たば)” の例文
白刃しらはげ、素槍すやりかまへてくのである。こんなのは、やがて大叱おほしかられにしかられて、たばにしてお取上とりあげにつたが……うであらう。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
橋のたもとに二軒の農家があって、その屋根の下を半ば我が家の物置きに使っているらしく、人の通れる路を残してたきぎたばが積んである。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
わらちひさなきまつたたばが一大抵たいていせんづゝであつた。の一わらなはにすれば二房半位ばうはんぐらゐで、草鞋わらぢにすれば五そく仕上しあがるのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
少年しょうねんは、マントのしたかたからかけた、新聞しんぶんたばから、一まいくと、もんけてぐちへまわらずに、たけ垣根かきねほうちかづきました。
生きぬく力 (新字新仮名) / 小川未明(著)
わしは林檎りんごの樹の下へ行っているから、お前もたばねが済んだら彼処あすこへ来てくれないか。あぜを歩くんだぞ、麦を倒すとけないからな
麦畑 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
清水谷の常吉が面白さうに渡したのは、女の手紙が五本、小菊に書いたなか/\の達筆たつぴつで、五本をあはせてこよりでたばねてあります。
不図気がつくと、納屋の檐下のきしたには、小麦も大麦も刈入れたたばのまゝまだきもせずに入れてある。他所よそでは最早棒打ぼううちも済んだ家もある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
というのは、いまズルスケにむかって投げつけたあさたばから、とうとうベッドのカーテンにまで火がえうつってしまったのです。
大抵のイズムとか主義とかいうものは無数の事実を几帳面きちょうめんな男がたばにして頭の抽出ひきだしへ入れやすいようにこしらえてくれたものである。
イズムの功過 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かずは千というほど多くても、もうたばがずっと小さく、したがってまたこれを千把焚せんばたき、もしくは千ばえ焚きというところが多いのである。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
あっしを受取ったデックは喰い付いたり引っ掻いたりするあっしの手と足を背後うしろからたばにしてギューと掴み締めてしまいました。
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
襖の根に置いてある本棚の側に、白い大きな壺に雛芥子ひなげしの花が沢山たばねて揷してあるのが、電気の灯の中に赤く目立つて見えた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
と云つて、あたまその方へ傾けて見せた。髪の根を下の方でたばねて、そしてその根も末の方も皆裏へ折り返して畳んでしまつてあるのである。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「凄かったあぜ、今日も、明日も、浪人共の首斬り、さらし、たばになって来るだあが、近ごろは浪人者がおとなしくなったなあ」
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
男は石膏のたまを放つこと雨より繁かりしかど、屈せずしてかの竿をたわませんとせしに、竿は半ばよりほきと折れて、燭のたばははたと落つ。
ヴィルジリオはおのが取られしをしりて我にむかひ、こゝによ、我汝をいだかんといひ、さて己と我とを一のたばとせり 一三三—一三五
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
だが、破れた窓から星明りはかすかにす。沢庵は、まきたばに腰をおろし、又八はむしろのうえに首を垂れている。いつまでも無言であった。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
我もまた、一囚人、「ひとり!」と鍵のたば持てるポマアドの悪臭たかき一看守に背押されて、昨夜あこがれ見しテニスコートに降り立ちぬ。
HUMAN LOST (新字新仮名) / 太宰治(著)
そのまわりには四人の青年がぎっしり寄り合って、そして少女は順ぐりに青年たちのおでこを、小さな灰色の花のたばたたいているのだった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
ガラスのマントも雫でいっぱいかみの毛もぬれてたばになり赤い顔からは湯気さえ立てながらはあはあはあはあふいごのように笑っていました。
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
七色のうつくしい光りのたばでかざられ、テッド博士以下を歓迎するという光りの文字がつづられては消え、消えてはつづられた。
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)
うす暗い蝋燭ろうそくのあかりを頼りにして、わたしは先ず故郷の人々から送って来た郵書を読んで、それから新聞紙のたばをほどいた。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お民は山梔色くちなしいろの染め糸を両手に掛けている。おまんがすこしずつ繰るたびに、その染め糸のたばはお民の両手を回って、順にほどけて行った。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかしそのうしろに立てた六枚屏風ろくまいびょうぶすそからは、ひもたばねた西洋の新聞か雑誌のようなものの片端かたはしが見えたので、私はそっと首を延して差覗さしのぞくと
門口を出て庭へ出て、門から往来へ駆け出そうとして、たばになって咲いている木芙蓉の花のくさむらそばまで走って来た時に
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
まつろうひざもとから、黒髪くろかみたばりあげた春重はるしげは、たちまちそれをかおてると、次第しだいつの感激かんげきをふるわせながら、異様いようこえわらはじめた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
