洒落しやれ)” の例文
「口惜しいと思ふなら手一杯に働いて見るが宜い。僞物を縛つた上眞物の八五郎を並べて、男つ振りの鑑定をするのも洒落しやれて居るぜ」
けれどふ言ふのが温泉場をんせんばひと海水浴場かいすゐよくぢやうひと乃至ないし名所見物めいしよけんぶつにでも出掛でかけひと洒落しやれ口調くてうであるキザな言葉ことばたるをうしなはない。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
爐端ろばたもちいたゞくあとへ、そろへ、あたまをならべて、幾百いくひやくれつをなしたのが、一息ひといきに、やまひとはこんだのであるとふ。洒落しやれれたもので。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「成程、あの墓石はかいしに耳を当てがふと、何時いつでも茶の湯のたぎる音がしてまんな。わて俳優甲斐やくしやがひ洒落しやれ墓石はかいしが一つ欲しうおまんね。」
A いよ/\馬鹿ばかだなア此奴こいつは。およそ、洒落しやれ皮肉ひにく諷刺ふうしるゐ説明せつめいしてなんになる。刺身さしみにワサビをけてやうなもんぢやないか。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
諏訪の湖あかり——周囲めぐりの山が昏れてから、ぽんと一枚、仰むきに置かれた、手鏡。このやうなところに、身だしなみはある。天は洒落しやれものだ。
独楽 (新字旧仮名) / 高祖保(著)
わざと内海達郎には通じない洒落しやれを言つて、自分たちだけで高笑ひをするといふ風な、傍若無人さが目に立つてきた。
ある夫婦の歴史 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
ふるいもあたらしいも、愚老ぐらう洒落しやれなんぞをまをすことはきらひでございます。江戸えどのよくやります、洒落しやれとかいふ言葉ことばあそびは、いやでございます。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
白氏はくし晴天せいてんの雨の洒落しやれほどにはなくそろへども昨日さくじつ差上さしあそろ端書はがき十五まいもより風の枯木こぼくの吹けば飛びさうなるもののみ、何等なんら風情ふぜいをなすべくもそろはず
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
また二荒を普陀落ふだらにあてゝ觀音所縁の山名に通はせ、それで觀音をきざみ、勸請くわんじやうなどもしたのであらう、弘法の文にもはやくその洒落しやれが見えてゐる。
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
小麦の粉のうすものをかけたといふ㕝なりと戯言たはむれごと云れければ、利助も洒落しやれたる男ゆゑ、天竺浪人のぶらつきゆゑ天ふらはおもしろしと大によろこび
私は何も洒落しやれに貴下方のお話を聴かうと云ふのぢやありません、可うございますか、顕然ちやんと聴くだけの覚悟を持つて聴くのです。さあ、お話し下さい!
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それがいよいよお洒落しやれになつて、かつ子の化粧料から自分用のを盗み取つて、鏡に向つてゐると云ふ始末である。
現代詩 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
いくらかわらまじりにこたへられながらも、さすがにばくちきな支那人しなじんだ、おそろしくつた、洒落しやれもの使つかふなアぐらゐにほとほと感心かんしんしてゐたやうな程度ていど
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
これは無政府主義者の中に、クロポトキンやレクラスの樣な有名な地理學者が有るからといふ洒落しやれではない。
所謂今度の事:林中の鳥 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
其の写実的半面は狂言の本筋に関係のない仕出しの台詞せりふや、其の折々の流行の洒落しやれ、又は狂言全体の時代と類型的人物の境遇等に於て窺ひ知られるのである。
虫干 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
私が春のインバネスを羽織つてゐたことを修一から別れた妻が聞いたら、「おや/\、そないなお洒落しやれをしとつたの、イヨウ/\」と、さぞかし笑ふであらう。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
すると南瓜のやつは、扇子で一つその鉢の開いた頭をぽんとやつて、「どうでげす。新技巧派の太鼓持たいこもちもたまには又おつでげせう」つて云ふんだ。悪い洒落しやれさね。
南瓜 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
さういつた洒落しやれた氣持は私にはどつと來なかつたが、ただ一つ印象に殘つてゐるのは、此の亭のうしろの窓の下がすぐ田圃になつて、そこから田植を見物するために
桂離宮 (旧字旧仮名) / 野上豊一郎(著)
がけあきつてもべついろづく樣子やうすもない。たゞあをくさにほひめて、不揃ぶそろにもぢや/\するばかりである。すゝきだのつただのと洒落しやれたものにいたつてはさら見當みあたらない。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
余はもとより舞踏なんど洒落しやれた事には縁遠き男なれど、せめて所謂いはゆるウオールフラワアの一人ともなりて花舞ひ蝶躍る珍しきさまを見て未代までの語り草にせばやと
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
ゆつくり酒を酌みかはすといふ夜などは、豐田さんは興に乘つて歌ひ出すことが有りました。いかめしい顏附に似合はない豐田さんの洒落しやれは皆なを笑はせました。
洒落しやれ切子細工きりこざいく典雅てんがなロココ趣味の浮模樣うきもやうを持つた琥珀色やひすい色の香水壜。煙管、小刀、石鹸、煙草。私はそんなものを見るのに小一時間も費すことがあつた。
檸檬 (旧字旧仮名) / 梶井基次郎(著)
若い男や女に交つて、後で考へると我ながら気恥しく思ふ様な洒落しやれ戯談じやうだんをも平気で言つたりした。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
おもふに古代の日本人も「口吸」をあからさまにいふことが、得手でなかつたのかも知れぬ、宇治拾遺あたりの「口すひ」の語は、近世の洒落しやれ文学の方嚮はうかうに発達して行つた。
接吻 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
