つる)” の例文
もう叔母おばの所には行けませんからね、あすこには行きたくありませんから……あのね、透矢町すきやちょうのね、双鶴館そうかくかん……つがいのつる……そう
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「——これは、そらね、これをこう折ッて、ここをこうすると、そうら、一つのつるが出来ますよ、そら今出来ますよ、そうら出来た」
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
午後からは折り紙のお稽古けいこがあった。例の少女のところでは、小間使いが一緒になって、大きなつるをいく羽もいく羽も折っていた。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
奄美大島の方ではつるがその稲穂を持って来たことになっていて、伊勢の神宮の周辺にあったという言い伝えともやや接近している。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
親鸞 (つるのごとくやせている。白い、厚い寝巻を着ている。やや身を起こして脇息にもたれる)そのさきをもっと読んでおくれ。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
しづく餘波あまりつるにかゝりて、たますだれなびくがごとく、やがてぞ大木たいぼく樹上きのぼつて、こずゑねやさぐしが、つる齊眉かしづ美女たをやめくもなかなるちぎりむすびぬ。
妙齢 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
儂の家族は、主人夫婦あるじふうふの外明治四十一年の秋以来兄の末女をもらって居る。名をつると云う。鶴は千年、千歳村に鶴はふさわしい。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
いははなをば、まはつてくごとに、そこにひとつづゝひらけてる、近江あふみ湖水こすいのうちのたくさんの川口かはぐち。そこにつるおほてゝゐる。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
そこには古い絵具のげかけた壁画があって、つるかめ雉子きじのようなものをいてあったがそれもことごとく一方の眼がつぶれていた。
山寺の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
折紙細工のつるや舟やかぶと股引ももひきや、切紙細工の花や魚やオモチヤや動物など、みんな子供会の手工の時間に作つたものです。
仔猫の裁判 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
夕方の満潮時で、海べにいるつるも鳴き声を立て合って身にしむ気が多くすることから、人目を遠慮していずに逢いに行きたいとさえ源氏は思った。
源氏物語:14 澪標 (新字新仮名) / 紫式部(著)
如何いかなる風の誘いてか、かく凛々りりしき壮夫ますらおを吹き寄せたると、折々はつるせたる老人の肩をすかして、恥かしのまつげの下よりランスロットを見る。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ちょうどあの頃あの屋形には、つるまえと云う上童うえわらわがあった。これがいかなる天魔の化身けしんか、おれをとらえて離さぬのじゃ。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
つる本白もとじろ羽とこうの羽とを合わせてはいだ矢で、長さは十三束三伏じゅうさんぞくみつぶせ沓巻くつまきから一束いっそくほど置いたところに、和田小太郎平義盛とうるしで書いてあるのだった。
残っているのは、痩躯そうくつるのような机博士と、それからもう一人は、椅子車いすぐるまにしばりつけられた戸倉老人だけであった。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
太陽のまぶしさにさえぎられて、しかとは見えないが、つるのごとき老人が、五重塔ごじゅうのとうのてッぺんにたしかにいるようだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それが金ちゃんの姉のおつるだということは後で知ったが紫と白の派手な手綱染たづなぞめの着物のすそ端折はしおッてくれない長襦袢ながじゅばんがすらりとした長いはぎからんでいた。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
撮影所は美しい楆垣かなめがきの多い静かな屋敷町にあったが、葉子はかつての結婚式に着たことのある、長い振袖ふりそでに、金糸銀糸でつるや松を縫い取った帯を締め
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
鳶ばかりでなく、つるも飛んでいたのである。明治以後、鶴を見たことはないが、鳶は前に云う通り、毎日のように東京の空を飛び廻っていたのである。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼は焦燥しながらつるにわとり山蟹やまがにの卵を食べ続けるかたわら、その苛立いらだつ感情の制御しきれぬ時になると、必要なき偵察兵を矢継早やつぎばやに耶馬台やまとへ向けた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
飯島いひじま夫人——栄子えいこは一切の事を放擲はうてきする思をしたあとで、子供を東京の家の方に残し、年をとつた女中のおつる一人連れて、漸く目的めあてとする療養地に着いた。
灯火 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
(大納言、嬉し気な表情)昨夜ゆんべ、あれの部屋に行って、ふと何気なく見ましたところが、お手紙ふみつるに折られて、天井てんじょうからぶるさがっておりましたじゃ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
七八つの時分じぶんから、からすんだつるだといわれたくらい、いろしろいが自慢じまんれていたものの、半年はんとしないと、こうもかわるものかとおどろくばかりのいろっぽさは
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「さいなあ、おつる母御はヽごは、その手紙てがみをおつるふところからとりだしてみながらよみながらおなきやつたといのう」
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
丹頂たんちょうつる、たえず鼻を巻く大きな象、遠い国から来たカンガルウ、駱駝らくだだの驢馬ろばだの鹿だの羊だのがべつだん珍らしくもなく歩いて行くかれの眼にうつった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
