すわ)” の例文
三人の王女は草の上にすわつて、ふさ/\した金の髪を、貝殻かひがらくしですいて、忘れなぐさや、百合ゆりの花を、一ぱい、飾りにさしました。
湖水の鐘 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
彼はかの女の傍に立膝たてひざしてすわると、いくらか手入れを手伝ひながら、かの女の気配を計つた。かの女の丸い顔をいぢらしさうに見た。
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
「もう、その度にね、私はね、腰かけた足も、足駄の上で、何だって、こう脊が高いだろう、と土間へ、へたへたとすわりたかった。」
女客 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……月心尼は草庵のなかにすわったまま、終日看経していた、心は静かに澄んでいたし、眼には仏の慈悲を思わせる浄光が溢れていた。
春いくたび (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
すると廊下伝ろうかづたいへやの入口まで来た彼は、座蒲団ざぶとんの上にきちんとすわっている私の姿を見るや否や、「いやに澄ましているな」と云った。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
高さこそは私のせいより少し低い位でしたが、三人すわつて遊ぶにはもつてこいといふ加減で、下にぢいやに頼んで枯草かれくさを敷いてらひ
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
ところが、ブロム・ボーンズときたら、恋と嫉妬しっとですっかりいためつけられて、ひとりで片隅にすわりこみ、怏々おうおうとしていたのである。
女は庭の物のが自分のすわっている所まで這入って来なくなったように思った。窓の所まで行って、そのを吸い込みたいのである。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
ヂュリ そのやうなことをそちしたこそくさりをれ! はぢかしゃる身分みぶんかいの、彼方あのかたひたひにははぢなどははづかしがってすわらぬ。
りたてのかべ狹苦せまくるしい小屋こや内側うちがはしめつぽくかつくらくした。かべつち段々だん/\かわくのが待遠まちどほ卯平うへい毎日まいにちゆかうへむしろすわつてたいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
まるで空き家にでもすわっている感じで、薄暗い電燈といい、シーンと静まり返った様子といい、なんだかゾッとこわくなるほどであった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
もっとも沼南は極めて多忙で、地方の有志者などが頻繁ひんぱんに出入していたから、我々閑人ひまじんにユックリすわり込まれるのは迷惑だったに違いない。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
もどかしくッてたまらないという風に、自分が用のない時は、火鉢ひばちの前にすわって、目を離さず、その長いあごで両親を使いまわしている。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
その家の老母は、仏壇の前にきちんとすわって、朝晩お経をあげていた。そして月に二、三回もお坊さんが来て、長いお経をあげた。
『西遊記』の夢 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
そののんびりしたハミングを聞くともなしに聞いて、良子はベッドにすわったまま、ぼんやりと窓の外の明るく晴れた空を見ていた。
一人ぼっちのプレゼント (新字新仮名) / 山川方夫(著)
かれらはすべて地に臥しゐたるに、こゝにひとり我等がその前を過ぐるをみ、すわらんとてたゞちに身を起せる者ありき 三七—三九
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
若いころの自分には親代々おやだい/\薄暗うすぐらい質屋の店先みせさきすわつてうらゝかな春の日をよそに働きくらすのが、いかにつらくいかになさけなかつたであらう。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
それがいかなる形であったかは断定し得ぬが、或いはヰルヰなどではなかったろうか。ヰルはすわることであり、ヰは座席のことである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
かれはどつかりすわつた、よこになつたがまた起直おきなほる。さうしてそでひたひながれる冷汗ひやあせいたが顏中かほぢゆう燒魚やきざかな腥膻なまぐさにほひがしてた。かれまたあるす。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
お母様は二人を見送ると、茶ノ間の長火鉢の横にすわつて、雑誌をひざの上に開きながら、うれしさうにこんなことを思はれました。
母の日 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
私は右隣にすわっている私の護衛の私立探偵を盗み見た。彼は踏反ふんぞり返って、眼をつぶっている。私はしっかり内ポケットを押えた。
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
そとが明るいだけに教場の中は暗くなって僕の心の中のようでした。自分の席にすわっていながら僕の眼は時々ジムのテイブルの方に走りました。
一房の葡萄 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
それから、おどれといえばおどるし、すわれといえばすわるし、人形はいうとおりにうごまわるのです。甚兵衛はあきかえってしまいました。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
その悲壮な心情に対して、いわゆる組織の上にヌクヌクとすわりこんでいたボル派の奴らが、冒涜ぼうとく的な言辞をろうすることは断じて許せない。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
