あに)” の例文
お袋は、なんでもあにさん次第だし、楽しみといふ楽しみ、欲望といふ欲望を、悉く、こつちは、兄貴の手に委ねてゐたやうなもんだ。
ここに弟あり (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
ぼくは、そうきくと、物心ものごころのつかない幼時ようじのことだけれど、なんとなく、いじらしいあにのすがたがかんで、かなしくなるのです。
兄の声 (新字新仮名) / 小川未明(著)
別なことばでいふとこぼたねだ。だから母夫人の腹に、腹の違ツたあにか弟が出来てゐたならば勝見家に取ツて彼は無用むよう長物ちやうぶつであツたのだ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「いえ、行末は一緒にしたいと爺さんが口ぐせに言っておりましたが、あにさんはなにぶんにも偏屈人で、私は恐ろしくて恐ろしくて」
「いゝえ、あに一緒いつしよですから……でも大雪おほゆきなぞは、まちからみちえますと、こゝにわたし一人ひとりきりで、五日いつか六日むいかくらしますよ。」
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
角「あにさんにも御亭主にもわしが逢わせようが、まだ兄さんは支度も出来めえから逢わして上げやすべえ、心配しねえがうがんす」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
けれども、あに其所そこを見抜いてかねを貸さないとすると、一寸ちよつと意外な連帯をして、兄がどんな態度に変るか、試験して見たくもある。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
このかみさまたちの中に、秋山あきやま下氷男したびおとこ春山はるやま霞男かすみおとこという兄弟きょうだいかみさまがありました。ある日あに秋山あきやま下氷男したびおとこは、おとうと霞男かすみおとこかって
春山秋山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
あに(権平氏)さんと喧嘩でもする時はチヤンと端坐かしこまつて、肱を張つて、兄さんの顔を見詰め、それはイキませぬ、と云ふ様な調子でした。
小半町ばかりけて行って、本願寺橋の袂でだしぬけに『おい、あにい』と声をかけると、そいつはびっくりしたように振り返る。
のぶちゃんは恨めしそうな顔をして「あにさんの意地悪。」と云って、仕方なさそうに私たちの後からすこし遅れて附いてくる。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
てゝせり呉服ごふくるかげもなかりしが六間間口ろくけんまぐちくろぬり土藏どざうときのまに身代しんだいたちあがりてをとこ二人ふたりうちあに無論むろんいへ相續あととりおとゝには母方はゝかたたえたるせい
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あにき」と二男弥五兵衛が嫡子に言った。「兄弟喧嘩をするなと、おっさんは言いおいた。それには誰も異存はあるまい。 ...
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
と大勢の中から叫び返したあにいがあります。芝居の弁慶で贋物でないのは無い。本物の弁慶なら、そう容易たやすくは捉まるまい。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
一生を通じてあの方はいつも親切な、気持よく人の世話をするあにさんぶりで、それにいつも若々しい好奇心をいつぱい持つてをられる人だつた。
菊池さんのおもひで (新字旧仮名) / 片山広子(著)
悪いところはどのようにも直して御奉公します、お暇だけはどうか勘弁して頂けますように、あにさんからもおわびを申上げて下さい、こう申しまして
日本婦道記:二十三年 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
わたしはかの女の父親と、あにさんやあねさんたちをとりわけかの女を幸福にしてやりたいと思った。リーズはマチアとちがってそれをよろこんでいた。
死んだくろあにが矢張黒と云った。遊びに来ると、しろが烈しくねたんだ。主人等が黒に愛想をすると、白は思わせぶりに終日しゅうじつ影を見せぬことがあった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
あにさんもおりのやうですが、うしてあれを傍観ばうくわんしてゐらつしやるのかと、むし不思議ふしぎおもつてゐるくらゐです。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
「旦那様は鯉のお刺身と木の芽田楽が大層お好きと、その御方おかた仰言おっしゃりました。それであにさんが大急ぎで作りました」
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
つまたゞ一人ひとりあにであれば、あたことならみづか見舞みまひもし、ひさしぶりに故山こざんつきをもながめたいとの願望ねがひ丁度ちやうど小兒せうにのこともあるので、しからばこの機會をりにといふので
けれどこれはあにが知らぬからとて、事実無根とは断言出来がたしなど笑ひ申し候。君にも似合はぬ仕事かな。ある事はありてよし、なきことはなくてよし。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
つくしけれども終に養生やうじやうかなはず相果あひはてけり因てあに半作は勿論半四郎ももとより孝心深き者ゆゑ其愁傷そのしうしやう大方ならずと雖もかくて有べきにあらざれば泣々なく/\野邊のべの送りを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あにい、そんなこわい顔をしなくてもいいじゃないか。おれは、この箱をお前に見せないとはいいはしないじゃないか。ほら、このまま兄いにまかせるよ」
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「マンさん、あんたもどうやら、出心でごころがついたようにあるねえ。あにさんの林助りんすけさんは、関門の方に行ってなさるということだが、元気にしてりんさるかね」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
