うち)” の例文
仮令先方では気づかなくても、私は今、あの娘の美しい幻を描きながら、この巻紙の上に、思いのたけをうちあけることが出来るのだ
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と言うを耳にも掛けず、これでも言わねえか/\と二つ三つ続けうちたれて、多助は心の中で、情ないとは思いながらもしおらしく
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
うちければひたひよりながれけるに四郎右衞門今は堪忍かんにん成難なりがたしと思へども其身病勞やみつかれて居るゆゑ何共なにとも詮方せんかたなく無念を堪へ寥々すご/\とこそ歸りけれ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
向ひの家の二階のはづれをわづかにもれいづる影したはしく、大路にたちて心ぼそくうちあふぐに、秋風たかく吹きて空にはいさゝかの雲もなし。
あきあはせ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
例之たとえば筆法を正すにも「徳安とくあんさん、その点はこうおうちなさいまし」という。鉄三郎はよほど前に小字おさななてて徳安と称していたのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
嬉しく走りつきて石をあわせ、ひたとうちひしぎて蹴飛けとばしたる、石は躑躅のなかをくぐりて小砂利をさそい、ばらばらと谷深くおちゆく音しき。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
僕の胸の底に、どうしても癒すことの出来ない痛みがあるのだよ、——正直にうちあけると、それは三十何年か前その人あるが故に、ブラジル行を
幾度かうちかえし/\見て、印紙正しく張りつけ、漸く差しいだしたるに受取うけとったとばかりの返辞もよこさず、今日は明日はと待つ郵便の空頼そらだのめなる不実の仕方
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
三年回でしたから、私たちからのお供えとして、丸帯の立派なのをこわして仏壇の「うちしき」をこしらえてもって行きました。お気に入った様子です。
仕て見ん事にや(谷)サ夫が生意気だと云うのだ自分で分らぬ癖に人の云う事にうちたがる(大)けどが君
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
かやうの所いづかたにもあるゆゑに下踏げたくぎをならべうち蹉跌すべらざるためとす。唐土もろこしにては是をるゐとて山にのぼるにすべらざるはきものとす、るゐ和訓わくんカンジキとあり。
お登和嬢「お蕎麦はどういう風におうちなさいます、やっぱり少しは小麦粉をつなぎにおまぜなさいますか」妻君
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
何処どこの国に親が帰つて来て孤独になる子がありませうか。母様かあさんところけと云つてはその一番可愛い佐保子さほこの頭をおうちになる音を私にお聞かせになりました。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
とわたしは自分の常談じょうだんうちきって、わたしの日ごろの空想のつづきを、仙人に話しつづけたのです——
オカアサン (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
うちやつて置くと、おつゆは學校行きを實行する氣配は見えなかつた。そして、ふとまた改つた口調で
仮面 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
あっしもきょうまで、これぞとおもった人形にんぎょうを、七つや十はこさえてたが、これさえ仕上しあげりゃ、んでもいいとおもったほど精魂せいこんうちんださくはしたこたァなかった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
巳之助はマッチのかわりに、マッチがまだなかったじぶん使われていたうちの道具を持って来た。
おじいさんのランプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
自分の前を手品の蝶之助がイボうちという太鼓を叩く男を連れて高声で私の噂をしながら行く。
初看板 (新字新仮名) / 正岡容(著)
「これはこれは片里どの、折よいおたずねをうけて、わしも大変うれしいのじゃ。この程久しくうちたえておったので、こなたからお訪ねしようとしていた折柄——まず、それへ」
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
自分はそれを見た時、博士のやうな運命のためにだまうちに遭つたものが、念仏の声くらゐで成仏出来るものかと思つた。よしまた成仏出来るにしても博士は成仏すまいと思つた。
しかるに、走り行く此方こなたの車内では、税務署か小林区しょうりんく署の小役人らしき気障きざ男、洪水に悩める女の有様などを面白そうにうち眺めつつ、隣席の連れとぼしき薄髭の痩男に向い
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
ところがお延のために征服される彼はやむをえず征服されるので、しんから帰服するのではなかった。堂々と愛のとりこになるのではなくって、常にだまうちに会っているのであった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
兵法者にうちかち、十六歳にして、但馬国秋山といふ強力の兵法者に打勝ち、二十一歳にて、都に上り、天下の兵法者に逢ひて、数度の勝負を決すといへども、勝利を得ずといふ事なし。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まだ眼玉の黒いうちに、辻川のやつにうちでも二た打でも恨みを報いてやらぬでは、死のうたって死なれませぬじゃ。……ホラホラ辻川のロケットが、また首を建て直したようじゃ。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その頃私が人にうち語りしことに心細き筋多かりしにさふらふべし。明日あすの朝より印度洋のむかひ風吹くと云ひて船員達の喜びて語れる夜のやや更けゆくに、早く私の船室の窓は風を運びさふらふ
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「本田か、ふむ。……だが、室崎と一うちでは、ちょっと骨だったろう。」
