しま)” の例文
紫玉は我知らず衣紋えもんしまった。……となえかたは相応そぐわぬにもせよ、へたな山水画のなかの隠者めいた老人までが、確か自分を知っている。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、右の方から黒い大きな戸が音を立ててしまって来た。彼はしかたなしに足をめたが、その戸はみるみる左の方へ往ってしまった。
女の首 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
横の方へ廻るとつが面取格子めんとりごうししまって居りますから、怖々こわ/″\格子を開けると、車が付いて居りますから、がら/\/\と音がします。
その通りだよ、手遲れになると、證據が逃げる、いや、こいつはいひ過ぎだ、ところで、出かける前に、俵屋の家中のしまりの具合を
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
云ったかと思うと、ガタガタと走り去る足音、バタンとしま鉄扉てっぴの音、そして、その外から聞えて来る、ゾッとする様な悪魔の笑い声。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
中古の鼠色ねず縮緬ちりめん兵児帯へこおびが、腰でだらしなくもなく、きりっとでもなく穏健おんけんしまっている。古いセルの単衣ひとえ、少したけが長過ぎる。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
竹の皮へ包みますが包むばかりではよくしまりませんからその上を竹の皮の細いので三か所ほど縛って固く締めるほど良いのです。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
樺は一見神経質らしい、それでいやに沈着おちつきすました若い男で、馬も敏捷びんしょう相好そうごうの、足腰のしまった、雑種らしい灰色なんです。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
かりはたらかせしが其の夜はおそなりしかば翌朝かへしけるにはや辰刻頃いつゝごろなるに隱居所の裏口うらぐちしまり居て未だ起ざる樣子なれば大いにあやし何時いつも早く目を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
寒くなると、がたがたふるえてる貧乏人がどれだけあるか知れないんだよ。お前さんは一体、しまるところは締るひとなんだのにね
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
ナルシサスもかくやと思われる美しい顔立ちに十九歳の若々しい肉体は、アポロのように見事に発育して引きしまっています。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
敬太郎は真面目まじめになって松本恒三様の五字をながめたが、ふとったしまりのない書体で、この人がこんな字を書くかと思うほどせつらしくできていた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それは脚だけの生きものでしかなかった。脚だけの生きものが、きゅっとしまった白い足袋をはき、赤鼻緒あかはなおのすがった軽いきり日和下駄ひよりげたをつっかけている。
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
大川内おおかわち四十軒の、捻土方ねりつちかた窯焚かまたき、下働きなどのしまりをしている鍋島家御用工人なべしまけごようこうにん土塀囲どべいがこいだが邸はかなり広い。
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼らの顔は、一様に、彼らの美しき不弥の女を守り得る力を、彼女に示さんとする努力のためにしまっていた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
いつしか坐りなおしていた自分の用意には、高座におけると同様の引きしまった精神が現われてまだやらぬうちから自分の物真似声ものまねごえが自分には聴こえていた。
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
チャンと軍令と云うものがあってしまりがついて居るから安心しなさいとしきりになだめて一寸ちょいとも手を触れないと云う一例でも、官軍の存外優しかったことが分る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
石之助いしのすけ其夜そのよはをとなしく、新年はる明日あすよりの三ヶにちなりとも、いへにていはふべきはづながら御存ごぞんじのしまりなし、かたくるしきはかまづれに挨拶あいさつ面倒めんどう意見いけんじつきゝあきたり
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
母もやはりそういう種類の女ではないかと思われます。一目ひとめ見ても決してわるい人でない事がわかります。若く見えてきれいですが、どこかしまりのないところがあります。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
前度にりて、鶏舎のしまりを厳重にしたが、外にしめ出しては詮方しかたが無い。なしの木の下に埋葬。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ボートルレは伯爵の持ってこさせた鶴嘴つるはしで階段のところを壊し初めた。ボートルレの顔色は気が引きしまっているためにまっ蒼であった。突然、鶴嘴は何かにあたってはね返った。
一体にがばしりて眼尻めじりにたるみ無く、一の字口の少しおおきなるもきっとしまりたるにかえって男らしく、娘にはいかがなれど浮世うきよ鹹味からみめて来た女にはかるべきところある肌合はだあいなリ。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
彼の顏立かほたちは整つてはゐるけれどしまりがなく、眼は大きくて美しく出來てはゐるが、そこからは、意氣地いくぢのないぼんやりした人となりが覗いてゐる——少くとも私にはさう思へたのだ。
それに南さんは色のあくまで白い、毛の濃い人でしたから、どんなものでも似合つて見えたのであらうと思はれます。目の細い、鼻の高い、そしてよくしまつた口元で、唇のあかい人でした。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
幕がしまると、それに気づいた母親は、延宝を連れて河内家の部屋へ謝りに往つた。
その引きしまつた頬を見ると、道助は急いで眼を背向そむけて少し速足に歩きだした。
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
