加減かげん)” の例文
その汁でメリケン粉一杯をいためて赤葡萄酒あかぶどうしゅ加減かげんついでその中へ今のいためた鰻を入て塩胡椒で味をつけて一時間位にるのです。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
もう加減かげんあるいてつて、たにがお仕舞しまひになつたかとおも時分じぶんには、またむかふのはう谷間たにま板屋根いたやねからけむりのぼるのがえました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
みなみ亭主ていしゆは一たん橋渡はしわたしをすればあとふたゝびどうならうともそれはまたときだといふこゝろから其處そこ加減かげんつくろうてにげるやうにかへつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
須利耶さまがお従弟さまにっしゃるには、お前もさようななぐさみの殺生せっしょうを、もういい加減かげんやめたらどうだと、うでございました。
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
やや俯向うつむ加減かげんの一男の小さい姿は、遥かに青み渡った帝都の大空にくっきりと浮かんで、銅像かなんかのように微塵みじんも動きそうにない。
秋空晴れて (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
「そうさ。わたしもおまえさんの言うとおりにしようと思ったのだけれど、ちょうどそのとき、あの子が加減かげんが悪くなったので」
れいによりてその飽気あっけなさ加減かげんったらありません。わたくしはちょっとこころさびしくかんじましたが、それはほんの一瞬間しゅんかんのことでございました。
これよりか悪戯いたずら加減かげんするなんて、どうしたらいいの? あれよからせやしないや。だって、僕ほんのぽっちりしか悪戯いたずらしないんだもの。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
心持こころもちが悪くなった反対なんだから、私の姿を見ると、それから心持がくなった——事になる——加減かげんになさい、馬鹿になすって、」
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そしてこの昆虫がよい加減かげんみつを吸うたうえは、頭に花粉をつけたままこの花をし去って他の花へ行く。そして同じく花中へ頭を突き込む。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
おれもひじを畳についた、がっきと手と手を組んだ、おれはいい加減かげんにあしらうつもりであった、先生のせた長い腕がぶるぶるふるえた。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
第一食事をする必要もないし、交通禍こうつうかを心配しないで思うところへとんで行けるし、寒さ暑さのことで衣服の厚さを加減かげんしなくてもよかった。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
すると他の婦人は笑って、なにそんな事があるものか。あなたが余りあの人に思いを掛けたからそれでよい加減かげんな事をいってごまかしたんだ。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
しんをとめるものは心をとめ、肥料のやり時、中耕の加減かげんも、兎やら角やら先生なしにやって行ける。毎年わし蔬菜そさい花卉かきたね何円なんえんと云う程買う。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
加藤の浮かれ加減かげんはお話にもならず、手紙が浦和から来たとて、その一節を写してみてくれろといふ始末、存外熱くなりておれることと存じ候。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
んな気の弱い事をいつちやアけません、お加減かげんが悪ければ、明日みやうにち御大役ごたいやくの事ですから早く牛の角文字つのもじにでも見せたら宜しうございませう…。
牛車 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
馬鹿ばかにしちゃァいけねえ。いくらおせんのものだからッて、つめなんざ、んのやくにもたちゃァしねえや。かつぐのもいい加減かげんにしてくんねえ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
それは部屋へ帰れずに迷児まごついている今の自分に付着する間抜まぬけ加減かげんひとに見せるのがいやだったからでもあるが、実を云うと、この驚ろきによって
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すると、やれ清水の桜が咲いたの、やれ五条の橋普請はしぶしんが出来たのと云っているうちに、幸い、年の加減かげんか、この婆さんが、そろそろ居睡いねむりをはじめました。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いはれると以前もと不出來ふでかしをかんがしていよ/\かほがあげられぬ、なん此身このみになつて今更いまさらなにをおもふものか、めしがくへぬとてもれは身體からだ加減かげんであらう
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それは、加減かげんにあったとばかりいうことはできません。まったく、このひと創作そうさくであったからであります。
楽器の生命 (新字新仮名) / 小川未明(著)
宜い加減かげんにして外へ出ると、お幾に追ひ出された、内弟子の娘が二人、淋しさうに、そのくせ十分に物好きさうに、路地の外にブラブラしてゐるのでした。
送りけるに或時旅人多くとまり合せし中に一人の若黨體わかたうていの武士あり風呂ふろに入たる樣子やうすなるにぞお花は例の如く老實まめ/\しく湯殿ゆどのへ到りお湯の加減かげんは如何や御脊中おせなか
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
近年まったく本ものの旅ができなくなったために、行って聴けば何でもないようなことを、知らずにいい加減かげんな想像ですませようとしている問題が幾つか有る。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
