粗末そまつ)” の例文
そして、終戦後、めっきり増えて来た、ちんぴらの不良少女や、若い露天商の女の粗末そまつな刺青なぞはほとんど眼にもめて来なかった。
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
こころあるひとなら、だれでもこのようにしてつくられた、食物しょくもつはむだにし、また器具きぐ粗末そまつあつかうことをよくないとおもうでありましょう。
都会はぜいたくだ (新字新仮名) / 小川未明(著)
わたしいまゐるところ日本にほんいえでございます。わたし日本にほんうちきでございます。日本にほん西洋家屋せいようかおくはお粗末そまつかへつかんじがわるうございます。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
驚く粗末そまつな建築で、小屋に毛の生えたものに過ぎない上に、夥しいガラクタ道具が一杯に散亂して、本當に足の踏みばもありません。
応接室といっても、テーブル椅子いすがあるわけではなく、がらんとした普通の六畳で、粗末そまつな瀬戸火鉢がまんなかに置かれてあった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
繰りかえして言うが、私は、決して家を粗末そまつにしていたわけではないのである。家を愛している。文学のつぎに、愛している。
春の盗賊 (新字新仮名) / 太宰治(著)
警「粗末そまつにするという事があるか、先方せんぽうの身体も貴様の身体も同じじゃ、それじゃに依って喧嘩口論して、粗暴に人を打擲する事はならん」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
しかし、さて食える寿司となるとなかなか少ない。これは寿司屋に調理の理解がないのと、安くして評判をとるために粗末そまつになるからだろう。
握り寿司の名人 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
先ほどの粗末そまつな下人の装束しょうぞくで、何やらおさがたい血気が身内にみなぎっている様子ようすである。舞台の右方に立ち、遠くから小野おのむらじをきっと凝視みつめる。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
粗末そまつきれ下衣したぎしかてゐないで、あしにはなにかず、落着おちついてゐて、べつおどろいたふうく、こちらを見上みあげた。
いづれもいたつて粗末そまつ簡單かんたん人形にんぎようで、あしほうはたいてい一本いつぽん筒形つゝがたになり、あしさきまであらはしてあるのはまれであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
教会は粗末そまつ漆喰造しっくいづくりで、ところどころ裂罅割ひびわれていました。多分はデビスさんの自分の家だったのでしょうが、ずいぶん大きいことは大きかったのです。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
人命に限りあればとて、命を粗末そまつにしていとは限らず。なるく長生をしようとするのは、人各々の分別なり。芸術上の作品も何時いつかは亡ぶのに違ひなし。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
日々ひび得意先を回る魚屋さかなや八百屋やおや豆腐屋とうふやの人々の中に裏門を通用する際、かく粗末そまつなる木戸きどをくぐらすは我々を侮辱ぶじょくするなりといきどおる民主主義の人もあるまい。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
老師はその粗末そまつな黒い法衣の上にたすきをかけ、手伝いに来た近所のおかみさんたち二三人を相手に、自分でも、こまねずみのように台所を走りまわるのだった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
しかしそれはマアいゝとして、『隱居いんきよ』と『熊公くまこう』とがわからないとは、きみあたま隨分ずゐぶん粗末そまつなブロツクだね。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
「うん、これくらいならこれだけあれば充分だ」と、自分の絵具箱から粗末そまつな使いふるしの、赤、青黄の三原色と、使いふるしの画筆えふでを二本くれたばかりだった。
これこそ真の処女である! 着ている衣裳は粗末そまつながらそれに何んのわずらいもされず玲瓏れいろうと澄み切ったその容貌は、愛と威厳と美との女神、吉祥天女きっしょうてんにょさながらである。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
何處どこ田舍武士ゐなかぶしかとつたやうな、粗末そまつ姿すがたて、羽二重はぶたへづくめの與力よりきどもは、あつとおどろいた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
一行は途方とほうにくれた面持おももちをしていると、親切な老院長が、一晩泊っておいでなさいとすすめてくれた。そして、粗末そまつながらも、夜食をふるまってくれたのである。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
海岸かいがんから三四丁はなれたやまふもとたつ此小學校このせうがくかうところけつして立派りつぱなものではありません。ことぼくはひつたころ粗末そまつ平屋ひらやで、教室けうしつかずよついつゝしかかつたのです。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
余が明治三十六年の夏来た頃は、汽車はまだ森までしかかゝって居なかった。大沼公園にも粗末そまつな料理屋が二三軒水際みぎわに立って居た。駒が岳の噴火も其後の事である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そしてご自分自身は、粗末そまつなぬのの着物をめし、いやしい船頭のようにじょうずにお姿すがたをお変えになって、かじをにぎって、その船の中に待ち受けておいでになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
「まあ、生きておいでなさい。どうにかなりましょう。食事は私が粗末そまつながら運んで来ますから、しばらくこの辺のどこかにしのんでおいでなさい。人に見付からぬように」
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
道中どうちゅうをしたら茶代をやるものだと聞いていた。茶代をやらないと粗末そまつに取り扱われると聞いていた。こんな、せまくて暗い部屋へし込めるのも茶代をやらないせいだろう。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
