とま)” の例文
爺さんはこんな事を云つて、頻りに女を慰めて居た。やがて汽車がとまつたら、では御大事にと、女に挨拶をして元気よくて行つた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それ大雪おほゆきのために進行しんかうつゞけられなくなつて、晩方ばんがた武生驛たけふえき越前ゑちぜん)へとまつたのです。ひて一町場ひとちやうばぐらゐは前進ぜんしん出來できないことはない。
雪霊続記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
その花の下に新しい木の箱を置いて、中にいわしの鱗の青々と光って居るのが眼にとまった。早春の日の下の白い梅の花と、鰯の背の青い光。
(新字新仮名) / 岩本素白(著)
とまつとつちやいかん。ようのないものはずんずん前進ぜんしんする‥‥」と、さわぎの最中さいちう小隊長せうたいちやう大島少尉おほしませうゐががみがみしたこゑ呶鳴どなつた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
本郷三丁目でとまると、下車する人々のために長い間手間てまどつた。私は人に押され押され、車掌台に立つて往来をながめてゐた。
イボタの虫 (新字旧仮名) / 中戸川吉二(著)
その事よりもあなたの客観写生ということについてお書きになったことに私の注意はとまりました。その事について一言してみたいと思います。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
たまに時計が九時でとまつてゐるとか、愛国婦人会の幹事の鼻がぺたんこであるとかすると、女史は直ぐ苦り切つた顔をして
と云って、羽田の悪酒を詰めるでもありませんから、船中ではありでもかじりましょう。食いさしを川の中へ捨てると、蝕歯むしばの痛みがとま呪法まじないでね
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
アンドレイ、エヒミチはいてはいたが、みみにもとまらぬふうで、なにかをかんがえながら、ビールをチビリチビリとんでいる。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「田舎の中学校へ行けば四十円取れるんだが、母校の為めさ。仕方がない。それにこゝに踏みとまっていれば、西洋人と接触するから、勉強になる」
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ラサ府にとまって居っても必ずその祈祷会に出なければならんという事はないですけれども、まあ大抵出ない者は少ない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
十二時頃にとまつた駅で錠をおろしてあつた戸が外から長い鍵でけられたひゞきを耳元で聞いて私は驚いて起き上つた。支那の国境へ来たのであるらしい。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
蠅は車体の屋根の上から、馭者の垂れ下った半白の頭に飛び移り、それから、濡れた馬の背中にとまって汗をめた。
(新字新仮名) / 横光利一(著)
月末にいたれば目にもとまるほどに昨日今日きのふけふと雪の丈け低くなり、もはや雪もふるまじと雪かこひもこゝかしこ取のけ、家のほとりにはなどの雪をもほりすつるに
彼様かような事に相成りまして、誠に何うもお目にとまり恐れ入りますが、どうか御尊父様へも武田様にも内々ない/\に願います
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
なるべく混血児の出没しゅつぼつしそうなところはないかと思ったので、秋晴あきばれの停留場の前に立っている土地の名所案内をズラリと眺めまわしたが、そこで目にとまったのは
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私がちッとも邪魔な事はないといって止めたけれど、最う斯うなってはとまらない、雪江さんは出て行って了う。松も出てく。私一人になって了った。詰らない……
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
棠軒が屡森枳園の留守を顧みたこと(一月五日、七日、八日)等がわたくしの目にとまつたのみである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
お通は双手もろてに顔を隠して、絶望的にうな垂れるのでした。切られたばかりの髪の毛は、紐にもくしにもとまらず、額へザクリとかかるのを、もう払い上げようともしません。
ずっと上流に投棄なげすてられたのが、流れ流れて、水門を越して、滝壺にとまっていたのか、諸説まちまちであったが、大滝附近に人殺しなど行われた様子のない所を見ると
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
烏が仰山ぎやうさん来た。寺の屋根へとまつたは。はれ屋根が青うく光つてきた。海のやうに光つて来たわ。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
此時このときたちまわたくしとまつたのはこの不思議ふしぎなる洞中造船所どうちゆうざうせんじよ中央ちうわうくらゐして、凹凸おうとついわかたち自然しぜん船臺せんだいをなしたるところ其處そこいま工事中こうじちゆうの、一種いつしゆ異樣ゐやう船體せんたいみとめられたのである。
わが宿の竹の林に、夕あかりかがよふ見れば、その竹の湿しめる根ごとに、何か散り、深く光れり。その節のひとつひとつに、何かまたとまり光れり。その笹のさみどりの葉に、何かまた揺れて光れり。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
半空なかそらより一文字に垂下すいかして、岌々きゆうきゆうたるそのいきほひほとんながむるまなことまらず。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
