てつ)” の例文
旧字:
モーターの、うなるおとがきこえました。たくさんの職工しょっこうが、はたらいていました。てつてつおとが、周囲しゅういひびきかえっていました。
僕が大きくなるまで (新字新仮名) / 小川未明(著)
外に拙者と、お腰元が一人、おまつといってこれは十八、仲働きが二十六のおみやという忠義者、下女が二人、それにてつという仲間ちゅうげんがいる。
ほとんど立続たてつづけに口小言くちこごとをいいながら、胡坐あぐらうえにかけたふる浅黄あさぎのきれをはずすと、火口箱ほぐちばこせて、てつ長煙管ながきせるをぐつとくわえた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
大杉明神は常陸坊海尊ひたちぼうかいそんを祀るともいう。俗に天狗てんぐの荒神様。其附近に名代の魔者がいた。生縄いきなわのおてつという女侠客がそれなのだ。
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
そこで、大男はそっとおきあがって、大きなてつぼうをひっつかみ、それで仕立屋さんのねている寝床をひとつ、ガンとなぐりつけました。
頼光らいこうむすめなぐさめて、おしえられたとおり行きますと、なるほど大きないかめしいてつもんこうにえて、黒鬼くろおに赤鬼あかおにばんをしていました。
大江山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
娘加代 てつちやん、もう起しといた方がよかない? しか、急に出て行くやうなことがあると、晩御飯も食べないぢや、おなかかすわよ。
おもざし父ににて、赤味あかみがちなおまさは、かいがいしきたすきすがたにでてきて、いろりに火をうつす。てつびんを自在じざいにかける。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
わたしが今立っている酒屋のところにはおてつ牡丹餅ぼたもちの店があった。そこらには茶畑もあった。草原にはところどころに小さい水が流れていた。
火に追われて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
座頭ざとうまをすやう、吾等われら去年いぬるとしおとにきゝし信濃しなのなる木曾きそ掛橋かけはしとほまをすに、橋杭はしぐひまをさず、たによりたに掛渡かけわたしのてつくさりにてつな申候まをしさふらふ
怪力 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
貞固は先ず優善が改悛かいしゅんの状を見届けて、しかのちに入塾せしめるといって、優善と妻てつとを自邸に引き取り、二階にすまわせた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
あたまてつの様におもかつた。代助は強いても仕舞しまひ迄読み通さなければならないと考へた。総身さうしんが名状しがたい圧迫を受けて、わきしたからあせが流れた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ひどく弱つているやうだなと見知りの台屋に咎められしほど成しが、父親はお辞義のてつとて目上の人につむりをあげた事なく廓内なかの旦那は言はずともの事
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
きよし君、一郎君、りょうちゃん、てつちゃん、ブウちゃんなどが集まってきて、このおもしろくない世の中をなげいた。
骸骨館 (新字新仮名) / 海野十三(著)
とばかり、てつも切るような一刀、一念のめくらとなってから、それは一そうすさまじいするどさをもって、まえなる人のあり場をねらって、りおろした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
案内するひとの手は、まるでてつのように、かたくつめたく、そして大またに、ずしりずしりと歩いていきます。
壇ノ浦の鬼火 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
きたからつめたいかぜて、ひゆうとり、はんのはほんたうにくだけたてつかゞみのやうにかゞやき、かちんかちんとがすれあつておとをたてたやうにさへおもはれ
鹿踊りのはじまり (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
おかあさんは、てつ金具かなぐのついた、カシワの木でできている、大きなおもたい長持を持っていたのですが、これはおかあさんのほかは、だれも開けてはいけないことになっていました。
女の子は、太った執事しつじのあとを追った。おじさんは、おかしなことをしていた。見ると、一本のてつぼうが、執事があるく前に浮かんで、ふらふらとゆれているではないか。女の子は、びっくりした。
てつを打つ音遠暴風とほあらしのごとくにてこよひまた聞く夜のふくるまで
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
ひややかなるてつ寝台ねだいうへゑられし木造きづくりはこ
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
なつかしきかな、狭く、つめたきてつの家よ
妄動 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
けれど、わたし仕事しごとはけっして、最後さいごに、あのてつなかたからのように、かたちもなく、むだとなってしまうことは、ないであろうとしんじます。
汽船の中の父と子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それではこの川をまたずんずんのぼっておいでになりますと、てつもんがあって、もん両脇りょうわき黒鬼くろおに赤鬼あかおにばんをしています。
大江山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
