松林まつばやし)” の例文
テーブルクロスのつつみのほうは、とちゅうで透明人間とうめいにんげんの気がかわり、ブランブルハーストをでたところの松林まつばやしですててしまったのである。
広い松林まつばやしが、庭にとりこんでありまして、そこで気持ちよく遊べました。チロも一緒に遊びました。三人ともチロを大変かわいがりました。
金の目銀の目 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
おじいさんについて、どんなところへれていかれるのかと心配しんぱいしながらあるいてゆくと、はや、せみの松林まつばやしいているこえこえました。
子供の時分の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
先頃せんころ私が茨窪ばらくぼ松林まつばやしを散歩していると、向うから一人の黒い小倉服を着た人間の生徒が、何か大へん考えながらやって来た。
茨海小学校 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
風をけて、湖の岐入の方へ流れ入ると、出崎の城の天主閣てんしゅかく松林まつばやしの蔭から覗き出した。秀江の村の網手の影が眼界にうかび上って来たのである。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
前方の、放送局の松林まつばやしあたりに、可也かなりおびただしい人数が移動している様子だった。演習慣れした少尉の耳には、その雑然たる靴音が、ハッキリと判った。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それは、若竹わかたけが、あちこちのそらに、かぼそく、ういういしい緑色みどりいろをのばしている初夏しょかのひるで、松林まつばやしでは松蝉まつぜみが、ジイジイジイイといていました。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
不審ふしんおもつて躊躇ちうちよしてると突然とつぜんまへ對岸たいがん松林まつばやし陰翳かげからしろひかつてみづうへへさきふねあらはれた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「もう餘程よほどひさしいことでございます。あれは豐干ぶかんさんが松林まつばやしなかからひろつてかへられた捨子すてごでございます。」
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
松林まつばやしなかもん屋根やねそびやかした法華寺ほつけでらで、こゝもぼん墓参はかまゐりをするらしいひときつゞき出入でいりをしてゐた。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
それで三にん相談さうだんするやうかほをして、一端いつたん松林まつばやしまで退しりぞき、姿すがた彼等かれら視線しせんからかくれるやいなや、それツとばかり間道かんだう逃出にげだして、うらいけかたから、駒岡こまをかかた韋駄天走ゐだてんばしり。
それからそのこうに青々あおあおかすんでいる御所ごしょ松林まつばやしをはるかにおがんだにちがいありません。
田村将軍 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
石の巻の町に入るすぐ手前の畑に今でも「蛇田」といふ名所がある。「……五十八年の夏五月さつき荒陵あらはか松林まつばやしの南の道にあたりて、忽に二本ふたもと櫪木くぬぎ生ひ、路をはさみて末合ひたりき」
大へび小へび (新字旧仮名) / 片山広子(著)
四十男しゞふをとこ水呑百姓みづのみひやくしやうおもつたのは、學校がくかうより十町ばかりだつて松林まつばやしおく一構ひとかまへ宅地たくちようし、米倉べいさう三棟みむねならべて百姓ひやくしやう池上權藏いけがみごんざうといふをとこで、大島小學校おほしませうがくかう創立者さうりつしや恩人おんじん
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
ぐわつ、五ぐわつのお節句せつくは、たのしい子供こどものおまつりです。五ぐわつのお節句せつくには、とうさんのおうちでもいしせた板屋根いたやね菖蒲しやうぶをかけ、ぢいやが松林まつばやしはうからつてさゝちまきをつくりました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
左手は、松林まつばやし雑木林ぞうきばやしがつづいています。そこには、ひぐらし、みんみん、あぶらぜみなどがにぎやかにないています。右手は青々としたたんぼで、風がわたるたびに青い波がながれます。
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
反對はんたい落葉樹らくようじゆ松林まつばやしなどがふえてました。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
松林まつばやしで、きなれたとりこえがしました。まどをあけると、やまがらやしじゅうからが、えだからえだをつたっていていました。
おかまの唄 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それから毒ヶ森のふもとの黒い松林まつばやしの方へ向いて、きつねのしっぽのような茶いろの草の穂をふんで歩いて行きました。
鳥をとるやなぎ (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
