或日あるひ)” の例文
あるところに、センイチといふ猟師がゐました。たいへん上手な猟師でしたが、或日あるひ、どうしたことか、何の獲物もとれませんでした。
悪魔の宝 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
或日あるひ、れいのとほり、仕度をして、ぶらりとうちを出て、どことはなしに、やつて行きますと、とうとう木精こだまの国に来てしまひました。
虹猫と木精 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
伴藏の女房おみねは込上こみあが悋気りんきの角も奉公人の手前にめんじ我慢はしていましたが、或日あるひのこと馬をいて店先を通る馬子を見付け
一箇月程たった或日あるひの午後。福井夜具をたたみ毛布を窓に干している。松田はシャツのボタンをつけようとして針のメドに糸の通らぬてい
或日あるひ正寧がたまたまこの事を聞き知って、「辞安は足はなくても、腹が二人前ににんまえあるぞ」といって、女中を戒めさせたということである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
或日あるひ、大根の所へ 手紙が参りました。その時、大根は用事があつて外出してゐましたので ごぼうが代りに受け取りました。
ゴボウ君と大根君 (新字旧仮名) / 村山籌子(著)
或日あるひ宗右衛門は生来の我慢を折つて、泰松寺の老師の膝下にひざまづいたのであつた。彼は突然、信仰心を起したといふわけではなかつた。
老主の一時期 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
或日あるひ郵便局長いうびんきよくちやうミハイル、アウエリヤヌヰチは、中食後ちゆうじきごにアンドレイ、エヒミチのところ訪問はうもんした。アンドレイ、エヒミチは猶且やはりれい長椅子ながいすうへ
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
露国に止まることを勧むれから或日あるひの事で、その接待委員の一人が私の処に来て、一寸ちょいとこちらに来てれろといって、一間ひとまに私を連れていった。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
時平或日あるひ国経くにつねもとえんし、酔興すゐきやうにまぎらして夫人ふじんもらはんといひしを、国経もゑひたれば戯言たはぶれごととおもひてゆるしけり。
或日あるひ佐々木与次郎に逢つて其話をすると、与次郎は四十時間と聞いて、眼を丸くして、「馬鹿々々」と云つたが
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「おいおい、きょうもまた食わないでもってったよ。一つあとをつけてって見よう。来な。」と、肉屋は或日あるひ店のものの一人をつれて、ついていきました。
やどなし犬 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
或日あるひのことでした、僕が平時いつものように庭へ出て松の根に腰をかけ茫然ぼんやりして居ると、何時いつの間にか父がそばに来て
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
こまつたものだとはおもひながらも、ひとつは習慣しふくわん惰力だりよくでとう/\五個月間かげつかんやりつゞけた。さうすると、どうだらう。或日あるひ先方せんぱうやつ突然とつぜんぼくうちにやつてて……
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
昭和×年も押詰おしつまった十二月の或日あるひ、仁科少佐は参諜本部の秘密会議室に呼ばれました。秘密室には参諜総長以下各部長各課長等おもだった人達がズラリと並んでいました。
計略二重戦:少年密偵 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
或日あるひの事、与兵衛は川へお魚をりに行つたが、どうしたものかその日は不思議にもたいてい一つのふちで大きなあめのうをが必ず一つづつ釣れるので、もう一つ、もう一つと思つて
山さち川さち (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
たのしみ居たりしに或日あるひ表裏おもてうら門口かどぐちより上意々々じやうい/\とのこゑきこゆるにぞ何事やらんと道十郎はまくら
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
或日あるひ日向守は、腰巾着のような三人侍のうち、彫物の左京を御前に召し出しました。
或日あるひ昼餉ひるげを終えると親はあごを撫でながら剃刀を取り出した。吉は湯を呑んでいた。
笑われた子 (新字新仮名) / 横光利一(著)
としるべきもの流石さすが古兵ふるつわもの斥候ものみ虚実の見所誤らず畢竟ひっきょう手に仕業しわざなければこそ余計な心が働きてくるしむ者なるべしと考えつき、或日あるひ珠運に向って、此日本一果報男め、聞玉ききたまえ我昨夜の夢に
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
或日あるひ、コロボックンクルはいろいろな御馳走ごちそうを用意して、それを成るべく困っている、可哀かわいそうな人に分けてやろうと思いまして、例の蕗の葉の下から、隠れ蓑で体を包んで出て来ました。
蕗の下の神様 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
秋晴あきばれ或日あるひ、裏庭の茅葺かやぶき小屋の風呂のひさしへ、向うへ桜山さくらやまを見せて掛けて置くと、ひる少し前の、いい天気で、しずかな折から、雀が一羽、……ちょうど目白鳥の上の廂合ひあわい樋竹といだけの中へすぽりと入って
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
或日あるひの暮方の事である。一人の下人が、羅生門らしやうもんの下で雨やみを待つてゐた。
羅生門 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ところ或日あるひ石橋いしばしが来て、たゞかうしてるのもつまらんから、練習のために雑誌をこしらへては奈何どうかとふのです、いづれも下地したぢすきなりで同意どういをした、ついては会員組織くわいゝんそしきにして同志どうしの文章をつのらうと議決ぎけつして
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
さて、九段坂以来一ヶ月たった或日あるひである。十一月の末だ。青木愛之助は上京して、二日目に、買物があって、ある百貨店へ出掛けた。百貨店はクリスマス用品の売出しで、非常に賑わっていた。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
