すぎ)” の例文
拝啓昨今御病床六尺の記二、三寸にすぎすこぶる不穏に存候間ぞんじそうろうあいだ御見舞申上候達磨儀だるまぎも盆頃より引籠ひきこも縄鉢巻なわはちまきにてかけいの滝に荒行中あらぎょうちゅう御無音ごぶいん致候いたしそうろう
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
拝啓昨今御病床六尺の記二、三寸にすぎすこぶる不穏に存候間ぞんじそうろうあいだ御見舞申上候達磨だるま儀も盆頃より引籠り縄鉢巻なわはちまきにてかけひの滝に荒行中御無音致候ごぶいんいたしそうろう
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
墓原はかはらへ出たのは十二時すぎ、それから、ああして、ああして、と此処ここまであいだのことを心に繰返して、大分だいぶんの時間がったから。
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ト月過ぎタ月すぎてもこのうらみ綿々めんめんろう/\として、筑紫琴つくしごと習う隣家となりがうたう唱歌も我に引きくらべて絶ゆる事なく悲しきを、コロリン
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
お定にとつては、無論思設おもひもうけぬ相談ではあつたが、然し、盆すぎのがつかりした心に源助を見た娘には、必ずしも全然縁のない話でもない。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
助「そりゃア親方が丹誠をしてこさえたのだから少しぐらいの事では毀れもしまいが、此の才搥さいづちなぐって毀れないとはちっ高言こうげんすぎるようだ」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
およ本年ほんねんの一ぐわつすぎには解禁後かいきんご推定相場すゐていさうばである四十九ドルぶんの一乃至ないし四十九ドルぶんの三まで騰貴とうきすることはたしか算定さんてい出來できたのである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
それはさておき、今、文代と例の怪人物とは、両側に満開の桜の山をしつらえた、義経千本桜の生人形の場面を通りすぎていた。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
すぎとし北国より人ありてこぶしの大さの夜光やくわうの玉あり、よく一しつてらす、よきあたひあらばうらんといひしかば、即座そくざに其人にたくしていはく、其玉もとめたし
連て訴へしが番頭は進み出私しは油町伊勢屋三郎兵衞名代喜兵衞と申もの御座ござ主人しゆじん店先みせさきへ一昨夜九ツどきすぎ此法師このほふし來り戸を叩きて一夜の宿を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
広島の人という。三人声かけあいて登るに道けわしければ汗は滝なして降る。薄暗きに華厳の滝をのぞきつ七時すぎ中禅寺湖畔の旅籠屋に入る。
滝見の旅 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
醉へば醉ふ程おしやべりになるおつさんは、長すぎてあつかひにくい舌で上下うへしたの唇をなめながら、くどくど繰返して自慢をする。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
九時すぎにそつと寄つて戸からのぞくと桃色の寝衣ねまきを着た二十四五の婦人が腰を掛けて金髪を梳いて居た。夜明よあけの光で見た通りの美しい人である。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
従つて、自分と平岡の隔離は、いまの自分のまなこに訴へて見て、尋常一般の径路を、ある点迄進行した結果にすぎないと見傚した。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
市中の電車に乗って行先ゆくさきを急ごうというには乗換場のりかえばすぎたびごとに見得みえ体裁ていさいもかまわず人を突き退我武者羅がむしゃらに飛乗る蛮勇ばんゆうがなくてはならぬ。
夜十二時すぎでもあったか、難波橋なにわばしの上に来たら、下流かわしもの方で茶船ちゃぶねのってジャラ/\三味線を鳴らして騒いで居る奴がある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
しかるに天保てんぽう四年みずのととし十二月二十六日のの刻すぎの事である。当年五十五歳になる、大金奉行おおかねぶぎょう山本三右衛門さんえもんと云う老人が、ただ一人すわっている。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
でもそうすると亀の方が大きくなりすぎて、兎が居眠りしないでも亀の方がかけっこにかちそうだった。だから困っちゃった。
碁石を呑んだ八っちゃん (新字新仮名) / 有島武郎(著)
駒之助の愛情とその物狂ひを写せるところ真に迫りて、露伴が悟りすぎたる恋愛よりも面白し。諷刺を離れ、冷罵を離れたるところ、斯般しはんの妙趣あり。
実験室の扉が午後九時五分すぎに開放された儘、放置されたため、室内の三計器は屋外の気温、気圧、湿度と一致するに至ったものだろうと思います。
赤耀館事件の真相 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それらの用事を皆済ましてちょうど午後四時すぎに、私が属して居るジェ・ターサンの大本堂に参詣して燈明を上げ、供養物も供えそして釈尊の前にて
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「ええ。そう。今じゃ全くの赤の他人でしょう。ですからそのつもりでいらっしゃい。それからの御相談は、何もかも来月の十日すぎにお願いしますわ」
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
おいとこたへてこめかしをけはかすほどのろさ、くておはらば千歳ちとせうつくしきゆめなかすぎぬべうぞえし。
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そこへ五十すぎくらいの洋服の人が出て来ました。主人でしょう。黒いきれかぶって、何かと手間取てまどります。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
次第に奥様は短気きみじかにも御成なさいました。旦那様は物事が精密こまかすぎて、何事にもこの御気象がいて廻るのですから、奥様はもううるさいという御顔色をなさるのでした。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
