)” の例文
其處そこふるちよツけた能代のしろぜんわんぬり嬰兒あかんぼがしたか、ときたならしいが、さすがに味噌汁みそしるが、ぷんとすきはらをそゝつてにほふ。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
だが、月の光は、星のまたたきは、田水たみずの、または根芹ねぜりのかおりは、土のは、青い鰌の精霊は、品の低いともがらにはすくえない。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
この三本の松の下に、この灯籠をにらめて、この草のいで、そうして御倉さんの長唄を遠くから聞くのが、当時の日課であった。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
女は庭の物のが自分のすわっている所まで這入って来なくなったように思った。窓の所まで行って、そのを吸い込みたいのである。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
さもたり。ちかづくまゝに。にほは。そもかう款貨舖ぐやの。むすめかも。ゆびはさめる。香盆かうばこの。何爲なにことなりや。時々とき/\に。はなかさして。くめるは。
「西周哲学著作集」序 (旧字旧仮名) / 井上哲次郎(著)
「ああ結構です」と臼井はのない茶に咽喉のど湿しめし、「早く分って頂くために、そうですなあ、ああそうだ、仔猫こねこのお話をしましょう」
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
深閑しんかんとして、生物いきものといへばありぴき見出せないやうなところにも、何處どことなく祭の名殘なごりとゞめて、人のたゞようてゐるやうであつた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
譬えて申せば貴方が一杯の酒を呑乾のみほしておしまいなさる時、その酒のがいつか何処どこかであった嬉しさのにおいに似ていると思召おぼしめすように
ひのきのあたらしい浴室である。高いれんじ窓からたそがれのうすしこんで、立ちのぼる湯気の中に数条すうじょうしまを織り出している。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
もう少しゆくと空地あきちがあったから行こうと松次郎が言うので、ついて行って見るとそこには木のも新しい立派な家が立っていたりした。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
法海和尚は「今は老朽ちて、しるしあるべくもおぼえはべらねど、君が家のわざわいもだしてやあらん」と云って芥子けしのしみた袈裟けさりだして
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
源氏の服の薫香くんこうがさっと立って、宮は様子をお悟りになった。驚きと恐れに宮は前へひれ伏しておしまいになったのである。
源氏物語:10 榊 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ことばはしばし絶えぬ。両人ふたりはうっとりとしてただ相笑あいえめるのみ。梅の細々さいさいとして両人ふたり火桶ひおけを擁して相対あいむかえるあたりをめぐる。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
以前の正月の祝賀の歌には、しばしば「古酒の」をよろこぶ文句があった。是を正月の楽しみの一つに、かぞえていたことだけは確かである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
伊勢はいくさといううわさだが、京都の空はのどかなものだ。公卿くげ屋敷の築地ついじには、白梅しらうめがたかく、加茂川かもがわつつみには、若草がもえている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
此の大臣もまた「形美麗に有様いみじきこと限りなし」「大臣のおん形ごゑ気はひたきものよりはじめて世に似ずいみじきを云々」
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
〔評〕或ひと岩倉公幕を佐くとざんす。公薙髮ていはつして岩倉邸に蟄居ちつきよす。大橋愼藏しんざうけい三、玉松みさを、北島秀朝ひでとも等、公の志を知り、深く結納けつなふす。
そして彼女かのじょは、はなをかいでいるうちに、ふとおとうとのことをおもしたのです。おとうと外国がいこくへいって幾年いくねんにもなるが、消息しょうそくえていました。
ある冬の晩のこと (新字新仮名) / 小川未明(著)
都もひな押並おしなべて黒きをる斯大なるかなしみの夜に、余等は茫然ぼうぜんと東の方を眺めて立った。生温なまあたたかい夜風がそよぐ。稲のがする。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
橘の姫は、津と和泉の人ととが相果てたほとりに、未だ化粧のにおわせたまま頭を土手の方に向けてあえなくなっていた。
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
きだまた段と延びをり、とこしへに春ならしむる日輪にむかひて讚美のを放つ無窮の薔薇の黄なるところに 一二四—一二六
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
この国の煙草たばこやまひせぬ日にてありなばゆかしくもあらまし、日本人の売子うりこのそを勧めさふらふにも今はうるさくのみ思ひ申しさふらふ
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
近頃このごろ新築したといふ立派な医院で、まだがぷんとしみた。細君は四十五六の善良さうな人で、たしか二度目だつた。
念仏の家 (新字旧仮名) / 小寺菊子(著)
露時雨つゆしぐれ夜ごとにしげくなり行くほどに落葉朽ち腐るる植込うえごみのかげよりは絶えず土のくんじて、鶺鴒せきれい四十雀しじゅうから藪鶯やぶうぐいすなぞ小鳥の声は春にもましてにぎわし。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
どうも余程よっぽど惚れてますよ、私が浮世の義理に一寸ちょっと逢って来ますから、あのなに、はなさん、若旦那をお連れ申しておくれ
