枯草かれくさ)” の例文
高さこそは私のせいより少し低い位でしたが、三人すわつて遊ぶにはもつてこいといふ加減で、下にぢいやに頼んで枯草かれくさを敷いてらひ
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
その二尺にしやくほどした勾配こうばい一番いちばんきふところえてゐる枯草かれくさが、めうけて、赤土あかつちはだ生々なま/\しく露出ろしゆつした樣子やうすに、宗助そうすけ一寸ちよつとおどろかされた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
今その小屋をみれば木のえだ、山さゝ、枯草かれくさなど取りあつめ、ふぢかつらにて匍匐はひ入るばかりに作りたるは、野非人のひにんのをるべきさまなり。
てた燐寸マツチえさしが道端みちばた枯草かれくさけて愚弄ぐろうするやうながべろ/\とひろがつても、見向みむかうともせぬほどかれものうげである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
枯草かれくさをやく百姓ひゃくしょう野火のびか、あるいは、きこりのたいた焚火たきびであろうか、とある原のなかほどに、チラチラと赤くもえているほのおがあった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「殺されてゐたのですよ、——むごたらしく。死骸は五日前に五人の子供達が見えなくなつた、空地の枯草かれくさの中に捨ててあつたが」
その日は、天気が下り坂になって来て風さえ出て来たので、農夫たちは急いで枯草かれくさを車へのせ、その上をロープでしっかりしばりつけた。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかし汽車きしやはその時分じぶんには、もう安安やすやす隧道トンネルすべりぬけて、枯草かれくさやまやまとのあひだはさまれた、あるまづしいまちはづれの踏切ふみきりにとほりかかつてゐた。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
あはれ、殊勝な法師や、捨身しゃしん水行すいぎょうしゅすると思へば、あし折伏おれふ枯草かれくさの中にかご一個ひとつ差置さしおいた。が、こいにがしたびくでもなく、草をしろでもない。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そよ風はもうんだ。枯草かれくさはついついと立っている。銅線のようなものもある。一本が顫え声を出すと、空気の中に顫えて行ってだんだん細くなる。
(新字新仮名) / 魯迅(著)
古池ふるいけには早くも昼中ひるなかかはづこゑきこえて、去年のまゝなる枯草かれくさは水にひたされてくさつてる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
たはむれに枯草かれくさうつした子供等こどもらは、はるかにえる大勢おほぜい武士ぶし姿すがたおそれて、周章あわてながらさうと、青松葉あをまつばえだたゝくやら、えてゐるくさうへころがるやらして、しきりにさわいでゐた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
まき枯草かれくさなども巧みにニホに積むようにはなっているが、なお多くの村々に穂ニホまたは本ニホという名称の存するのを見ると、ニホが本来は刈稲かりいねをそのまま積んで置く場所なることを
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
夜露よつゆにぬれた枯草かれくさが気味わるく足にまとい、ともすれば水溜みずたまりに踏み込みそうで、歩くのも難儀であったが、神谷は、折角せっかくここまで尾行した怪物を、このまま見捨てて帰るのも残りしく
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それから若い木霊こだまは、明るい枯草かれくさおかの間を歩いて行きました。
若い木霊 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
十月の枯草かれくさなるかがやき、そがかげのあひびきの
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
忽ちに枯草かれくさはもえあがる。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
今その小屋をみれば木のえだ、山さゝ、枯草かれくさなど取りあつめ、ふぢかつらにて匍匐はひ入るばかりに作りたるは、野非人のひにんのをるべきさまなり。
紳士 口でな、う其の時から。毒蛇どくじゃめ。上頤うわあご下頤したあごこぶし引掛ひっかけ、透通すきとおる歯とべにさいた唇を、めりめりと引裂ひきさく、売婦ばいた。(足を挙げて、枯草かれくさ踏蹂ふみにじる。)
