かま)” の例文
国手こくしゅと立花画師との他は、皆人足で、食糧を持つ他には、道開き或いは熊けの為に、手斧ておののこぎりかまなどを持っているのであった。
壁の眼の怪 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
みかんばたけの上に出ると、大池のつつみがみえました。そこに二十人くらいのてきが、手に手にかまを持っていました。草をかっていたのです。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
省作お前はかまをとぐんだ。朝前あさめえのうちに四ちょうだけといでしまっておかねじゃなんねい。さっきあんなに呼ばったに、どこにいたんだい。
隣の嫁 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
春とはいえ、寒さはまだ朝の空気の中に、かまいたちのようなするどさでひそんでいて、日かげにいると足もとからふるえあがってくる。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
大きく『かま』と『輪』と『ぬ』の字を染め拔いた手拭、それはひどく意氣なつもりで、實はこの上もなく野暮つたい手拭でした。
太郎さんもみんなと一緒に、威勢よくその笹刈りに出かけて行ったはよかったが、腰をさがして見ると、かまを忘れた。大笑いしましたよ。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
むかしひとは、今日こんにち田舍ゐなかきこり農夫のうふやまときに、かまをのこしけてゐるように、きっとなに刃物はものつてゐたものとおもひます。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
そして、首だけを土の上に出しておいて、大きなかまで、その二つの首を刈り取ろうとなすった。ところが、そこへ不思議な人物が現われた。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「何だか長い名だ、とにかく食道楽じゃねえ。かまさん一体これゃ何の本だい」と余の耳に髪剃かみそりを入れてぐるぐる廻転させている職人に聞く。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かまに湯を煮たて手にかまをもってる農夫、アルコール地方にたいして反抗した葡萄ぶどう酒地方へ話しかけるため、木の上に登っている民衆の贖主あがないぬし
黄金きんかま」が西のそらにかゝつて、風もないしづかな晩に、一ぴきのとしよりのふくろふが、林の中の低い松の枝から、う私に話しかけました。
林の底 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
しかし人々が上陸の用意したくをするようだから、目をこすりこすり起きて見るとすぐ僕の目についたのはかまのような月であった。
鹿狩り (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
私が筋肉薄弱でかまが切れず、持て余しているのを見た父は、自分で鎌となたふるって、まきの束を作り初めたが、その上手なのに驚いてしまった。
父杉山茂丸を語る (新字新仮名) / 夢野久作(著)
くさかるかまをさへ買求かひもとむるほどなりければ、火のためまづしくなりしに家をやきたる隣家りんかむかひて一言いちごんうらみをいはず、まじはしたしむこと常にかはらざりけり。
工業的こうぎょうてきの機械を用うる事はなく、くわすきかまなどが彼等唯一ゆいつの用具であくまでもそれを保守して、新らしい機械などには見向きもしない有様で
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
山朸のさきにはかまをゆわえ、それにオコノコという長い荷繩をそえてかたげているのが、作男さくおとこ小百姓こびゃくしょうの常の出立いでたちであったともいわれている。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ある日、また一場の話がつたはつた。それは町の外れに住んでゐるすきかまくはなどをつくる鍛冶屋の店での出来事であつた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
芝生——とは名ばかりの、久しくかまを知らない中庭の雑草に腰をおろした左膳、手ぢかの道しばの葉を一本抜きとって
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
貧乏びんばう百姓ひやくしやう落葉おちばでも青草あをぐさでも、他人ひと熊手くまでかまつたあともとめる。さうしてせてつちさらほねまでむやうなことをしてるのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
も待ず進み出御道理だうりの御尋問せがれ惣内は幼少えうせうの頃私しが毎度きうゑしによりて灸あとこれ有又子供同士の口論にかまきず
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
顔はほとんど黒く頭髪はほとんどまっ白で、額からほおへかけて大きな傷痕きずあとがあり、腰も背も曲がり、年齢よりはずっとけていて、手にはすきかまかを持ち
桃太郎が鬼が島を征服するのがいけなければ、東海の仙境せんきょう蓬莱ほうらいの島を、つちかまとの旗じるしで征服してしまおうとする赤い桃太郎もやはりいけないであろう。
さるかに合戦と桃太郎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そこで仙蔵と、次郎作は、かまくはとをもたされて、おぢいさんの巨人の鼻の中へ入ることにされました。そのとき、仙蔵は次郎作にむかつて申しました。——
漁師の冒険 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
と、たちまおぼゆるむね苦痛くつうちやう疼痛とうつうたれするどかまもつて、ゑぐるにはあらぬかとおもはるゝほどかれまくら強攫しがき、きりゝとをばくひしばる。いまはじめてかれる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「そんなら、そっちへんでるがいい。もののついでに、おれがひとつ、かまをかけてやるから。——」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