伊豆行の汽船は相模灘さがみなだを越して、明るい海岸へ着いた。旅客は争って艀に移った。お種も、のする温泉地へ上った。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
があり、子房の上は花筒かとうとなり、この花筒の末端まったんに白色の六花蓋片かがいへん平開へいかいし、花としての姿を見せよいを放っている。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
水を指さしてむかしの氷の形を語ったり、空を望んで花の行衛ゆくえを説いたところで、役にも立たぬ詮議せんぎというものだ。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
枕頭まくらもとには、漆の剥げた盆に茶碗やら、薬瓶やら、流通の悪い空気が、薬のと古畳の香に湿つて、気持悪くムツとした。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「森林の」とか、オリエンタル・ブウケエなどは、比較的男性向な表情をもつてゐる。リラなどは、極めて低く一般的意味で若き婦人向の表情だ。
夢からさめてしめやかな木犀もくせいほおをうたれたような、初秋の冷やかさほどで、むしろ快感のある突はなし加減だ。
豊竹呂昇 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
しづかなよひで、どことはなしに青をにほはせたかぐはしい夜風よかぜには先からながれてくる。二人のあひだにはそのまましばらくなんの詞も交されなかつた。
(旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
『否、小子それがしこと色に迷はず、にも醉はず、しんもつて戀でもなく浮氣でもなし、只〻少しく心に誓ひし仔細の候へば』。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
勿体もつたいないこつちや、勿体ないこつちや、これも将棋を指すおかげだす。」と言つたといふくらゐ、総檜木ひのき作りの木のも新しい立派な場所であつた。
聴雨 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
定らぬ燭のあかりに、送る主の影も、送られる客の影もゆらぐ。そういう夜気の中にただよう梅がを感ずるのは、電燈世界にはあるまじきほのかな趣である。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
貴重な材木や硝子ガラスを使つて細工がしてある。その小さい中へ色々な物が逃げ込んで、そこを隠れにしてゐる。その中から枯れ萎びた物のが立ち昇る。
クサンチス (新字旧仮名) / アルベール・サマン(著)
饂飩屋うどんやの横を、嘉三郎は、黙って奥へ這入はいって行った。庭に栗の木が一本あって、がばらばらと、顔に触れた。そして、栗の花のが鼻にみた。
栗の花の咲くころ (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
奥の座敷は香木のがみちみちてムッとする程あたたかかった。しかし未亡人は居なかったので私は何やら安心したようにホッとして程よい処に坐った。
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
女星の額の玉はくれないの光を射、男星のは水色の光を放てり。天津乙女あまつおとめは恋のに酔いて力なく男星の肩にれり。
(新字新仮名) / 国木田独歩(著)
僕は一寸立止ったが、「ドナウもこれぐらい細くなればもう沢山だ」と思った。そして其処の汀の草のうえに尻をついていると、幽かにみずがしている。
ドナウ源流行 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
階下したへ降りますと御飯から立つ湯気のが夜の家いつぱいに満ちて匂つて居ました。これは竹村たけむらと云ふ姉の家へ贈る弁当の焚出たきだしをして居るからなのでした。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
お銀様は、その一茎の花を今度は自分の鼻頭はなづらへあてがって、すみれに酔うが如く、むさぼり嗅ぐのでありました。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
幹土に枯るる樹木も水のにあえば、たちま若樹わかぎとして再生するが如く、人はその体地の中に枯れその魂土に帰するも、一度神の霊の香に会わんか忽ち復生し
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
さくらはなうめとめてやなぎえだにさく姿すがたと、くばかりもゆかしきをこヽろにくきひとりずみのうはさ、たつみやびこヽろうごかして、やまのみづに浮岩あくがるヽこひもありけり
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
己はこれを眺めながら、あさまつげの苦味のあると、柑子かうじの木の砂糖のやうに甘い匂とを吸つてゐた。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
桟橋さんばしすなわち魚市場の荷上所で、魚形水雷みたいなかつおだとか、はらわたの飛び出した、腐りかかったさめだとかが、ゴロゴロところがり、磯のと腐肉のにおいがムッと鼻をついた。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
夜風が通る度に、頭から浴びせられた酒が肌であつたまつて、異樣なを立てるのが強く鼻をついた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
倉庫の蔭を曲ると、乳色の海霧ガスが、磯のを乗せて激しく吹きつけて来た。男はなおも歩き続けた。
動かぬ鯨群 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
垣の中にむらがった松はまばらに空を透かせながら、かすかにやにを放っている。保吉は頭を垂れたまま、そう云う静かさにも頓着とんじゃくせず、ぶらぶら海の方へ歩いて行った。
文章 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
むこうは水神すいじんの森。波止めの杭に柳がなびき、ちょうど上汐あげしおで、川風にうっすら潮のがまじる。