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そこは、枯草かれくさがうず高くつんであるすばらしく暖かな日なただった。ゆらゆらと、かげろうが燃え立っていた。その中に、隆夫の霊魂は立っているのだった。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかし汽車きしやいままさ隧道トンネルくちへさしかからうとしてゐることは、暮色ぼしよくなか枯草かれくさばかりあかる兩側りやうがは山腹さんぷくが、間近まぢか窓側まどがはせまつてたのでも、すぐに合點がてんことであつた。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
細くなって消え失せると、あたりが死んだように静かになる。二人は枯草かれくさの中に立って仰向いて鴉を見ると、鴉は切立きったての樹の枝に頭を縮めて鉄の鋳物いもののように立っている。
(新字新仮名) / 魯迅(著)
たちまち、山と積まれた枯草かれくさたば。はこばれてくる獣油じゅうゆかめ、かつぎだされた数百本の松明たいまつ
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つゝみ枯草かれくさうへつて、但馬守たじまのかみおほきなこゑ新任しんにん挨拶あいさつねて一ぢやう訓示くんじ演説えんぜつをした。演説えんぜつすこしもみゝいためないでくことの出來できものは、おほくの與力よりき同心どうしんちうほとんど一人ひとりもなかつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
そして諒安はとうとう一つのたいらな枯草かれくさ頂上ちょうじょうに立ちました。
マグノリアの木 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
つつましき枯草かれくさ湿しめるにほひよ……
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
枯草かれくさ真直まっすぐになつて、風し、そよともなびかぬ上に、あはれにかゝつたのは胴抜どうぬきの下着である。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
その姿すがた煤煙ばいえん電燈でんとうひかりとのなかながめたとき、もうまどそとあかるくなつて、そこからつちにほひ枯草かれくさにほひみづにほひひややかにながれこんでなかつたなら、やうやきやんだわたくし
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そしてあせくまもなく、クロの足をしばりつけてあるくさりをガチャガチャきはじめた。だが、——意地いじわるく、急げばいそぐほど、鎖はささ枯草かれくさにひっからんで、容易よういにむすびこぶしがけない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今日は七つ森はいちめんの枯草かれくさ
『春と修羅』 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
おそはれたる如く四辺あたりみまはし、あわただしくつつみをひらく、衣兜かくしのマツチを探り、枯草かれくさに火を点ず。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
さか兩方りやうはうは、見上みあげてみねごと高臺たかだいのなだれたがけで、……とき長頭ながあたまおもてけたはうは、そらに一二けん長屋立ながやだてあたか峠茶屋たうげぢややかたちに、しもよ、ともやのたゝまりんだ、枯草かれくさうへ
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ついいましがた牡丹亭ぼたんていとかいふ、廣庭ひろには枯草かれくさしもいた、人氣ひとつけのないはな座敷ざしきで。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「ほい。」ととき、もう枯草かれくさだんりてる、くしやみんだ身輕みがる足取あしどり
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ぶやうに列車れつしやぐる、小栗栖をぐるすまどからのぞいて、あゝ、あすこらのやぶからやりて、馬上ばじやうたまらず武智光秀たけちみつひで、どうと落人おちうどから忠兵衞ちうべゑで、あし捗取はかどらぬ小笹原こざさはらと、線路せんろ堤防どて枯草かれくさ料簡れうけん
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
其時そのとき最後の痛苦の絶叫、と見ると、さいなまるゝ婦人おんなの下着、樹の枝に届くまで、すツくりと立つたので、我を忘れて突立つったあがると、彼方かなたはハタと又たおれた、今はかわや破れけん、枯草かれくさの白き上へ
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
胸騒むなさわぎがしながら歩行あるいたけれども、不思議なものはの根にも出会でっくわさない、ただのこはれ/″\の停車場ステエションのあとへ来た時、雨露あめつゆさらされた十字の里程標りていひょうが、枯草かれくさの中に、横になつて居るのを見て
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)