あきら)” の例文
「そうか、高い渡船銭わたしせんだな」といいながら、八人前三十二銭渡して岸にあがると、岸上の立札にはあきらかに一人前一銭ずつと書いてある。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
それ三聲みこゑめにると、くやうな、うらむやうな、呻吟うめくやうな、くるしもがくかとおも意味いみあきらかにこもつてて、あたらしくまたみゝつんざく……
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
我わが問ひをもてあきらかにしてし易き説をはや刈り收めたれば、我は恰も睡氣ねむけづきて思ひ定まらざる人の如く立ちゐたり 八五—八七
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
這般しゃはんの理をあきらかにして、いわば飜訳の骨法ともいうべきものを一挙にして裁断した文句が、『玉洲画趣』の中に見出される。いわ
翻訳遅疑の説 (新字新仮名) / 神西清(著)
ところが実際にそれが使用され、やがてその全貌があきらかにされて来て、初めて今度の戦争の規模が本当によく理解されたのである。
原子爆弾雑話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
たとえ過失にもせよ、あきらかに殺人事件だから、道化ピエロの死体とともに、劇団「笑う妖魔」一座の者は、その場から警視庁へ連行された。
劇団「笑う妖魔」 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
品陀和氣ほむだわけの命、輕島のあきらの宮にましまして、天の下治らしめしき。この天皇、品陀の眞若まわかの王が女、三柱の女王ひめみこに娶ひたまひき。
今日ならばあきらかに交通妨害として、警官に叱られるところであろうが、昔のいわゆるお巡りさんは別にそれをとがめなかったので
薬前薬後 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
まへにもべたやうに、金解禁きんかいきん準備中じゆんびちうに、海外かいぐわいから思惑投機おもわくとうきごときは、その巨額きよがくならざることもおよあきらかになつてることであるから
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
わたくしは今淺井平八郎さんのもたらし來つた眞志屋文書に據つて、記載のもつれを解きほぐし、あきらめ得らるゝだけの事を明めようと努めた。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
洋燈ランプの光あきらかなる四畳半の書斎、かの女の若々しい心は色彩ある恋物語にあこがれ渡って、表情ある眼は更に深い深い意味をもって輝きわたった。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
そしてその日本に輸入されたのは、永禄年間であるから、これが七百年前の平氏の遺骨でないことは、火を観るよりもあきらかであるといった。
土塊石片録 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
何人なんびとも大半は婦人によつて教育せられるのであると云ふ一を見ても、婦人は男子と対等の生活を営みる権利をつて居るのはあきらかである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
当時私学の二大双璧ともいうべき慶応義塾と同志社においても学生が政治的認識をあきらかにして時代の改革に志したことは共通の現象であった。
早稲田大学 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
ドストエフスキー等に飽満した二葉亭が『書生気質』の著者たる当時の春廼舎に教えられる事が余り多くなかったのはあきらかに想像し得られる。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
長吉は自分とお糸の間にはいつのにかたがいに疎通しない感情の相違の生じている事をあきらかに知って、更に深いかなしみを感じた。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
◯ヨブ対三友人の対話を読むに、すべての点においてヨブの彼らに勝っていることはあきらかである。信仰は勿論もちろん知識においても彼ら以上である。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
あきらかに、彼は私に合うだけにあそこへ来るんです。なぜって、時間が来るまでは、事務所はガラ空きになってるって、彼が言明してますもの」
が、手紙てがみ後生大事ごしやうだいじしまつておくところからると、其後そのごなにかの事情じゞやうで、たがひへだたつてはゐても、こゝろいまへだてぬなかだとふことはあきらかである。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
あきらかな世の中でございますが、昔は幽霊が出るのはたゝりがあるからだうらみの一念三世さんぜに伝わると申す因縁話を度々たび/″\承まわりました事がございます。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ねむりさめて見れば眼あきらかにして寝覚ねざめの感じなく、眼をふさぎて静かにせばうつらうつらとして妄想はそのままに夢となる。
明治卅三年十月十五日記事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
私がこの奇異な世界に生れ出たことについては、そしてこの世界の中にあって今日まで生命を続けて来たことについては、私はあきらかに知っている。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
PからFへ、FからHへと国語がこの二千年間に進んだものが、現在南島に縮写されていることは、伊波君の記述によってもますますあきらかになり来った。
呉起ごきここおいて、さんとほつし、つひ其妻そのつまころし、もつせいくみせざるをあきらかにす。つひもつしやうとなす。しやうとしてせいめ、おほいこれやぶる。
白木のことばによって、私には、だんだん事情があきらかになってきた。そして、これは今までにない重大任務だと思った。
暗号音盤事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
この以外にまだ命名の動機のあきらかでないのは、九州阿蘇あそ付近でコガネグサ、この名は大隅にもあるから弘いのであろう。
