所爲せゐ)” の例文
新字:所為
燈火の加減でか、平生いつもより少し脊が低く見えた。そして、見慣れてゐる袴を穿いてゐない所爲せゐか、何となく見すぼらしくも有つた。
我等の一団と彼 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
米原まいばら北陸線ほくりくせん分岐道ぶんきだうとて、喜多きたにはひとり思出おもひでおほい。が、けるとかぜつめたい。所爲せゐか、何爲いつもそゞろさむえきである。
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
夜汽車よぎしや新橋しんばしいたときは、ひさりに叔父をぢ夫婦ふうふかほたが、夫婦ふうふとも所爲せゐれやかないろには宗助そうすけうつらなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
馬鹿ばかつてばかし所爲せゐからばかしびつちやつて、そんだがとれねえはうでもあんめえが、夏蕎麥なつそばとれるやうぢや世柄よがらよくねえつちから
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
時代の所爲せゐで致し方なしとしても、工藝品に及ぼした影響はひどかつた人爲的な歪められた燒物を今日まで猶われらは目にしなければならぬ。
やきもの読本 (旧字旧仮名) / 小野賢一郎(著)
うれしさうにえずたはむれたりえたりして、呼吸苦いきぐるしい所爲せゐか、ゼイ/\ひながら、其口そのくちからはしたれ、またそのおほきななかぢてゐました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
實際、大野と靜子との手を握らせたのは——洋畫家たる大野の或特別な畫にかの女自身をして適當なモデルを供せしめる爲め——義雄の所爲せゐである。
その子時三郎と申す者、父親の不行屆から起つた自害を、私の所爲せゐと思ひ込み、父の敵を討つのだと申して江戸に參り、私をつけ狙つて、ツイ此家の裏に住んで居ります
それから五六間も行つた時細君は急に走り戻つて來て「塀和さん私に此處で逢つたといふことうちに言はないで置いて下さいな。此頃病氣の所爲せゐだか馬鹿に疑ひ深くつて本當に困るのよ」
俳諧師 (旧字旧仮名) / 高浜虚子(著)
私は棺側に進んで、おしづさんの亡骸なきがらまみえた。おしづさんは病症の所爲せゐとかで、宛然まるで石膏細工のやうな顏や手をして居ました。髮だけは生前私が記憶して居るまゝに、黒く長く枕邊に亂れて居た。
「青白き夢」序 (旧字旧仮名) / 森田草平(著)
あなたの生眞面目きまじめさや、思慮深さや、つゝましさの所爲せゐで、あなたは祕密な話の聽手になるやうに造られてゐるのです。その上、私にはどういふ種類の心に、自分の心を觸れさせてゐるかゞ分るんです。
多少たせうはヒステリーの所爲せゐかともおもつたが、全然ぜんぜんさうともけつしかねて、しばらく茫然ぼんやりしてゐた。すると御米およねおもめた調子てうし
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
何故なぜだらう、これはのこぎり所爲せゐだ、)とかんがへて、やなぎいたむといつたおしなことばむねうかぶと、また木屑きくづむねにかゝつた。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
その時私は、何といふこともなく、松永のの衰へ方は病氣の所爲せゐではなくて、高橋の殘酷な親切の結果ではあるまいかといふやうな氣がした。
我等の一団と彼 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
開墾地かいこんちへは周圍しうゐかくれる場所ばしよ所爲せゐか、村落むら何處どこにもにはかそのこゑかなくなつたすゞめぐんをなして日毎ひごとおそうた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それにしても恐ろしい手練で、匕首を拔かなかつた所爲せゐか、ろくに血も出て居りません。
あいちやんは、夫人ふじんかる快活くわいくわつ氣性きしやうになつたのをはなはよろこび、あの厨房だいどころ出逢であつたときに、夫人ふじん彼麽あんな野蠻やばんめいたことをしたのは、まつた胡椒こせう所爲せゐであつたのだとおもひました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
かれその當時たうじしなうちへはとなりづかりといふので出入でいつた。ひとつにはかたちづくつてたおしな姿すがたたい所爲せゐでもあつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「はゝあ、だうがある所爲せゐで==陰陽界いんやうかい==などと石碑せきひにほりつけたんだな。ひとおどろかしやがつて、わる洒落しやれだ。」
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その所爲せゐでもあるまいが、校長に何か宿直の出來ぬ事故のある日には、此木田訓導に屹度差支へがある。代理の役は何時でも代用教員の甲田にころんだ。
葉書 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
わきに「是はしぼけた所と思ひ玉へ。下手まづいのは病氣の所爲せゐだと思ひ玉へ。嘘だと思はゞ肱を突いていて見玉へ」
