おん)” の例文
一筆ひとふで示し上げ参らせそろ大同口だいどうこうよりのお手紙ただいま到着仕り候母様ははさん大へんおんよろこび涙を流してくり返しくり返しご覧相成り候」
遺言 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
(お退きと云うに。——やあ、お道さんのおん母君、母堂、お記念かたみの肉身と、衣類に対して失礼します、御許し下さい……御免。)
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
恐れあることにはそうらえども、召させたもう御鎧直垂おんよろいひたたれと、おん物の具とをたまわって、御諱おんいみなの字おかさせくださるべし、御命に代わり申すべし!
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「は。いいません。けれど……老公のおんまえでは、おゆるし下さい。お気にさわったら切腹を仰せつけられてもかまいませぬ」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手「こゝは……其の節置わすれそろ懐中物此のものへおん渡し被下度候くだされたくそろ、此の品粗まつなれどさし上候あげそろまずは用事のみあら/\※」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
大野書記官の部屋でお話をして居ると、階上の室で最後のおん別れに聖影を拝し奉る時間が来た。あつまつた者は秋月大使始め十七八人であつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
定めし御聞込おんききこみの事とは存じそうらへども、杵屋おん家元様は死去被遊候あそばされそろそれつき私共は今日こんにち午後四時同所に相寄候事あいよりそろことに御坐候。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
山はふかく、みちしげければ、ふみわくるひとさふらはぬに、ほととぎすにつけてのおんひとこゑ、ありがたし、ありがたし——
「よくは覚えぬが母が父のもとに見えたときにお持ちになったものらしい、母がよく埃をはらいおんみがきをかけておられたことを覚えている。」
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
流石さすが明治めいぢおん作者さくしや様方さまがたつうつうだけありて俗物ぞくぶつ済度さいどはやくも無二むに本願ほんぐわんとなし俗物ぞくぶつ調子てうし合点がてんして幇間たいこたゝきておひげちりはらふの工風くふう大悟たいご
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
この御横行の三字が非常に面白いじゃないですか。たっとんでおんの字をつけてるがその裏に立派な反抗心がある。気概がある。君も綱引御横行と日記にかくさ
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
高等おん下宿と書いてある看板が本郷あたりによくあったものだけれども、じっさい華族なんてものの大部分は、高等御乞食おんこじきとでもいったようなものなんだ。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
そこでタカギノイリ姫の生んだ御子みこは、ヌカダノオホナカツヒコの命・オホヤマモリの命・イザノマワカの命・オホハラの郎女いらつめ・タカモクの郎女いらつめおんかたです。
のつそつしながらすすびたる行燈あんどんの横手の楽落らくがきよめば山梨県士族山本勘介やまもとかんすけ大江山おおえやま退治の際一泊と禿筆ちびふであと、さては英雄殿もひとり旅の退屈に閉口してのおんわざくれ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
行蔵こうぞうは我に存す、毀誉きよは他人の主張、我にあずからず我に関せずとぞんじそうろう各人かくじん御示おしめし御座ござそうろうとも毛頭もうとう異存いぞん無之これなくそうろうおん差越之さしこしの御草稿ごそうこう拝受はいじゅいたしたく御許容ごきょよう可被下くださるべく候也そうろう
しゅねがわくはおんてんよりたまえ、なんじ右手めてもてたまえるこの葡萄園ぶどうぞの見守みまもらせたまえ、おとなたまえ。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
腰ごろもの観音さまれ仏にておはしますおん肩のあたりひざのあたり、はらはらと花散りこぼれて前に供へししきみの枝につもれるもをかしく、下ゆく子守りが鉢巻の
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
まことにまことに申上かね候え共、少々お目もじの上申上たき事御ざ候間、何卒なにとぞ御都合なし下されて、あなた様のよろしき折御立より下されたく幾重にもおん待申上候。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
わたくしは神々しいへりくだつたおん足の為に、わたくしのうやまひの心で美しい繻子のおん靴を造りまする、善い鋳型がかたを守る如く、しつくりとおん足を抱きつゝみまするやう。
年輩ねんぱいも、たしかみことはそのときおん二十四、ひめおん十七、どちらも人生じんせい花盛はなざかりなのでございました。
でも、おまへさまは、尊いおん神に仕へてゐる人だ。おれのからだにさはつてはならない。そこに居るんだ。ぢつとそこに蹈みとまつて居るものだ。——あゝおれは死んでゐる。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
聖武天皇位を継がせられてからおよそ十年、国内に盗賊絶えず天変地異の激しきを、すべておん自らの事としてうれい、「朕が不徳を以て致す所」と仰せられているのである。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
煩瑣はんさなる階級の差等さとう、「おん」とか、「せさせ給ふ」とかいう尊称語を除いてみれば、後世の型にとらわれた文章よりも、この方が、よほど、今日の口語こうごに近い語脈を伝えていて
『新訳源氏物語』初版の序 (新字新仮名) / 上田敏(著)
年来としごろ大内住うちずみに、辺鄙いなかの人ははたうるさくまさん、かのおんわたりにては、何の中将、宰相などいうに添いぶし給うらん、今更にくくこそおぼゆれ」などと云ってたわむれかかると
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ただ一身をもって陛下へいかおんためにささたてまつることのみを心得、他には何らの心得なきものであれば、今この席においてもあるいは御作法ごさほうそむくごときことがあるかも存じませぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
母上様に起こされようよう胸なでおろし参らせ候 愚痴と存じながらも何とやら気に相成りそれにつけてもおん帰りが待ち遠く存じ上げ参らせ候 何も何もお帰りの上にと日々にちにち東の空を
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
綏靖天皇すいぜいてんのうからおん七代をへだてて、第十代目に崇神天皇すじんてんのうがお位におつきになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
「そら御輿みこしがお通りになる、頭をさげい、ああおやせましましたこと、一天万乗いってんばんじょう御君おんきみ戦塵せんじんにまみれて山また山、谷また谷、北に南におんさすらいなさる。ああおそれ多いことじゃ」
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
ようもようもおんめでたう御障無おんさはりなう居らせられ、悲き中にも私のよろこびは是一つに御座候。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「さまよえる猶太人」「如何いかにも、のあたりに御受難のおん有様を拝しました。 ...
