かき)” の例文
衣服きものを剥がれたので痩肱やせひじこぶを立てているかきこずえには冷笑あざわらい顔の月が掛かり、青白くえわたッた地面には小枝さえだの影が破隙われめを作る。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
しかしそれよりも私の目をひいたのは、丘の上の畑の向こう側にかきの大木が幾本となく並んでその葉が一面に紅葉しているのであった。
写生紀行 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それにほかのおうちかきへはのぼらうとおもつてものぼれませんでしたが、自分じぶんのおうちかきばかりはわるかほもせずにのぼらせてれました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
そのなかで八津の死はいちばんみんなを悲しませた。急性ちょうカタルだった。家のものにだまって、八津は青いかきの実をたべたのである。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
それはかのかき木金助ききんすけ紙鳶たこに乗って、名古屋の城の金の鯱鉾しゃちほこを盗むという事実を仕組んだもので、鬼太郎君は序幕と三幕目を書いた。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
プーンと醗酵はっこうしている花梨かりんれたかきは岩のあいだに落ちて、あまいさけになっている。鳥もえ、栗鼠りすものめ、はちもはこべと——。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このくらゐのかきの木に登れないやうな、意気地いくぢのない大人なんかに、イザといふ時に何が出来よう、といふやうな気がして来るのでした。
かぶと虫 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
……玄關番げんくわんばんからわたしには幼馴染をさななじみつてもいゝかきした飛石とびいしづたひに、うしろきに、そではそのまゝ、蓑蟲みのむしみのおもひがしたのであつた。
湯どうふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
文字は我々を征服する代りに、我々のために征服されました。私が昔知っていた土人に、かきもと人麻呂ひとまろと云う詩人があります。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
子ども遊びにかきなど切り刻みて、呼んだり呼ばれたりすることなりとあるが、これは呼ばれごとでなく、うばごとの方から出ているかと思う。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「うん、それはいいところだとも。このとおりけしきはいいし、くりかきはたくさんあるし、こんないいところほかにはあるまい。」
くらげのお使い (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
白髪を、根の太い茶筅ちゃせんにゆい、かきいろの十とくを着て、厚いしとねのうえにチョコナンとすわったところは、さながら、猿芝居の御隠居のようだ。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
のまだちないうちからにはのぞいてつきしろく、やがてそれがやゝ黄色味きいろみびてにはしげつたかきくりにほつかりと陰翳かげげた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「あ、あぶない」牛丸少年は、身をひるがえすと、かたわらの大きなかきの木に、するするとのぼった。牛丸は、木登りが得意中の得意だった。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
つかまへてお濱さんへの土産みやげにする気で、縁側えんがはづたひに書院へ足音を忍ばせて行つたが、戸袋とぶくろに手を掛けてかきの樹を見上げた途端はずみに蝉は逃げた。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
鉄釉てつぐすり一色で模様も何もありませんが、この釉薬くすりが火加減で「天目てんもく」ともなり「あめ」ともなり「かき」ともなり時としては「青磁せいじ」ともなります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
そして私たちは、できるだけそのかきを見ていることにしました。下におちるか、どんな鳥にくわれるか、それとも……。
山の別荘の少年 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
赤いかきの皮が細く綺麗につながってゆく。エメラルドは指にあおく、思出は彼女の頭の中をくるくると赤く、まざまざと巻返えされていると見える。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
なかくと、悪いこととは知りながら、よそのかきの実をもいだり、よその畑の芋をほつたりしてお腹をみたした。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
彼は全身にしぶに似たかきに似た茶に似た色の法衣ころもまとっていた。足も手も見えなかった。ただくびから上が見えた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「おじいさん、どうぞかきをむいてやってください。もうくらくなったからね、おじいさんのそばにいるのだよ」
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
百姓は蜀麦とうもころしきびのようなものが常食であり、かきの皮の干したのなぞがせいぜい子供のよろこぶ菓子で、今はそんな時勢から見ると、これでもよほど有難い方だと
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
わたしの村は「かきの木の村」でした。家といふ家のまはりには、大きな小さな柿の木が、立ち並んでゐました。
(新字旧仮名) / 土田耕平(著)
玄関に出て見ると、そこには叔父おじが、えりのまっ黒に汗じんだ白い飛白かすりを薄寒そうに着て、白痴の子をひざの上に乗せながら、朝っぱらからかきをむいてあてがっていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
少し極端にいえば、外国にかきに種が六つあるという論文が出ると、なしには八つあるという論文が日本で一、二年後に出るような程度のことがまだかなり多いのである。