若い身空で女のたすきをして漬物樽つけものだるぬか加減かげんいじっている姿なぞは頼まれてもできる芸ではない。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
乙樂人 もし/\、もう加減かげんその鈍劍なまくらしまはっしゃれ、駄洒落だしゃれ最早もうぬきにさっしゃれ。
頭の所爲せい天氣てんき加減かげんか、何時もは随分ずゐぶんよくかたる二人も、今日けふは些ツともはなしはづまぬ。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
さうして加減かげんのところで、突込つゝこんでさぐつてると、たしかさはるものがある。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
此噐の用はいまだ詳ならざれどこれを手に取りて持ち加減かげんより考ふるに、兩方りやうはうの掌を平らにならべ其上に此噐を受け、掌をひくくして噐のそこに當て、左右の拇指おやゆびを噐の上部にけて噐をさへ
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
この死骸しがいくさ加減かげんぐらゐはいまなかくさりかたにくらべるとんでもござらん。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
にわかに、彼は眼をます。そして、下腹の加減かげんはどうかと耳を澄ましてみる。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
やがてみずから麺粉めんふん鶏卵けいらんを合せき居られしが、高橋も来りてこれを見て居けるうち、鶏卵の加減かげん少しぎたるゆえ、ぱちぱちと刎出はねだし、先生の衣服いふく勿論もちろん余滴よてき、高橋にも及びしかば
道子みちこ小岩こいは売笑窟ばいせうくつにゐたときからをとこにはなんふわけもなくかれる性質たちをんなで、すこみち加減かげんがわかるやうになつてからは、いかにしづかばんでもとまきやくのないやうなよるはなかつたくらい。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
B それから翌月よくげつの一じつになると、『御返事ごへんじつてります』とたゞそれだけ綺麗きれいやさしいいたをんな葉書はがきた。をとこまた加減かげんことつてやつておくと、またその翌月よくげつの一じつ葉書はがきた。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
世評というものは、たいがい加減かげんなものである。信長を、暗愚の殿だの、粗暴なうつけ者だのといっても、では誰がそれをつき止めたかといえば、誰も真を追って突き止めてはいないのである。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やつと彼は加減かげんした愼重さを以て振り向いた。私にはまるで一人のヴイジオンが彼の傍に立つてゐるやうに思はれた。彼から三歩のところに純白のよそほひをした一つの姿——若々しい、みやびやかな姿が立つてゐた。
「今度は加減かげんいたしますから、どうぞごかんべんください」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
この馬鹿さ加減かげんは、なににたとえようもなかった。
呂宋の壺 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
うつむき加減かげんにした横顔の
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
夏の食物と冬の食物とはおのずからその種類と配合とを違えなければなりませんけれども物にはほど加減かげんがあって一方に偏すると害が起ります。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ところで、のくらゐあつやつを、とかほをざぶ/\と冷水れいすゐあらひながらはらなか加減かげんして、やがて、る、ともうあめあがつた。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
いくら昨日までよくおよげる人でも、今日のからだ加減かげんでは、いつ水の中で動けないようになるかわからないというのです。
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
時計を見ることができないとすれば、日の加減かげんで知るほかはないが、なにぶんどんよりしているので、何時だか時間を推量すいりょうするのが困難こんなんであった。
うも劇剤げきざい多量たりやうにおもちひに相成あひなりましたものと見えて、今日けふ余程よほど加減かげんが悪うござります。殿「木内きのうちういたした。 ...
華族のお医者 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
もう此上このうえ横浜はまに居たって、面白いことは降ってやしないよ。お前たちは苦しくなる一方だ。いい加減かげん見切みきりをつけて、横浜はまをオサラバにするんだ。
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ふくろもねえのにおめえいゝ加減かげんにしろよ、可哀想かあいさうぢやねえか、そんなことしておめえいくつだとおもふんだ、さう自分じぶんのやうに出來できるもんぢやねえ
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それを昔から今日こんにちに至るまでのいっさいの日本人が、古い一人の学者にそう瞞着まんちゃくせられていたのは、そのおめでたさ加減かげん、マーなんということだろう。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
「まァようがす。とっととえてせろッてんなら、あんまりたたみのあったまらねえうちに、いい加減かげん引揚ひきあげやしょう。——どうもお邪間じゃまいたしやした」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
加減かげんうちでもこしらへる仕覺しがくをしておれとたび異見ゐけんをするが、其時そのときかぎりおい/\と空返事そらへんじしてつからにもめてはれぬ、とつさんはとしをとつて
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ながし申さんと云へば彼の旅人は否湯も宜加減かげんなり決てかまふべからずと云ながら此方を見返みかへり不※お花の顏を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)