可恐おそろし)” の例文
それといふのが、時節柄じせつがらあつさのため、可恐おそろしわるやまひ流行はやつて、さきとほつたつじなどといふむらは、から一めん石灰いしばひだらけぢやあるまいか。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さしも見えざりしおもての傷の可恐おそろしきまでにますます血をいだすに、宮は持たりしハンカチイフを与へてぬぐはしめつつ、心も心ならず様子をうかがひて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
 もう可恐おそろしくなりまして、夢中で駈出しましたものですから、御前様に、つい——あの、そして……御前様は、いつ御旅行さきから。
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
思へば、人の申候ほど死ぬる事は可恐おそろしきものに無御座候ござなくさふらふ。私は今が今此儘このままに息引取り候はば、何よりの仕合しあはせ存参ぞんじまゐらせ候。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
皆さんが実によく、種々いろいろ可恐おそろしいのを御存じです。……たしかにお聞きになったり、また現にったり見たりなすっておいでになります。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何か可恐おそろしい下心でもあつて、それもやつぱり慾徳渾成ずくで恩をせるのだらうと、内心ぢやどんなにも無気味に思つてゐられる事だらう、とそれも私は察してゐる。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
もう可恐おそろしく成りまして、夢中で駈出かけだしましたものですから、御前様ごぜんさまに、つい——あの、そして……御前様は、何時いつ御旅行さきから。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あの中がみんな謡本さ、可恐おそろしい。……その他一同、十重二十重とえはたえに取囲んで、ここを一つ、と節をつついて、浮かれて謡出すのさえあるんです。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何が可恐おそろしい? 何が不平だ? 何が苦しい? 己は、渠等かれらの検べるのより、お前がそこらをまごつく方がどのくらい迷惑か知れんのだ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「御免。」と掛けた声が可恐おそろしいかつい蛮音。薩摩訛さつまなまりに、あれえ、と云うと、飛上るやら、くるくる舞うやら、ぺたんと坐って動けぬやら。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自分じぶんいへで、とへば猶更なほさらです……いてある事柄ことがら事柄ことがらだけに、すぐにもえさしがつて、天井裏てんじやううらけさうで可恐おそろしい。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その返事を聞く手段であったと見えて、私は二晩、土間の上へ、可恐おそろしい高い屋根裏に釣った、駕籠かごの中へ入れてつるされたんです。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いけ強情な、意地の悪い、高慢なねえ、その癖しょなしょなして、どうでしょう、可恐おそろし裾長すそながで、……へ引摺るんでございましょうよ。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
段々だん/\むら遠退とほのいて、お天守てんしゆさびしくると、可怪あやし可恐おそろしこと間々まゝるで、あのふねものがいでくと、いま前様めえさまうたがはつせえたとほり……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
凄いとも、美しいとも、ゆかしいとも、さみしいとも、心細いとも、可恐おそろしいとも、また貴いとも、何とも形容が出来ないのです。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
茶碗ちやわん三葉みつば生煮なまにえらしいから、そつと片寄かたよせて、山葵わさびきもののやうに可恐おそろしがるのだから、われながらおがさめる。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と緒を手首に、可恐おそろしい顔は俯向うつむけに、ぶらりと膝に飜ったが、鉄で鋳たらしいそのおごそかさ。逞ましいおのこの手にもずしりとする。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
常さんの、三日ばかり学校を休んだのはさる事ながら、民也は、それが夢でなくとも、さまで可恐おそろしいとも可怪あやしいとも思わぬ。
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
つねさんの、三日みつかばかり學校がくかうやすんだのはことながら、民也たみやは、それがゆめでなくとも、まで可恐おそろしいとも可怪あやしいともおもはぬ。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
真蒼まっさお水底みなそこへ、黒くいて、底は知れず、目前めさき押被おっかぶさった大巌おおいわはらへ、ぴたりと船が吸寄すいよせられた。岸は可恐おそろしく水は深い。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……この大痘痕おおあばたばけものの顔が一つ天井から抜出ぬけだしたとなると、可恐おそろしさのために一里ひとさと滅びようと言ったありさまなんです。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いゝえ可厭いやかぜいたんです……そして、ばん可恐おそろしい、氣味きみわるばうさんに、忌々いま/\しいかねたゝかれましたから……」
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
白砂だから濡れても白い。……かささぎの橋とも、白瑪瑙しろめのうの欄干とも、風のすさまじく、真水と潮の戦う中に、夢見たような、——これは可恐おそろしい誘惑でした。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たゞ四角よつかどなるつじ夜警やけいのあたりに、ちら/\とえるのも、うられつゝも散殘ちりのこつた百日紅ひやくじつこう四五輪しごりんに、可恐おそろし夕立雲ゆふだちくもくづれかゝつたさまである。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
弓が上手で、のちにお城に、もののけがあって、国のかみ可恐おそろし変化へんげに悩まされた時、自から進んで出て、奥庭の大椿に向っていきなり矢をつがえた。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さくら山吹やまぶき寺内じないはちすはなころらない。そこでかはづき、時鳥ほとゝぎす度胸どきようもない。暗夜やみよ可恐おそろしく、月夜つきよものすごい。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
