我儘わがまゝ)” の例文
友「此の羽織はいらない羽織で、だいなしになって居りますが、毎度板前さんにねえ我儘わがまゝを云いますから、何卒どうか上げて下さい」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
男もた余り我儘わがまゝ過ぎると思ひますの——梅子さん、是れは世界の男に普通のでせうか、其れとも日本の男の特性なのでせうか
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
我儘わがまゝばかり、おつてらつしやつたのを、こんなところまでれていて、すわつておやすみなさることさへ出來できないんだよ。
三尺角拾遺:(木精) (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
己がまゝ掻𢌞かきまは我儘わがまゝ氣儘きまゝ振舞ふるまひたりしが何時しか町内廻りの髮結かみゆひ清三郎と密通みつつうをなし内外うちそとの目を忍びて物見遊山に浪費ついえ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
しかるにかれ毎晩まいばんねむらずして、我儘わがまゝつてはほか患者等くわんじやら邪魔じやまをするので、院長ゐんちやうのアンドレイ、エヒミチはかれを六號室がうしつ別室べつしつうつしたのであつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
一日いちにちすみやかに日本につぽんかへりたいのは山々やま/\だが、前後ぜんご事情じじやうさつすると、いま此人このひとむかつて、其樣そん我儘わがまゝはれぬのである。
其上僕はこんな残酷な事を打ち明けなければ、もう生きてゐる事が出来なくなつた。つまり我儘わがまゝです。だからあやまるんです
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
もっとも少し我儘わがまゝで剛情な所は有ましたが高ぶりは致しません、少し機嫌のい時は面白い事ばかり言て人を笑せました
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
娘のお吉が、相模屋の息子の榮三郎に惚れて、我儘わがまゝを言つて此處へ嫁に來たのが五年前だ。親分も知つてるだらうが、榮三郎は歌舞伎役者のやうな好い男だ。
水仕事のやうなことをしてもいゝから、のんびりしたところにゐたいやうな、我儘わがまゝな心持が動くのである。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
別にこてこて白粉おしろいを塗るやうなこともする必要がなかつたし、その時は少し病気をしたあとで、我儘わがまゝの利く古くからの馴染客なじみきやくのほかはしばらく客も取らなかつたし
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
あそこのたひちり、こゝの蜆汁しゞみじる、といふ風によくあさつて歩いた私は大きな飲食店などにも飽き果てゝ、その薄汚い町中の洋食屋に我儘わがまゝの言へる隠れ家を見つけて置いた。
(新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ところがその返事はどうだらう。——お言葉に甘えて我儘わがまゝを云ふが、今こちらでは、一寸取り込みがある。しばらく延ばしてくれ。そのうちに此方こつちから午後にでも伺ふ、とかうだ。
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
稚兒をさなごのやうになりて正雄まさをひざまくらにしてときあり、給仕きふじにてもはしをばらずと我儘わがまゝをいへれど、正雄まさをしかられておなぜんうへかゆをすゝることもあり、なほつてれるか。
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
午後ひるからでなければ遊ばれませんよ、と女中が云ひましても、私はじつとして待つて居れば、楽しい時間の来ることが早いと云ふやうに信じて居るものですから、我儘わがまゝを云ひ張つて
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
祖父は歿くなる、親は追出す、もう誰一人その我儘わがまゝめるものが無くなつたので、初めの中は自分の家の財産を抵当に、彼方あつち此方こつちから金を工面して、なほその放蕩はうたうを続けて居た。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
しか諸名家しよめいか菊塢きくう無祝儀むしゆうぎ取巻とりまき同様どうやうにするあひだに、菊塢きくうはまた諸名家しよめいか無謝儀むしやぎにて使役しえきせしなり、聞人もんじんといふものはいつの世にても我儘わがまゝ高慢かうまんぜにつかはぬくせに、大面おほづらで悪く依怙地えこぢ
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
しかもなほ名譽めいよぢゃとはおもひませぬ」はて、こゝな我儘わがまゝどの、うれしがったり名譽めいよがったりするひまに、その上等けっこう脚節すねふしでも調査しらべておきゃ、つぎ木曜日もくえうびにパリスと一しょに會堂くわいだうくために。
このまゝ別れてもいゝのだと思ふ気もあつたが、いや、今一度逢つて、たしかめてからにしても遅くはないと云つた、自分勝手な我儘わがまゝな感情が、富岡の胸のなかには色模様をなして明滅した。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
其れに巨万の慰労金を貰つて国立劇場を隠退した俳優は巴里パリイ市で興行することの出来ない規定があるのに、剛腹がうふく我儘わがまゝとを極めた性格の老優が其れを破つてサン・マルタン座へ出たのだから
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
届出とゞけいでずして我儘わがまゝ出立しゆつたつせば、あるひはこう
