うぐひす)” の例文
かんがへてもたがい。風流人ふうりうじんだと、うぐひすのぞくにも行儀ぎやうぎがあらう。それいた、障子しやうじけたのでは、めじろがじつとしてようはずがない。
湯どうふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その騷ぎも知らぬ顏に、平次はうぐひすの籠を見たり、の鉢を鑑定したり、最後に嫁のお弓をつかまへて、暢氣のんきらしい話をして居りました。
メルルと云つて日本の杜鵑ほとゝぎすうぐひすの間の様な声をする小鳥が夜明よあけには来てくが、五時になると最早もう雀のき声と代つて仕舞しまふ。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
唄でもうたふ時はうぐひすのやうになめらかだが談話はなしをすると曳臼ひきうすのやうな平べつたい声をするのは、咽喉を病んでゐる証拠ださうだ。
寝てをつてもうぐひすや、ほととぎすのいい声を聞くことが出来る。托鉢たくはつにゆけば、みんなが米をめぐんでくれる。子供達は喜んでわしと遊んでくれる。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
わかはうが、今朝けさはじめてうぐひす鳴聲なきごゑいたとはなすと、ばうさんのはうが、わたしは二三日前にちまへにも一いたことがあるとこたへてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
宮は牀几しようぎりて、なかばは聴き、半は思ひつつ、ひざに散来るはなびらを拾ひては、おのれの唇に代へてしきり咬砕かみくだきぬ。うぐひすの声の絶間を流の音はむせびて止まず。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
せばらく片折戸かたをりど香月かうづきそのと女名をんなヽまへの表札ひようさつかけて折々をり/\もるヽことのしのび軒端のきばうめうぐひすはづかしき美音びおんをばはる月夜つきよのおぼろげにくばかり
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「まあなんにも出來できないの。ほんとにあんたはうぐひすのやうなこゑもないし、孔雀くじやくのやうなうつくしいはねももたないんだね」
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
「あら、旦那、何ですねエ」と、お熊は手をげて、たゝくまねしつ「れでもうぐひす鳴かせた春もあつたんですよ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
うぐひすを飼ひて其声を楽しむ者は、他の鶯の婉転ゑんてんの声を発する者をして側らに居らしむ、其声の相似るを以て也。
詩人論 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
あしひきの山谷やまだに越えてづかさにいまくらむうぐひすのこゑ 〔巻十七・三九一五〕 山部赤人
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
まことに此時このときうららかにかぜやはらかくうめの花、のきかんばしくうぐひすの声いと楽しげなるに、しつへだてゝきならす爪音つまおと、いにしへの物語ぶみ、そのまゝのおもむきありて身も心もきよおぼえたり、の帰るさ
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
うぐひす四十雀しじふからも、白い日光をさ青に煙らせてゐる木の若芽も、ただそれだけでは、もうろうとした心象に過ぎない。俺には惨劇が必要なんだ。その平衡があつて、はじめて俺の心象は明確になつて来る。
桜の樹の下には (新字旧仮名) / 梶井基次郎(著)
まらうどあるじもともにゑひごこちなるとき、真女子まなごさかづきをあげて、豊雄にむかひ、八八花精妙はなぐはし桜が枝の水に八九うつろひなすおもてに、春吹く風を九〇あやなし、こずゑ九一たちぐくうぐひす九二にほひある声していひ出づるは
心ありて風のにほはす園の梅にまづうぐひすはずやあるべき
源氏物語:45 紅梅 (新字新仮名) / 紫式部(著)
青のうぐひす落日いりひますとの森で鳴くやうに……
北原白秋氏の肖像 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
外光ぐわいくわうのそのなごり、鳴けるうぐひす
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
うぐひすや柳のうしろやぶの前 芭蕉
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
あれ、もう、愛らしいうぐひす
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ふとうぐひすの声を聴いて
日本の女 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
たれかおもはむうぐひす
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
うぐひすさんの帽子は
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
宮はうつむきて唇を咬みぬ。母は聞かざるまねして、折しもけるうぐひすうかがへり。貫一はこのていを見て更に嗤笑あざわらひつ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
宗助そうすけうちかへつて御米およねこのうぐひす問答もんだふかへしてかせた。御米およね障子しやうじ硝子がらすうつうらゝかな日影ひかげをすかして