そして五歳の春に東京に帰つたのであるが、只今になつてみると、諏訪すは神社のつるがかすかに記憶に残つてゐるだけで、長崎の港の記憶はほとんど無いくらゐである。
(新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
萌黄地もえぎじに肉色で大きくつるまるを染め抜いた更紗蒲団さらさぶとんが今も心に残っている。頭がさえて眠られそうもない。
竜舌蘭 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そこではつるが長いつばさをひろげて飛びまわり、ペリカン鳥はミモザのえだから人々を見おろしています。しげった草藪くさやぶが、象の重たい足にみつけられています。
そこから一羽のつるがふらふらと落ちて来てまた走り出したインデアンの大きくひろげた両手に落ちこみました。インデアンはうれしそうに立ってわらいました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
つる千年せんねんかめ萬年まんねん人間にんげん常住じやうぢういつも月夜つきよこめめしならんをねがかりにも無常むじやうくわんずるなかれとは大福だいふく長者ちやうじやるべきひと肝心かんじん肝要かんえうかなめいしかたつてうごかぬところなりとか
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
もっともあの女は七人花嫁をさらった丹頂たんちょうのおつるの妹だということだ。それくらいの事はするだろうよ。
母親のそばに、きちんと坐っていた、おつるという女の子は、それを聞いてそっと母親のほうへ口を寄せ
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「まあ、どうしましょうねえ。暮から、このような、うれしい事ばかり。思えば、きょう、あけがたの夢に、千羽のつるが空に舞い、四海しかいなみ押しわけて万亀ばんきが泳ぎ、」
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
子良しりやうは今度こそ天にのぼつて、蜃気楼しんきろうの御殿を見たり、お母さんに会つたりすることが出来ると、大変よろこんで、る月のよく光つた晩、こつそりつるが教へたところに行き
子良の昇天 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
……もう、何千世紀というもの、地球は一つとして生き物を乗せず、あの哀れな月だけが、むなしく灯火あかりをともしている。今は牧場まきばに、寝ざめのつるも絶えた。
というつるの一声がございましたので、たちまちこれに決定したのですが、しかしお将軍さまという者は、偉そうに見えましても、存外これでたわいがないとみえまして
彼女はこんな女にどうしてあんなつるのような娘が出来たかと思われる、むくつけな婆さんであったが、それでも話の様子には根からの廊者でない質朴しつぼくのところがあって
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
一分いちぶのめだかから一尺いっしゃくこいにいたる魚のすべて、さぎ、白鳥、おしどり、かもつるなど水に親しむ鳥どものすべて、また水にさく浮草の花の一つ一つが、それを聞くのじゃ。
おしどり (新字新仮名) / 新美南吉(著)
鉄橋を潜ると、左が石頭せきとう山、俗に城山である。その洞門のうがたれつつある巌壁がんぺきの前には黄の菰莚むしろ、バラック、つるはし、印半纒しるしばんてん、小舟が一、二そう、爆音、爆音、爆音である。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
一つは矢川文内の二女おつるさんの話で、一つは保さんの話である。文内には三子二女があった。長男俊平しゅんぺいは宗家をいで、その子蕃平しげへいさんが今浅草向柳原町むこうやなぎはらちょうに住しているそうである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その昼すぎ、女中のきよはぶつぶついいながら、掃き出していました。たった一枚松につるの絵のカルタが、縁先の飛石とびいしの下にはさまったまま、そののちしばらく、雨風にさらされていました。
祖母 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
巡礼乙女じゅんれいおとめのおつる石童丸いしどうまるのように、親を尋ねて漂泊さまよう少年少女が、村から村へと越える杉杜すぎもりの中の、それも鬱蒼うっそうと茂った森林の中の、そして岸にはあしが五六本ひょろひょろと生えていて
季節の植物帳 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
と上人が下したまうつるの一声のお言葉に群雀のともがら鳴りをとどめて、振り上げしこぶしかくすにところなく、禅僧の問答にありやありやと云いかけしまま一喝されて腰のくだけたるごとき風情なるもあり
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
清躯せいくあたかもつるのごとしと、こうもいったら当たるであろうか、そんなにも老人は痩せていて、そうしてそんなにも清気きよげであった。無紋の黒の羽織を着して、薄茶色の衣裳をまとっている。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
並木も泣きながら、彼もまた八津の目にふれぬようにしまいこんであった大事な色紙をもってきて、つるやっこ風船ふうせんを折って入れた。そんなものをもって、八津は死出しで旅路たびじについたのである。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
邸のなかで塔につるはしを打ちこめば、たとえそれがいちばんぼろぼろの朽ちはてた塔であっても、老衰した居候いそうろうで、一生涯ジョンの費用で暮らしていた男が、かならず、どこかの割れ目か銃眼から
主人の頭にあるものは、つるおかの社頭において、頼朝よりともの面前で舞を舞ったあの静とは限らない。それはこの家の遠い先祖が生きていた昔、———なつかしい古代を象徴しょうちょうする、ある高貴の女性である。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
あひるさんの近所に、つるさんがゐました。二人はお友達でした。
あひるさん と つるさん (新字旧仮名) / 村山籌子(著)
その日の夕刻、熱海梅林のつるの金網前に葉子は停って居た。
鶴は病みき (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
上「さアおつるおきんかえ時刻はいがナ、起んか」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)