すま)” の例文
当時の僕のすまいは、東京駅、八重洲口やえすぐち附近の焼けビルを、アパート風に改造したその二階の一部屋で、終戦後はじめての冬の寒風は
女類 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「いえ、戯談ぜうだんなぞ申しません。鶏小舎とりこやの古いのを買ひまして、それにすまつてゐるのです。夏分なつぶんになりますと、羽虫はむしに困らされます。」
大「左様か、何うだ別に国に帰りたくもないかえ、御府内へすまって生涯果てたいという志なら、また其の様に目を懸けてやるがのう」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そのさきに、お坊さんたちのモダンなすまいがあり、その角の公孫樹いちょうの下に寂しい場所に似合わない公衆電話がポツンと立っている。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
其後そののち旗野は此家このやすまひつ。先住のしつが自ら其身そのみを封じたる一室は、不開室ととなへて、開くことを許さず、はた覗くことをも禁じたりけり。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それから最近には鎌倉かまくらすまつて横須賀よこすかの学校へかよふやうになつたから、東京以外の十二月にも親しむことが出来たといふわけだ。
一番気乗のする時 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「実は私ども母子おやこは、よんどころないことから、もはやこの国にすまつてをられなくなりましたのでございます。」と申しました。
孝行鶉の話 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
そして勝代が出て行った後で、まだ見たこともない女と自分とが、この二階にすまうことを、夢のように感じながら、ぐっすり睡眠ねむりおちいった。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
なんだか運命の威力というものも常にすまっている処でなくては、人の心の上に抑圧をたくましゅうする事が出来ないのではないかとさえ思われた。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
「へい、承知しょうちいたしました。ですが、その秀吉さまは、山崎の合戦かっせんののち、いったいどこのお城におすまいでござりましょうか」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
椿岳のすまっていた伝法院の隣地は取上げられて代地を下附されたが、代地が気に入らなくておれのいる所がなくなってしまったと苦情をいった。
貞固は先ず優善が改悛かいしゅんの状を見届けて、しかのちに入塾せしめるといって、優善と妻てつとを自邸に引き取り、二階にすまわせた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
其處そこには墓塲のくされたる如きにほひち/\て、新しき生命ある空氣は少しだになく、すまへる人また遠くこの世を隔てたるにはあらずやと疑はる。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
人類の住居ぢうきよには樣々さま/″\の種類有るものにて、我々われ/\日本人にほんじんは現今地盤上にてたる家にのみすまへど、古今を通じて何人種なにじんしゆも同樣と云ふ譯にはあらず。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
これよりさき帝国大学に在学しておった高田、天野諸氏は、当時橋場はしばすまったあずさ君を休日に訪問し、我が国の時事を談論することを常としていた。
東洋学人を懐う (新字新仮名) / 大隈重信(著)
村はずれに家を建ててすまうことになり、相当にお金を持って居たため、食うには困らず娘さんと二人で暮してりました。
狂女と犬 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
ねがはくは汝等の大望速かに遂げ、愛の滿ち/\且ついと廣く弘がる天汝等をすまはしむるにいたらんことを 六一—六三
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
妹のすまっている静な町には、どんな人が生活しているかと思うような、門構の大きな家や庭がそこにも此処ここにもあった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
なんでも深谷氏のこの奇妙な海への憧れは己れのすまう家の構えや地形のみではあきたらず、日常生活の服装から食事にまでも海の暮しをとりいれて
死の快走船 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
また国々より上京する者詠歌を乞ふの繁なるをいとひて、家居を定めず、遂に西加茂にしかもなる神光院じんこういんの茶所にすまへり、故に都人呼んで屋越やごしの蓮月といへり。
蓮月焼 (新字新仮名) / 服部之総(著)
覚えていられるものではありませんが、こいつは、ひどく変っているので、幸い、よく記憶しているのです。僕はこいつのすまいも知っているのですよ
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
人が決してすままわないとの事だった、その怪物ばけものの出る理由については、人々のいうところが皆ちがっているので取止とりとめもなく、解らなかったが、そののちにも
怪物屋敷 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
彼のすまツてゐるうちは、可成かなり廣いが、極めて陰氣な淋しい家で、何時の頃か首縊くびくゝりがあツたといふいやな噂のある家だ。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
一年ほど父のすまっておられた某省の官宅もその庭先がやはり急な崖になっていて、物凄いばかりの竹藪たけやぶであった。
「そのお殿様というのは、都におすまいではないのですか。」と聞きました。すると、武士は何気ない顔をして
三人兄弟 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
こんどもまたおにすまいではないかと、気味悪きみわるおもって、そっとまえとおけてけていきますと、うしろから
人馬 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