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
みツつ」とうぐひすのやうなこゑそでのあたりがれたとおもへば、てふひとツひら/\とて、ばんうへをすつとく……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
江戸開府以來の捕物の名人と言はれた錢形の平次は、春の陽が一杯に這ひ寄る貧しい六疊に寢そべつたまゝ、紛煙草をせゝつて遠音とほねうぐひすに耳をすまして居りました。
物靜ものしづかにつヽましく諸藝しよげい名譽めいよのあるがなかに、ことのほまれは久方ひさかたそらにもひヾきて、つきまへちゆうなほときくもはれてかげそでにち、はなむかつて玉音ぎよくおんもてあそべばうぐひすねをとヾめてふしをやまなびけん
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
東洋の様なうぐひすかないが、メルルと云ふ鳩の形をしたうぐひすの一種がふし廻しでく。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
もう庭先に来て鳴いてゐるうぐひすの声も聞えなきや、窓から迷ひこんで来て、裏口からぬけ出てゆく蝶々てふてふも見えない。ただ、詩のまづいところを、よくしようとばかり骨折るのであつた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
春霞はるがすみながるるなべに青柳あをやぎえだくひもちてうぐひすくも 〔巻十・一八二一〕 作者不詳
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
うぐひすのさへづる春は昔にてむつれし花のかげぞ変はれる
源氏物語:21 乙女 (新字新仮名) / 紫式部(著)
山猫やまねこのものさやぎ、なげくうぐひす
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
それも初音はつねうぐひす
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
水仙すゐせんかを浮世小路うきよこうぢに、やけざけ寸法すんぱふは、鮟鱇あんかうきもき、懷手ふところで方寸はうすんは、輪柳わやなぎいとむすぶ。むすぶもくも女帶をんなおびや、いつもうぐひす初音はつねかよひて、春待月はるまちつきこそ面白おもしろけれ。
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
お靜は手早く剃刀かみそりを片付けて、あとの始末をすると、たすきはづして話し始めました。何處かの飼ひうぐひすいて、明神樣の森が紫にかすむ、うつら/\とした結構な日和ひよりです。
後に負へる松杉の緑はうららかれたる空をしてそのいただきあたりてものうげにかかれる雲はねむるに似たり。そよとの風もあらぬに花はしきりに散りぬ。散る時にかろく舞ふをうぐひすは争ひて歌へり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
良寛さんがつきそこなつて顔をあげたとき、どこかでうぐひすの鳴き声がした。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
いかなれば花に伝ふうぐひすの桜を分きてねぐらとはせぬ
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
総鳴そうなきに鳴くうぐひす
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
うぐひすねむ花楮はなかうぞ
古調月明集:01 月明二章 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
たなしてかくるとにもあらず、夕顏ゆふがほのつる西家せいかひさしひ、烏瓜からすうりはなほの/″\と東家とうかかききりきぬ。ひてわれもとむるにはあらず、やぶにはうぐひするゝときぞ。
森の紫陽花 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「さう言つたものかな、——ところで、うぐひすを飼つてゐるやうだが、あれは誰の好みかな」
庭の梅の木にうぐひすが来て鳴くやうになりました。山々にはうすくもやがかかつて、うひうひしくよみがへつて見えました。そんな或る日、鳥右さんはめづらしくおむすびをつくつて腰にぶらさげました。
鳥右ヱ門諸国をめぐる (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
銀次のうぐひすを作る乳鉢でとりかぶとの根を摺りくだいた。その乳鉢を別にしてあるのを知らずに、お辰が餌を拵へて鶯を殺した。——まさか銀次が乳鉢を間違へる筈はない。
坊主ばうずが、たがひ一声ひとこゑうぐひすふくろふと、同時どうじこゑ懸合かけあはせた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
梅の花ぢやよ、——巣鴨すがものさる御屋敷の庭に、大層見事な梅の古木がある。この二三日は丁度盛りで、時にはうぐひすも來るさうぢや。場所が場所だから、ぞく風雅ふうがも一向寄り付かない。
平次はようやくとぐろをほぐしました。うぐひすの聲がまた一とさへづり、日向ひなたはほか/\と暖まつて、貧乏臭い長屋住ひですが、お靜は自分の幸福を、胸一杯に抱きしめたい氣になるのです。
湯のやうな南陽みなみにひたりながら、どこかの飼ひうぐひすらしいさえずりを聽いてゐたのです。
て混んだ家並で空はひどく狹められて居りますが、一方から明神樣の森が覗いて、何處からかうぐひすの聲も聞えてくると言つた長閑さ、八五郎の哲學を空耳に聽いて、うつら/\とやるには