正にこれ、はてしも知らぬ失恋の沙漠さばくは、濛々もうもうたる眼前に、うるはしき一望のミレエジは清絶の光を放ちて、はなはゆたかに、甚だあきらかに浮びたりと謂はざらん
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
伊賀いが上野うえのは旧藤堂とうどう侯の領分だが藩政の頃犯状はんじょうあきらかならず、去迚さりとて放還ほうかんも為し難き、俗に行悩ゆきなやみの咎人とがにんある時は、本城ほんじょう伊勢いせ安濃津あのつ差送さしおくるとごう
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
部屋の中は少しの取亂した樣子もなく、雨戸もあきらかに内から開けたもので、敷居にもさんにも、何んの傷もありません。
裏へ廻つて、大きな欅の下からたかそらを覗いたら、普通のそらよりもあきらかに見えた。熊笹のなか水際みずぎはりて、例の椎の木の所迄来て、又しやがんだ。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
かようにまだ歴史れきし十分じゆうぶんあきらかではないが、ぼんやりわかつて時代じだいを、われ/\は原史時代げんしじだいといふのであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
百姓ひやくしやうにしては比較的ひかくてきちひさなれたかとおもほどぽつりとふくれて、どれほどかしつかんでもけつして肉刺まめしやうずべきでないことをあきらかにしめしてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「書類を盗ませて、現に手に入れているのは、あきらかに、例の麹町六番町こうじまちろくばんちょうに住んでいるウイラード・シムソンなのだ」
計略二重戦:少年密偵 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
一生懸命でもう一度声をかけたが、何の甲斐かいもなかった。子供達の素振そぶりには、馬鹿にし切っている色があきらかだった。
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
お小さな応仁天皇おうじんてんのうも、そのうちにすっかりご成人になって、大和やまとあきらの宮で、ご自身にまつりごとをお聞きになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
そのさい小櫻姫こざくらひめがいかなる行動こうどうたかは、歴史れきし口碑こうひうえではあまりあきららかでないが、彼女自身かのじょじしん通信つうしんによれば、落城後らくじょうごもなくやまいにかかり、油壺あぶらつぼ南岸なんがん
夕方、櫻の澤へ散歩がてらあきら君の別莊による。當分新夫人と二人ぐらしの由。その美耶みや子夫人がこんなもの召上るかしらと言つてボンボンの皿を持つて出てくる。
エトランジェ (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
私自身わたしじしんとしては、まさに一のコスモポリタンだとしんじてゐる。しかわたしは『一所不在しよふぢう』でない。あきらかに日本東京にほんとうきやう居住きよぢうしてゐる。また海外かいぐわい旅行りよかうしたことほとんどない。
各々があきらかに分業的な職業となっております。ところが沖縄では、しばしば文学は音楽や舞踊なくしては現れず、また音楽は舞踊や詩歌を必然に伴うのであります。
沖縄の思い出 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
彼に犯罪ある、自然主義あるにあらずや、ビスマーク、ビューローを以てするも現カイゼルを以てするも、到底徳育の効果をまっとうするは不可能の事たるや、あきらかである。
教育の最大目的 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
前にもべし如く、コロボックルはもりの類にてうをりし事も有り、あみを以て魚を捕りし事も有りしはあきらかなれば、或る種類しゆるゐの舟も存在せしならんとは推知さるる事ながら
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
それが生の逃避ではあっても生の貫徹満足ではないことあきらかである。われわれは自殺の誘惑に屈服することなく生を遂げるために、別の方途におもむかなければならぬのである。
メメント モリ (新字新仮名) / 田辺元(著)
農政行届き民心を得候処は必ず仁政の行われ候処、この三条を目的にいたし、その事の挙げ候所はその国に人材これ有るべきに付き、その人に問うて細目を正し本体をあきらめ候処
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
偽者にせものあきらかになれば、申し分は無い。万一御落胤ときまった折には——何と申すか」
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
やが嫁入よめいり行列は、沈々ちんちん黙々もくもくとして黒い人影は菜の花の中を、物の半町はんちょうも進んだころおい、今まで晴れていた四月の紫空むらさきぞらにわかに曇って、日があきらかに射していながら絹糸のような細い雨が
菜の花物語 (新字新仮名) / 児玉花外(著)
かういふ地震計ぢしんけい遠方えんぽう大地震だいぢしん觀測かんそくすると、その記録きろくした模樣もようきはめて規則正きそくたゞしいものとなつてあらはれてて、今日こんにちでは模樣もようひとつ/\について其經路そのけいろすであきらかにせられてゐる。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
西の海東の山路、かなたこなた巡りましつつ、あきらけくおさまる御世の、今年はも十あまり三とせ、瑞枝みずえさす若葉の夏に、ももしきの大宮人の、人さはに御供みともつかへて、ひんがしみやこをたたし
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
兵士等へいしらだまつてあいちやんのはうました、とひあきらかにあいちやんにたいしてゞした。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
方程式の第一項は価値尺度財で表わした新資本の供給を示し、あきらかにiの減少函数である。第二項は価値尺度財で表わした新資本の需要を構成し、iの初め増加次に減少の函数である。
すると男は、一刻も早く自分が普通の乞食でないのをあきらかにしようとするやうに
葉書 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)