つぶ)” の例文
樵夫きこりはこれをしらず、今日の生業かせぎはこれにてたれり、いざや焼飯やきめしにせんとて打より見れば一つぶものこさず、からすどもは樹上きのうへにありてなく
と見て、妻が更に五六つぶ拾った。「椎がった! 椎が実った!」驩喜かんきの声が家にちた。田舎住居は斯様な事がたいした喜の原になる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
何にしても、はようこの刀の綱を解いてしまわねば——玄蕃は、何時の間にか、額部ひたいに大きなあせつぶにじませて、必死になっていた。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
蟹の子供らもぽっぽっぽっとつづけて五六つぶ泡をきました。それはゆれながら水銀のように光ってななめに上の方へのぼって行きました。
やまなし (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
かれは、いま、ひかりけて、ぎんか、水晶すいしょうつぶのように断層だんそうから、ぶらさがって、煉瓦れんがつたわろうとしているみずしずくていました。
勉強家べんきようかける、懶怠なまけられてはこまるけれど、わづらはぬやうにこゝろがけておれ、けておまへは一つぶものおやなし、兄弟きようだいなしとふではいか
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
火のように熱い涙のつぶがあとからあとからとまぶたから流れ出て、頬から下にしたたり落ちた。私は座にいたたまれなかったのだ。
風宴 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
色青を帶びて黒くさながら胡椒のつぶに似たる一の小蛇の怒りにもえつゝ殘る二者ふたりの腹をめざして來れるさままたかくの如くなりき 八二—八四
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
ひきおにはこのこえおどろいて、よくますと、あしもとにまめつぶのような小男こおとこが、いばりかえって、つッっていました。おにはからからとわらいました。
一寸法師 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
つぶの米粒をつけ置き、大刀を大上段に振りかぶって、掛声もろとも、見事米粒だけ真二つに切り割って見せたという話も、武蔵のことである。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たゞ鳴らした丈である。その無作法にたゞ鳴らした所が、三四郎の情緒によくつた。不意に天から二三つぶ落ちてた、出鱈目のひょうの様である。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
うらやまずあしたよりくるるまで只管ひたすら米をつきつぶにてもむだにせず其勤め方信切しんせつなりければ主人益々悦び多くの米も一向に搗減つきへりなく取扱ひ夫より其年の給金きふきん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
すい星がなにでできているかは、まだよくわからないのですが、ふつうは、小さなつぶがあつまって、光のかたまりとなったものだといわれています。
妖星人R (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
夏蕎麥なつそばでもとれんなかうい鹽梅あんべえぢやつぶえけやうだな」おつたはにはまゝだい一にれる蕎麥そばついていつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
下袴したばかまの糸をぬいて釣糸つりいとになされ、お食事のおあとのごはんつぶえさにして、ただでも決してることができないあゆをちゃんとおつり上げになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
林太郎はことし十一さいで、小学校の五年生になっていましたが、弟も妹もなく、まったくの一つぶっ子なのでした。
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
キザ柹、御所柹ごしょがき美濃柹みのがき、いろいろな形の柹のつぶが、一つ一つ戸外の明りをそのつやつやと熟し切った珊瑚さんご色の表面に受け止めて、ひとみのように光っている。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
林檎の木よ、發情期はつじやうきの壓迫で、身の内がほてつて重くなつた爛醉らんすゐなさけふさつぶじゆくした葡萄のゆるんだ帶の金具かなぐ、花を飾つた酒樽、葡萄色の蜂の飮水場みづのみば
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
それよりも著しいのは雌蕊めしべの抜け落ちたあと、つぶのまん中に穴があいていて、自然に糸を通すことができた点、それからまた一つは色なりつやなりまるみまでが
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
独唱者達もつぶ選りで、エリザベト・シューマン等、いずれも真剣な良い演奏である(JH五五—七二)。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
相性なんてことを云ひますね。私はいゝ守り神グッドジニアイの話を聞いたことがあるが——原始的なお伽噺とぎばなしの中にだつて眞理のつぶはありますよ。私の大事な保護者——ぢや、おやすみ!
