そめ)” の例文
裏の溝川どぶがわで秋のかわずが枯れがれに鳴いているのを、おそめは寂しい心持ちで聴いていた。ことし十七の彼女かれは今夜が勤めの第一夜であった。
鳥辺山心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかもあの時、思いがけない、うっかりした仕損しそこないで、あの、おそめの、あのからだに、胸から膝へ血を浴びせるようなことをした。——
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
沖縄は元来そめおりの島といってもよく、実に美しい数々のものを作りましたが、それが無造作に古着として売られているのです。
沖縄の思い出 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
むか三軒さんげん両隣りやうどなりのおてふ丹次郎たんじらうそめ久松ひさまつよりやけにひねつた「ダンス」の Missミツス B.ビー A.エー Bae.べー 瓦斯ぐわす糸織いとおり綺羅きら
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
左の胸——乳の下あたり、パッと浸み出しているのは、青磁色の服をそめて、大輪の牡丹ぼたんを見るような血潮ではありませんか。
同じ近松半二の作のうち今なお愛好せられているおそめ久松ひさまつの「野崎村」は、なるほど「岡崎」や「沼津」ほど醜悪ではない。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
相※に召捕べしと申渡し彼紀州よりもち來りし笈摺おひずるには紀州名草郡平野村感應院かんおうゐんの弟子寶澤十四歳と記し所々血汐ちしほそめし品々を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
く見れば白髪をそめた者だ、シテ見ると老人だナ(大)ハイ私しも初めは老人と見込をつけましたが猶お考え直して見ると第一老人は身体も衰え
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
そめ久松ひさまつがお染久松ぢや書けねえもんだから、そら松染情史秋七草しやうせんじやうしあきのななくささ。こんな事は、馬琴大人たいじんの口真似をすれば、そのためしさはに多かりでげす。
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
と七代が頬をパッとそめて起き上りながら、障子を引き明けた。そこにはびんも前髪もバラバラに乱した与一昌純が、袴の股立ももだちを取って突立っていた。
名君忠之 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
まだ娘だから喜怒哀楽がないのだと云って、おそめの人形は、まなじりをすずやかにあけて、表情のない顔をしていた。
田舎がえり (新字新仮名) / 林芙美子(著)
「おやご免なさい。おそめ久松ひさまつ、お品お十夜って、この河岸では評判でしたっけね。そういえばあのお十夜さん、さッぱり影が見えないようだけれど……」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それにころこん七日なぬかからもたねばわかないやうな藍瓶あゐがめそめられたので、いま普通ふつう反物たんもののやうなみづちないかとおもへばめるといふのではなく
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
一枚五厘ずつのオモチャ絵紙の、唐紅かなにかでひた赤くそめたやつを二、三枚、唐紙の鴨居かもいに張つけて眺めていられ、しきりと面白い理由を説明して聞かせられた
竹乃里人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
先ず硯箱すずりばこと色紙とを持ち出して、老女が「これに一つおそめを」という。五百は自作の歌を書いたので、同時に和歌の吟味も済んだ。それから常磐津ときわずを一曲語らせられた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
たとえば最後の場面でおそめが姉夫婦を見送ってから急に傷の痛みを感じてベンチに腰をかけるとき三味線がばたりと倒れるその音だけを聞かせるが、ただそれだけである。
映画雑感(Ⅳ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
驚きながら四辺あたりを見ますと、結構な木口きぐちの新築で、自分の姿なりを見ると、単物ひとえものそめっ返しを着て、前歯のりました下駄を穿き、腰にきたな手拭てぬぐいを下げて、頭髪あたま蓬々ぼう/\として
いそがしぶる乙女おとめのなまじいに紅染べにぞめのゆもじしたるもおかしきに、いとかわゆき小女のかね黒々とそめぬるものおおきも、むかしかたぎの残れるなるべしとおぼしくてなり。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
旧家ではあり資産家かねもちではあり、立派な生活を営んでいた。おそめという一人娘があった。その時数え年ようや二歳ふたつで、まだ誕生にもならなかったが、ひどく可愛い児柄こがらであった。
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
真赤な薄絹を通して、廊下の火焔が黄金の衣裳を燃立つ血潮の色にそめなした。彼はその血の色を顔一杯に輝かせて、例の三日月型の唇を歪め、ゾッとする様な笑いを笑った。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
なほちからをつくしてほりけるに真白ましろなる雪のなかにそめたる雪にほりあて、すはやとてなほほり入れしに片腕かたうでちぎれてくびなき死骸しがいをほりいだし、やがてかひなはいでたれども首はいでず。
クッキリした、強い色彩にそめられて、生々しいペンキ塗りの如く私の瞳孔を刺した。
恐怖 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
横町よこてうおもてそろひはおな眞岡木綿まおかもめん町名ちやうめうくづしを、去歳こぞよりはからぬかたをつぶやくもりし、くちなしそめあさだすきるほどふときをこのみて、十四五より以下いかなるは、達磨だるま木兎みゝづくいぬはり
