すわ)” の例文
遽然にはかに、蓮華寺の住職が説教の座へ上つたので、二人はそれぎり口を噤んで了つた。人々はいづれもすわり直したり、かたちを改めたりした。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
中食の卓とちょうど反対のところに、大きな炉があって、火がさかんに燃えていて、卓の右側にすわっている人々の背をあたためている。
糸くず (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
赤シャツの農夫はのそばの土間に燕麦えんばくわら一束ひとたばいて、その上に足をげ出してすわり、小さな手帳てちょうに何か書きんでいました。
耕耘部の時計 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
王子はうでんで、いわの上にすわりました。いつまでもじっと我慢がまんしていました。しかし、そのうちに、だんだんおそろしくなってきました。
強い賢い王様の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
玄翁げんのう殺生石せっしょうせきまえすわって、熱心ねっしんにおきょうみました。そして殺生石せっしょうせきれいをまつってやりました。殺生石せっしょうせきがかすかにうごいたようでした。
殺生石 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
死んだという知らせを電話で聞いて、昂奮こうふんして外へは出て見たが何処へいっても腰がすわらないといって、モゾモゾしている詩人もあった。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
そしてお客達の真中まんなかすわって、チヤホヤする村の客人達に向って、ゲラゲラ笑ってばかりいた。客人はえらい人達がやってきた。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
然し彼が吾有にした十五坪の此草舎には、小さな炉は一坪足らぬ板の間に切ってあったが、周囲あたりせまくて三人とはすわれなかった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
私はくさの中へこしを降ろすと煙草たばこを取り出した。つまも私のよこすわつて落ちついたらしく、くれて行く空のいろながめてゐた。——
美しい家 (新字旧仮名) / 横光利一(著)
一と口挨拶あいさつをした後は黙ってすわっているその顔容かおかたちから姿態すがたをややしばらくじいっとみまもっていたが柳沢がどうもせぬ前とどこにも変ったところは見えない。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
そして座敷ざしきのまん中に落ちつきはらってすわり、勿体もったいぶって考えていましたが、やがてぽんとひざをたたいて、とんまに似合にあわないおごそかな声で言いました。
とんまの六兵衛 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
腹は減る、眼は痛む、足はひょろつく、という始末で進退全くきわまって我れ知らず雪の中へすわり込んでこりゃ死ぬより外に道がないのだろうという考えがつきました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
男も女も、立てば、すわったものを下人げにんと心得る、すなわちあごの下に人間はない気なのだそうである。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やよせがれ、今言ひしは慥に齋藤時頼が眞の言葉か、幼少より筋骨きんこつ人に勝れて逞しく、膽力さへすわりたる其方、行末の出世の程も頼母しく、我が白髮首しらがくび生甲斐いきがひあらん日をば
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
眼を塞がれながら一人座敷に取り残されて、暫くすわっていると、間もなくふすまの開く音がした。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
洋琴オルガンは全く哀調を奏でて居たぢやないか、——厳粛にすわつて謹聴してる篠田先生の方を、チヨイチヨイとて居なすツたがネ、其胸中には何等の感想が往来してたであらうか
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
と云つて笑顔もせずに二重まはしの儘で山田はすわつた。保雄は山田の態度がしやくさはつたので
執達吏 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
蘆の姿も千代子の姿もさらに見えない、三等室に入って窓の際に小林と相対あいむかってすわった。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
ただしくすわったひざうえに、りょういたまま、駕籠かごなかからいけのおもてに視線しせんうつした。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
顔がかなりで生半分なまはんか物が分って、悪い事に胆のすわった女ほど気味の悪いものはない。
秋毛 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
冥想的めいそうてきな哲学的なこころにひたされて、教授はいつまでもそのまえにすわろうとせられました。またそれとともに一方では古代的な要素を多く含んでいる雅楽ががくにも異常な興味を感ぜられました。
今上第一の御皇子みこにましまし、梨本御門跡なしのもとごもんぜきとならせたまい、つづいて比叡山延暦寺の、天台座主ざすすわらせられたまいし、尊雲法親王様におかせられては、二度目の座主をおめあそばされ
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
今宵こよひれば如何いかにもあさましい有樣ありさま木賃泊きちんどまりになさんすやうにらうとはおもひもらぬ、わたし此人このひとおもはれて、十二のとしより十七まで明暮あけくかほあはせるたび行々ゆく/\みせ彼處あすこすわつて
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
惜しい事に真向まむきすわった小野さんには分からない。詩人は感覚美を好む。これほどの肉の上げ具合、これほどの肉の退き具合、これほどの光線に、これほどの色の付き具合は滅多めったに見られない。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
身を切るような風吹きてみぞれ降る夜の、まだ宵ながら餅屋ではいつもよりも早くめて、幸衛門は酒一口飲めぬ身の慰藉なぐさみなく堅い男ゆえ炬燵こたつもぐって寝そべるほどの楽もせず火鉢ひばちを控えて厳然ちゃんすわ
