たえ)” の例文
彼女におとずれた幸福は、彼女にはあんまりけばけばしい色彩なので、信実はやっぱり苦労がたえないであろうと痛々しかった。
我国に大小の川々幾流いくすぢもあるなかに、此渋海川しぶみがはにのみかぎりて毎年まいねんたがはず此事あるもとすべし。しかるに天明の洪水こうずゐ以来此事たえてなし。
夫切それきりたえ此落語このらくごふものはなかつたのでございます。それよりくだつて天明てんめいねんいたり、落語らくごふものが再興さいこういたしました。
落語の濫觴 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
てゝせり呉服ごふくるかげもなかりしが六間間口ろくけんまぐちくろぬり土藏どざうときのまに身代しんだいたちあがりてをとこ二人ふたりうちあに無論むろんいへ相續あととりおとゝには母方はゝかたたえたるせい
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
当時においては、醒覚せいかくせる二人ににんの間に、かくの如く婚約が整ったということは、たえてなくしてわずかにあるものといって好かろう。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
摺合すりあひ茶屋々々の二階には糸竹の調べつゞみ太皷たいこたえる事なく幇間たいこ對羽織つゐばおり色増君いろますきみの全盛をあらはし其繁榮はんえい目を驚せし浮生ふせいは夢の如く白駒はくくひまあるを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
間には口を続けて、よくいらっしゃいました、ようこそおいで、思いがけない、不思議な御方が、不思議だ、不思議だ、とたえ饒舌しゃべったのである。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
亭主に向いては威権いけんはなはだ強過れどればとてうやまわざるにあらず、人附ひとづきはなはだ好ければいやらしき振舞はたえて無く
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
かつ我子わがこを育てんという気のはりあればおのずから弟子にも親切あつく良い御師匠おししょう様と世に用いられてここ生計くらしの糸道も明き細いながら炊煙けむりたえせず安らかに日は送れど
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
老いたる方の漕手答へて、舟を停むべきところは、さきに漕ぎ出でしところの外たえて無ければ、是非とも島を一周せでは叶はずといひつゝ、うごかす手を急にしたり。
亞尼アンニー鳥渡ちよつと使つかひにましたとき波止塲はとばのほとりではからずも、たえひさしきその出會であつたのです。
すこまるみがかつたほゝたえ微笑びせうふくんで勘次かんじのいふことをいてたおつたはなにさらにいはうとして一寸ちよつと躊躇ちうちよしつゝある容子ようすえた。勘次かんじもおつぎもそれはらなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
また仏国のくんに土国人の宗教にあずかるの権利ありとは、土国の君もたえて想像せざりしところなり。わが先官「レ、マルキス、デ、ボンネ」氏、このことの建言中に云えることあり。
然るに肩は軽くなるも両手にひさしたうる事能わず。依て亦両手の労を休まんとして両手を前にする時は、ただちに叺を両方より結びたる藁縄に喉頭のどくびおししめて呼吸たえなんとして痛みあり。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
勿論もちろん議論はする、いろ/\の事について互に論じ合うと云うことはあっても、決して喧嘩をするような事はたえてない事で、ことに私は性質として朋友と本気になって争うたことはない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
 一、夜ややふけて、よその笑ひ声もたえる頃、月はまだ出でぬに歩む路明らかならず、白髭あたり森影黒く交番所の燈のちらつくも静なるおもむきを添ふる折ふし五位鷺ごいさぎなどの鳴きたる。
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
元より強弱敵しがたく、無残や肉裂け皮破れて、悲鳴のうちに息たえたる。その死骸なきがらくちくわへ、あと白雪を蹴立けたてつつ、虎はほらへと帰り行く。あとには流るる鮮血ちしおのみ、雪に紅梅の花を散らせり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
とありて、之より月水のたえたることを説けり。
拍子木ひょうしぎたえて御堀の蛙かな 一箭
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