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
さても飯島様のおやしきかたにては、お妾お國が腹一杯の我儘わがまゝを働くうち、今度かゝえ入れた草履取ぞうりとり孝助こうすけは、年頃二十一二にて色白の綺麗な男ぶりで
まへさん、お正月しやうぐわつからうたうたつてるんぢやありませんか。——一層いつそ一思ひとおもひに大阪おほさかつて、矢太やたさんや、源太げんたさんにつて、我儘わがまゝつていらつしやいな。
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「おの人は口が惡いし我儘わがまゝだけれど、根が親切なところがあつて、私などにもよくしてくれますだよ」
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
少年のをり、土井は誰よりもその兄に愛されてゐた。かたくな我儘わがまゝで、そしてときとしてはひどいなまけものであつた異腹の末弟の彼を、兄は何んな場合にも自分の子供のやうに愛した。
(新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
我儘わがまゝそだちで、其れに耶蘇ヤソだからツて申した所が、松島さんのつしやるには、イヤ外国の軍人と交際するには、耶蘇のかゝあの方がかへつて便利なので、元々梅子さんの容姿きりやうが望のだから
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
あのやう我儘わがまゝいひませぬほどにおゆるしあそばしてよとあどなくもびられて流石さすがにを
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
我儘わがまゝの言へる妹のそばで、お節は髪結が来るまでの僅かばかりの時を送らうとして
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
下げ萬事一人の計ひなればやしき内の者此平左衞門を恐れ誰一人ことばを返す者もなきゆゑ平左衞門は我儘わがまゝ増長ぞうちやうし其上ならず年に似げなく大の好色者にてお島の容貌かほかたちうつくしきに心をかけがなすきがなお島を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
すると今度こんどきふ退屈たいくつになつたのです。人間にんげん隨分ずゐぶん我儘わがまゝなものですよ。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ほんとに老女おばさん、どうしたら篠田様のやうな御親切な御心がもてませうかネ——わたしネ老女さん、男なんてものは、みん我儘わがまゝで、道楽で、うそつきで、意気地いくぢなしのものと思つてたんですよ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
道中だうちうにも旅店はたごにも、我儘わがまゝばかりまをして、今更いまさらはづかしうぞんじます、しかしくるま駕籠かご……また夏座敷なつざしきだとまをすのに、火鉢ひばちをかんかん……で、鉄瓶てつびん噴立ふきたたせるなど、わたしとしましては
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ムウンまたむかひか、どうも度々たび/″\招待状せうたいじやうをつけられて困るなア、先方むかう此頃このごろちやはじめたてえが、金持かねもちゆゑごく我儘わがまゝな茶で、種々いろ/\道具だうぐかざちらかしてるのを、みんなが胡麻ごまアするてえ事を聞いたが
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
尋問たづねられしかば憑司はぐつ/\こたふるやう私し少し間違まちがひにて村の持山もちやまきりしゆゑ退役いたし其跡にて傳吉儀役人中へ色々つひに村長と相成しが傳吉段々我儘わがまゝ押領あふりやう等の筋之有るやにて又私しへ村長を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
如何どうも申されねどおまへさまのおさしさはにしみてわすれませぬ勿躰もつたいなけれどお主樣しゆうさまといふ遠慮ゑんりよもなく新參しんざんのほどもわすれてひたいまゝの我儘わがまゝばかり兩親ふたおやそばなればとて此上このうへ御座ございませぬりながらくやしきは生來せいらいにぶきゆゑ到底とて御相談ごさうだん相手あいてには
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
お前は八ヶ年ぜん御当家へ来て中々正直者だが、孝助は三月の五日に当家へ御奉公に来たが、孝助は殿様の御意ぎょいりを鼻にかけて、此の節は増長して我儘わがまゝになったから、お前も一つ部屋にいて
……くも花片はなびらかずめば、おもふまゝの乞目こひめて、双六すごろくてたのに、……たゞ一刻いつこくあらそふて、あせつておもだあそばすから、あぶないとはおもひながら、我儘わがまゝおつしやる可愛かあいらしさに、謹慎つゝしみもつひわす
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
お前を親の様に、尚更なおさら私がたのしみをさしてから見送りいから、もう一二年達者になってねえ、決して家来とは思わない、我儘わがまゝをすれば殴打擲ぶちたゝき当然あたりまえで、貰い乳をしてく育てゝくれた、有難い
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
かないのさへ我儘わがまゝらしいから、うでんでだまつてた。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
お隅は平素ふだんから一角は酒の上が悪く我儘わがまゝなのを知っております、また女が出るとやわらかになる事も存じているから、かえってう云う時は女の方がかろうと思って、あとの方からつか/\と進み出まして
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)