ふき)” の例文
硫化水素の臭いが四辺をこめ、山や丘陵や、赤松や、濛々もうもうたる蒸気の間から、ふきなびく風のまにまに隠見する趣きは、一種の地獄風景観を形作る。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
しずかなる夜にて有之候はゞ、この物音に人々起出おきいで参り大騒ぎにも相なるべきの処、さいわいにも風大分はげしくふきいで候折とて、誰一人心付き候者も無之。
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
井戸ゐどくるまにてつなながさ十二ひろ勝手かつて北向きたむきにて師走しはすそらのからかぜひゆう/\とふきぬきのさむさ、おゝえがたとかまどまへなぶりの一ぷんは一にのびて
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
丁度しわすのもの淋しい夜の事でしたが、ふきすさぶその晩の山おろしのうなるようなすごい音は、今に思出されます。
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
堀ばた通り九段のあたりふきかくる雪におもてむけがたくて頭巾ずきんの上に肩かけすつぽりとかぶりて、折ふしばかりさし出すもをかし、種々の感情胸にせまりて
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
だ何かの野菜の太い根を日本の風呂ふきの様にした物だけが気につた。酒も酒精アルコホルを抜いた変な味の麦酒ビイルが出た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
ふきつのる風の音すさまじく、荒波の響きを交う。舞台暗黒。少時しばらくして、光さす時、巫女。ハタと藁人形をなげうつ。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
をつと簑笠みのかさを吹とられ、つま帽子ばうしふきちぎられ、かみも吹みだされ、咄嗟あはやといふ眼口めくち襟袖えりそではさら也、すそへも雪を吹いれ、全身ぜんしんこゞえ呼吸こきうせま半身はんしんすでに雪にめられしが
一人ひとり左鬢さびんに、かすかなきづしろ鉢卷はちまきわたくし雀躍こをどりしながら、ともながむる黎明れいめい印度洋インドやう波上はじやうわたすゞしいかぜは、一陣いちじんまた一陣いちじんふききたつて、いましも、海蛇丸かいだまる粉韲ふんさいしたる電光艇でんくわうてい
もて變更さするは如何なることぞ父母も父母なり和郎も和郎あまりといへば餘りなる壓制業おしつけわざとや云けれ又一ぱうより云時はお光にかゝる病ありとも开は大道にて轉覆ひつくりかへあわふきたる所を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
出様来でやうきやものや、伊祖いぞ大主おほぬし御万人おまんちようち頭取かしらどりちゆる者どやゆる、お万人のまぢりだに聞留ききとめれ、ムルチてる池に大蛇おほぢやとて、かぜらぬ、あめらぬ、屋蔵やぐらふきくづち、はる物作もづくり
ユタの歴史的研究 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
辺まで煤けておいでになって、火をおふきになるので
口の法螺ほらでなくして身体からだの法螺でふき倒した。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
掻撫かいなづるひとふきに、桑の葉おもふ
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
いへ間數まかず三疊敷さんでふじき玄關げんくわんまでをれて五間いつま手狹てぜまなれども北南きたみなみふきとほしの風入かぜいりよく、には廣々ひろ/″\として植込うゑこみ木立こだちしげければ、なつ住居すまゐにうつてつけとえて
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
可恐こはいものたさで、わたしもふツとつて、かまちからかほすと、あめかぜとがよこなぐりにふきつける。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
はらさんと夫より播州さしてぞいそぎける所々方々と尋ぬれど行衞ゆくゑは更にしれざりしが或日途中とちうにて兵助に出會であひしも六郎右衞門は天蓋てんがいかふりし故兵助は夫ともしら行過ゆきすぎんとせしに一陣のかぜふき來り天蓋を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
能登国珠洲すずヶ岬へふきはなされたまいし時、いま一度陸にうけて、ともかくもなさせ給えとて、北のかたくれないはかまに、からのかがみを取添えて、八大竜王に参らせらると、つたえ聞く
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
くしじようさまにもぞおよろこ我身わがみとても其通そのとほりなり御返事おへんじ屹度きつとまちますとえば點頭うなづきながら立出たちいづまはゑんのきばのたちばなそでにかをりて何時いつしつき中垣なかがきのほとりふきのぼる若竹わかたけ葉風はかぜさら/\としてはつほとゝぎすまつべきなりとやを
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
戸外おもてふきすさぶかぜのまぎれに、かすれごゑせきして、いくたびはなし行違ゆきちがつてやつわかつた。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
めづらしやおたかさま今日けふ御入來おいで如何どういふかぜふきまはしか一昨日をとゝひのお稽古けいこにも其前そのまへもおかほつひにおせなさらずお師匠ししやうさまもみなさまも大抵たいていでないおあんがな一日いちにちうはさしてをりましたとうれしげに出迎でむか稽古けいこ朋輩ほうばい錦野にしきのはなばれて醫學士いがくしいもと博愛はくあい仁慈じんじきこえたかきあに
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ね、古市へ行くと、まだ宵だのに寂然ひっそりしている。……軒が、がたぴしと鳴って、軒行燈のきあんどんがばッばッ揺れる。三味線さみせんの音もしたけれど、ふきさらわれて大屋根へ猫の姿でけし飛ぶようさ。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やすくて深切しんせつなタクシイをばして、硝子窓がらすまどふきつける雨模樣あまもやうも、おもしろく、うまつたり駕籠かごつたり、松並木まつなみきつたり、やまつたり、うそのないところ、溪河たにがはながれたりで
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いそいでると、停車場ステエシヨン入口いりくちに、こゝにもたゞ一人ひとり、コートのすそかぜさつふきまどはされながら、そでをしめて、しよぼれたやうにつて、あめながるゝかげはぐるまいとつてる。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
よこしまな心があつて、ためにはばかられたのではないが、一足ひとあしづゝ、みし/\ぎち/\と響く……あらしふき添ふえんの音は、かか山家やまがに、おのれと成つて、歯をいて、人をおどすが如く思はれたので
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
吹込む呼吸いきが強くなるためだといって抱主かかえぬしが、君、朝御飯も食べさせない、たまるもんか、寒い処を、笛を習ってるうち呼吸いきが続かぬから気絶するのが、毎朝のようだ、水をふきかけて生返らして
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あいにくかぜつよくなつて、いへ周圍まはりきまはるゆきが、こたつのしたふきたまつて、パツとあかりさうで、一晩ひとばんおびえてられなかつた。——下宿げしゆくかへつた濱野はまのさんも、どうも、おち/\られない。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
たますだれふきちぎり、金屏風きんべうぶたふすばかり、あらしごとひゞいた。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)