の瞬間に思わずアッ! と声を挙げて二足三足後退あとずさりしたのである。死体だ! 畳はしたゝ血汐ちしおでドス黒くなっている。
琥珀のパイプ (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
コチートの悉く凍れるもこれによりてなりき、彼は六のまなこにて泣き、涙と血のよだれとは三のおとがひをつたひてしたゝれり 五二—五四
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
獣類とは申しながら熊は誠に感心なもので、清水がしたゝるようになったので、熊の児を穴の途中まで出しました様子、お町の心配は何程か知れませぬ。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ピイロロロロピイーとしよんぼりとく。トトトン、トトトン、とゆるく、其處等そこら藝妓屋げいしややで、朝稽古あさげいこ太鼓たいこおと、ともになんとなくみどりしたゝやまひゞく。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
一度出口の立つた乳汁は、胸中それかと思はれるほどにまで、円くふつくらと小山のやうに盛り上つた真白な乳房の先から、ぽたぽたと止度もなげにあふしたゝつてゐた。
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
取出し伏拜ふしをがみけるに金毘羅のこんの一字は切放れて血汐ちしほしたゝり有ければ親子の者は一同にハツとひれふし有難ありがたし/\とて感涙かんるゐを流しけるが其中に罪人の本人が出て源内は長壽を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
と云つて、夫人は母家おもやの方へかれた。しばらくすると露のしたゝ紅薔薇べにばらの花を沢山たくさん持つて来られた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
つゆしたゝりさうな眞白の實を花の形に切り、ナイフの尖端さきに刺して小池の前に差し出した。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
私は幾度も/\手を血と水の混つた水鉢みづばちに浸してしたゝる血を拭ひ去らねばならなかつた。
が、濡れしをれた衣服の裾がべつたり脚に纒つて歩きにくさうであり、長く伸びた頭髮からポトリ/\と雫のしたゝる圭一郎のみじめな姿を見た千登世の眼には、夜目にも熱い涙の玉がきらめいた。
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
血の如くに赤く黄金こがねの如くに清く、時には水晶の如くにあをきその色その光沢の如何に美妙なる感興をいざなひ侯ふか。みどり深き美人の眼の潤ひも、したゝるが如き宝石の光沢も、到底これには及び申さず候。
夜あるき (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
與吉よきち遠慮ゑんりよもなくぜんむかつたのである。卯平うへい飯臺はんだいふたけてたが暖味あたゝかみがないのでかれ躊躇ちうちよした。茶釜ちやがまふたをとつてたが、ふたうらからはだら/\としたゝりがれてわづかに水蒸氣ゆげつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
身体にへばりついたシャツをはぎとると、背部に最もひどい傷があつた、それはまがふところのない刃物による刺傷だつた。新しい血がはぎとられたシャツの下から、またゝく間にふき出し、したゝり落ちた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
すぐる十有餘日いうよにちあひだ、よく吾等われら運命うんめい守護しゆごしてれた端艇たんていをば、波打際なみうちぎわにとゞめてこのしま上陸じやうりくしてると、いまは五ぐわつ中旬なかばすぎ、みどりしたゝらんばかりなる樹木じもくしま全面ぜんめんおほふて、はるむかふは、やら
したゝらふのしづく涙と共に散りて
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「ドウダ一杯やらうか」といふ此の一杯やらうが一丁ごとぐらゐになると餘程つかれたるなり蘆田あしだ宿しゆくより先に未だ峠あり石荒阪いしあれざかといふ名の如く石荒の急阪にて今までのうち第一等の難所なり阪の上へ到れば平なる所半丁ほどありて草がくれの水手にむすぶほども流れずくだりて一丁ほど行けば此の水山のしたゝりを
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
さう言つて後ろから覗いたのは、二十四五の年増、これはまた拔群の美しさで、したゝる魅力を汚な作りで殺したと言つた女——多分評判の下女お仲でせう。
銭形平次捕物控:130 仏敵 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
そはわが見しもの殆んどこと/″\く消え、これより生るゝうるはしさのみ今猶心にしたゝればなり 六一—六三
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)