近所きんじょでもよくつていることですが、老人ろうじんはかなりへんくつな人物じんぶつです。ひどく用心ようじんぶかくて、昼日中ひるひなかでも、もん内側うちがわしまりがしてあり、門柱もんちゅう呼鈴よびりんさないと、もんをあけてくれません。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
いますこしくいろ淺黒あさぐろくなつて、それに口元くちもとキリ、としまり、のパツチリとした樣子やうすは、なにともへずいさましい姿すがた此後このゝち機會きくわいて、かれ父君ちゝぎみなる濱島武文はまじまたけぶみ再會さいくわいしたときちゝ如何いかおどろくだらう。
姿にしても其通そのとほりだ、奈何いかにもキチンとしまツて、福袢じゆはんえりでもおびでも、または着物きものすそでもひツたり體にくツついてゐるけれども、ちつとだツて氣品きひんがない。別のことばでいふと、奥床おくゆかしい點が無いのだ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
紫玉は我知われしらず衣紋えもんしまつた。……となへかたは相応そぐはぬにもせよ、へたな山水画のなかの隠者めいた老人までが、確か自分を知つて居る。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
娘お妙が、床の上で羽子はねをついたというのは、あの白々とした窓でしょう。今日は障子がしまって、なんにも見せてはくれません。
平岡のうちまへた時は、くもつたあたまあつく掩ふかみ根元ねもと息切いきれてゐた。代助はいへに入るまへづ帽子をいだ。格子にはしまりがしてあつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そして、気がいて恐る恐る眼をやった時、南縁なんえんの雨戸のしまる音がして、曲者くせものの姿はもう見えないで、被衣のみがすなの上にふわりと落ちていた。
頼朝の最後 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
川手氏は長椅子の上に横になったまま黙りこんでしまったので、博士は預って置いた鍵を取出して、ドアにしまりをした。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ひたいが秀でてゐて唇がしまてゐる隅から、犬歯の先がちよつとのぞいてゐる。いまに事業家肌の医者になりさうな意志の強い、そして学者風にさばけてゐる青年だつた。
蝙蝠 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
はゝさんとふはるいひとだから心配しんぱいをさせないやうにはやしまつてくれゝばいが、わたしはこれでもひと半纒はんてんをば洗濯せんたくして、股引もゝひきのほころびでもつてたいとおもつてるに
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
被害者ひがいしゃ刈谷音吉老人かりやおときちろうじんは、もと高利貸こうりかしでへんくつで、昼日中ひるひなかでももんしまりをしていて、よびりんをさないと、ひと門内もんないとおさなかつたというほどに用心ようじんぶかく、それに妻子さいしはなく女中じょちゅうもおかず
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
入営除隊の送迎は勿論、何角の寄合事よりあいごとがあれば、天候季節の許す限りは此処の拝殿はいでんでしたものだ。乞食が寝泊りして火の用心が悪い処から、つい昨年になって拝殿に格子戸こうしどを立て、しまりをつけた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
明け釜元かまもと焚付たきつけ扨々昨夜ゆうべは危き事かなと一人いひつゝ吉之助初瀬留をもおこさんとしけるをり昨夜さくや喜八をとらへたる山田軍平は朝湯あさゆの歸り掛け煙草たばこかはんと喜八のみせ立寄たちよりしが未だおもてしまり居る故煙草たばこ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
禮「しからん奴だ、何処から這入りやアがった、しまりある場所を這入りやアがって、門でも乗越えて這入ったか、他に這入れる訳はねえが、此奴こいつ手前てめえ賊だな、いや賊だ、手前てめえ盗賊に違いあるめえ」
だから、する事が、ちつともしまりがない。縁日へひやかしになど行くと、急に思ひ出した様に、先生松を一鉢ひとはち御買ひなさいなんて妙な事を云ふ。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
面啖めんくらつて、へどもどしながら、そんななかでもそれでも、なん拍子ひやうしだか、かみなが工合ぐあひひ、またしまらないだらけたふうが、朝鮮てうせん支那しな留學生りうがくせいら。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そして、目的の病院へいたが、玄関の扉がしまっているので、しかたなく死体を出入する非常口から入った。
天井裏の妖婆 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
闇の中を手探りで、二階への階段まで近づき、そっと上を覗いて見ますと、暗いのも道理、梯子段はしごだんのぼった所の落し戸が、ピッタリしまっているのでございます。
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「あれだけ嚴重な、しまりの家だから、外から押入つたとすれば、何處どこかに變なところがあるわけだ」
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
健かな肉付きは、胸、背中から下腹部、腰、胴へとしまつて行き、こどものひょうを見るやうだつた。
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
きくのおりきゆきぬけのしまりなしだ、苦勞くろうといふことはしるまいとふお客樣きやくさまもござります、ほんに因果ゐんぐわとでもいふものかわたしくらいかなしいものはあるまいとおもひますとて潜然さめ/″\とするに
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
さても生駒家の用人ようにん留守居等は玄關脇げんくわんわきの座敷にひかへ居けるに暫時しばらく有て御徒目付青山三右衞門再び出立迎の乘物のりものしまりの儀御心得有べきやと云へば金子かねこ忠右衞門加川新右衞門の兩人御念ごねんの入たる御尋ねしまりの儀は錠前ぢやうまへに及ばざる旨御書付にまかせ錠は付申さず候へども警固けいご
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ただかすかに薄笑の影をしまりの好い口元に寄せて見せた。それがいかにも兄に打ち勝った得意の色をほのめかすように見えるのが津田にはしゃくだった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
をひの音次郎と心中をする約束で、掛り人のお京といふ娘が出た後、しまりのない縁側から、流しの忍込のびが入り込んで、主人の枕許の手文庫から、三百兩の金を掴み出したところを