「あゝものさしですね。だうりで測り兼ねましたよ。」と手品師はその洒落しやれが云ひたいのでわざと当てなかつたのだと思はれる位、流暢りうちやうに云つた。皆は又一しきり哄笑した。
手品師 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
洒落しやれ御主人ごしゆじんで、それから牡丹餅ぼたもち引出ひきだしてしまつて、生きたかへるを一ぴきはふんできました。
日本の小僧 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
彼の専門とする経済学も、彼をして人毎に一つの癖はある者を我には許せ経済のみち洒落しやれしめたる経済学も、或は古風なる「マンチェスター」派のものなりと顧みざる者もあらん。
明治文学史 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
「先生惡い洒落しやれだ」と、焉馬は棒を投げた。「まあ、ちよつとお通下さい。」
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
あゝあのこゑ旦那樣だんなさま、三せん小梅こうめさうな、いつののやうな意氣いき洒落しやれものにたまひし、由斷ゆだんのならぬとおもふとともに、心細こゝろほそことえがたうりて、しめつけられるやうなるしさは
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あんまり洒落しやれた真似をするなと、十円とられて、鮮かなヒンブルであつた。
六白金星 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
聞何と云る熊谷にて世話に成し者だと夫れはへんな事なり其者大方おほかたふぢつぼねであらうがそれがしは是まで女に心安き者はなきはずなりと淨瑠璃じやうるり狂言きやうげん洒落しやれを云ゆゑ門弟には少しもわからず當惑たうわくして居るを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「そんな點へ直ちに自然主義と云ふ語を應用されては困る」と、義雄は云ひながら、東京の諸新聞がこの語を洒落しやれに惡用した結果を、この地に來ても、見られるのがつく/″\不平に思はれた。
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
蹴散し洒落しやれ散したれ坂下驛さかもとえきを過るころより我輩はしばらくおい同行どうぎやう三人の鼻の穴次第に擴がりく息角立かどたち洒落も追々おひ/\苦しくなりうどの位來たらうとの弱音よわね梅花道人序開きをなしぬ横川に滊車を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
子供の私は、かの田園の逍遥なぞと、洒落しやれることこそなかつたけれど
鈴蘭のやうな薔薇ばらの花、アカデエモスの庭に咲く夾竹桃けふちくたうからんだ旋花ひるがほ、極樂の園にも亂れ咲くだらう、噫、鈴蘭のやうな薔薇ばらの花、おまへはにほひいろもなく、洒落しやれ心意氣こゝろいきも無い、年端としはもゆかぬ花だ
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
「君、馬鹿に、お洒落しやれになつたンだね」
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
「御方便なものだな——その鑄掛屋も、あのに氣があつて御浪人のところへ繁々しげ/\通ふのだらう。聾に道話なんざ洒落しやれにもならねえ」
その千円が手につたら、腹癒はらいせに一つ思ひ切つて洒落しやれた茶会でも開いてやらうと、心待こゝろまちにしてゐると、其処そこへ届いたのは藤田氏からの一封で
家内安全かないあんぜん、まめ、そくさい、商賣繁昌しやうばいはんじやう、……だんご大切たいせつなら五大力ごだいりきだ。」と、あらうことか、團子屋だんごや老爺とつさまが、今時いまどきつてめた洒落しやれふ。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
小麦の粉のうすものをかけたといふ㕝なりと戯言たはむれごと云れければ、利助も洒落しやれたる男ゆゑ、天竺浪人のぶらつきゆゑ天ふらはおもしろしと大によろこび
それだから私は実に心配で、心火ちんちんなら可いけれど、なかなか心火どころの洒落しやれ沙汰さたぢやありはしません。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
日暮れて路遠しの洒落しやれか。君んところなんか、まだ近い方だぜ。品川から三度もやつて来た人がゐるよ。
雅俗貧困譜 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
小六ころくには無論むろんわからなかつたのを、坂井さかゐおくさんが叮嚀ていねい説明せつめいしてれたさうであるが、それでもちなかつたので、主人しゆじんがわざ/\半切はんきれ洒落しやれ本文ほんもんならべていて
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しぎにありては百羽掻也もゝはがきなり、僕にありては百端書也もゝはがきなりつきのこんの寝覚ねざめのそらおゆれば人の洒落しやれもさびしきものと存候ぞんじさふらふぼく昨今さくこん境遇きやうぐうにては、御加勢ごかせいと申す程の事もなりかねさふらへども
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
がもとより洒落しやれだと心得てゐたから、南瓜が妙な身ぶりをしながら、薄雲太夫をつかまへて
南瓜 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
御規則とは隨分陳腐な洒落しやれである。サテ、自分の後は直ちに障子一重で宿直室になつて居る。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
酒をつくらず酒飲まずなら、「下戸やすらかに睡る春の夜」で、天下太平、愚痴無智の尼入道となつて、あかつきのむく起きに南無阿弥陀仏なむあみだぶつでも吐出した方が洒落しやれてゐるらしい。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
Ice of Life——栄ちやん、奈何どうだい、叔父さんの洒落しやれは解るかい。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
家内うち/\もめるにそのやうのこと餘地よちもなく、つて面白おもしろくない御挨拶ごあいさつくよりかだまつてはうがよつぽど洒落しやれるといふくらゐかんがへで、さいはひに賄賂わいろけがれはけないでんだけれど
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)