めし)” の例文
それは唯はた目には石鹸せつけん歯磨はみがきを売る行商ぎやうしやうだつた。しかし武さんはめしさへ食へれば、滅多めつたに荷を背負せおつて出かけたことはなかつた。
素描三題 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「やい、宿やど六、めしをだしてくれ、めしを。はらがぺこぺこだ。え。こんなにくらくなつたに、まだランプもけやがらねえのか。え、おい」
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
「そんじゃ、めしでもって、一休みして、はじめるかの」と、一人は体を起して両手をさきさがりにうんとひろげながら背のびをした。
岩魚の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
めしや香の物には仔細しさいはなかつたさうだ、——これは御主人の言つたことだ。飯や香の物だけを食つて、味噌汁を食はないのは誰だい」
一生の思出に、一度は近郷きんごう近在きんざいの衆を呼んで、ピン/\した鯛の刺身煮附に、ゆきような米のめしで腹が割ける程馳走をして見たいものだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
達磨だるまはそれぎり話題わだいのぼらなかつたが、これがいとくちになつて、三にんめしまで無邪氣むじやき長閑のどかはなしをつゞけた。仕舞しまひ小六ころくへて
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
大窪の泉と云つて、杉の根から湧く清水を大きい据桶に湛へて、雨水を防ぐ為に屋根をいた。町の半数の家々ではこの水でめしかしぐ。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
勘次かんじはむつゝりとした卯平うへい戸口とぐちのぞいたこともないが、卯平うへいすぐてもなくてもめし出來できときびにくのはおつぎであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「眼がさめると、おれたちがこしらえたしるめしをたらふくくらって、自慢話じまんばなしでいばりちらす……考えてみると、兵糧方はわりがわるい」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて仕事しごとがおわって、あにながしでをあらっていると、土間どまのかたすみで、ペスが、おとうとのあたえためしべているのがはいりました。
ペスときょうだい (新字新仮名) / 小川未明(著)
しよめしなぞべると、かれはいつでもこゝろ空虚くうきようつたへるやうな調子てうしでありながら、さうつてさびしいかほ興奮こうふんいろうかべてゐた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
しばらまつててゐるうちに、いしかべ沿うてつくけてあるつくゑうへ大勢おほぜいそうめしさいしる鍋釜なべかまからうつしてゐるのがえてた。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
一日二日まえ、下女がうっかりしてよぶのをわすれたら、ついにめしいにこなかった。若衆わかしゅうはすましたことと思ってさそわなかったとか。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
というのは監獄のはいわゆる四めしとかで南京米なんきんまいが四割入っているようだが、部落には白い米などはただの一粒もなかったからである。
その時は冬の事で、サア出帆した所が大嵐おおあらし、毎日々々の大嵐、なか/\茶椀にめしもって本式にべるなんと云うことは容易な事ではない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
この乞食こじきが三日もめしを食わぬときにいちばんに痛切に感ずるものはである。握飯にぎりめしでも食いたいというのが彼の理想である。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「まだ、へい、にもござりましねえね、いんまわらびのおしるがたけるだが、おめし昨日きのふ冷飯ひやめしだ、それでよくばげますがね。」
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
祖母の云うのはみんな北海道開拓当時かいたくとうじのことらしくてくまだのアイヌだの南瓜かぼちゃめし玉蜀黍とうもろこし団子だんごやいまとはよほどちがうだろうと思われた。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
客「イヤハヤ僕は味噌みそをさえ摺る事が下手へたですからとても駄目だめです」妻君「男の人は誰でも台所の事を軽蔑してめしきようも知らんとか、 ...
