たん)” の例文
昼はかくれて、不思議な星のごとく、さっの幕を切ってあらわれるはずの処を、それらの英雄侠客きょうかくは、髀肉ひにくたんに堪えなかったに相違ない。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
内に眠っている事業に圧迫せられるような心持である。潜勢力の苦痛である。三国時代の英雄はに肉を生じたのを見てたんじた。
かのように (新字新仮名) / 森鴎外(著)
詩人たちは或は彼等の孤立に多少のたんを持つてゐるかも知れない。しかしそれは僕に言はせれば、寧ろ「名誉の孤立」である。
若き御連枝はムッとしてそのまま訪問されず、しかも、その人も配偶をむかえてから、かわものはなかったとのたんをもたれたのだから悲しい。
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
余は人間と生れしをたんぜり、もし愛情ちょうものの余に存せざりしならば余にこの落胆なかりしものを、ああ如何いかにしてこの傷をいやすを得んや。
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
物語れば忠八はおどろたんじ此處に夫程御滯留ごたいりう有とも知らず所々方々尋ね廻りしこそ愚なれ併し今宵こよひ此家に泊らずば御目にもかゝらず江戸迄行んものを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そこで囚人たんじて曰く、子供は監獄に父親は病院に、お母さんは淫売帰にああ——。私はクツクツ笑い出してしまった。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
その上に、例の溌剌たるお嬢さんがたを全部、招待して、まるで、移動する花園の中におもいありと、はたから見る者をしてたんぜしめたのであった。
暗号音盤事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ここにおいて余はようやく不折君を信ずるの深きと共に君を見るの遅きをたんじたり。これより後また新聞の画に不自由を感ずる事なかりき。(六月二十五日)
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
いにしえより今に至るまで、成敗せいばいの跡、禍福の運、人をしておもいひそめしめたんを発せしむるにるものもとより多し。されども人の奇を好むや、なおもって足れりとせず。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
何か仔細しさいの有りそうな、もとは良家の青年らしく、折角せっかく染めた木綿の初袷はつあわせを、色もあろうに鼠色ねずみいろに染めたと、若い身空みそらで仏門に入ったあじきなさをたんじていると
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
巴里パリー伯林ベルリン、ブラッセル、アムステルダム、いずれも電信の速力は一杯にウォール街に資金を流入した。大西洋北岸の富の余剰よじょうはいまや米国株式に変形したとたんじさせた。
大阪万華鏡 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
拙者せっしゃには武力はありますが名はありませぬ。それゆえ、今日こんにちまで髀肉ひにくたんをもっておりましたが、若君のみはたさえおかしくださるならば、織田おだ徳川とくがわ鎧袖がいしゅうの一しょくです。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いはばわたしにとつてはじつこうてき手だつたのだが、先生今や東北青ぜう下につて久しくあひ見ゆるない。時々おもひ出すと、わたしには脾にくたんへないものがあるのである。
文壇球突物語 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
わたしはどうかしてこの野卑蕪雑ぶざつなデアルの文体を排棄はいきしようと思いながら多年の陋習ろうしゅう遂に改むるによしなく空しく紅葉こうよう一葉いちようの如き文才なきをたんじている次第であるノデアル。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
出す返事などはどんなに時代おくれなものと見られるかしれぬとたんじているのであった。
源氏物語:48 椎が本 (新字新仮名) / 紫式部(著)
其後荊棘けいきよくの為めにこと/″\破壊はくわいせられ、躰をふべきものさらに無く、全身こぞりて覆盆ふくぼんの雨に暴露ばうろせらる、其状そのじやう誠にあはれむにへたり、衆相対してひらくもげきとしてこゑなく、あほぎて天の無情をたん
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
うたた脾肉ひにくたんに耐えないのであったが、これも身から出たさびと思えば、落魄らくはくの身の誰を怨まん者もなく、南京虫なんきんむししらみに悩まされ、濁酒と唐辛子をめずりながら、温突おんどるから温突へと放浪した。
勧善懲悪 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
私は喜びかつたんじた次第だ、可笑おかしな事にはかなりの店を持った商人である処の私の友人Hよりも私の方が多額納税者となっていた事だった、もち論Hは税金としての最低額を収めているのである。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
つくすともあきたるべきやつならずと冷凍ひえこほこぶしにぎりつめて當處あてどもなしににらみもしつおもかへせばそれも愚痴ぐちなりうらみはひとうへならずれにをとこらしき器量きりやうあらばほどまでにはきゆうしもすまじアヽとたんずればいきしろくえて
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
誠に邦家ほうかのためにたんずべき次第なり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
鮎子さんが、脾肉ひにくたんをもらす。
