うや/\)” の例文
言はれて内室ないしつはひつて見ると成程なるほど石は何時いつにか紫檀したんだいかへつて居たので益々ます/\畏敬ゐけいねんたかめ、うや/\しく老叟をあふぎ見ると、老叟
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
一人ひとりわかそうちながら、むらさき袱紗ふくさいて、なかからした書物しよもつを、うや/\しく卓上たくじやうところた。またその禮拜らいはいして退しりぞくさまた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そこにうや/\しくかしてある死体の、品のよい、肌理きめの細かい、のっぺりした顔を想像し、さてその顔の空洞うつろになった中央部を想像すると
そして仏壇の方を目で指した。私は父の意味することをそれと察して、仏壇の前にきちんと坐り、うや/\しく亡き母の位牌に別れの礼拝をした。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
寝そべつて相手方がうや/\しく取上ぐるビールのコツプの泡が唇へ吸ひ込まれるのを人間が慰楽を摂取する器械はうまく出来てゐるなと眺めた。
坊つちやん「遺蹟めぐり」 (新字旧仮名) / 岡本一平(著)
如何いかなるくはだてか、内證ないしようはずわざ打明うちあけて饒舌しやべつて、紅筆べにふで戀歌こひうた移香うつりがぷんとする、懷紙ふところがみうや/\しくひろげて人々ひと/″\思入おもひいれ十分じふぶんせびらかした。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あけて内より白木しらきはこ黒塗くろぬりの箱とを取出し伊賀亮がまへへ差出す時に伊賀亮は天一坊に默禮もくれいうや/\しくくだんはこひもとき中より御墨附おんすみつきと御短刀たんたうとを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
その瞻視まなざしなさけありげなる、睫毛まつげの長く黒き、肢體したいしな高くすなほなる、我等をして覺えずうや/\しく帽を脱し禮を施さゞること能はざらしめたり。
「今君は何をさう念入りに考へてゐたのだね」と、医学士は云つて、腹の中では、こん度もきつと丁寧な、うや/\しい返辞をするだらうと予期してゐた。
彼女は、スキャチャード先生にうや/\しくお辭儀をして、その縁起えんぎの惡い道具を差出した。そして彼女は靜かに云ひつけられもしないのに前掛をとつた。
彼は受付へ行つて、チケットを買ふと、うや/\しく女達の前へいつた。そして踊りだした。それは何かエロの露骨な、インチキで荒つぽい踊りであつた。
町の踊り場 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
そして急にそれを抱きかゝへる如くひしと胸に押し当て、接吻し、又それをうや/\しく台の上に置くと手を合はせて拝んだ。勿論彼女は其場に引き立てられた。
それから祭服の複雑な襞の間を捜して、大きいハンカチイフを取り出して、うや/\しく鼻をかんだ。オルガン音階のC音を出したのである。そして唱へ始めた。
祭日 (新字旧仮名) / ライネル・マリア・リルケ(著)
大鞆は三筋の髪の毛をうや/\しく紙に包み水引を掛けぬばかりにして警察署に出頭し先ず荻沢警部の控所に入れり
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
此間このあひだにロミオは假面かめんのまゝ、巡禮姿じゅんれいすがたのまゝにてヂュリエットにちかづき、ひざまづきてうや/\しくそのる。
彼等かれらまさにこれを石盤せきばんきつけんとしたときに、白兎しろうさぎくちれて、『不必要ふひつえう御座ございます、陛下へいかよ、まをまでもなく』とはなはうや/\しく、しかまゆひそめてまをげました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
眼も何もれふさがりさうな顏に、涙の露をたらして、京子はヂツと竹丸の顏に眼を注ぎながら、右の空手からてで大事な物を握つてゐるやうにして、うや/\しく前に差し出した。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
ときは、わたくしは、屹度きつと軍艦ぐんかん」の艦尾かんびかた、八インチ速射砲そくしやほうよこたはるへんもしくば水面すいめんたか舷門げんもんのほとりにつて——うや/\しく——右手めてたか兜形ヘルメツトがた帽子ぼうしげて、いま一度いちど
と生きたる主人に物云う如くうや/\しくはいを遂げましてから、新幡随院の玄関に掛りまして
りよはかう見當けんたうけて二人ふたりそばすゝつた。そしてそであはせてうや/\しくれいをして、「朝儀大夫てうぎたいふ使持節しぢせつ台州たいしう主簿しゆぼ上柱國じやうちゆうこく賜緋魚袋しひぎよたい閭丘胤りよきういんまをすものでございます」と名告なのつた。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
そのフロツクコートといふのが、博士が大学を卒業した当時こしらへたもので、その後長年箪笥たんすの底にしまひ込んで置いたが、博士になつた当座文部省へ出頭する時には、うや/\しくそれを着込んでゐた。
君が結婚しようとする雪江さんは、僕もまんざら知らぬ仲ではないから、君たちの永遠の幸福を祈ってやまぬ僕は、こゝに君に向ってうや/\しく恋愛曲線を捧げ、以て微意を表したいと思うのである。