急に冷えてきたとみえて、霧のつぶが大きくなり、いつの間にか服がしっとりと湿っている。
雪間 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「しかし、先生だって、塾生のつぶがあまり思わしくないと、やはりさびしそうですよ。」
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
この帶止おびどめはほそのような金絲きんしきんつぶでもつて獅子しゝかたちをつくり、それに寶石ほうせきをちりばめたこまかい細工さいくは、今日こんにちでもたやすく出來できないとおもはれるほどすぐれたものであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
この緑色素りよくしよくそ顯微鏡けんびきようるとうつくしいちひさいみどりつぶでそれを『葉緑粒ようりよくりゆう』とよんでゐます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
やつぱりさうだ やあ 子どもが豆を買ひに来た おや、おぢさんが豆を三つぶこぼした
「この魚は夜になると啼くのです。あなたがたはこれが夜になると、みな水の上へ出ていろいろな唄をうたうことをお考えなすったら、どうか二つずつお求めください。銀貨一つぶです。」
不思議な魚 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
勿體もつたいないが、ぞく上潮あげしほから引上ひきあげたやうな十錢紙幣じつせんしへい蟇口がまぐち濕々じめ/\して、かね威光ゐくわうより、かびにほひなはつたをりから、當番たうばん幹事かんじけつして剩錢つりせん持出もちださず、會員くわいゐん各自かくじ九九九くうくうくうつぶそろへて
九九九会小記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あるとし近所きんじょ避暑ひしょにきていた大学生たちが、自分の家のえんがわへ腰をかけて、一つぶよりの水蜜桃をむしゃむしゃと、まるで馬が道ばたの草をでもたべるようにたべちらすのを見た時の
水菓子屋の要吉 (新字新仮名) / 木内高音(著)
こっちじゃ一生懸命つぶよりのオペレッタや、夢幻劇や、すばらしい歌謡曲の名人を出してやるんだが、それが果してあの手合いの求めるものでしょうか? 奴らにそんなのを見せたところで
可愛い女 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
雨はまだつぶだつ橋の片てすりつかまりてのぞく子のかほふたつ
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「あそこのたまごつぶが小さいでそんだよ。」
空気ポンプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
つぶのひとつやふくまれて
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
つぶごとに皆
うむを見て男魚をなおのれ白䱊しらこ弾着ひりつけすぐ女魚めな男魚をなほりのけたる沙石しやせきを左右より尾鰭をひれにてすくひかけてうづむ。一つぶながさるゝ事をせず。
つぶずつがいいかな。万粒ずつひろって来い。いいか、もし、来なかったらすぐお前らを巡査じゅんさわたすぞ。巡査は首をシュッポンと切るぞ。
カイロ団長 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
北の硝子窓がらすまどをしめて、座敷の南縁に立って居ると、ぽつりと一つ大きな白いつぶが落ちて、乾いて黄粉きなこの様になった土にころりところんだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
勘次かんじ依然いぜんとしてくるしい生活せいくわつそとに一のがることが出來できないでる。おしなんだとき理由わけをいうてりた小作米こさくまいとゞこほりもまだ一つぶかへしてない。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ただ少なくともこれを薬品として貢進こうしんせしめた『延喜式』の頃には、ツスまたはツシタマの名をもって世に知られ、数珠とは関係がなく、むしろ穀物こくもつつぶなどという言葉と
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
すでに、庶子しょしの竹若君から、ご実子の千寿王さままで、幕府の質子ちしに取られていること。今となれば、ここの不知哉丸いさやまるさまは、取っておきのつぶだねだ。おめおめ渡してたまろうか。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このけしつぶみたいなガラス玉にしかけがあるのですよ。指輪を目の前に持っていって窓のほうをむいて、そのガラス玉をのぞいてごらんなさい。そこに暗号の半分がはいっているのです。
大金塊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
おやじのまえの腰掛けのうえに、ばらばらとたくさんの小つぶがおどった。龍造寺主計は、乞食浪人のように見えるのだ。が、龍造寺主計は、金を持っているのである。内実は、裕福なのだ。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「旗本や御家人のつぶの小さいのには、工面のよくねえのが多いから、こつそり繁昌はんじやうしてゐるのは、質屋と金貸しだ。大きいのは九丁目の鍵屋かぎや金右衞門から、小さいのは、唐辛子屋たうがらしやのケチ兵衞に至るまで」
不意に天から二、三つぶ落ちて来た、でたらめのひょうのようである。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なんだ。こんなまめつぶか。めんどうくさい、のんでしまえ。」
一寸法師 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
山椒さんせうつぶでも、ピリッとからいぞ
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ひかなきゃ山椒さんしょつぶふりかける。
まざあ・ぐうす (新字新仮名) / 作者不詳(著)
せてかほりもわか中村なかむら園田そのだ宿やどあり園田そのだ主人あるじ一昨年をとゞしなくなりて相続さうぞく良之助りやうのすけ廿二の若者わかもの何某学校なにがしがくかう通学生つうがくせいとかや中村なかむらのかたにはむすめ只一人たゞひとり男子をとこもありたれど早世さうせいしての一つぶものとて寵愛ちやうあいはいとゞのうちのたまかざしのはなかぬかぜまづいとひてねがふは
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
樵夫きこりはこれをしらず、今日の生業かせぎはこれにてたれり、いざや焼飯やきめしにせんとて打より見れば一つぶものこさず、からすどもは樹上きのうへにありてなく
釈迦は出離しゅつりの道を求めんがため檀特山だんどくせんなづくる林中に於て六年精進しょうじん苦行した。一日米の実一つぶ亜麻の実一粒を食したのである。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)