いよ/\)” の例文
其処そこへ和上の縁談が伝はつたので年寄としより仲間は皆眉をひそめたが、う云ふ運命まはりあはせであつたか、いよ/\呉服屋の娘の輿入こしいれがあると云ふ三日前みつかまへ
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
况んや前山の雲のたゝずまひの無心のうちにおのづからの秋の姿をそなへて、飄々へう/\高く揚らんとするの趣ある、我はいよ/\心を奪はれぬ。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
兎角とかくするうちにつき滿ちた。いよ/\うまれるといふ間際まぎはまでつまつたとき、宗助そうすけ役所やくしよながらも、御米およねことがしきりにかゝつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
一行はじめて団結だんけつ猛然もうぜん奮進にけつす又足を水中にとうずれば水勢ます/\きうとなり、両岸の岩壁いよ/\けんとなり、之に従つて河幅はすこぶちぢま
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
「文章は無䨇也」の一句は茶山が傾倒の情を言ひ尽してゐる。傾倒の情いよ/\深くして、其疵病しびやうあきたらぬ感も愈切ならざるを得ない。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
而して其の躰裁ていさいに至りても亦一家私乗の体を為し藩主浅野氏の事を書するときは直ちに其名を称せざるが如きいよ/\以て外史の本色を見るべき也。
頼襄を論ず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
勘次かんじいよ/\やとはれてくとなつたとき收穫とりいれいそいだ。冬至とうじちかづくころにははいふまでもなくはたけいもでも大根だいこでもそれぞれ始末しまつしなくてはならぬ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
彼は、瑠璃子の美しさがしみ/″\と、感ぜられゝば感ぜられる丈、たゞ黙つて、並んでゐることが、いよ/\苦痛になり出した。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
僕はいよ/\無気味になり、そつと椅子から立ち上ると、一足飛びに戸口へ飛び出さうとしました。丁度そこへ顔を出したのは幸ひにも医者のチヤツクです。
河童 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
いよ/\停車場の構内に着いたと思つた時には既に面と向つて驕奢なして冷酷な都会にブツツカツてゐたのである。
新橋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
木像もくざうしんあるなり。しんなけれどもれいあつてきたる。山深やまふかく、さとゆうに、堂宇だうう廃頽はいたいして、いよ/\けるがごとしかなり
甲冑堂 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
闘ふこといよ/\多くして愈激奮し、その最後に全く疲廃して万事をわする、この時こそ、悪より善に転じ、善より悪に転ずるなれ、この疲廃して昏睡するが如き間に。
心機妙変を論ず (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
その落ち工合が丁度上から槍で衝いたやうであつたことを思ふと、此語源説がいよ/\もつともらしく聞えて来る。
十三時 (新字旧仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
辺に沿ひて而して走れば、其の生を得る者と雖も敗る。弱くして而して伏せざる者はいよ/\屈し、躁いで而して勝を求むる者は多く敗る。両勢相囲まば、先づ其外に促れ。
囲碁雑考 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
かくてゴーゴンの在所ありかを三人の処女から教はつたパーシユーズは、四つの品を携へてゴーゴンの棲処すみかに向つた。いよ/\目的地に来て見ると三つのゴーゴンは熟睡して居る。
毒と迷信 (新字旧仮名) / 小酒井不木(著)
御身にも気が附いたらしかつた己の不機嫌はそれゆゑであつた。それに御身の若い盛んな容貌はいよ/\己の心を激させた。あゝ。己は御身の青春をどれ丈かねたましく思つただらう。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
いよ/\噴火ふんかはじまると菜花状さいかじよう噴煙ふんえん大小だいしよう種々しゆ/″\鎔岩ようがんまじへてばし、それが場合ばあひによつては數十町すうじつちようにもたつすることがある。このさい鎔岩ようがん水蒸氣すいじようきくことが目覺めざましい。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
その年もいよ/\おしつまつて、田原はたうとう辭表を提出した。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
文「いよ/\聴かれなければ此方こっちにも了簡りょうけんがある」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「ところがいよ/\我慢した挙句は。」
忠誠鯁直かうちやく之者は固陋ころうなりとして擯斥ひんせきせられ、平四郎の如き朝廷を誣罔ぶまうする大奸賊登庸とうようせられ、類を以て集り、政体を頽壊たいくわいし、外夷いよ/\跋扈ばつこせり。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
瑠璃子が、いよ/\窮したのを見ると、勝平はいよ/\威丈高になつた。彼は、獣そのまゝの形相を現して居た。ほの暗い洋燈ランプの光で、眼が物凄く光つた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
すであたまなかに、さう仕樣しやう下心したごゝろがあるから不可いけないのです」と宜道ぎだうまたつてかした。宗助そうすけいよ/\きゆうした。忽然こつぜん安井やすゐことかんがした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
地中海に面した港の口に運河の設計者レセツプスが地図を手にしてつゝ立つて居る銅像を左舷に見ながらいよ/\欧洲に一歩踏み旅客りよかくとなつた。(十二月廿三日)
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
かへるいよ/\ます/\ほこつてかしのやうなおほきな常緑木ときはぎ古葉ふるはをも一にからりとおとさせねばまないとする。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
で、自分はいよ/\その山中の二人の青年と親しくなつて、果てはほとんど毎日のやうにその二階を訪問した。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