なおも太吉は立って水車場の方を見ていると、裏の山から飛んで来たとびが頭の上をすぎたが、かろく、せわしげに翼をきざんで、低くたにに舞い下って水車場近くの枯木に止った。
越後の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
一度はすわっても見るのだが、今日はすといって机の方へ向ってしまう。年賀にいってその話を聞いて来たのであるが、二月すぎになっても、一枚も画が出来ていない。
九谷焼 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
といって二十日も一月も晴天が続くと川の水が減少して鮎のせまくなりますのに硅藻があま生長せいちょうすぎこわくなりますから鮎はやっぱり餌に飢て味が悪くなります。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
其後石は安然あんぜんに雲飛の内室ないしつ祕藏ひざうされて其清秀せいしうたいかへず、靈妙れいめううしなはずして幾年いくねんすぎた。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
京都きょうとった時分にもあった、四年ばかり前だったが、冬の事で、ちらちら小雪が降っていた真暗まっくらな晩だ、夜、祇園ぎおん中村楼なかむらろうで宴会があって、もう茶屋を出たのが十二時すぎだった
狸問答 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
天葢てんがいというても兩端りやうたんわらびのやうにまかれたせま松板まついたを二まいあはせたまでのものにすぎない簡單かんたんなものである。すゝけたかべにはれもふるぼけたあか曼荼羅まんだら大幅おほふくかざりのやうにけられた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
さうしておまけに、阿父さんから十分に訳を言つて、頭をげないばかりにして頼んだのぢやないかね。だから此方こつちには少しも無理は無いはずだのに、貫一があんまり身の程を知らなすぎるよ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
七月三十一日午後六時すぎの事、阪神電車の梅田停留場から神戸行の電車に乗込んだ。ベルが鳴つて電車がこれから出かゝらうとした時、席の真中程からあわたゞしく衝立つゝたち上つた若い男がある。
それでその折はすぎてしまったのでしたが、翌朝になると祖母のところへ、その母親が顔色をかえてきて言うには、昨夜ゆうべあれから間もなく、外で大変な風の音がしたと思うと、仏壇の位牌いはいもなにもかも
人魂火 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
そのげんいわく、そもそもわが国王は東方の天主教を保護するの説を唱えて信教の念を飾るといえども、その実は、わずかに外貌がいぼうの虚飾にすぎざるのみ。ゆえにこの事態に徹底せざる徒をして迷わしむ。
ジオンのたたかいたけなわなるに我は用なきつわものなれば独り内に坐して汗馬かんばの東西に走るを見、矢叫やさけびの声、太鼓の音をただ遠方に聞くにすぎず、我は世に立つの望み絶えたり、また未来に持ち行くべき善行なし
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
「それはさっき申上げた通り、二時十分すぎ位です」
琥珀のパイプ (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
藪入のまたいですぎたこの糸
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
朝の内に月代さかやき沐浴ゆあみなんかして、家を出たのは正午ひるすぎだったけれども、何時いつ頃薬師堂へ参詣して、何処どこを歩いたのか、どうして寝たのか。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すぎとし北国より人ありてこぶしの大さの夜光やくわうの玉あり、よく一しつてらす、よきあたひあらばうらんといひしかば、即座そくざに其人にたくしていはく、其玉もとめたし
七日がすぎると土手の甚藏が賭博ばくちに負けて裸体ぱだかになり、寒いから犢鼻褌ふんどしの上に馬の腹掛を引掛ひっかけて妙ななりに成りまして、お賤の処へ参り
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
彼のいまの気分は、彼に時々とき/″\おこごとく、総体のうへに一種の暗調を帯びてゐた。だからあまりにあかすぎるものに接すると、其矛盾に堪えがたかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
現代官僚の教育は常に孔孟こうもうの教を尊び忠孝仁義の道を説くと聞いているが、お茶の水をすぎる度々「仰高ぎょうこう」の二字を掲げた大成殿たいせいでんの表門を仰げば
「すこし面白すぎて弱るんだ。あいつは物好きで三田公に惚れてやあがるんだぜ。此間の晩も俺をだしにつかつて、泊つてゐきやあがつたんだらう。」
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
ふと目が覚めて時計を見ると八時すぎであつたから私は戸をけて廊下へ出た。四つ目の室に斎藤氏が居る。その前へくと氏が見附けてぐ出て来た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
『ハイ。』と、生徒の方も嬉しさうに莞爾につこりして、活溌に一礼して出て行く。健の恁麽こんな訓導方しつけかたは、尋常二年には余りにきびすぎると他の教師は思つてゐた。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
扨て傳吉は其夜そのよ亥刻よつすぎに我が家へ歸りければ女房叔母ともに出で立ち今御歸りなされしや金子は如何にとたづぬるに傳吉さればお專殿は留守にて分らず歸りを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
かみなびの神よりいたにする杉のおもひもすぎず恋のしげきに、という万葉巻九の歌によっても知られるが、後にも「琴の板」というものが杉で造られてあって
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
看護当番として午後二時少しすぎたと思う時分に予は根岸庵に参った、今日はどんな様子か知らんと思う念が胸にみちているから、まず母堂や律様の挨拶あいさつ振りでも
竹乃里人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
それも海へ入るというよりは其辺の海岸をスケッチブック片手に歩き廻っているにすぎませんでした。
赤い部屋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)