くは)” の例文
しなには與吉よきち惡戯いたづらをしたり、おつぎがいたいといつてゆびくはへてせれば與吉よきち自分じぶんくちあてるのがえるやうである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
これ引摺ひきずつて、あしながらなさけなさうなかほをする、蟋蟀きり/″\す𢪸がれたあしくちくはへてくのをるやう、もあてられたものではない。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その時彼は葉巻をくはへて、洋服の膝に軽々と小さな金花を抱いてゐたが、ふと壁の上の十字架を見ると、不審らしい顔をしながら
南京の基督 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その一本の葉巻シガアを将軍はいつも口にくはへてゐる。食事の時は叮嚀に卓子テーブルの上にそつとそれを置き、食事が済むと、またそれを啣へてゐる。
野良犬は、秋刀魚の片側の肉を美味しさうに喰べ終へると、魚の頭のところをくはへて、どんどん海の方角へ馳け出しました。
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
皆が硯箱に蓋をしたり、袴の紐を締直したり、タバコくはへて外套を着たりしたが、三面の外交をして居る小松君が、突然
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
林檎りんごの様に赤い顔をして大きな煙管パイプくはへて離さず、よく食ひ、よく語り、よく運動する元気のいい爺さんである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
おくみは額際に汗をにじませて、袂をくはへながら、下手なよそひ方なぞをしたお皿を、ちやぶ台の上に並べた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
垂し鰻屋の臭に指をくはへるたぐひなり慾で滿ちたる人間とて何につけてもそれが出るには愛想が盡る人生居止きよしを營むつひ何人なんぴとの爲にぼくするぞや眺望ながめがあつて清潔な所を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
「太郎やわたしは一生おまいと離れないよ、お前の好きな処へお前をれてお嫁に行くから子、お前の好きな人が来たら妾のたもとくはへて其人のそばへ伴れて行くのだよ、」
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
二三人の男が大声で話をしながら腰をかけるが否や其一人が口にくはへた巻煙草にマツチの火をつけた。
男ごゝろ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
くは烟草たばこけむあきゆらつかせながら、ぶら/\あるいてゐるうちに、どこかとほくへつて、東京とうきやうところはこんなところだと印象いんしやうをはつきりあたまなかきざけて
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
将門はそれでいが、良兼等は其儘そのまゝ指をくはへて終ふ訳には、これも阪東武者の腹の虫が承知しない。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
こゝで、葉卷を取り出して火をける間の沈默があとに續いた。それを唇にくはへて、薫たかいハバナの煙を、ひややかな曇り日の空氣にふかし、彼はまた語りつゞけた。——
のこし己はめしくひにぞ下りけり跡には寶澤たゞ一人熟々つら/\思ひめぐらせばいまの二品をぬすかば用ゆる時節はこれかうと心の中に點頭うなづきつゝやが懷中紙くわいちうがみを口にくはへ毒藥のつぼ取卸とりおろし彼中なる二品を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
親烏が獲物をくはへて来ては小烏の口の中へ入れてやつて居た。其時の声が殊に耳にたつて騒がしかつた。烏は時々首を左右に傾けて下の畑を覗く様な風をした。お桐は始終注意して居た。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
そのお菊が大名屋敷に奉公すると聞いて、指をくはへて引込む手前ぢやあるめえ
つばめ、燕、春のセエリーのいと赤きさくらんぼくはえ飛びさりにけり
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
彼はパイプをくはへて、悠々いういうと青い煙を吐いてゐた。
イボタの虫 (新字旧仮名) / 中戸川吉二(著)
舊巣ふるすくはへて飛び去りぬ。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
もろともにくはへて帰る
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
キヤツとく、と五六しやく眞黒まつくろをどあがつて、障子しやうじ小間こまからドンとた、もつとうたくはへたまゝで、ののち二日ふつかばかりかげせぬ。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さう云ふことばがまだをはらない中に、蛇の頭がぶつけるやうにのびたかと思ふと、この雄辯なる蛙は、見るにその口にくはへられた。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
今度皇后宮大夫くわうごうぐうだいぶになつた大森鍾一氏は官吏は威容を整へなければならぬといふので、何時いつも葉巻をくはへる事に決めてゐる。
自分はケロリとして煙管をくはへ乍ら、幽かな微笑を女教師の方に向いて洩した。古山もまた煙草を吸ひ始める。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
とあるひくい石垣の上に腰を掛けた九は大きな煙管パイプくはへてこゝろよさう燐寸マツチを擦つた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
と泣声になり掻口説く女房の頭は低く垂れて、髷にさゝれし縫針のめどくはへし一条ひとすぢの糸ゆら/\と振ふにも、千〻に砕くる心の態の知られていとゞ可憫いぢらしきに、眼を瞑ぎ居し十兵衞は
