ことば)” の例文
別なことばでいふとこぼたねだ。だから母夫人の腹に、腹の違ツたあにか弟が出来てゐたならば勝見家に取ツて彼は無用むよう長物ちやうぶつであツたのだ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
されどわが物語あまりにおぼろに進まざるため、汝は今、わがこの長きことばの中なる戀人等の、フランチェスコと貧なるを知れ 七三—七五
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
みなまた少時しばしもくしてしまふ。其中そのうちちやる。ドクトル、ハヾトフはみなとの一ぱんはなしうちも、院長ゐんちやうことば注意ちゆういをしていてゐたが突然だしぬけに。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
検事も熊城も、とたんに嘲弄されたことは覚ったが、あれほど整然たる条理を思うと、彼のことばをそのまま信ずることは出来なかった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
そのくちびるはいまにも泣き出しさうにひきつってゐました。実にこれが虔十の一生の間のたった一つの人に対する逆らひのことばだったのです。
虔十公園林 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
鐘を見ようと思いますが、ふとことばを交わしたを御縁に、余り不躾ぶしつけがましい事じゃが、茶なりと湯なりと、一杯お振舞い下さらんか。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私は巻煙草の灰をふなばたの外に落しながら、あの生稲いくいねの雨の夜の記憶を、まざまざと心に描き出しました。が、三浦はよどみなくことばいで
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
姉は感心したようにことばをかけた。お島はたすきがけの素跣足すはだしで、手水鉢ちょうずばちの水を取かえながら、鉢前の小石を一つ一つ綺麗きれいに洗っていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
『人はパンのみにて生くる者に非ず、唯神の凡のことばによる』といふ主の御いましめ、或は『若し爾曹なんぢら我が爲に飢ゑかわく事あらば爾曹なんぢら幸なり』
ことば甚だぎやくに近しといへども、以て文明と戦争の関係を知るに足れり、戦争の精神、年をふて減じ行き、いつかは戦争なき時代を見るを得んか。
想断々(1) (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
此室ここかろうという蔵海のことばのままその室の前に立っていると、蔵海は其処そこだけ雨戸をった。庭の樹〻きぎは皆雨に悩んでいた。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
満枝は、彼のことばの決していつはりならざるべきを信じたり。彼の偏屈なる、にさるべき所見かんがへを懐けるも怪むには足らずと思へるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
嬉しさはことばに尽し難し。水なるかな、水ありて緑あり、水はのんど湿うるほし、緑は眼を潤す。水ありて、人あり、獣あり、村をなす。
かくやもめとなりしを便たよりよしとや、ことばたくみていざなへども、一〇四玉とくだけてもかはらまたきにはならはじものをと、幾たびか辛苦からきめを忍びぬる。
それより、わたくし武村兵曹たけむらへいそうとは、艦中かんちう一同いちどうからふでにもことばにもつくされぬ優待いうたいけて、印度洋インドやう波濤はたうつて、コロンボのみなとへとすゝんでく。
ことばけだしこの意にほかならじ、もし愛なる神のまして勇者を一層勇ならしめんとならばその愛するものをモギ取るにまされる法はなかるべし。
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
ヨハネ伝は「太初はじめことばあり、言は神とともにあり、言は神なりき」という書きだしでもわかるように、神秘的・哲学的です。
是以こゝをもつて君をはいして親王を立、国柄こくへいを一人の手ににぎらんとの密謀みつぼうあり 法皇ほふわうも是におうじ玉ふの風説ふうせつありとことばたくみざんしけり。時に 延喜帝御年十七なり。
兼好が人に代って鹽谷えんやの妻に送るのふみに比するも、人の感情を動かすの深き決してかれに劣らざる可し、是も亦他に非ず其の文のたゞちことばを写せばなり
松の操美人の生埋:01 序 (新字新仮名) / 宇田川文海(著)
ただ、物は見様みようでどうでもなる。レオナルド・ダ・ヴィンチが弟子に告げたことばに、あのかねおとを聞け、鐘は一つだが、音はどうとも聞かれるとある。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
併し彼女に関する僧院長アベセラピオンのことばは、屡々わしの記憶に現れて、わしの心に不安を与へずにはゐなかつた。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
馬鹿にして居る者もあるが、信ずる者が多い。信ずる者は、吉さんのことばで病気もなおり、なくなったものも見出す。此辺での長尾ながお郁子いくこ御船みふね千鶴子ちづこである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
知る(肉体にてか、肉体の外にてか、われ知らず、神しり給う)かれパラダイスに取り去られて言い得ざることば
パウロの混乱 (新字新仮名) / 太宰治(著)
其方共わが妻のことばを疑ふやとて御気色悪敷あしく奥の間へ入給ひけるが、其後も北の方様々に歎きまをされ
もとより両親のことばではあるし、自分でも強いて淋しい生活に入るのを望むわけでもないから、一切いっせつ両親にまかすことにしたのがそもそも娘の不運のもとであった。
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
『あゝあまりに哀れなる物語に、法體ほつたいにも恥ぢず、思はず落涙に及びたり。主婦あるじことばに從ひ、愚僧は之れより其の戀塚とやらに立寄りて、暫し𢌞向ゑかうの杖をとどめん』