感傷の場合、私はすわって眺めている、ってそこまで動いてゆくのではない。いな、私はほんとには眺めてさえいないであろう。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
けれども、いたずらに感情が高ぶって、わくわくしてしまって、すわって居られなくなるのだ。そうして、ただやたらに部屋の整頓である。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
書斎へ這入はいって来た幸子に、まあそこへすわれと云って、僕は啓坊の勘当された事情を或る所から聞いて来た、と云うのであった。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
はなしませう』とつて海龜うみがめふと銅鑼聲どらごゑで、『おすわりな、二人ふたりとも、それでわたしはなをへるまで、一言ひとことでも饒舌しやべつてはならない』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
それにって、相手の心を少しでも傷けはしなかったかと思うと、彼女は立ってもすわっても、いられないような心持がし初めた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「いゝえ、外へ出なくてもいゝのだよ、ただそこへすわつたまゝ、この傘の下に入れば、ぐ行かれるんだ、いゝかね、ほうれ。」
夢の国 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
が、そのあひだ勿論もちろんあの小娘こむすめが、あたか卑俗ひぞく現實げんじつ人間にんげんにしたやうなおももちで、わたくしまへすわつてゐることえず意識いしきせずにはゐられなかつた。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
午後ごゝんだがれさうにもせずくもふようにしてぶ、せまたに益々ます/\せまくなつて、ぼく牢獄らうごくにでもすわつて
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
地震じしんや」「地震や」同時に声が出て、蝶子は襖につかまったことは掴まったが、いきなり腰をかし、キャッと叫んですわり込んでしまった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
金工かざりや仕事場しごとばすわって、黄金きんくさりつくっていましたが、家根やねうえうたっているとりこえくと、いいこえだとおもって、立上たちあがってました。
馬鹿野郎め、と親方に大喝されてそのままにぐずりとすわりおとなしく居るかと思えば、散らかりし還原海苔もどしのりの上に額おしつけはや鼾声いびきなり。
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
良寛さんは、草鞋わらぢをぬいで上にあがると、行燈あんどんに火を入れる気力もなくて、菫の花束をひざにのせたまま、ぼんやりすわつてゐた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
にぎり向ふをきつと見詰たる手先にさは箸箱はしばこをばつかみながらに忌々いま/\しいと怒りの餘り打氣うつきもなくかたへ茫然ぼんやりすわりゐて獨言をば聞ゐたる和吉の天窓あたま
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「どうもないだろう。」とすわったままひさしの先から空を見上げて、「大丈夫やろう、あの通り北風雲あいぐもだから。」と言いました。
少年と海 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
たちまち彼の顔は真っ赤になり、——それから真っさおになった。数分間、彼はすわったままその図を詳しく調べつづけていた。
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
アリョーシャは長老を寝室へ助け導いて寝台の上へすわらせた。それは、ほんのなくてはならぬ家具を並べただけの、ささやかな部屋であった。
そして、紀久子は咽んで肩の辺りに波打たせながら、傍らの小卓の前にすわり直した。卓の上には、敬二郎の使い残しの紙と万年筆とがあった。
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
家の中には、カーテンに半ばかくれながら、黒っぽい服を着た女がすわって、父と話をしている。この女が、ジナイーダだった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
あそこで大きな白熊しろくまがうろつき、ピングィンちょうしりを据えてすわり、光って漂い歩く氷の宮殿のあたりに、昔話にありそうな海象かいぞうが群がっている。
冬の王 (新字新仮名) / ハンス・ランド(著)
私は廿分間にじっぷんかんばかり、あれやこれやと考えてみて、何か心に思い当ることを見つけようと思って、じっとすわっておりました。
黄色な顔 (新字新仮名) / アーサー・コナン・ドイル(著)
それからどこかへ行って、尻尾しっぽで輪を作ってその中にすわり、拳固げんこのように格好よく引き締った頭で、余念なく夢想にふける。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
そこでかれ小屋こやまえすわりましたが、ると、蝶番ちょうつがいひとつなくなっていて、そのためにがきっちりしまっていません。
そのとき、また一人の佐官が梶の傍へ来てすわった。そして、栖方に挨拶あいさつして黙黙とフォークを持ったが、この佐官もひどくこの夕は沈んでいた。
微笑 (新字新仮名) / 横光利一(著)
いよいよわたくし病勢びょうせいおもって、もうとてもむずかしいとおもわれましたときに、わたくし枕辺まくらべすわってられるははかってたのみました。
で、ただその供養を見ただけで法会ほうえには行きません。なぜ行かないかというに何分なにぶん急込せせこましくってなかなかすわる場所がない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
両手りょうてで頭をかかえて書物しょもつ挿絵さしえに見入っている時でも——台所だいどころのいちばんうす暗い片隅かたすみで、自分の小さな椅子いすすわって、夜になりかかっているのに
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)