乙丑中秋後いっちゅうちゅうしゅうご二日あにに寄する詩の句に曰く、苦節伯夷はくいを慕うと。人異なれば情異なり、情異なれば詩異なり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
私から義雄さんへてて手紙をげて置きました。あの中にはいくらか自分の心持も出ているつもりですが、あれをあにさんは読んで見て下すったでしょうか。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あにやが一人いなくなったからな。それにしても甚内は馬鹿な奴だ。何故海へなぞ行ったのかしら。こんなよい土地を棒に振ってよ。ほんとに馬鹿な野郎じゃねえか。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その好奇ものずきさ加減も、気が知れねえ……と、打てばひびくというところから、つづみの名ある駒形のあにい与吉、ひとり物思いにふけりながら、ブラリ、ブラリやってくる。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「そんなことはないだろう、君んとこは、金はあるし、あにさんはあんないい人だし、へんじゃないか」
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そのうちに、こんどは諭吉ゆきちちょうチフスにかかりました。それは、適塾てきじゅくあにでしであるきしというひとが、ちょうチフスにかかったのをかんびょうしていて、うつったのでした。
○そも/\時平公は大職冠九代の孫照そんせうぜん公の嫡男ちやくなんにて、代々□臣の家柄いへがらなり。しかのみならず延喜帝の皇后きさきあになり。このゆゑに若年にして□臣の貴重きちやうしよくししなり。
『榮子なんか駄目だ。馬鹿。威張ゐばつたつて駄目だよ。あにさんをつたりしてももう聞かないよ。』
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
しっかりやっておくれ、あにさんも大へんにお喜びなのだから——間もなく母からは心をこめた激励の手紙さえ届けられてきた。さすがに次郎吉、うれしくないことはなかった。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
「あのう、いつもおはなしいたしますあにが、ゆうべひょっこり、かえってたのでござんす」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
チベットの最高僧を師とす ところがここに最もよい教師というのは前大蔵大臣のあにさんでチー・リンボチェという方がある。これは父ちがいの兄さんでシナ人のお子だそうです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
あに一人ひとりあつたが戦地せんちおくられるともなく病気びやうきたふれ、ちゝ空襲くうしふとき焼死せうしして一全滅ぜんめつした始末しまつに、道子みちこ松戸まつど田舎ゐなか農業のうげふをしてゐる母親はゝおや実家じつかはゝともにつれられてつたが
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
あにい、寺は何處だい、御苦勞だな、と棹をいれながら、船頭が挨拶をした。
佃のわたし (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
爺さんのあにさんにあたる郷里の小学校長と内儀さんの従弟の代書屋である。
神楽坂 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
あにさん何してるのだと舟大工ふなだいくの子の声をそろによればその時の小生せうせいあにさんにそろ如斯かくのごときもの幾年いくねんきしともなく綾瀬あやせとほざかりそろのち浅草公園あさくさこうえん共同きようどう腰掛こしかけもたれての前を行交ゆきか男女なんによ年配ねんぱい
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
一 兄公こじゅうと女公こじゅうとめは夫の兄弟なれば敬ふ可し。夫の親類にそしられにくまるれば舅姑の心にそむきて我身の為にはよろしからず。睦敷むつまじくすれば嫜の心にも協う。又あいよめを親み睦敷すべし。殊更夫のあにあによめあつくうやまふべし。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
信頼のぶより信西しんぜいほどの実行の力も気概もない。そして関白争いなどと云うおかしな真似まねをしでかしては風流学問に身をかわす。惜しい人物だ。それにつけてもあに様の一慶和尚は立派なお人であったぞ。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
憚りながら未だ南京米を口に入れた事の無いおあにいさんだ。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
元來ぐわんらい志村しむら自分じぶんよりかとしあにきふも一ねんうへであつたが
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
いままで、たのしかった、いえなかは、たちまちわらいがえてしまって、あには、自分じぶん本箱ほんばこや、つくえのひきだしを、かたづけはじめました。
たましいは生きている (新字新仮名) / 小川未明(著)
母「直ぐに帰れといっても、お前の来るのを待って居て、お前の坐る所へ整然ちゃんとお膳もおあにいさんのと仰しゃって心配をなすって」
もらうと言ったかたなの。ほほほおかしいでしょう。美禰子さんのおあにいさんのお友だちよ。私近いうちにまた兄といっしょに家を
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あにさんは龍馬とは親子程年が違つて居ました。一ばんうへが兄さん(権平)で次がお乙女さん其次が高松太郎のママ、其次が又女で龍馬は末子です。
千里駒後日譚 (新字旧仮名) / 川田瑞穂楢崎竜川田雪山(著)
あはれ、あに元太郎もとたらうは、何事なにごとふりますで、何時いつもよりかへつておそくまで野良のらかへらないでたとふのに。
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
竹村たけむらにはおもひがけないことであつたが、しかし彼女かのぢよあねとかあにとかいふ近親きんしんひとがあるなら、そのたれかゞかれたづねてくるのに不思議ふしぎはないはずであつた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)