顔を洗うと、真裸で芝生に飛び下り、ぎ立てのかまで芝を苅りはじめる。雨の様な露だ。草苅くさかりは露のの事。ざくり、ざくり、ザク、ザク。面白い様に苅れる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
わたくしは、尚もこの弟をいゝ鴨にして、合槌あいづちを打ってみたりかまをかけてみたり、少しは逆毛さかげに撫でゝみたりして、先生の家のことを喋らせるように仕向けます。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
山の上では、また或る日しつこ麦藁むぎわらき始めた。彼は暇をみて病室を出るとその火元の畠の方へいってみた。すると、青草の中で、かまいでいた若者が彼を仰いだ。
花園の思想 (新字新仮名) / 横光利一(著)
するとある日、多分村に帰ってから四、五日経った頃だったろう、ぼんやりと大家の門口かどぐちに立っていると、以前の学校友達が二、三人、かごを背負ってかまをもって登って来た。
「じゃ、やっぱり金さんのとこへ? へへへへそうだろうと思ってちょっとかまかけたんで」
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
越後の山野で日々働く人々のために、かますきくわなたなどを作らねばなりませんでした。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
もし幽霊が出たら、それで切ってかかるつもりか、中には大きなかまを持った男もいます。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
かまのやうな新月しんげつ物凄ものすご下界げかいてらしてたが、勿論もちろんみち案内しるべとなるほどあかるくはない、くわふるに此邊このへんみちいよ/\けわしく、とがつた岩角いはかどわだかま無限むげん行方ゆくてよこたはつてるので
そう言うと、お爺さんは腰にさげていたかまをとって、傍に生えていた太い竹を切りおとし、ころあいの長さにして穴をあけました。お爺さんは、なにをこしらえているのでしょうか。
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そして、ぬすんだ宝物ほうもつは、手下を京都へやって、羽柴秀吉はしばひでよしに売ってしまったんだ——これはきょうおいらが呂宋兵衛と問答して、かまをかけてきいてきたんだからまちがいのないことなんだ
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
寒中など水鼻汁みずっぱなをたらしながら、井戸水で、月の光りでかまいでいたり、丸太石をころがしていたりする。日和ひよりのよいころ芝を苅るときは、向うの方と、此方のほうで向いあいながら
山姥やまうば井戸いどのそこをのぞいてみましたが、とても手がとどかないので、くやしがって、物置ものおきからかまをさがしてて、ももの木のびんつけをけずとして、あたらしくがたをつけはじめました。
物のいわれ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
そして彼の角は、寄る年波にたわみながら、次第にかまのように反りかえって来る。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
きのうの朝、あたしがお部屋で本を読んでいますと、花壇のほうで草でもるような音がしますので、見てみますと、お父さまが朝吉と二人で、花壇の花をかまで苅っていらっしゃるのです。
キャラコさん:08 月光曲 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
きゝなされませ書生しよせい千葉ちば初戀はつこひあはれ、くにもとにりましたときそと見初みそめたが御座ござりましたさうな、田舍物いなかものことなればかまこしへさして藁草履わらぞうりで、手拭てぬぐひに草束くさたばねをつゝんでと思召おぼしめしませうが
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
しかも、かまとこしへれぬところをりから枯葉かれはなかいて、どんよりとかすみけたみづいろは、つて、さま/″\の姿すがたつて、それからそれへ、ふわ/\とあそびにる、いたところの、あの陽炎かげらふ
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ハンスは外へ出て、いいつけられたとおりのことをしました。仕事をしてしまうと、ハンスはかまと砥石とくさをうちへもちかえって、まだお礼をもらうわけにいかないかと、きいてみました。
女の心証をたしかめるために、わざと反対にかまをかけた。「いいえ。三十そこそこの若い人です。身長は普通で、痩せてはいません。がっしりした身体つきでした。いいえ、ひげはありません。」
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
が、左舷さげんの水平線の上には大きいかまなりの月が一つ赤あかと空にかかっていた。二万トンの××の中は勿論まだ落ち着かなかった。しかしそれは勝利のあとだけにきとしていることは確かだった。
三つの窓 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
奴頭は二人の子供を新参小屋に連れて往って、安寿にはおけひさご、厨子王にはかごかまを渡した。どちらにも午餉ひるげを入れる樏子かれいけが添えてある。新参小屋はほかの奴婢ぬひの居所とは別になっているのである。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
くわすきかままさかりに、棍棒に丸太に鉄の棒、もっとも中には槍を持ち、薙刀なぎなたをひっさげ、弓を握った、そういう手合いもあったけれど、数からいえばわずかであった。この二十人は尖兵せんぺいなのであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
黄檗おうばくを出れば日本の茶摘みかな」茶摘みの盛季さかりはとく過ぎたれど、風は時々焙炉ほうろの香を送りて、ここそこに二番茶を摘む女の影も見ゆなり。茶の間々あいあいは麦黄いろくれて、さくさくとかまの音聞こゆ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「それは作り話ですか」と、マレーフスキイがかまをかけた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
野田はついに狡猾こうかつな恒藤主任のかまにかかったのである。
みのりさえすれば、すぐにかまを入れて収穫するのだ