語呂の論理 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
お父さんは、そのはじのところに、かきの木が屋根にくつゝいて立つてゐるのを見つけた。
賢い秀雄さんの話 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
弁士と同じく僧形そうぎょうで、頭にはかき色の網代笠あじろがさをいただき、太い長杖をついてゐる。後姿なので人相も年の頃も分らないが、声から察するところ、まづ五十がらみの年配でもあらうか。
ハビアン説法 (新字旧仮名) / 神西清(著)
かれはまた柘榴ざくろ柚子ゆず紅梅こうばい、……ずいぶん枯れてしまいましたね、かしわあんずかき、いたや、なぞはまるで見ちがえるように、枝にもこぶがついて大した木にふとっていますな、時時
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
はも河豚ふぐ赤魚あかお、つばす、牡蠣かき、生うに、比目魚ひらめの縁側、赤貝のわたくじらの赤身、等々を始め、椎茸しいたけ松茸まつたけたけのこかきなどに迄及んだが、まぐろは虐待して余り用いず、小鰭こはだ、はしら、青柳あおやぎ
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
あきなひ仕つり候と申立るを大岡殿季節の商賣と云ふは何をうりて渡世に致候やと申されしかば夏はうり西瓜すゐくわもゝるゐあき梨子なしかきの類など商賣仕つると申せども自然おのづから言語ごんごにごるゆゑイヤ其方家内を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
若者一個庭前にて何事をかなしつつあるを見る。こいし多きみちに沿いたる井戸のかたわらに少女おとめあり。水枯れし小川の岸に幾株の老梅並びてり、かきの実、星のごとくこの梅樹うめきわより現わる。
小春 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
この道筋には古風な民家が散在し、その破れた築地ついじのあいだより、秋の光りをあびてかきの実の赤く熟しているのがながめられた。くすんだ黄色い壁と柿のくれないとがよく調和して美しい。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
これは肥後熊本の人で、店は道具商で、果物くだものの標本を作っていました。枇杷びわ、桃、かきなどを張り子で拵え、それに実物そっくりの彩色さいしきをしたものでちょっと盛り籠に入れて置き物などにもなる。
素襖すあをかきのへたながら、大刀たちの切字や手爾遠波てにをはを、正して点をかけ烏帽子ゑぼし、悪くそしらば片つはし、棒を背負しよつた挙句の果、此世の名残執筆の荒事、筆のそつ首引つこ抜き、すゞりの海へはふり込むと
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
しもころになりますとかきや、蝋燭ろうそくろうるはぜのや、なゝかまどといふももみぢにおとらず、うつくしく紅葉もみぢします。またあかくなるばかりでなく、黄色きいろかはるのもすくなくありません。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
かきナマス 冬 第二百八十五 柿料理
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
かき上枝ほづえみのこるうま木醂きざはし
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
水飲むが如くかき食ふ酔のあと
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
あのかきとつてたべよもの。
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
桜のもみぢ、かきもみぢ
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
かきの葉
貧しき信徒 (新字新仮名) / 八木重吉(著)
とうさんはえだからえだをつたつてのぼつて、ときにゆすつたりしてもかきおこりもしないのみか、『もつとあそんでおいで。もつとあそんでおいで。』
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
青磁の香炉に赤楽あからくの香合のモンタージュもちょっと美しいものだと思う。秋の空を背景としたかきもみじを見るような感じがする。
青磁のモンタージュ (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
水無瀬みなせの離宮の風流の御遊びがいと盛んであった際には、古来の歌道のかきもとに対立して、新たにくりもとというたわれ歌の一団が生まれた。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
どこもかしこも金銀きんぎんやさんごでできていて、おにわには一年中いちねんじゅうくりかきやいろいろの果物くだものが、りきれないほどなっていますよ。
くらげのお使い (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
かきのことがはっと頭にうかんで、私はかけだそうとしました。その私の肩を、誰かがとらえてゆすぶりました……。
山の別荘の少年 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
出額でこの役者の子だとあとできいたのだが、この子はねぎのような青白さで、あんぽんたんが覚えているのは、薄青い若草色の羽織と、薄かき色の着もので
上諏訪かみすはかれ下車げしやしたときまで、べつ何事なにごともなく、くさにもにもらず、さけのみとえて、はなさきあかいのが、のまゝかきにもらないのをむしあやしむ。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あるとき猿廻さるまわしの背中せなかわれているさるに、かきをくれてやったら、一口ひとくちもたべずにべたにすててしまいました。みんながじぶんをきらっていたのです。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
広い屋敷内はひっそりとして、ただ喬之助の弟こと二郎が、裏庭で、かき立樹たちきを相手に、しきりに、やッ! とウ——剣術の稽古をしている音が聞えるだけ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)