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
の人々の中に長吉ちやうきち偶然ぐうぜんにも若い一人の芸者が、口には桃色のハンケチをくはへて、一重羽織ひとへばおり袖口そでぐちぬらすまいめか、真白まつしろ手先てさきをば腕までも見せるやうに長くさしのばしてゐるのを認めた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
燒餅やきもちくとていてえ、でお釋迦しやか團子だんごねたあ」とてつけにうたうてずん/\つてしまふ。うしろ群集ぐんしふはそれにおうじてゆびくはへてぴう/\とらしながら勘次かんじこゝろ苛立いらだたせた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
夜廻りをふやし、時候しゆん外れの火の番を置き、とびの者まで動員して、曲者狩に努めましたが、冬からの跳梁てうりやうを指をくはへて眺めるばかり、かつて曲者の姿を見た者もなく、よしんば見た者があるにしても
そこで猫は焼いた魚を口にくはへて、奥様や女中さんの知らないまに、そつと裏口から脱けだしました、そしてどんどんと駈け出しました、ちやうど街はづれの橋の上まできましたときに猫は魚にむかつて
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
旧巣ふるすくはへて飛び去りぬ。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
くちくはえた帯留のきん——
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
二十三歳の彼の心の中には耳を切つた和蘭オランダ人が一人、長いパイプをくはへたまま、この憂欝な風景画の上へぢつと鋭い目を注いでゐた。……
或阿呆の一生 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
いゝえ、まだしてげません。……おはなしかなくツちや……でないとそでくはへたり、つたり、惡戲いたづらをして邪魔じやまなんですもの。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ある日、秋濤はいつものやうににほひのいゝ葉巻シガーくはへて教室に入つて来たが、平素ふだんにない生真面目な調子で、皆の顔を見た。
自分はケロリとして煙管をくはへ乍ら、幽かな微笑を女教師の方に向いて洩した。古山もまた煙草を吸ひ初める。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
彼等かれらよる垣根かきねそばつてゆびくちくはへてぴゆう/\とはげしくらしてたり、戸口とぐちちかひそか下駄げたあとけていたり、勘次かんじねむりちようとするころ假聲こはいろ使つかつておつぎをんだりした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
彼等は船が殊更ことさら絵のやうに美しい海岸の巌角いはかどなぞを通り過ぎる折々をり/\くはへてゐる大きなパイプを口元から離して、日本の山水さんすゐのうつくしい事を自分に語つた。支那には木がなく水は黄色に濁つてゐる。
海洋の旅 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
時雨しぐれの庭をふさいだ障子。時雨の寒さを避ける火鉢。わたしは紫檀したんの机の前に、一本八銭の葉巻をくはへながら、一游亭いちいうていの鶏のを眺めている。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
あわてたのなんのではない、が、はげしく引張ひつぱるとけさうなところから、なだめたが、すかしたが、かひさらになし、くちくはへた。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
でも次の停車場へ来ると、肥つた男は煙管パイプくはへた儘ろくに挨拶もせずほか客車はこへ移つて往つた。
自分は敷島しきしまくはへて、まだ仏頂面ぶつちやうづらをしてゐたが、やはりこの絵を見てゐると、落着きのある、ほがらかい心もちになつて来た。
京都日記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
身を投げて程も無いか、花がけにした鹿の子のきれも、沙魚はぜの口へくはえ去られないで、ほどけてうなじから頬の処へ、血が流れたようにベッとりとついている。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すると、食意地くひいぢの張つた鴉が一羽下りて来て、胡桃が欲しさに、瓶の栓をくちばしくはへて力一杯引張つた。胡桃の栓がすぽりと抜けると、弾機仕掛の蛇がぬつと鎌首を出した。
番頭のやつはてれ隠しに、若え者を叱りながら、そこそこ帳場の格子かうしの中へ這入ると、仔細しさいらしくくはふでで算盤をぱちぱちやり出しやがつた。
鼠小僧次郎吉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
小刀こがたなふくろをさめて、頤杖あごづゑしてつて老爺ぢいは、雪枝ゆきえ作品さくひんえて煙管きせるくはえた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
暫くすると、仲間は各自てんでに酔ひどれをくはへて巣のなかへ引張り込み、丁寧に寝かしてやつた。よひめると、くだんの蟻はこそ/\這ひ出して直ぐいつもの仕事にかゝつたさうだ。
そこにやはり自動車が一台、僕のタクシイの前を走つてゐた。僕は巻煙草をくはへながら、勿論その車に気もとめなかつた。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
……あはれな犠牲いけにえ婦人をんなも、たゞまをしたばかりでは、をつとこゝろうたがひませう……いましるしを、とふてな、いろせたが、可愛かあいくちびるうごかすと、白歯しらはくはえたものがある。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)