よる對岸たいがん松林まつばやし陰翳かげみづげて、川幅かわはゞわづか半分はんぶんせばめられてえる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
むをず、一松林まつばやしかた退却たいきやくしたが、如何どうりたくてえられぬ。それで玄子げんしとは松林まつばやしち、望生ぼうせいにんつて『いくらかすから、らしてれ』と申込まをしこましたのである。
まだそこだけはあかるく、あわただしく松林まつばやしあたまえて、うみほうくもけてゆくのがながめられたのでした。
空晴れて (新字新仮名) / 小川未明(著)
海がみさきで見えなくなった。松林まつばやしだ。また見える。つぎ浅虫あさむしだ。石をせた屋根やねも見える。何て愉快ゆかいだろう。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そして、広々ひろびろとした海原うなばらと、あお松林まつばやしと、いつにかわらぬ富士山ふじさんがあるばかりでした。若者わかものは、そのながい一しょうただしく、たのしくおくることができました。
羽衣物語 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ぼくらは松林まつばやしの中だのかやの中で何べんもほかの班に出会った。みんなぼくらの地図をのぞきたがった。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
それから、停留場ていりゅうじょうごとに、ひとったり、りたりしました。松林まつばやしにさしかかるころは、うまも、はやつかれたのか、くろくあせがにじんで、あえいでいました。
しらかばの木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ぼくらは、せみが雨のように鳴いているいつもの松林まつばやしを通って、それから、まつりのときの瓦斯ガスのようなにおいのむっとする、ねむの河原かわらいそいでけて、いつものさいかちぶちに行った。
さいかち淵 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そして、うら松林まつばやしにせみのいている、ちかづくときゅうになつかしくなって、したものでした。
僕はこれからだ (新字新仮名) / 小川未明(著)
獅子鼻ししはなの上の松林まつばやしには今夜も梟の群が集まりました。今夜は穂吉が来ていました。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
おまえは、この青々あおあおとした松林まつばやしきよ谷川たにがわながれよりほかにてはならない。もし、わたしのいうことをまもれば、おまえはいつまでもわかく、うつくしいともうしました。
ふるさとの林の歌 (新字新仮名) / 小川未明(著)
汽車はやみのなかをどんどん北へ走って行く。盛岡もりおかの上のそらがまだぼうっと明るくにごって見える。黒いやぶだの松林まつばやしだのぐんぐんまどを通って行く。北上きたかみ山地の上のへりが時々かすかに見える。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
むらちかい、やま松林まつばやしには、しきりにせみがいていました。信吉しんきちは、いけのほとりにって、紫色むらさきいろ水草みずくさはなが、ぽっかりとみずいて、いているのをながめていました。
銀河の下の町 (新字新仮名) / 小川未明(著)
獅子鼻の上の松林まつばやしは、もちろんもちろん、まっ黒でしたがそれでも林の中に入って行きますと、そのあしの長い松の木の高いこずえが、一本一本空のあまがわや、星座にすかし出されて見えていました。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
わか時分じぶんには、やはり、いま、ほかのわかいからすのように、元気げんきよくたかみねいただきんで、したに、たに松林まつばやしや、またむらなどをながめて、あるときは、もっと山奥やまおくへ、あるときは
一本のかきの木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
権兵衛茶屋のわきから蕎麦そばばたけや松林まつばやしを通って、煙山の野原に出ましたら、向うには毒ヶ森や南晶山なんしょうざんが、たいへん暗くそびえ、その上を雲がぎらぎら光って、処々ところどころにはりゅうの形の黒雲もあって
鳥をとるやなぎ (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ついに、ぼくは、あるのこと、ほこりをあびながら、しろくかわいた街道かいどうあるいていった。港町みなとまちへいけば、おばさんにあえるとおもったのだ。いつしか夕日ゆうひ松林まつばやしなかにしずみかけた。
はたらく二少年 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そこの松林まつばやしの中から黒いはたけが一まい出てきます。
台川 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
松林まつばやしなかに、まんは、母親ははおやならべてほうむられました。その土色つちいろのまだあたらしいはかまえには、ごとに、だれがあげるものか、いつもいきいきとした野草のぐさはなや、山草やまぐさ手向たむけられていました。
万の死 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのひろいすそのふちを、青黒あおぐろいろうみが、うねりをあげ、そして、もやのかかる松林まつばやしや、しろすな浜辺はまべは、りの模様もようのようにえるので、さすがに天女てんにょも、しばらくはわれをわすれて
羽衣物語 (新字新仮名) / 小川未明(著)