恋愛曲線 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
が、父はと見ると、しずかにその屍骸に近寄って、まずうや/\しく礼拝してから、傍に置いてあるむしろの上にすわるのであった。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
此處こゝがその、ひどなかちやうしき面白おもしろいのは、女房かみさんが、「なにかのお禁呪まじなひになるんだらう。」とつた。そこで、そのむすめが、うや/\しくおぼんせて、その釜敷かましきつてる。
廓そだち (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
友の擧動ふるまひ、その言語、一つとして不興のしるしならぬはなし。我も快からねば程なく暇乞して還りぬ。別るゝときは友のうや/\しさ常に倍して、その冷なる手は我が温なる手を握りぬ。
兵曹へいそうわたくしとは、うや/\しく敬禮けいれいほどこしつゝ、ふと、其人そのひとかほながめたが、あゝ、この艦長かんちやう眼元めもと——その口元くちもと——わたくしかつ記臆きおくせし、誰人たれかのなつかしいかほに、よくも/\ことおもつたが
小三郎は何を思いましたか不図起き上り、旅荷を引寄せ、合切嚢の中から取り出して、大野惣兵衞の冠った頭巾と、かたわらには國俊くにとしの木剣造りの小脇差を置きまして、小さい位牌をうや/\しく飾り
「さアだんさん、一つおあがりやしとくれやす。」とうや/\しく盃を進めた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
れ行かんと誘引さそひければ千太郎はうや/\しく兩手をつきよんどころなき用事もあれば勝手が間敷は候得共今日は御免ごめん有れと云ひければ大勢は酒機嫌さかきげんにて聞入ず殊に五兵衞の吝嗇りんしよく平生へいぜいにくみける故わざと千太郎を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
河内介はその問いには答えずに、再び懐を探ったかと思うと、今度も同じような金襴きんらんの袋に包んだ小型のつぼを取り出して、それをうや/\しく夫人の前に捧げた。
紅筆べにふで戀歌こひか移香うつりがぷんとする懷紙くわいしうや/\しくひろげて、人々ひと/″\思入おもひいれ十分じふぶんせびらかした。
片しぐれ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
我に勸めて歌はせし男うや/\しく媼の前に磕頭ぬかづきて、さてはフルヰアの君は此わかうどを見給ひしことあるか、又その歌を聞き給ひしことあるかと問ひぬ。媼。そは汝の知らぬ事なり。
なに艦長かんちやうめいかんとて、姿勢しせいたゞしててる三四めい水兵すいへいは、先刻せんこくより熱心ねつしん武村兵曹たけむらへいそうかほ見詰みつめてつたが、そのうち一名いちめい一歩いつぽすゝでゝ、うや/\しく虎髯大尉こぜんたいゐ艦長かんちやうとにむかひ、意味いみあり
小さな如来にょらいを安置した佛壇の中に「江東院正岫因公大禅定門」と記した位牌いはいがある、それぞまさしく三成の法名であったから、源太夫すなわってその前に至り、うや/\しく香をねんじて礼をした。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
洋杖ステツキ紙入かみいれと、蟇口がまぐち煙草入たばこいれを、外套ぐわいたうした一所いつしよ確乎しつかおさへながら、うや/\しく切符きつぷ急行劵きふかうけん二枚にまいつて、あまりの人混雜ひとごみ、あとじさりにつたるかたちは、われながら、はくのついたおのぼりさん。
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「弾正殿の大切な物が計らずも我等の手に入りましたが、これは定めし御入用と存じますからお返し申します」とでも云って、鼻をうや/\しく三宝に載せて、軍使が出張って来るのではないか。
「むきがに。」「殼附からつき。」などと銀座ぎんざのはちまきうまがるどころか、ヤタいちでも越前蟹ゑちぜんがに大蟹おほがに)をあつらへる……わづか十年じふねんばかりまへまでは、曾席くわいせきぜんうや/\しくはかまつきで罷出まかりでたのを、いまかられば、うそのやうだ。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
此の雪の白を如何いかようにすごしておられますか、今夜は大方なみ/\ならず冷えることゝ存じますが、………と云うような言葉を述べ、何やら衣筥ころもばこに収めたものをうや/\しく捧げながら運び入れた。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
店頭みせさきへ、うや/\しくたゝずんで、四邊あたりながら、せまつたこゑ
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
後生大事にその品物を袂のかげに抱えながら、我が家へ逃げ帰った平中は、一と間のうちに閉じ籠ってあたりに誰もいないのを確かめてから、先ずそれをうや/\しく座敷にすえて、とみこうみした。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)