置土産 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
満目の緑にすわる主かな
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
突然な斯の来客の底意の程も図りかね、相対さしむかひすわる前から、もう何となく気不味きまづかつた。丑松はすこしも油断することが出来なかつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
さっきの蕈を置いた処へ来ると理助はどっかり足を投げ出してすわって炭俵をしょいました。それから胸で両方からなわを結んで言いました。
(新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
はちかつぎはあさばんもおかままえすわって、いぶりくさまきのにおいに目もはないためながら、ひまさえあればなみだばかりこぼしていました。
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
すわって居て行路の人をながむるのは、断片だんぺんの芝居を見る様に面白い。時々はみどり油箪ゆたんや振りのくれないを遠目に見せて嫁入りが通る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
にわあそんでいると、大きな庭石にわいしの上にのぼってよろこんでいますし、へやの中にいると、つくえ卓子テイブルの上にすわりこんでいます。
強い賢い王様の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
ある日、私は、私達わたしたちをこの家へみちびき入れたをかの上へ行つてみた。私は二人でやすんだくさの中へすわつてみた。
美しい家 (新字旧仮名) / 横光利一(著)
と、同時に囲炉裏には火がめろめろとえ出した。勘太郎は天井の穴に目をつけて下をのぞき始めた。めろめろとした赤いほのおは、炉端にすわっている四ひきの鬼の顔をらした。
鬼退治 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
よた/\と引返ひきかへし「おつけのなんとかいつたね。さう、大根だいこんか。大根だいこん大根だいこん大根だいこんでセー」とはなうたで、ひとつおいた隣座敷となりざしきの、をとこ一人客ひとりきやくところへ、どしどしどしん、すわんだ。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
帯は高く結んでおいででしたが、どんな色合であったか覚えておりません。忘れたのか、それともその時は、ずっとふすまの側に並んですわっていましたから、其処そこから見えなかったのかも知れません。
大塚楠緒子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
江藤は火鉢ひばちのそばにすわって勝手に茶を飲み、とぼけた顔をして
郊外 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
卓の一はしすわっていたアウシュコルンは答えた
糸くず (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
布団の上には甲野こうのの母がひんよくすわっている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おみちはむすめのような顔いろでまだぼんやりしたようにすわっていた。それは嘉吉がおみちを知ってからわずかに二だけ見た表情ひょうじょうであった。
十六日 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
瀬川君さへ居なくなつて了へば、後は君、もう吾儕われ/\の天下さ。どうかして瀬川君をして、是非其後へは君にすわつて頂きたい。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
いよいよお嫁合よめあわせの時刻じこくになると、その支度したく出来できたお座敷ざしきへ、いちばん上のにいさんから次男じなんなん順々じゅんじゅんにおよめさんをれてすわりました。
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
洋服の若い男が坊さんと相対してすわって居る。医者であろう。左のうでに黒布を巻いた白衣はくいの看護婦の姿が見える。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
私は白いくさをかみながら立ち上つた。ふと、私はそのくさが、去年きよねんあき私達わたしたちすわつてみつけたときのくさ相違さうゐないとかんがへた。それが一を落してまたを出した。
美しい家 (新字旧仮名) / 横光利一(著)
うたなるかな。ふるのきにおとづれた。なにすわつてても、苗屋なへやかさえるのだが、そこは凡夫ぼんぷだ、おしろいといたばかりで、やれすだれごしのりだしてたのであるが、つゞいて
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
すると、かたわらにすわっていた家来の一人が
とんまの六兵衛 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
楢夫はすっかり面白おもしろくなって、自分も立ちあがりましたが、どうも余りせいが高過ぎて、調子が変なので、又すわって云いました。
さるのこしかけ (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そのわりおぼうさま、しっかりたのんでおきますがね、わたしがかえってくるまで、あなたはそこにじっとすわっていて、どこへもうごかないでくださいよ。
安達が原 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
かぜゆき水車小屋すゐしやごやまつてしまひさうなました。いし毎日まいにちすわつてるどころか、どうかするとかぜばされて、板屋根いたやねうへからころがりちさうにりました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
われらしきが、一念發起いちねんほつきおよんだほどお小遣こづかひはたいて、うすものつまに、すツとながじゆばんの模樣もやうく、……水色みづいろの、色氣いろけは(たつた)で……なゝめすわらせたとしたところで、歌澤うたざはなんとかで、あのはにあるの
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それから棚から鉄の棒をおろして来て椅子へどっかりすわって一ばんはじのあまがえるの緑色のあたまをこつんとたたきました。
カイロ団長 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)