また幸いに我が西京に留学せし頃の旧知今はよき人となりて下谷西町にすまうよし、久しぶりにて便りを得たり
良夜 (新字新仮名) / 饗庭篁村(著)
鶴見が寓居のすぐ奥の隣家には海軍の尉官がすまっていた。子供が二人ある。よしという若い女中が働いている。
成程なるほど此處こゝから大佐等たいさらすまへる海岸かいがんいへまでは三十以上いじやうとりでもなければかよはれぬこの難山なんざんを、如何いかにして目下もつか急難きふなん報知ほうちするかといぶかるのであらう。
いま息子の宗十郎がすまっている家は、あの広さでも、以前の有明楼の、四分の一の構えだということである。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
殊に一昨年おととしの末頃から、前から悪かった肺の病が烈しくなった上、神経衰弱にかかったので、妻と共にK町にずっとすまって、東京には全く出ずに暮して居たのです。
彼が殺したか (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
今でも柏原に行くと、その一茶のすまっていた古荘などがそのままに残っているのを見ることが出来る。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
今の耳にもかわらずして、すぐ其傍そのそばなる荒屋あばらやすまいぬるが、さても下駄げたと人の気風は一度ゆがみて一代なおらぬもの、何一トつ満足なる者なき中にもさかずきのみ欠かけず
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
どうして鈴むらさんを今戸にすまわせたかということは、そのあたりのわたしにとって子供の時分からの好きな場所であったばかりでない、いまにしてはッきりいえば
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
予の初めて先生をりしは安政あんせい六年、月日はわすれたり。先生が大阪より江戸に出で、鉄炮洲てっぽうず中津藩邸なかつはんていすまわれし始めの事にして、先生は廿五歳、予は廿九歳の時なり。
しかかれをして露西亞ロシヤすまはしめたならば、かれかならず十二ぐわつどころではない、三ぐわつ陽氣やうきつても、へやうちこもつてゐたがるでせう。寒氣かんきためからだなに屈曲まがつてしまふでせう。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
道楽者だが、満更まんざら無教育なただの金持とは違って、人柄からいえば、こんな役者向の家にすまうのはむしろ不適当かも知れないくらいな彼は、きわめての少ない人であった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今日こんにち建築けんちく根本義こんぽんぎ決定けつていされなくともふかうれふるにおよばない。やすんじてなんじこのところへ、しからばなんじやしなはれん。やすんじてなんじこのいへすまへ、しからばなんじ幸福かうふくならん。(了)
建築の本義 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
醫者いしや心安こゝろやすきをまねいへぼく太吉たきちといふがりてこゝろまかせの養生やうじやう一月ひとつきおなところすまへば物殘ものゝこらずいやになりて、次第しだいやまひのつのることおそろしきほどすさまじきことあり。
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
かく姉さんとおっ母さんと僕と一しょにすまって見るという事が、出来ない事もあるまいと思うのです。晩にでもなればたれか本でも読んで、みんなでそれを聞いたって好いでしょう。
もともと二人ふたりむべき境涯きょうがいちがっているのであるから、無理むりにそうした真似まねをしても、それは丁度ちょうどとりうおとが一しょすまおうとするようなもので、ただおたがいくるしみをすばかりじゃ。
お婆様はようやくのことでその人のすまっている所だけを聞き出すことが出来ました。若者は麦湯むぎゆを飲みながら、妹の方を心配そうに見てお辞儀を二、三度して帰って行ってしまいました。
溺れかけた兄妹 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
甲州生れの大工上りとかいう全身にいれずみをした大入道で、三多羅和尚さんたらおしょうという豪傑坊主が、人々の噂を聞いて、一番俺がその妖怪ばけもの退治たいじてくれようというのでその寺にすまい込み、自分でそこ
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それから変事が続きてすまいきれず、売物に出したのをある者がかいうけ、その土蔵を取払とりはらって家を建直たてなおしたのだが、いまだに時々不思議な事があるので、何代かわっても長く住む者が無いとの事である。
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
だんだんそのいうところを聞くと、教育云々うんぬんというのは第三次の考えで、大臣になりたいということは第二次の考えで、第一次的根本の考えは馬車に乗り大廈たいかすまいすることが理想なのである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
假令たとひ幾年いくねんでも清潔せいけつすまひをしたかれ天性てんせい助長じよちやうして一しゆ習慣しふくわんやしなつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
さていよ/\天下泰平になって、私がの買屋敷の内にすまい込んで居る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
したが、嫁入よめいりをせぬとならば、ゆるしてもくれう。きなところ草食くさはみをれ、此處こゝにはすまさぬわい。やい、ようおもへ、ようかんがへをれ、戲言たはぶれごとはぬ乃公おれぢゃ。木曜日もくえうびいまむねいて思案しあんせい。
これは千秋寺という寺にすまわるることになっていた。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
何方なりやとたづねるにほゝよりくちまで一ヶ所二のうで四寸ばかり突疵つききず之あり兩處りやうしよともにぬひ候と申ければ夫にて分明わかりたりとて其段そのだんたてしかば大岡殿どの暫時ざんじかんがへられ非人小屋ひにんごや又は大寺のえんの下其ほか常々つね/″\人のすま明堂あきだうなどに心を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)