只管ひたすら写真機械をたづさへ来らざりしをうらむのみ、いよ/\溯ればいよ/\奇にして山石皆凡ならず、右側の奇峰きばうへて俯視ふしすれば、豈図あにはからんや渓間けいかんの一丘上文珠もんじゆ菩薩の危坐きざせるあり
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
ただし其の部の痛みは非常であつて、見る間にあがり、赤くなり痛みはいよ/\はなはだしくなる。
毒と迷信 (新字旧仮名) / 小酒井不木(著)
老職らうしよくやからふもさらなり、諸役人等しよやくにんらも、いよ/\でて、いよ/\不平ふへいなれども、聰明そうめいなる幼君えうくんをはじめ、御一門ごいちもん歴々方れき/\がたのこらず御同意ごどういひ、こと此席このせきおいなにといふべきことばでず、わたくしども
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
一起一倒要するに性理学の範囲を出でず、抽象し又抽象し推拓し又推拓す、到底一圏を循環するに過ぎず、議論いよ/\高くして愈人生に遠かる。斯の如きは当時の儒者が通じて有する所の弊害なり。
頼襄を論ず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
噴火ふんか前景氣まへけいきいよ/\すゝんでると、火口かこうからの噴煙ふんえん突然とつぜんいきほひしてる。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
観察の範囲は一層拡大せられて、旧説の妄はいよ/\明になつた。「常年もかかるべけれども、今年はじめて心づきてしるすなり」
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
さう云はれると、瑠璃子は、いよ/\不安になつて来た。寝室へ退くことなどは愚か、父の部屋を遠く離れることさへが、心配で堪らなくなつて来た。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
實際じつさいんな發明はつめいは、宗助そうすけからると、本當ほんたうやうでもあり、またうそやうでもあり、いよ/\それが世間せけんおこなはれるまでは、贊成さんせい反對はんたい出來できかねたのである。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
いよ/\辞職と決したのでこの十七日に氏の御名残おなごり狂言がコメデイ・フランセエズ座で催され、氏の得意おはこの物を一幕ひとまくづゝ出し、ムネ・シユリイ其他そのたの名優が一座するはずである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
さうしていよ/\となればおれがどうにでも其處そこ始末しまつをつけてるから、なんでも愚圖ぐづ/\してちや駄目だめだとおしなこゝろ教唆そゝつたのであつた。おしなから一しん勘次かんじせまつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
大般涅槃経あたりに行くと、世尊がいかに唯我独尊であつたかといふことがいよ/\わかつて来る。
孤独と法身 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
いよ/\利根の水源すゐげん沿ふてさかのぼる、かへりみれば両岸は懸崖絶壁けんがいぜつぺき、加ふるに樹木じゆもく鬱蒼うつさうたり、たとひからふじて之をぐるを得るもみだりに時日をついやすのおそれあり、故にたとひ寒冷かんれいあしこふらすとも
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
彼れが富嶽の詩神を思ふの文はいよ/\奇也、曰く
いよ/\おくつて御父おとうさんにしかられてるかな」と云ひながら又洋盞コツプあによめの前へした。梅子はわらつてさけいだ。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
わたくしの此推定は誤らなかつた。しかし錦橋書上と直温先祖書の錦橋の条とは、広略くわうりやく大に相異なつてゐる。そして錦橋書上は其文いよ/\長うして其矛盾の痕は愈いちじるしい。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「そんな事はあるものか」と貞七は口では言つたが、成程それで十分に奮発する事も出来ないのかと思ふと、一層同情の念が加はつて、いよ/\慰藉ゐしやして遣らずには居られなくなつた。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
旋風器せんぷうきの起す風はわが髪のしづくたるる濡髪ぬれがみとなるをすら救はずさふらへば、そのおとの頭に響くおといよ/\うとましく覚え、それもさふらうては身はたゞ𤍠湯の中にあると思はばよからんと心を定め申しさふらふ
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
いよ/\となれば、うちからかねを取りせる気でゐた。それから、本来が四辺しへん風気ふうきを換えるのを目的とする移動だから、贅沢の方面へは重きを置かない決心であつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
倒れたまゝいよ/\起きまじとする重右衛門を殆ど五人掛りにて辛くも抱上げ、なほぐづ/\に埋窟りくつを云ひ懸くるにも頓着せずに、Xの字にその大広間をよろめきながら、つひ戸外おもてへとれ出した。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
清常より後の眞志屋の歴史はいよ/\模糊もことして來る。しかし大體を論ずれば眞志屋は既に衰替の期に入つてゐると謂ふことが出來る。眞志屋は自らさゝふることあたはざるがために、人の廡下ぶかつた。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
此涼しきりんの音が、わが肉體を貫いて、わが心を透して無限の幽境に赴くからは、身も魂も氷盤の如く清く、雪甌せつおうの如く冷かでなくてはならぬ。太織の夜具のなかなる余はいよ/\寒かつた。
京に着ける夕 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
うです此汽車で、神戸迄遊びに行きませんか」と勧めた。代助はたゞ難有うと答へた丈であつた。いよ/\汽車の間際まぎはに、梅子はわざと、窓際まどぎは近寄ちかよつて、とくに令嬢の名を呼んで
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
たゞでさへうして独逸ドイツに復讐してやらうかと考へ続けに考へて来た彼等が、いよ/\となると、かへつその独逸の為に領土の一部分を蹂躪じうりんされるばかりか、政庁さへ遠い所へ移さなければならなくなつたのは
点頭録 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)