話しかけた若い女は、四角い包みを胸にかかえこむようにしながら、おじいさんの、むき出しのまま片腕かたうでにひっかけている粗末そまつなランドセルに、親しいまなざしをおくり
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
「三台の辻馬車つじばしゃで越していらっしゃいました」と、うやうやしくさらを差出しながら、侍僕頭がしたり顔に、——「自家用の車はお持ちでありませんし、家具もごくお粗末そまつで」
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
カピ長 あ、いや、方々かた/″\、おかへ支度じたくをなされな。粗末そまつ點心ごだんながら、只今たゞいま準備中よういちゅうでござる。
見物人けんぶつにんたちがうつくしくかざってるのにくらべて、人形使にんぎょうつかいの方はひどく粗末そまつななりでした。
活人形 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
彼がひそかに一挺いっちょうの三味線を手に入れようとして主家から給される時々の手あてや使い先でもら祝儀しゅうぎなどを貯金し出したのは十四歳のくれであって翌年の夏ようよう粗末そまつな稽古三味線を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その夜から、新吉もきえちゃんもわか姉さんもみんなばつを受けました。お小使いは一銭いっせんももらえなくなるし、三度の食事は二度になりました。それも、犬が食べるような粗末そまつな食事でした。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
粗末そまつに致したる儀に聞えもわるく其の上世間へパツと露顯ろけん致しては奉公ほうこうも出來ぬ故彼是と心をいためながら今日まで待合まちあはせて居ましたが今日うけたまはればお前樣へ公儀おかみより下され候由に付右の御談おはなし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
人手ひとでにかけては粗末そまつになるものきこえよがしの經濟けいざいまくらもとにしらせぬ。
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
諸大名しょだいみょう御用絵師ごようえしなどにくらべたら、まことに粗末そまつなものであった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
粗末そまつなるはこへすべり入り、ひめぐる。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
それは、粗末そまつだけれど、おおきなはちえてある南天なんてんであります。もう、幾日いくにちみずをやらなかったとみえて、もとのつちしろかわいていました。
おじいさんが捨てたら (新字新仮名) / 小川未明(著)
舌を焼くような出来たてのものを食べるから、おでんは美味いものと評判になってはいるが、その実、粗末そまつな食物なのだ。
鍋料理の話 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
もちろんあの埴輪はにわは、お葬式そうしきときつくつて墓場はかばてたもので、非常ひじようほねををつてつくつたものではありませんが、その粗末そまつ下手へたつくかたのうちにも
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
ゴーシュはその粗末そまつはこみたいなセロをかかえてかべの方へ向いて口をまげてぼろぼろなみだをこぼしましたが
セロ弾きのゴーシュ (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「あなたが先日あの方にあげた品ですね、あれをあの方は、こんな粗末そまつなものをもらったって何にもなりゃしないって蔭口かげぐちってましたよ。」などとげる第三者があるとします。
法律の書生なんてものは弱い癖に、やに口が達者なもので、な事を長たらしく述べ立てるから、寝る時にどんどん音がするのはおれの尻がわるいのじゃない。下宿の建築が粗末そまつなんだ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
階段は上になるほど狭くなり、そして粗末そまつになった。もうジュウタンなんか見られなかった。板ばりに塵埃じんあいや木の葉がたまり放しであった。だがそこにも落とし穴が二つも仕掛けてあった。
時計屋敷の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
実際じっさい世間せけんならわしとしてはいかにも表門おもてもんをりっぱにし裏門うらもん粗末そまつにする。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
其日そのひにちものおほせられず、一にちおいてよりははしおろしに、此家このやしな無代たゞでは出來できぬ、しゆうものとて粗末そまつおもふたらばちあたるぞえとれの談義だんぎくるひとごとげられてわかこゝろにははづかしく
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
死んだ父親と母親の着物、自分たちの着物、布団四、五枚、それから粗末そまつな二つ三つの家具、そういう物を二人は順々じゅんじゅんに売って、とうとう一枚の布団ぶとんしかのこらないようになってしまいました。
神様の布団 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
そのうちに全身が紫色にれて来て、これもあなたのようないいお方を粗末そまつにした罰で、当然の報いだとあきらめて、もう死ぬのを静かに待っていたら、腫れた皮膚が破れて青い水がどっさり出て
竹青 (新字新仮名) / 太宰治(著)
藤三は母屋おもやと離れた昔は石炭とまきを入れてあった物置の南と東に窓をつけた、粗末そまつな小屋に住んで居た。夜明けの薄明うすあかりが窓から流れ込み、藤三はミチの硝子ガラス窓をたたく音に眼をさまし、引戸をあけた。
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
そして今さらのように自分の着物のお粗末そまつなのに驚いた。
しょうは、まことにおそりました。じつに粗末そまつちゃわんでありましたから、殿とのさまにたいしてご無礼ぶれいをしたと、あたまげておわびをもうしあげました。
殿さまの茶わん (新字新仮名) / 小川未明(著)
ちょうどこんな粗末そまつ石器せつきつくつたことがあつてもよいし、またこんな石片せつぺんうちにも、人間にんげんくはへたものがこんじてゐることだけはみとめなければなりません。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)