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
しばしば彼に告ぐるに両親の悪意なきことを以てしけれども、なおことばを左右に托して来らず、ようよう疎遠の姿となりて、はてはその消息さえ絶えなんとはしたり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
それで眼がめたのだがこの時の妻の呼び声そのことば等かなり実際的なもののように私は思うのである。
ばけものばなし (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
するとイエズスは『人は活けるはパンのみによるに非ず。また神の口より出るすべてのことばによる』
この子を残して (新字新仮名) / 永井隆(著)
亨一は千百の不満があつても、温情ある此親友の忠言にことばらすことは出来なかつた。
計画 (新字旧仮名) / 平出修(著)
ピエトロが物語は、句ごとにことばごとに、我胸を刺す如くなりき。恩情母に等しきドメニカが、死になんなんとして我名を呼びしとき、我は避暑の遊をなして、心のどかに日を暮しつ。
かゝる時に際してかのはかなき抒情詩の他が一顧盻を冀ふに値するや否やを問ふは愚なるべし、そは新しと雖もなほかたひの歌なり、こゝろさへことばさへなほいと穉き歌なればなり。
抒情詩に就て (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
ここにおいて文殊師利もんじゅしり維摩詰ゆいまきつに問う。我ら各自みなみな説きおわれり。仁者きみ、まさに説くべし。何等なにをかこれ菩薩、にゅう不二法門という。時に、維摩、黙然ことばなし。文殊師利嘆じて曰く善哉よきかな善哉。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
『弟子イエスにいいけるは、もし人妻においてかくの如くば娶らざるにしかず。イエス彼等にいいけるは、このことばは人みな受納るること能わず。たださずけられたる者のみこれをなし得べし。』
けれど、母親ははおやのいうように、着物きもの粗末そまつときれいとによって、ころされたり、ころされなかったりすることが、あろう道理どうりがないとかんがえて、母親ははおやことばを、そのまましんずることはできませんでした。
兄弟のやまばと (新字新仮名) / 小川未明(著)
東の舟も 西の舟も、ひそまりてことばなく
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
梅子は依然ことばなし
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
うたがふはつみふかきことなり一日ひとひ二日ふたひ待給まちたま御返事おへんじまゐるはぢやうぞとひしにちがひはかるべししさうならばなんとせん八重やへうへもなき恩人おんじんなればなにごとなりともることしてよろこばせたしとししたなれど分別ふんべつあるひととてことばすくなゝればねがひはあるのぞみはなしやがたきを
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
こは初めひとへなりしも今二重ふたへとなりぬ、そは汝のことば、これとつらなる事のまことなるをこゝにもかしこにも定かに我に示せばなり 五五—五七
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
關取せきとり、ばんどり、おねばとり、と拍子ひやうしにかゝつたことばあり。けずまふは、大雨おほあめにて、重湯おもゆのやうにこしたぬと後言しりうごとなるべし。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
しかしりに貴方あなたところ真実しんじつとして、わたくし警察けいさつからまわされたもので、なに貴方あなたことばおさえようとしているものと仮定かていしましょう。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「どうして、やつは大魔霊デモーネン・ガイストさ」と法水は意外なことばを吐いた。「あの弱音器記号には、中世迷信の形相すさまじい力がこもっているのだよ」
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
子爵のことばにつれて我々は、陳列室のまん中に据えてあるベンチへ行って、一しょに腰を下ろした。室内にはもう一人も人影は見えなかった。
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
知らず燕王のこれに対して如何いかんの感を為せるを。たゞ燕王既に兵を起したたかいを開く、巍のことばしと雖も、大河既に決す、一葦いちいの支え難きが如し。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
し彼のまなこにらまれんとも、互のおもてを合せて、ことばかはさずともせめては相見て相知らばやと、四年よとせを恋にゑたる彼の心はいらるる如く動きぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「これから精々気をつけますから……。」とふるえ声でびるのであるが、そのことばには自信も決心もなかった。ただ恐怖があるばかりであった。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
人には各自に何事かの秘密あるものなり、とは詩家某の曰ひしことばなるが、恨むらくは此言このげんに洩るゝものゝ甚だまれなるを。
各人心宮内の秘宮 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
同情のみが彼らの心を占領したらんには、彼らはただちにヨブにちかづいてあつき握手をなし以て慰藉いしゃことばを発したであろう。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
勝四郎が妻なるものも、いづちへものがれんものをと思ひしかど、此の秋を待てと聞えしをつとことばを頼みつつも、安からぬ心に日をかぞへて暮しける。
是以こゝをもつて君をはいして親王を立、国柄こくへいを一人の手ににぎらんとの密謀みつぼうあり 法皇ほふわうも是におうじ玉ふの風説ふうせつありとことばたくみざんしけり。時に 延喜帝御年十七なり。