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「僕はね、君、めしのあとで昼寝はしないんだが」とイヷン・イヷーヌィチが言った、「君はどうぞ長椅子部屋へ行って休んでくれたまえ。」
(新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
イヤ又た一つ出来た、今度は男の心意気よ『工場の夜業でかゝあが遅い、餓鬼がきはむづかる、めしや冷える』ハヽヽヽ是れぢや矢ツ張りり切れねい
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
これに対して九州の一部、たとえば佐賀県の三養基みやき郡などでは、おなじ小昼こびるの食事をヤーノメシ(あいのめし)ともいっている。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ひなびた山の中の温泉には、ろくに食うものがないから、めしを食おうと思えば、どうしてもそこへ行くよりほかはなかった。
鮎の食い方 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
名探偵かは知らないが、今まで半年あまりも、彼とは同じ団員として、同じかまめしをたべているという形だったんだから。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その夜、夕餐ゆふさんのとき赤彦君は『めしを見るのもいやになつた』といつたさうである。十八日に摂津国を立つた中村君は、十九日に柹蔭山房に著いた。
島木赤彦臨終記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
添て持來りければ是は御世話と云ながら夫婦はやがて一合の酒をのみめしくひをはりて身支度をしながら御亭主是から江戸迄何里あるやと問ひけるに亭主は是を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「もうめしを食っとる暇はない。またしばらくせわしいでみじんだ。今夜はおそいかもしれんよ。おれたちには天長節てんちょうせつも何もあったもんじゃない」
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ここは出迎えの自動車もあって、一流の宿屋だときいたのだけれど、朝飯にふかしめしを出されて、吃驚びっくりしてしまった。
朝御飯 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
「ああ、その事ですか。……めしなんかいたことはありませんよ。米は持っているには持っているんですが、とても、そんな時間がないもんだから」
キャラコさん:04 女の手 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ハハハハ、氷をもてあそべば水を得るのみ、花のにおい虚空そらに留まらぬと聞いていたが、ほんとにそうだ。ハハハハ。どれどれめしにしようか、長話しをした。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ともすようにして暮らしたその日その日のめしの減り方まで多いの少いのと云うので食事も十分にはれなかったくらいであった奉公人は蔭口かげぐちをきいて
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
『うちへ帰れば餓鬼が四人もありやして、ヘイ……毎朝、めしン時なんぞは飯粒だらけの中でおまんまを食べるんで』
随筆 寄席囃子 (新字新仮名) / 正岡容(著)
「よろしゅうございます。ねずみがわるささえしなければ、わたくしどももがまんして、あわびかいでかつぶしのごはんやしるかけめしべて満足まんぞくしています。」
猫の草紙 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「ふん。なにをいっても、張合はりあいのねえ野郎やろうだ。めしはらぱいわせてあるはずだに。もっとしっかり返事へんじをしねえ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「あははははは、お前さんはホンノリ化粧でもして、酒の一本もつけて、いつでもあったかいめしをたけるようにしたくして、亭主野郎の帰りを待つんだナ」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
めしくはせろ!』と銀之助は忌々いま/\しさうに言つて、白布はくふけてある長方形の食卓の前にドツカとはつた。
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
やがて林太郎は、おばあさんが、ねこのおわんへもってくれたしるかけめしをもって、土間へおりていきました。
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
老「旦那様、おめしが出来やしたが、さいは何もありませんぜ、只玉味噌たまみその汁と大根のどぶ漬があるばかりだ」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
つる千年せんねんかめ萬年まんねん人間にんげん常住じやうぢういつも月夜つきよこめめしならんをねがかりにも無常むじやうくわんずるなかれとは大福だいふく長者ちやうじやるべきひと肝心かんじん肝要かんえうかなめいしかたつてうごかぬところなりとか
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「なんでもあの人は、ぼくたちも町でなにか商売でもして、一もうけして来るがいい。ただめしを食われてはやりきれない、というようなことを言っていたと思う」
千日前常盤座ときわざ横「寿司すし捨」の鉄火巻とたいの皮の酢味噌すみそ、その向い「だるまや」のかやくめしと粕じるなどで、いずれも銭のかからぬいわば下手げてもの料理ばかりであった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
決して大言壮語を喜ぶ単純なる志士気質やあるいは国家をめしたねとする政治家肌からではなかった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
大きなにぎめしが二つ、豚の煮付け、それに縄のようなタクアン、切らずにそのまま入っている。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
何しろ米の出來るくににゐる田舎者ゐなかものが、こめの出來ない東京へ來て美味うまめしあり付かうとするんだからたまらん………だから東京には塵芥ごみが多い。要するに東京は人間の掃溜はきだめよ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「やアい、めし持つて來いよ。」と、姿には似ぬ細く優しい聲で叫ぶと、汚れた手拭を姉さん被りにして、耳の切れた黒繻子と茶色のメリンスとの晝夜帶を引きほどきにするか
太政官 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
ワガフたつてゴト好ギだテハデれダ夫婦フフだネ。十年も死んだオドサ義理立デデ、この上なに辛口カラグヂきガれるゴドアあるベナせ。はいホロゲ、ンガめしの上のはいホロゲ、はゝゝゝゝゝ。
地方主義篇:(散文詩) (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
うん、僕が麺麭パンを食ふと言ふのは実際珍らしい。この画室アトリエへ来て今日けふが初めてだ。夜分には例の土曜日に遣る日本めしの会が僕ン所であるんで和田、町田、大住おほすみなんて連中れんぢゆうが集まる。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
むろん腕力じまんのかれらには、モコウをひねりつぶすくらいは朝めしまえのことである。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
零落れいらくした女親をんなおやがこの世の楽しみとふのはまつた一人息子ひとりむすこ長吉ちやうきち出世しゆつせを見やうとふ事ばかりで、商人はいつ失敗するかわからないとふ経験から、おとよは三度のめしを二度にしても
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
箏曲家の鈴木鼓村氏は巨大胃メガロガストリイつた男として聞えてゐる人だが、氏は風邪にかゝると、五合めしと味噌汁をバケツに一杯食べて、それから平素ふだん余り好かない煙草をやけに吸ふのださうな。