孟丙の弟仲壬は昭公の近侍きんじ某と親しくしていたが、一日友を公宮に訪ねた時、たまたま公の目にとまった。二言ふたこと三言みこと、その下問に答えている中に、気に入られたと見え、帰りには親しく玉環ぎょっかんを賜わった。
牛人 (新字新仮名) / 中島敦(著)
ながめ居るさまにもてなし肥前が目にとまりて心中にあやしと思はせん者とはかるとはつゆ知らざれば肥前は亭主ていしゆの彌次六に向ひたゞ今庭へ出給ふ御方は如何いかなる客人にや當人たゞびととは思はれずと云に彌次六は仕濟しすましたりと聲を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
されば自ら身を愛し、こゝ塔中にとまれかし
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
雀だって、四十雀しじゅうからだって、軒だの、榎だのにとまってないで、僕と一所に坐って話したらみんな分るんだけれど、離れてるから聞えませんの。
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ながあひだ外国を旅行してあるいた兄妹きようだいの画が沢山ある。双方共同じ姓で、しかも一つところならべて掛けてある。美禰子は其一枚の前にとまつた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
アンドレイ、エヒミチはいてはゐたが、みゝにもとまらぬふうで、なにかをかんがへながら、ビールをチビリ/\とんでゐる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
月末にいたれば目にもとまるほどに昨日今日きのふけふと雪の丈け低くなり、もはや雪もふるまじと雪かこひもこゝかしこ取のけ、家のほとりにはなどの雪をもほりすつるに
もうおたねとまっては隠すことは出来ない。あれは内から膨れて漸々だん/\前の方へ糶出せりだして来るから仕様がない。何うも変だ、様子がおかしいと注意をいたして居ました。
失望がつかりした医者は、最後に小娘を連れて、黒猩々の檻の前に立つた。猩々は手に食物たべもの破片かけらを持つて、お婆さんのやうにとまの上に、ちよこなんと坐つてゐた。
敵艦左舷てきかんさげんゆれば左舷さげん水雷すいらいこれ粉韲ふんさいするの有樣ありさまは、ほとんどにもとまらぬ活景くわつけいであらう。
そのとまったところに、船はかかったのであろう。葭原雀は又してもさえずり出した。
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
つぎつぎにとまれば深し小枝さえだの揺れひたすがりつつ燕が四五羽
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
水しやくひの娘は、いた玉子たまごを包みあへぬ、あせた緋金巾ひがなきん掻合かきあわせて、が赤いうおくわへたやうに、みよしにとぼんととまつて薄黒い。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
うでしやう」とつたぎり物指ものさしさきを、とまつたところいたなり、わたつたそらひとしきりながつた。宗助そうすけ細君さいくんかほずに
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
南無三なむさん。」とわたくし逡巡しりごみした。おほく白晢はくせき人種じんしゆあひだ人種じんしゆちがつた吾等われら不運ふうんにも彼等かれらとまつたのである。わたくし元來ぐわんらい無風流ぶふうりうきはまるをとこなのでこの不意打ふいうちにはほと/\閉口へいこうせざるをない。
一寸身につけてゐるやうな仕儀で——えらい所へお目がとまりましたな。
つけないうまものだからついべ過ぎてすつかりつうじがとまりましたので、のぼせて目が悪くなつて、誠にどうも向うが見えませんからせまとほりへつて、拝観人はいくわんにんなかへでもむやうなことがあつて
牛車 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
玉虫がぢつと、来てとまつた、凄いほど美しい凝視ぎようし
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
花畑はなばたけへでもいてると、綺麗きれい蝶々てふ/\は、おびて、とまつたんです、ひと不思議ふしぎなのは、立像りつざうきざんだのが、ひざやはらかにすつとすはる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
筆をいて、そっと出て見ると、文鳥は自分の方を向いたまま、とまの上から、のめりそうに白い胸を突き出して、高く千代と云った。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
玉蜀黍たうもろこしとまれば玉蜀黍たうもろこしうつる。
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
とまりにし。
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
乘組のりくんだふね帆柱ほばしらに、夕陽せきやうひかりびて、一ゆきごとたかきたとまつたはうつたとき連添つれそ民子たみこ如何いかかんじたらう。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
屋根のしたが一面に赤い。近寄つて見ると、唐辛子を干したのであつた。女は此赤いものが、唐辛子であると見分けのつく所迄とまつた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
雁来紅はげいとうとまれば雁来紅はげいとううつる。
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
町の方から、がや/\と、おんなまじりの四五人の声が、浮いた跫音あしおととともに塘堤どてをつたつて、風のとまつた影燈籠かげどうろうのやうに近づいて
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)