慶応けいおう初年しょねん、私の叔父おじ富津ふっつ台場だいばを固めてゐた、で、或日あるひの事。
雨夜の怪談 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
或日あるひたみいてればみぎゆびにあり/\と耀かヾやくものあり。
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
老いてゆく炬燵こたつにありし或日あるひのこと
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
友はみな或日あるひ四方しはうに散りきぬ
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
たましひがふと触れ合った或日あるひです
鶴彬全川柳 (新字旧仮名) / 鶴彬(著)
独身で暮すやもおに似ず、ごく内気でございますから、外出そとでも致さず閉籠とじこもり、鬱々うつ/\書見しょけんのみして居りますところへ、或日あるひ志丈が尋ねて参り
また或日あるひ食事の時に私が何か話のついでに、全体今の幕府の気が知れない、攘夷鎖港とは何の趣意しゅいだ、これめに品川の台場の増築とは何のたわぶれだ
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
然るにその青魚の未醤煮が或日あるひ上条の晩飯の膳にのぼった。いつも膳が出ると直ぐに箸を取る僕が躊躇ちゅうちょしているので、女中が僕の顔を見て云った。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
或日あるひ郵便局長ゆうびんきょくちょうミハイル、アウエリヤヌイチは、中食後ちゅうじきごにアンドレイ、エヒミチのところ訪問ほうもんした。アンドレイ、エヒミチはやはりれい長椅子ながいすうえ
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
時平或日あるひ国経くにつねもとえんし、酔興すゐきやうにまぎらして夫人ふじんもらはんといひしを、国経もゑひたれば戯言たはぶれごととおもひてゆるしけり。
或日あるひ幸坊かうばうが学校の当番で、おそくうちへかへりました。すると、お母さんが、困つた顔をしてかう言ひました。
幸坊の猫と鶏 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
そう云う気にならせまいと、わたしは何不自由もしない顔をして、丁度夏の事でしたから、或日あるひ明石縮あかしちぢみ一反、或日は香水を買ってやった事もあります。
あぢさゐ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
或日あるひ學校がくかう生徒せいと製作物せいさくぶつ展覽會てんらんくわいひらかれた。その出品しゆつぴんおも習字しふじ※畫づぐわ女子ぢよし仕立物したてものとうで、生徒せいと父兄姉妹ふけいしまいあさからぞろ/\とおしかける。りどりの評判ひやうばん
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
或日あるひ秋の日暮れがたであつた。宗右衛門は、すつかりそれに見惚みとれてたちどまつてゐた。その女菩薩が妙に宗右衛門の性慾を刺戟しげきしたのであつた。女菩薩の画像は等身大であつた。
老主の一時期 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
或日あるひギンが、湖水のそばへ牛をつれていって、草を食べさせていますと、じきそばの水の中に、若い女の人が一人、ふうわりと立って、きんくしで、しずかに髪をすいていました。
湖水の女 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
或日あるひ椅子いすに腰かけて新聞をよんでゐましたが、眠くなつて寝こんでしまひました。
お鼻をかじられたお猫さん (新字旧仮名) / 村山籌子(著)
昔、紀州きしうの山奥に、与兵衛よへゑといふ正直な猟夫かりうどがありました。或日あるひの事いつものやうに鉄砲かたげて山を奥へ奥へと入つて行きましたがどうしたものか、其日そのひに限つてうさぎぴきにも出会ひませんでした。
山さち川さち (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
それおなじに日本国中にほんこくちゆう何処どこともなう、或年あるとし或月あるつき或日あるひに、ひと行逢ゆきあはす、やまにもにも、みづにもにも、くさにもいしにも、はしにもいへにも、まへからさだまるうんがあつて、はなならば、はなてふならば、てふ
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
のがれさせたく思ひ此上は家老方へ御なげき申より外なしと豫々かね/″\心掛居ける中或日あるひ本多家の長臣ちやうしん都築外記つゞきげき中村主計かずへ用人笠原かさはら常右衞門の三人が相良さがら用達ようたし町人織田おだ七兵衞が下淀川しもよどがは村の下屋敷しもやしきへ參られ終日しゆうじつ饗應きやうおうになる由を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
私は一切いっさい関係せず、ただひとり世の中を眺めて居るうちに、段々時勢が切迫して来て、或日あるひ三郎助さぶろうすけう人が私の処に来て、ドウして引込ひっこんで居るか。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ところが或日あるひお千代が筋向すじむかい格子戸造こうしどづくりの貸家に引越して来た主人らしい男と、横町を隔てて両方の二階から顔を見合せると、その男には既に二、三回
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ちつとも行衛ゆくゑが分りませんで弱つてをりますところへ、或日あるひ鶉がひよつこりとお庭のに飛んでまゐりました。
孝行鶉の話 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
はるになつてゆき次第しだいけた或日あるひ墓場はかばそばがけあたりに、腐爛ふらんした二つの死骸しがい見付みつかつた。れは老婆らうばと、をとことで、故殺こさつ形跡けいせきさへるのであつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
段々しりが暖まると増長して、もとより好きな酒だから幾らめろといってもそとで飲みます。すると或日あるひの事で、ずぶろくに酔って帰ると、惣次郎はおりません。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
この以前いぜんぼく此處こゝときことである、或日あるひ午後ひるすぎぼく溪流たにがは下流しも香魚釣あゆつりつてたとおもたまへ。
都の友へ、B生より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)