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それをば正直正太夫しょうじきしょうだゆうという当時の批評家が得意の Calembour を用いて「先生の染めちがえはそめちがえなり。」とののしった事をも私は明治小説史上の逸話として面白く記憶している。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
この時日は既に万家ばんかむねに没しても、余残なごりの影をとどめて、西の半天を薄紅梅にそめた。顧みて東方とうぼうの半天を眺むれば、淡々あっさりとあがった水色、諦視ながめつめたら宵星よいぼしの一つ二つはほじり出せそうな空合そらあい
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「赤いのは」と聞けば「色でそめやしたで」とまた扇を叩いた。色は樺太かばふとのフレップ酒に似て、地の味はやはり焼酎の刺激がある。土地の名産忍苳酒にんとうしゅ味淋みりんに強い特殊の香気を持たしたものらしい。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
その小供の総領になっているおそめと云うのが十四、次の男の子の権八郎ごんぱちろうと云うのが十三、三番目の鉄之助てつのすけと云うのが十一、四番目おきくと云うのが三つになった時、それは七月の十八日の夜であったが
四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そめかみ牡丹雪ぼたんゆき
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
そめ木がしるに 染衣しめごろも
勝色かちいろ飾磨しかまそめ
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
下谷したやの下宿にいました頃、下宿のおかみさんが、「あのひとはそめのいい絣を着ていたからいい家の息子に違いない」
着物雑考 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
「お嬢さんのおそめさんは、たった一人娘で、この秋には御武家方から御養子がらっしゃるはずでございました」
わらを分けたえんなる片袖、浅葱あさぎつまが船からこぼれて、その浴衣のそめ、その扱帯しごき、その黒髪も、その手足も、ちぎれちぎれになったかと、砂に倒れた婦人おんなの姿。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お前さんの身装を軽蔑けなすんじゃアございませんが是は古くって一旦そめたんで、一寸ちょっと余所よそく時に之を着て出て下さるとわたくしは鼻が高い、うしてねえさんは是非寄越して下さいよ
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
三勝さんかつ半七はんしちを描きましてもおそめ久松ひさまつを描きましても、それをかなり隔たった時にして書きまして、すべてに、これは過ぎた昔の事であるという過去と名のついた薄い白いレースか
奇樹きじゆきしよこたはりてりようねふるがごとく、怪岩くわいがんみちふさぎてとらすにたり。山林さんりんとほそめにしきき、礀水かんすゐふかげきしてあゐながせり。金壁きんへきなら緑山りよくざんつらなりたるさま画にもおよばざる光景くわうけい也。
見るに三ツまたつじ此方こなたに人のて居る樣子ゆゑ何心なく通りけるには其も如何に一人の旅客たびびとあけそめ切倒きりたふされて居たりしかば三人共に大いに驚きながらも一人は死人の向ふを通りぬけあと
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それ故その生命ともいうべき模様や色が、近頃俗に流れがちになったのは、惜しみても余りあることといわねばなりません。よいそめの道でありますから、もう一度歴史を高めたいものと思います。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
だからまた当世のことは、とんと御存じなしさ。それが証拠にゃ、昔のことでなけりゃ、書いたというためしはとんとげえせん。おそめ久松ひさまつがお染久松じゃ書けねえもんだから、そら松染情史秋七草しょうせんじょうしあきのななくささ。
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
首の細いおそめ人形や久松人形も血泥ちどろによごれて、箱と一緒に踏みつぶされていたが、ふと、有村が隙を狙って拾い取ったのは、その人形とともに箱の中から飛びだしていた桐油紙とうゆで包んだ一じょう秘冊ひさつ
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お孃さんのおそめさんは、たつた一人娘で、この秋には御武家方から御養子が入らつしやる筈でございました」
ひるた、さか砂道すなみちには、あをすすき、蚊帳かやつりぐさに、しろかほの、はま晝顏ひるがほぶたを薄紅うすべにそめたのなどが、まつをたよりに、ちらちらと、幾人いくたりはなをそろへていた。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
仕事として誠に立派なものといえましょう。ただおりわざをよく守っているのに比べて、そめわざが近頃落ちて来たのは、如何にも残念に思います。昔のように色を草木から取ることをしなくなりました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
群木ぐんぼくすこしく霜をそめ紅々あかく連山れんざんわづかに雪をのせ白々しろし
むらさき水晶ずいしょうは おそめにやンべ
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
金三郎、お前東京へ行くなら、丁度ちょうど良いついでだが、国木田くにきだのおそめッ子を上野までつれて行ってくれないか。
とおりの角に、われを見て笑いながら彳みたるは、その頃わが家に抱えられたるそめという女なり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
群木ぐんぼくすこしく霜をそめ紅々あかく連山れんざんわづかに雪をのせ白々しろし
そめかんざしに すよにサ
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
萌黄もえぎ蚊帳かやべにあさ、……ひどところですが、およねさんの出入ではひりには、はら/\とほたるつて、うつし、指環ゆびわうつし、むね乳房ちぶさすかして、浴衣ゆかたそめ秋草あきぐさは、女郎花をみなへしに、はぎむらさき
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)