ぜん)” の例文
わしはその前刻さつきからなんとなくこの婦人をんな畏敬ゐけいねんしやうじてぜんあくか、みち命令めいれいされるやうに心得こゝろえたから、いはるゝままに草履ざうり穿いた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ぜんニョムさんは、息子達夫婦が、肥料を馬の背につけて野良へ出ていってしまう間、尻骨の痛い寝床の中で、眼をつぶって我慢していた。
麦の芽 (新字新仮名) / 徳永直(著)
ふとくきが、あたりまえなら、ほそくきよりつよくて、はなしてしまうのですけれど、ていると、ぜんちゃんのったほそいのがつよくて
草原の夢 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「これはあくの火の神アーリマンの術ではなくて、ぜんの火の神オルムーズドの煙だから、役に立たない不用な物しか煙にはなせないのだ」
手品師 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
人はぜんあいし道を求めないでいられない。それが人の性質せいしつだ。これをおまえたちはかたくおぼえてあとでもけっしてわすれてはいけない。
大佐閣下たいさかつか鐵車てつしや見事みごと出來できましたれば、ぜんいそげでいまからぐと紀念塔きねんたふてに出發しゆつぱつしては如何どうでせう、すると晴々はれ/″\しますから。
「いいや。悪事千里を走る。ぜんなんぞ門をでざらんやです。そこで今回ご三男様なんさまのお相手にきみのところの末のお子さんをご所望しょもうなさるのです」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「さすがのてまえも、今日のぜんつくつくしたご馳走には、もう……また口ぐせ……いや十分にいただいて、これ以上は入りません。そろそろ、おいとまを」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
此町の多く紳士貴婦人の粧飾そうしょく品をひさげる事はかねてより知る所なれど、心に思いを包みて見渡すときは又一入ひとしお立派にしていずれの窓に飾れる品も、実にぜんつくつく
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
人はめいめい固有のテンペラメントを持って居るから、そう一概にも云えないだろうが、兎に角、「ぜん」とか「しん」とか云うものには、人間の魂を酔わせるだけの力がない。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しからば善美ぜんびとはなんであるかと反問はんもんするであらう。それしよくくわんしてべたところ同工異曲どうこうゐきよくで、建築けんちくてはめてへば、ぜんとは科學的條件くわがくてきでうけん具足ぐそくとは藝術的條件げいじゆつてきでうけん具足ぐそくである。
建築の本義 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
近頃ちかごろ春信はるのぶで一そう評判ひょうばんった笠森かさもりおせんを仕組しくんで、一ばんてさせようと、松江しょうこう春信はるのぶ懇意こんいなのをさいわい、ぜんいそげと、早速さっそくきのうここへたずねさせての、きょうであった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
なん因果いんがで」とか、「前世ぜんせの約束」とかいう句のうちには、すでに自分の好むものは悪であり、おのれのきらうものこそぜんである、またその順序を顛倒てんとうして善なるものを自分は嫌い
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「わたしはしんぜんについてかいています。けれどだれもそんなことに耳をかたむけてはくれないので、わたしはまったく絶望ぜつぼうしていますよ。なにしろこれはわたしにはだいじなことなので。」
あの芝口のぜんという袋物屋へあつらえておこしらえに成った頭巾でございます、御覧なさい、此処にいんが押して有るのは見聞けんもんの時に大勢が同じような頭巾だから解らなくなるといけないと云うので
さて管伴ばんたう忠兵衞は歸ると其儘今日の始末しまつおちなく話したりけるに主個あるじ夫婦ふうふはほゝ容貌きりやうばかりか心操こゝろばえも又其素生すじやうすぐれたる女で有らば言分なし追て𫥇人なかうどを立表向つかはすなれどぜんいそげ且は一子せがれにも安心を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
所々しょしょぜんいわく低書ていしょした註がある。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
しんぜんと、あいしう
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
ぜんちゃん、きみなら、とれるよ。地主じぬしさんの屋敷やしきのすぎのに、からすがつくったのだ。したからも、よくえる。いってろうや。」
高い木と子供の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
物を煙にするこの術は、ぜんの火の神オルムーズドからさずかったのだから、すべて生きてるものや役に立つものを決して煙にしようとしてはいけない。
手品師 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
そのぜんあくたるをわず、さきに神文のやくをやぶれば天下の武芸者ぶげいしゃにそのしんうしなわなければならない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこで、ぜんいそげのたとえをそのまま、あしたのあさ、ここへおせんにてもらおうから、太夫たゆうももう一、ここまでてもらいたいと、約束事やくそくごと出来できたんだが、——のうおせん。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ぜんりつゝもそれおこなふことが出來できない、ほつしてもそれあらはすことが出來できない、やむ缺點けつてんだらけのいへつくつて、そのなか不愉快ふゆくわいしのんで生活せいくわつしてるのが大多數だいたすうであらうとおもふ。
