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元太郎
あはれ、
兄の
元太郎は、
何事も
見ぬ
振で
濟ます
氣で、
何時より
却つて
遲くまで
野良へ
出て
歸らないで
居たと
言ふのに。
嫁はお
艷と
云つて、
同國一ノ
宮の
百姓喜兵衞の
娘で、
兄元太郎の
此が
女房。
束ね
髮で、かぶつては
居るけれども、
色白で
眉容の
美しいだけに
身體が
弱い。
と
云ふ
處へ、
千種はぎ/\の
股引で、ひよいと
歸つて
來たのは
兄じや
人、
元太郎で。これを
見ると
是非も
言はず、
默つてフイと
消失せるが
如く
出て
了つた。