大掃除おほさうぢときに、床板ゆかいたはがすと、した水溜みづたまりつてて、あふれたのがちよろ/\と蜘蛛手くもではしつたのだから可恐おそろしい。やしき……いや座敷ざしききのこた。
くさびら (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
其の向うは、わにの泳ぐ、可恐おそろし大河おおかわよ。……水上みなかみ幾千里いくせんりだか分らない、天竺てんじくのね、流沙河りゅうさがわすえだとさ、河幅が三里の上、深さは何百尋なんびゃくひろか分りません。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
むかうは、わにおよぐ、可恐おそろし大河おほかはよ。……水上みなかみ幾千里いくせんりだかわからない、天竺てんぢくのね、流沙河りうさがはすゑだとさ、河幅かははゞが三うへふかさは何百尋なんびやくひろわかりません。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
打込む、それよ、カーンカーンと五寸釘……あの可恐おそろしい、藁の人形に五寸釘ちゅうは、はあ、その事でござりますかね。(下より神職の手に伸上のびあがる。)
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何が出ようとこの真昼間まっぴるま、気にはしないが、もの好きに、どんな可恐おそろしい事があったと聞くと、女給と顔を見合わせてね、旦那だんな、殿方には何でもないよ。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
巫女 (取次ぐ)お女中じょちゅう可恐おそろしい事はないぞな、はばかりおおや、かしこけれど、お言葉ぞな、あれへの、おんまえへの。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
眞個ほんとうつてください。唯今たゞいまひましたやうに、遺失おとすのを、なんだつてそんなに心配しんぱいします。たゞひとれるのが可恐おそろしいんでせう。……なにわたしかまはない。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
実は、これは心すべき事だつた。……船につくあやかしは、魔の影も、鬼火も、燃ゆるりんも、可恐おそろしき星の光も、皆、ものの尖端せんたんへ来てかかるのが例だと言ふから。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
が、別に可恐おそろしい化方はしませぬで。こんな月の良い晩には、庭で鉢叩はちたたきをして見せる。……時雨しぐれた夜さりは、天保銭てんぽうせん一つ使賃で、豆腐を買いにくと言う。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
有象無象うぞむぞうが現われて、そいつにかかずらうようになると、見た目は天人でも芸は餓鬼だよ。餓鬼も畜生も芸なら好い、が、奈落へ落ちさがるのが可恐おそろしいんだ。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
希代な事には、わざと胸に手を置いて寝て可恐おそろしい夢を平気で見ます。勿論夢と知りつつ慰みに試みるんです。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
第一可恐おそろしいのは、明神の拝殿のしとみうち、すぐの承塵なげしに、いつの昔に奉納したのか薙刀なぎなた一振ひとふりかかっている。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
懐中ものまで剥取はぎとられた上、親船おやぶね端舟はしけも、おので、ばら/\にくだかれて、帆綱ほづな帆柱ほばしら、離れた釘は、可忌いまわし禁厭まじない可恐おそろし呪詛のろいの用に、みんなられてしまつたんです。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
老人、唯今の心地を申さば、炎天にこうべさらし、可恐おそろしい雲を一方の空にて、果てしもない、この野原を、足をこがし、手を焼いて、徘徊さまよ歩行あるくと同然でござる。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
判然はっきり言え、判然、ちゃんと口上をもってかせ。うん、番頭に、番頭に、番頭に、何だ、金子かねを払え?……黙れ! 沙汰過ぎた青二才、)と可恐おそろしい顔になった。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
明治七年七月七日、大雨の降続いたその七日七晩めに、町のもう一つの大河が可恐おそろしい洪水した。七の数がかさなって、人死ひとじに夥多おびただしかった。伝説じみるが事実である。
絵本の春 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もつと引續ひきつゞいた可恐おそろしさから、うはずつてはるのだけれど、ねずみえうちかいのでないと、吹消ふきけしたやうにはけさうもないとふので、薄氣味うすきみわるがるのである。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
はじめは首だけ浮いたのですが、礫を避けるはずみに飛んで浮くのが見えた時は可恐おそろし兀斑はげまだらの大鼠で。
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
御殿ごてんづくりでかしづいた、が、姫君ひめぎみ可恐おそろしのみぎらひで、たゞぴきにも、よるひる悲鳴ひめいげる。かなしさに、別室べつしつねやつくつてふせいだけれども、ふせれない。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そこへ、あの連中は行ったんだろうか、沼には変った……何か、可恐おそろしい、可怪あやしい事でもあるのかね。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それが可恐おそろしさに、「女が来たら、俥が見えたら、」と、お滝といいます……あのお茶っぴいに、見張を頼んで、まさか、女郎、とはいえませんから、そこは附景気に
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「臆病だね、……鎧は君、可恐おそろしいものが出たって、あれを着て向ってけるんだぜ、向って、」
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
臆病おくびやうだね、……よろひきみ可恐おそろしいものがたつて、あれをむかつてけるんだぜ、むかつて、」
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
……當時たうじのもの可恐おそろしさは、われ乘漾のりたゞよそこから、火焔くわえんくかとうたがはれたほどである。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)