さまよえる猶太人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
とく/\おんこゝろをひるがえして、山を降りさせたまうべきなりとおぼえ候。
二人の稚児 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
まだそこいらに御別荘らしいものは一軒も御座いませんが、その界隈の地所でげすと、坪、五円でもいい顔を致しませんのに、その五六百坪ばかりは一円でもおんの字と申しますんで……ヘエ。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
殿はおん二十八歳、倭子という奥方があられるが、まだ嫡子がない。
玉取物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「え? わたくしに、おん奥義を、お譲り下されると仰有おっしゃるので?」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
あないせる尼僧のともすらふそくのゆらぐほのほにうかぶおん
閉戸閑詠 (新字旧仮名) / 河上肇(著)
るればやがて山内伊賀亮出會しゆつくわいふたゝ出來いできたおんこしおもぶき伺ひし處明日みやうにち伊豆守殿御屋敷へいらせられ候儀御承知の御返答なり其節そのせつ萬端ばんたんよろしく伊豆殿に頼み入趣きなりとの挨拶あいさつなり扨翌朝になり八山にては行列を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
うすものに日をいとはるゝおんかたち 水
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
釈迦八相倭文庫しゃかはっそうやまとぶんこ挿画さしえのうち、摩耶夫人のおんありさまを、絵のまま羽二重と、友染と、あや、錦、また珊瑚さんごをさえちりばめて肉置の押絵にした。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「は、はい、ただもうそのおん言葉、わたくしこそわたくしこそ……勿体ないやら嬉しいやら……それにいたしても良人大弥太……」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
堅く守り同列の方々とは親しく交わり艱難かんなんを互いにたすけ合い心を一にして大君の御為おん励みのほどひとえに祈り上げ候
遺言 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「大義親を滅すです。わたくし達のそうとする挙は、上は皇室のおんために、下は万民のためにと——誓って大義をまとにしておることではありませんか」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
内新好ないしんかうが『一目ひとめ土堤づゝみ』に穿ゑぐりしつう仕込じこみおん作者さくしや様方さまがた一連いちれんを云ふなれば、其職分しよくぶんさらおもくしてたふときは扇子せんす前額ひたひきたへる幇間だいこならんや。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
このおん前様御心底は奈何いかがに候。私存じ候には、同刻御自身の思召おぼしめしにて馬喰町へ御出被成候方宜敷おんいでなされそろかたよろしく候様存じ候。田原町たわらちょう一寸ちょっと御立寄被成候おんたちよりなされそうろう御出被成度おんいでなされたく存じ候。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
おんなつかしさ少時しばしも忘れずいずれ近きうち父様ととさまに申しあげやがて朝夕ちょうせき御前様おまえさま御傍おそばらるゝよう神かけて祈りりなどと我をうれしがらせし事憎し憎しと、うらみ眼尻まなじり鋭く
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
みづか穿うがちてりし白き墓穴はかあなよりふみまゐらせさふらふおん別れ致してみづからを忘れりしに船は動きめしにさふらふわたくしの気附きさふらひしもまこと一二時間ののちさふらひけん。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
光栄ともかたじけなしとも、なんともかとも有難く感じたてまつったあの『源氏物語』のおん大将、光る源氏の君の美貌びぼう権勢をもってしても、なびかなかった女があったと、紫式部が
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
そのお生み遊ばされた神樣のおん名はまずオホコトオシヲの神、次にイハツチ彦の神、次にイハス姫の神、次にオホトヒワケの神、次にアメノフキヲの神、次にオホヤ彦の神
なにきておんさげすみはづかしゝ、むつましかりしも道理だうり主從しうじゆうとはのみなりしならんなど、きみおもはれたてまつらん口惜くちをしさよ、これゆゑ雪三せつざうゆゑなり、松野まつの邪心じやしん一ツゆゑぞ
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ふで申上まいらせ候。その後は御ぶさた致し候て、何とも申わけ無之これなく御免下されたく候。私事これまでの住居すまい誠に手ぜまに付このじゅう右のところへしき移り候ままおん知らせ申上候。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
相摸さがみさがという字に楠正成くすのきまさしげしげという字だが、相成さがしげじゃア分らねえし、又きもじさまとア誰の名だか、それから、えゝと……あしからかす/\おんかんにん被下度候……何だか読めねえ
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)