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
意気地いきじと張りを命にして、張詰めた溜涙ためなみだをぼろぼろこぼすのと違って、細い、きれの長い、情のあるまなじりをうるませ、几帳きちょうのかげにしとしとと、春雨の降るように泣きぬれ、うちかこちた姿である。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
あわれ歌人よ「闇に梅匂ふ」の趣向はもはやうちどめに被成なされてはいかがや。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
この客のことばを尽せるにもことわり聞えて、無下むげうちも棄てられず、されども貫一が唯涙を流して一語をいださず、いと善く識るらん人をば覚無しと言へる、これにもなかなか所謂いはれはあらんと推測おしはからるれば
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
おつぎは釣瓶つるべ竹竿たけざをきたからうちつけるゆきためたて一條ひとすぢしろせんゑがきつゝあるのをた。ちら/\とくらますやうなゆきなか樹木じゆもく悉皆みんな純白じゆんぱくはしらたてて、釣瓶つるべふちしろまるゑがいてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
又は女どもとうちつどいて三味線さみせん引きならいたる夜々のたのしみも、亦おのずから思返されて、かえらぬわかき日のなつかしさに堪えもやらねば、今はさすがに棄てがたき心地せらるるものをえらみて
自選 荷風百句 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
まるでうちのめされたように叫んだ。
天狗岩の殺人魔 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ト、途方にうちくれゐたる折しも。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
草庵さうあんに暫く居てはうちやふり せを
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
老禰宜ろうねぎの太鼓うちる祭かな
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
すがりつくのを五つ六つ続けうちにする。泣転なきころがる処を無理に取ろうとするから、ピリ/\と蚊帳が裂ける生爪ががれる。作藏は
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
はなさないでもおまへ大抵たいていつてるだらうけれどいま傘屋かさや奉公ほうこうするまへ矢張やつぱりれは角兵衞かくべゑ獅子しゝかぶつてあるいたのだからとうちしをれて
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
たゞしあらためあしき御政事おんせいじ當時は何時にても此皷このつゞみうち奏聞そうもんするにていたとへば御食事おんしよくじの時にてもつゞみおとを聞給ひたちまち出させ給ひ萬民ばんみんうつたへ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
うれしく走りつきて石をあはせ、ひたとうちひしぎて蹴飛けとばしたる、石は躑躅つつじのなかをくぐりて小砂利こじやりをさそひ、ばらばらと谷深くおちゆく音しき。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
然し確証の無いことを深刻に論ずるのは感心出来無いことだ、はゞかるべきことだ、田原藤太をひて、何方どちらけようかと考へた博奕ばくちうちにするには当らない。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
家ののきにいで家僕しもべが雪をほらんとてうちおきたる木鋤こすきをとり、かのつらゝをうちをらんとて一打うちけるに
ちかづいてると艇中ていちうには一個いつこ人影ひとかげもなく、海水かいすいていなかばを滿みたしてるが、なにもあれてんたすけうちよろこび、少年せうねんをば浮標ブイたくし、わたくし舷側げんそくいておよぎながら、一心いつしん海水かいすい酌出くみだ
かれ次第しだいふところ工合ぐあひけたので、いまではいきほひづいた唐鍬たうぐはの一うちは一うち自分じぶんたくはへをんで理由わけなので、かれ餘念よねんもなくきはめて愉快ゆくわい仕事しごとしたがつてるやうにつたのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
だが、私が恐れを為してしまったのでは、あのいじらしくうちしおれた静子を誰が慰めるのだ。私はいて平気を装いながら、この脅迫状が小説家の妄想に過ぎないことを、繰返し説く外はなかった。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
不思議ふしぎ黄雲くわううん遽然にはかにして眼前がんぜんあつまりぬ、主從しゆうじうこれうち
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
〽書生さん橋の欄干らんかんに腰うちかけて———
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
芥子あまの小坊交りにうちむれて 荷兮かけい
芭蕉について (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
ほん商賣人しようばいにんとてくらしいもの次第しだいにおもふことおほくなれば、いよ/\かねて奧方おくがた縮緬ちりめん抱卷かいまきうちはふりて郡内ぐんない蒲團ふとんうへ起上おきあがたまひぬ。
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
はてな、と夫人は、白きうなじまくらに着けて、おくれ毛の音するまで、がッくりとうちかたむいたが、身のわななくことなおまず。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と云いながら十三間の平骨の扇で続けうちにしても又市は手を放しませんから、月代際さかやきぎわの所を扇のかなめこわれる程強く突くと、額は破れて流れる血潮。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)