かねて見置みおきしすゞり引出ひきだしより、たばのうちをたゞまい、つかみしのちゆめともうつゝともらず、三すけわたしてかへしたる始終しじうを、ひとなしとおもへるはおろかや。
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
このゆゑに此たばねたる稿わらおびにはさみてはなたず。またぎやうの中は无言むごんにて一言ひとこともいはず、又母のほか妻たりとも女の手より物をとらず、精進潔斎しやうじんけつさい勿論もちろん也。
かざりのないたばがみに、白い上衣うわぎを着たあなたが項垂うなだれたまま、映画をまるで見ていないようなのも悲しかった。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
六十本の大小を床の間にたばで立て掛け、その前に大胡坐おおあぐらの月輪軍之助を上座に、ズラリと円くいながれて、はや酒杯が飛ぶ、となりの肴を荒らす、腕相撲
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しかしバーンズは、直ぐに教室を出て、本をしまつてある小さい奧の室に入ると、一方の端がゆはへつけてある一たばの小枝を持つて半分もたないうちに戻つて來た。
富岡は、その死者の眼から、無量な抗議を聞いてゐるやうな気がした。ハンドバッグからくしを出して、かなり房々した死者の髪を、くしけづつて、たばねてやつた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
竜泉寺の渓を南に下つて行く坂で、峰から雑木を伐り出し、それの長いたばを半ば背負ふやうにして、険しい路を猿のやうに軽捷に馳せ下る幾人かの樵夫に出会つた。
なんと言ってもこれだけ世間を騒がしたのだし、七人の囚人と御船手役人がたばになって行方知れずになったということでは、お上でもそのまま捨ててはおきません。
顎十郎捕物帳:13 遠島船 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
また虹のいろの如く原色を染めまぜた毛糸のたばは不思議な印象を与えたものである。後にパリでオツトマンがかかる色彩諧調によつて幾多の絵を作つてゐるのを看た。
本の装釘 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
にんじんは、そこで、ある時はおじさんが鶴嘴を使うのを眺め、一歩一歩その後をつけ、ある時は、葡萄蔓ぶどうづるたばの上で寝ころび、空を見上げて柳の芽を吸うのである。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
部屋の中は可なり暗かったが、その開かれた手文庫の中には、薄紫の百円紙幣のたばが、——そうだ一寸にも近い束が、二つ三つ入れられてあるのが、アリ/\と見えた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
小さな紙ばさみにはさんだ一たばの電報をとり出し、それを次郎のまえにつき出しながら、言った。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
花婿は黒山高帽子に毛皮のえりの付きたる外套がいとうちゃくして、喜色満面にあふれていたるに引きかえ、花嫁はそれと正反対、紺色の吾妻あずまコートに白の肩掛、髪も結ばずたばのままの
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
天をあおいで合掌がっしょうするもの、襦袢じゅばん一つとなって、脱いだ着物を、うちかえしうちかえしてはながむるもの、髪をといたりたばねたりして小さな手鏡にうつし見るもの、き添いに
病房にたわむ花 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
木は、三百たばばかりあった。それだけを女一人で海岸まで出すのは容易な業ではなかった。
窃む女 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
まるで勝負にならぬ角力すもうで、たばになってかかった敵をば一突きで突き飛ばし給うたのです。
胡麻穂が一二百五十円とすると二十把はいるし、青竹は十本たばで幾ら幾らになり、棕梠縄は二十束と見ていくらいくらになります、それに手間代だが職人十五人かかるとすると
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
振分髪というのは、髪を肩のあたりまで垂らして切るので、まだ髪を結ぶまでに至らない童女、また童男の髪の風を云う。「く」は加行下二段の動詞で、髪をたばねあげることである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
赤い布片きれか何かで無雜作に髮をたばねた頭を、垢染あかじみた浅黄あさぎの手拭に包んで、雪でも降る日には、不恰好な雪沓つまごを穿いて、半分につた赤毛布を頭からスッポリかぶつて來る者の多い中に
二筋の血 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
テニスをやるものもないとみえて、網もラッケットも縁側の隅にいたずらにたばねられてある。事務室の硯箱すずりばこふたには塵埃ちりが白く、椅子はテーブルの上に載せて片づけられたままになっている。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
仙桂和尚はさういつて、せつせと菜のたばをつくつた。もう二十位束が出来た。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
乃公は此間井上さんが遊びに来たまえといって呉れた名刺を出して、上等の花を五円ばかりたばにして、お春さんのところへ持って行けとあつらえた。家へ行く道をチャンと教えたから間違いっこない。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
玄子げんしとははやしりて、えだきたり、それをはしらとして畑中はたなかて、日避ひよけ布片きれ天幕てんとごとり、まめくきたばにしてあるのをきたつて、き、其上そのうへ布呂敷ふろしきシオルなどいて
おどろいたことには、とらのやうに大切たいせつにしてゐるウェルスの手紙てがみなどれた折鞄をりかばんのなかから、黒髪くろかみたば短刀たんたうとが、かみにくるんで、ひもいはへられたまゝ、竹村たけむらまへ引出ひきだされたことであつた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)