付る其許の巧み甚だ以て言語ごんごたえたり此儀辯解ありやサア如何に返答致されよと高聲かうせいに申されたる有樣威權ゐげんするどければ主税之助はハツと言て生膽を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
保は英語をつかい英文を読むことを志しているのに、学校の現状を見れば、所望にかなう科目はたえてなかった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
やがて国許くにもとへ立帰る侍が、大路の棟の鬼瓦をながめて、故郷さとに残いて、月日を過ごいた、女房の顔を思出おもいいで、たえて久しい可懐なつかしさに、あの鬼瓦がその顔に瓜二つじゃと申しての
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いのちつゞきがたく、つぐべきちからたえては、或は一日乃至五日、既に法華經讀誦どくしようの音も絶へぬべし。止觀しくわんまどの前には草しげりなん。かくの如く候に、いかにして思ひ寄らせ給ひぬならん。
 伊達政宗卿だてまさむねきやうの御哥に「さゝずともたれかはこえせきふりうづめたるゆきの夕ぐれ」又「なか/\につゞらをりなるみちたえて雪にとなりのちかき山里」此君は御名たかき哥仙かせんにておはしまししゆゑ
婦人をんなはかなしとおももひたえて、松野まつの忠節ちうせつこゝろより、われ大事だいじもふあまりに樣々さま/″\苦勞くらう心痛しんつう大方おほかたならぬこゝろざしるものから、それすらそらふくかぜきて、みゝにだにめんとせざりし
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
誠に恐ろしい山で、生茂おいしげり、熊笹が地をおおうている、道なき所を踏分け/\段々りて来たところが、人家はたえてなし、雨は降ってくる、困ったことだと思い、暫く考えたがみちは知らず
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
たえひさしきかほかほとは艦長室かんちやうしつうるはしき長倚子ながゐすつてむかつた。
つかんで十兵衞が其の儘息はたえにけり長庵刀の血をぬぐひてさやに納め懷中くわいちう胴卷どうまきを取だし四十二兩はふくかみおとゝの身には死神しにがみおのれがどうにしつかりくゝり雨もやまぬにからかさ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
近習医に任ぜられてからは、詰所つめしょ出入いでいりするに、あしたには人に先んじてき、ゆうべには人に後れてかえった。そして公退後には士庶の病人に接して、たえむ色がなかった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
冷凍こおっていた五臓に若々しい血を湧返わきかえらせ、たえかたわらから烈しい火を燃しつけた。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
祝義のやうになりて大に流行はやりしゆゑ、むこうらみある者事を水祝ひによせてさま/″\の狼籍らうぜきをなす人もまゝありて、人の死亡しばうにもおよびし事しば/\なりしゆゑ、正徳の頃国禁こくきんありて事たえたり。
なにいとふてか三らうかきたえかげせず疑念ぎねんかさなる五月雨さみだれのくも
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
学校では、女の子は別な教場で教えることになっていて、一しょに遊ぶこともたえて無い。若し物でも言うと、すぐに友達仲間で嘲弄ちょうろうする。そこで女の友達というものはなかった。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
翫具ぐわんぐには用うる所さま/″\あるべし。源内死して奇術たえたりしにくだんの両人いでゝ火浣布の機術きじゆつふたゝび世にいでしに、嗚呼あゝ可惜をしむべし、此両人も術をつたへずしてぼつしたれば火浣布ふたゝび世にたえたり。
ともあれ勘藏かんざうといふものある以上いじやうなまなかのこと言出いひだしてうたがひのたねになるまじともがたしおためにならぬばかりかはひととの逢瀬あふせのはしあやなくたえもせばなにかせんるべきみちのなからずやとまどふはこゝろつゝむ色目いろめなにごともあらはれねど出嫌でぎらひときこえしおたか昨日きのふいけはた師匠ししやうのもとへ今日けふ
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
翫具ぐわんぐには用うる所さま/″\あるべし。源内死して奇術たえたりしにくだんの両人いでゝ火浣布の機術きじゆつふたゝび世にいでしに、嗚呼あゝ可惜をしむべし、此両人も術をつたへずしてぼつしたれば火浣布ふたゝび世にたえたり。
ここは山のかいにて、公道をること遠ければ、人げすくなく、東京の客などはたえて見えず、僅に越後などより来りてよくする病人あるのみ。宿やどとすべき家を問うにふじえやというがしという。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)