優善の移った緑町の家は、渾名あだなはと医者と呼ばれた町医佐久間さくま某の故宅である。優善は妻てつを家に迎え取り、下女げじょ一人いちにんを雇って三人暮しになった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そしてそのかなしみのあまり、じぶんのむねがはれつしてしまわないようにと、てつを三本、胸にはめたのでした。
菅沼のいへ谷中やなか清水町しみづちようで、にはのない代りに、椽側へると、上野のもりふるすぎたかく見えた。それがまた、さびてつの様に、すこぶあやしいいろをしてゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
婦人をんな炉縁ろぶち行燈あんどう引附ひきつけ、俯向うつむいてなべしたいぶしてたが振仰ふりあふぎ、てつ火箸ひばしつたひざいて
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その白いいわになったところの入口に、〔プリオシン海岸かいがん〕という、瀬戸物せともののつるつるした標札ひょうさつが立って、向こうのなぎさには、ところどころ、ほそてつ欄干らんかんえられ
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
有名なおてつ牡丹餅ぼたもちの店は、わたしの町内の角に存していたが、今は万屋よろずやという酒舗さかやになっている。
思い出草 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
さてその後からは、てつのおりに入ったライオン、とらくまなどの猛獣もうじゅうが車に乗せられて来ます。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
でも、だんだん目がなれてきますと、一そうの小舟こぶねがアシのきわにいるのが見えました。そして、そのせんびにとりつけたてつぼうの上で、大きなたいまつがさかんにえているのでした。
馬騰ばとうは、彼の真意を聞き、また帝の密詔を拝するに及んで、男泣きに慟哭どうこくした。彼は、遠い境外の西蕃せいばんからも、西涼の猛将軍と恐れられていたが、涙もろく、そして義胆ぎたんてつのごとき武人だった。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
対岸たいがん造船所ざうせんじよより聞こえくるてつひびきとほあらしのごとし
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
にほひの空のいづこにかるるてつ
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
たたかう「てつ水母くらげ
海底大陸 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「ああ、もうかんでいい。わたしが、ぼうやをつれていってやる。」と、おじいさんは、子供こどもいて、そこのてつさくからはなれました。
雪の上のおじいさん (新字新仮名) / 小川未明(著)
さるかおっかかれたといっては、おいおいして、てつぼうなにもほうりして、降参こうさんしてしまいました。
桃太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「あいよ。」とおかあさんがって、はこなかから美麗きれい林檎りんごして、おんなにやりました。そのはこにはおおきな、おもふた頑固がんこてつじょうが、ついていました。
こけいちめんに、きりがぽしゃぽしゃって、あり歩哨ほしょうてつ帽子ぼうしのひさしの下から、するどいひとみであたりをにらみ、青く大きな羊歯しだの森の前をあちこち行ったり来たりしています。
ありときのこ (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
相手に眼をつけるまもあらばこそ、ぶーんッとうなってくるてつ禅杖ぜんじょう
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところがそのとき、ちっぽけな小僧こぞうがとびだしてきて、とがったてつみたいなもので、おれの足をつきさしやがった。あんまりいたかったんで、おもわず足をすべらして、川の中へ落っこっちまったんだ。
てつのにほひと、くされゆく石鹸しやぼんのしぶき。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
木立こだちおとててれますし、うみみずは、いつのまにか、うごかなくとぎすましたてつのようにこおってしまったのであります。
黒い人と赤いそり (新字新仮名) / 小川未明(著)
グレーテルはすばやく、てつの戸をバタンとしめて、かけがねをかけました。ううっ、と、ばあさんはほえだしました。それはそれはものすごいうなり声でした。
せいたかさが五しゃくすんむねあつさが一しゃくすん巨人おおびとのような大男おおおとこでございました。そして熊鷹くまたかのようなこわい目をして、てつはりえたようなひげがいっぱいかおえていました。
田村将軍 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「さあ、わからないねえ、地図にもないんだもの。てつふねがおいてあるねえ」
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
嫡子ちゃくしちょうといい次男をきゅうといい、三男をてつという。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ぎん真昼まひるに、色重きてつのにほひぞ
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
かんしゃくまぎれにてつぼうげて、そとあばしてやろうと、何度なんどとなく、そのおりの鉄棒てつぼうびついたかしれません。
白いくま (新字新仮名) / 小川未明(著)