子規の画 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
はれて七點セヴン空嘯そらうそぶき、『さうだよ、五點フアイブ何時いつでもわること他人ひと所爲せゐにするさ!』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
幸ひ手に立つほどの者がなかつた所爲せゐもあるでせうが、春木屋の裏口から灯と人とがあふれ出た時は、平次の十手は二人の得物を叩き落して、後手に犇々ひし/\と縛り上げて居た時だつたのです。
「まあ……たまらない。貴方あなた此方こちらます……お日樣ひさまいた所爲せゐか、たゞれてけたやうに眞赤まつかつて……」
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「なにうでもありません」ぐらゐにしてくと、その語氣ごきがからりとんでゐないので、御米およねはうでは、自分じぶん待遇たいぐうわる所爲せゐかと解釋かいしやくすることもあつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
お八重は此反對に、今は他に縁づいた異腹はらちがひの姉と一緒にそだつた所爲せゐか、負嫌ひの、我の強い兒で、娘盛りになつてからは、手もつけられぬ阿婆摺あばづれになつた。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
彼れは心の所爲せゐかとも思ひましたが、さうでもありません。併しその物音は別段に近づいて來るのでもなく、又去らうとするのでもない樣でした。庄次は少し恐ろしく成つて蒲團を被りました。
白瓜と青瓜 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「へツ、女房のない所爲せゐで」
穿物はきものおもいために、細君さいくんあしはこ敏活びんくわつならず。がそれ所爲せゐ散策さんさくかゝ長時間ちやうじかんつひやしたのではない。
山の手小景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
『胃の所爲せゐですな。』と頷いて、加藤は新しい手巾ハンカチで手を拭き乍ら坐り直した。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
ねえさん、なん所爲せゐわたしわづらつてるとおもつてくださる、生命いのちつゞかぬ、あまりとへばなさけない。人殺ひとごろし。」
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
僕は今までそれを、つまり僕等の理解が、まだ足らん所爲せゐだと思つてゐた。常に鋭い理解さへ持つてゐれば、現在の此の時代のヂレンマから脱れることが出來ると思つてゐた。然しさうぢやないね。
我等の一団と彼 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
さ、それべた所爲せゐでせう、おなかかは蒼白あをじろく、ふかのやうにだぶだぶして、手足てあし海松みるえだれたやうになつて、つと見着みつけたのがおにしま、——魔界まかいだわね。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
田舍には稀な程晩婚であつた所爲せゐでもあらうか、私には兄も姉も、妹もなく唯一粒種、剛い言葉一つも懸けるられずに育つた爲めか、背丈せいだけは普通であつたけれども、ひよろ/\と痩せ細つてゐて
二筋の血 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
東京とうきやうて、京都きやうと藝妓げいこに、石山寺いしやまでらほたるおくられて、其處等そこら露草つゆぐささがして歩行あるいて、朝晩あさばん井戸ゐどみづきりくと了簡れうけんだとちがふんです……矢張やつぱ故郷ふるさとことわすれた所爲せゐ
月夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
學士がくしまりかねてたうとする足許あしもとに、ふねよこざまに、ひたとついてた、爪先つまさきるほどのところにあつたのを、きりふか所爲せゐらなかつたのであらう、たゞそればかりでない。
三尺角拾遺:(木精) (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ぶくろ取付とりついた難破船なんぱせんおきのやうに、提灯ちやうちんひとつをたよりにして、暗闇くらやみにたゞよふうち、さあ、ときかれこれ、やがて十二時じふにじぎたとおもふと、所爲せゐか、その中心ちうしんとほぎたやうに
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
二人寢ふたりねゆつたりとした立派りつぱなもので、一面いちめんに、ひかりつた、なめらかに艶々つや/\した、ぬめか、羽二重はぶたへか、とおもあは朱鷺色ときいろなのを敷詰しきつめた、いさゝふるびてはえました。が、それはそらくもつて所爲せゐでせう。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
夜明よあけのない所爲せゐであらう。
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)