キャラコさん:07 海の刷画 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
中川もまた同様のたんなきにあらず
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
河間王かかんわう宮殿きうでんも、河陰かいん亂逆らんぎやくうて寺院じゐんとなりぬ。たゞ堂觀廊廡だうくわんらうぶ壯麗さうれいなるがゆゑに、蓬莱ほうらい仙室せんしつとしてばれたるのみ。たんずべきかな。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いや、人界にんがいに生れ出たものは、たといこの島に流されずとも、皆おれと同じように、孤独のたんらしているのじゃ。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
かつや人の常情、敗れたる者は天のめいを称してたんじ、成れる者は己の力を説きて誇る。二者共にろうとすべし。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
毛利へたいしてすら、異存あらば、七月以前に、申し越されよ、旗鼓きこの間に、解決しようと、云い切っているのである。——数正は、たんを越えて、かろい疲れすら覚えて来た。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
離縁りえんして昌次郎へつかは見返みかへらざるはしんなり罪なくして牢屋につながれ薄命はくめい覺悟かくごして怨言ゑんげんなきはれいなり薄命はくめいたんじて死を定めしはゆうなり五常ごじやうの道にかなふ事かくの如く之に依て其徳行とくかう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
博士は研究所を火災かさいで失って、どうにも復興ふっこうの見込みが立たず、あたら英才えいさいいだいて不幸をたんしているという。しかし博士のことだから、そのうちにもっと何かいい手段を考え出すことだろう。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
この頃、銀座通に柳の苗木なえぎ植付うえつけられた。この苗木のもとに立って、断髪洋装の女子と共に蓄音機の奏する出征の曲を聴いて感激を催す事は、鬢糸びんし禅榻ぜんとうたんをなすもののくすべき所ではない。
正宗谷崎両氏の批評に答う (新字新仮名) / 永井荷風(著)
と今の世は到る処このたんあり。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
かけてまたときつ思案しあんにもつるゝ撚糸よりいと八重やへなげきはまたことなりしげ若葉わかばさまたげとおほせられしはことならずやくらまよひとたんたまへどさとりたればこその御取持おとりもちなれおもなかのお兩方ふたかた生涯しやうがいのぞみもたのみも御讓おゆづり申しておもくこと些少いさゝかなきを
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
姫様ひいさまこういらっしゃいまし。」一まず彼室かなたの休息所へ、しばし引込みたまうにぞ、大切なる招牌かんばん隠れたれば、店頭蕭条しょうじょうとして秋暮のたんあり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まして我々下根げこん衆生しゆじやうは、い加減な野心に煽動せんどうされて、がらにもない大作にとりかかつたが最期さいご虻蜂あぶはちとらずのたんを招くは、わかり切つた事かも知れず。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
茫々ぼうぼうたる曠野、草莱そうらいいたずらに茂って、千古ただ有るがままに有るのみなのを見て、氏郷は「世の中にわれは何をかなすの原なすわざも無く年や経ぬべき」とたんじた。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
椎の葉の椎の葉たるをたんずるのは椎の葉の笥たるを主張するよりも確かに尊敬に価している。しかし椎の葉の椎の葉たるを一笑し去るよりも退屈であろう。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
喟然きぜんとしてわたしたんじた。人間にんげんとくによる。むかし、路次裏ろじうらのいかさま宗匠そうしやうが、芭蕉ばせをおく細道ほそみち眞似まねをして、南部なんぶのおそれやまで、おほかみにおどされたはなしがある。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あるに甲斐かいなく世をれば貧には運も七分しちぶこおりて三分さんぶの未練を命にいきるか、ああばかりに夢現ゆめうつつわかたず珠運はたんずる時、雨戸に雪の音さら/\として、火はきえざる炬燵こたつに足の先つめたかりき。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
書画、篆刻てんこくとうを愛するに至りしも小穴一游亭に負ふ所多かるべし。天下に易々いいとして古玩を愛するものあるを見る、われは唯わがさが迂拙うせつなるをたんずるのみ。
わが家の古玩 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
角力すまふなどらねばかつた。夜半よなかはらいたこと大福だいふくもちより、きしめんにすればかつたものを、と木賃きちんでしらみをひねるやうに、二人ふたりとも財布さいふそこをもんでたんじた。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
巍は燕王に書をたてまつりしもかい無かりしをたんずれば、鉉は忠臣の節に死するすくなきを憤る。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
と自ら疑うように又自らたんずるように、木沢はへやの一隅をにらんだ。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)