建築の本義 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
息子むすこせいぜんにして、鬼神きじん横道わうだうなしといへども、二合半こなからかたむけると殊勝しゆしようでなくる。
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
すべて人はいこと、正しいことをこのむ。ぜん正義せいぎとのためならば命をてる人も多い。おまえたちはいままでにそう云う人たちの話を沢山たくさんきいて来た。けっしてこれをわすれてはいけない。
人間が死んで地獄ぢごくくとか、ぜんしたるもの極楽ごくらく昇天しようてんするとか、宗教しうけうはうでは天国てんごくく、悪国あくこくおちるとふ、何方どちらが本当だか円朝ゑんてうにはわかりませんが、地獄ぢごくからどうせ郵便のとゞいたためしもなし
明治の地獄 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
天道てんどうぜんさいわいあくわざわいす。きみの忠誠は大丈夫天に通じています」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ば見た事もなしと云しが扨々俗家に云ぬす猛々たけ/″\しとは汝が事なり今更かゝる惡人にかはことばはなけれども釋迦しやかは又三界の森羅しんらしやう捨給すてたまはず汝の如き大惡人ぜん道にみちびき度思ふがゆゑ及ばずながら出家につらなる大源が申處を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
はしって、わたしは、ぜんちゃんのいるところへもどりました。しょうちゃんも、幾本いくほんとなくにぎって、かたきうちをしようと、いさんでけてきました。
草原の夢 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それは手品師というよりもむしろ立派な坊さんで、ぜんの火の神オルムーズドに仕えてるマージでした。
手品師 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
それはたしかに、隣りのぜんコと、そのお母さんとにちがひありません。
十月の末 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
が、そのうちに、さほどでもない光圀みつくにの、ここへ来ても百姓然たる洒落しゃらくな風にようやく親しみ出すと、初めて君臣眉をひらいて、やがて、ぜんつくつくした饗応をもって、光圀を歓待しようとした。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
九助方へ遣せしは水呑村々役人共其方へ掛合てもらうけしと有が如何やと尋問らるゝに藤八ヘイ御意ぎよいの通り九助親類しんるゐ中周藏左次右衞門木祖きそ兵衞喜平次右衞門大八ぜん右衞門まご四郎八人の代として周藏喜平次の兩人媒妁なかうどとなり私しめひ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そして永久えいきゅうに、ただあいめぐみとしからない、太陽たいようひかりは、いつも、うららかで、あかるく、平和へいわで、ぜんちていました。
春はよみがえる (新字新仮名) / 小川未明(著)
それはたしかに、となりのぜんコと、そのお母さんとにちがいありません。
十月の末 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
だから一概に今を悲観するにはあたらないし、世相の「あく」だけを見て、見えない「ぜん」を否定するのは、過去において「善」のみを肯定して一切の「悪」を無視したのと同じ間違いの因になろう。
人間山水図巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いま、じきにえさをさがしに、おやがらすがどこかへいくから、そのあいだに、ぜんちゃん、のぼってっておいでよ。」と、子供こどもらは、すすめました。
高い木と子供の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「それはみんなぜんです。」
マグノリアの木 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ぼくは、こうちゃんの背中せなかに、ほくろのあるのをっているよ。いっしょに、かわおよいだときにたんだもの……。」と、ぜんちゃんがいいました。
草原の夢 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「けんかなんかして、つまらないなあ。」と、ぜんちゃんが、ポケットからボールをだして、そらかってげました。
赤土へくる子供たち (新字新仮名) / 小川未明(著)
ぜんちゃん、おっこちたら、んでしまうよ。」と、自分じぶんはできなかったので、しみに、善吉ぜんきちはやりるように、そんなことをいっていました。
高い木と子供の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ゆうちゃんのかくつよいなあ、たっちゃんの一つしかないべいがすっとんでしまった。」と、ぜんちゃんがわらいました。
赤土へくる子供たち (新字新仮名) / 小川未明(著)
いまぜんちゃんや、ゆうちゃんや、しんちゃんたちが、べいごまをするのに、ござがなくなってこまっているのをて、しまっておいたござを、おもしたのです。
赤土へくる子供たち (新字新仮名) / 小川未明(著)
「いいいしだなあ。」と、りょうちゃんも、とくちゃんも、ぜんちゃんも、ほめたのでした。
青い石とメダル (新字新仮名) / 小川未明(著)