なか)” の例文
二日ふつか眞夜中まよなか——せめて、たゞくるばかりをと、一時ひととき千秋せんしうおもひつ——三日みつか午前三時ごぜんさんじなかばならんとするときであつた。……
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
つまりなかばねたみ心から、若者の一挙一動を、ラッパを吹きながら正面を切った、その眼界の及ぶ限り、わば見張っていたのである。
木馬は廻る (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
愚楽老人の柄杓が、上座から順に、鉢に一ぴきずつ金魚をうつしてきて、いま、なかばを過ぎた一人のまえの鉢へ、一匹すくい入れると
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
なかば開きし障子しょうじの外の縁先には帯しどけなき細面ほそおもての女金盥かなだらいに向ひて寝起ねおきの顔を洗はんとするさまなぞ、柔情にゅうじょう甚だ忘るべからざる心地ここちす。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
自分はなかば風に吹き寄せられた厚い窓掛の、じとじとに湿しめったのを片方へがらりと引いた。途端とたんに母の寝返りを打つ音が聞こえた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もののようにえた呂宋兵衛は、すでに、味方みかたなかばはきずつき、半ばはどこかへ逃げうせたのを見て、いよいよ狼狽ろうばいしたようす。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山のなかばまで往ったところで、矢の音がした。陳は足を止めて耳をすました。と、馬の跫音がして二人の女郎むすめが駿馬に乗って駈けてきた。
西湖主 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
葉末はずゑにおくつゆほどもらずわらふてらすはるもまだかぜさむき二月なかうめんと夕暮ゆふぐれ摩利支天まりしてん縁日ゑんにちつらぬるそであたゝかげに。
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
龐涓はうけんくこと三日みつかおほひよろこんでいはく、『われもとよりせいぐんけふなるをる。りて三日みつか士卒しそつぐるものなかばにぎたり』
保名やすなからだがすっかりよくなって、ってそと出歩であるくことができるようになった時分じぶんには、もうとうにあきぎて、ふゆなかばになりました。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
『戀塚とは餘所よそながらゆかしき思ひす、らぬまへの我も戀塚のあるじなかばなりし事あれば』。言ひつゝ瀧口は呵々から/\と打笑へば、老婆は打消うちけ
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
流石さすがに物堅き重二郎も木竹きたけでは有りませんから、心嬉しく、おいさの顔を見ますと、つぼみの花の今なかひらかんとする処へつゆを含んだ風情ふぜい
男の子——夏樹はほおをふくらませて、なかばふてている。きのう、となりの女の子の初節句に人形を祝ってあげたのをやいているのである。
雑居家族 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
前にも言う通り、この世は男女相半あいなかばして存在しているので、日本も六千万の民衆というが、このなかばの三千万人は女子でなければならぬ。
現代の婦人に告ぐ (新字新仮名) / 大隈重信(著)
生命や感覺があるやうになかば考へながら、私がこの小さな玩具を、どんな馬鹿げた眞實で、溺愛できあいしてゐたかを、今思ひ出すことはむづかしい。
「猿に似て猿にもあらず、頭の毛長く背にたれたるがなかばはしろし。丈は常並の人よりたかく、顔は猿に似て赤からず、眼大にして光りあり」
雪男 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
この人の曰く、手をかけて見たらばよかりしに、なかば恐ろしければただ足にてれたるのみなりし故、さらに何もののわざとも思いつかずと。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
さびしいがはあたつてゐる。すべてが穏かな秋のなかばのあかるさだ。かがやきの無いかがやき。物音の無い、人のも無い庭、森閑とした庭、幽かな庭。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
王子はまだなかば夢からさめずに、いきなり飛び起きました。とたんに、老人の姿は雲と共にすーっと消えてしまいました。
夢の卵 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
このショックは勿論なみのように彼女の落ち着きを打ち崩した。彼女はなかば微笑した目にわざと妹をにらめるほかはなかった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しばらく道夫はなかば夢中でたべていたがそのうちふと気がついて、ひそかに自分の左に座って煙草をふかしているかの紳士の方へ注意を向けた。
四次元漂流 (新字新仮名) / 海野十三(著)
うれしさうにえずたはむれたりえたりして、呼吸苦いきぐるしい所爲せゐか、ゼイ/\ひながら、其口そのくちからはしたれ、またそのおほきななかぢてゐました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
一篇広告の隅々まで読み終りし頃は身体ようやく動揺になれて心地やゝすが/\しくなり、なかば身を起して窓外を見れば船は今室戸岬むろとざきを廻るなり。
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
つままどのもとに喰伏くひふせられあけにそみ、そのかたはらにはちゞみの糸などふみちらしたるさまなり。七ツの男の子はにはにありてかばねなかくはれたり。
さういふ小劍は、過去を語ることをひどく避けてゐたが、ただ一度、私に、なかば獨語的にかう云つたのを覺えてゐる。
「鱧の皮 他五篇」解説 (旧字旧仮名) / 宇野浩二(著)
ぎ「諸君、この酒を一つ試み給え。これも天下の富豪や贅沢家ぜいたくかがまだ口に入れた事のない珍物ちんぶつだ」と自分のコップへは惜しそうになかばほど注ぎぬ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
なかば予期していた事とは言え、失踪者の惨殺屍体が発見されたと聞いて、私達が飛上ったのも無理からぬ話である。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
水車みづぐるま川向かはむかふにあつてそのふるめかしいところ木立こだちしげみになかおほはれて案排あんばい蔦葛つたかづらまとふて具合ぐあひ少年心こどもごころにも面白おもしろ畫題ぐわだい心得こゝろえたのである。
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
山名さんめいはソムマといはれてゐるが、これがソムマすなは外輪山がいりんざんといふ外國語がいこくごおこりである。地圖ちずるソムマはヴェスヴィオをなか抱擁ほうようしたかたちをしてゐる。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
何事かといぶかりつつも行きて見れば、同志ら今や酒宴しゅえんなかばにて、しゃくせるひとのいとなまめかしうそうどき立ちたり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
あめチョコの天使てんしは、これからどうなるだろうかと、なかたよりないような、なかたのしみのような気持きもちでいました。
飴チョコの天使 (新字新仮名) / 小川未明(著)
操山の腹にそびゆる羅漢寺らかんじなかば樹立に抱かれて、その白壁は紫に染み、南の山の端には白雲の顔をのぞけるを見る。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
なかばは他の声に和し、他の意識を襲うて、神をも見たりと感じ、神の愛をも知りぬと許したりし也。即ち間接に他より動かさるゝ所、其の多きに居りし也。
予が見神の実験 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
年頃は三十をなかばほどとは考えさせるが、つくろわねど、この美貌きりょうゆえ若くも見えるのかも知れない。といって、その実はふけさせて見せているかも知れない。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
その幸運のなかばはブラームスのおかげであったにしても、結局はドヴォルシャークの長い努力の賜物たまもので、まことに見事な大器晩成ぶりであったと言ってよい。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
彼らの推測のあやまたざりしを知り、なかば彼をあわれむの同情心より、半ば彼を責むるの公義心——神に対する義務の感——よりして彼に向って語らんとするのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
「へええ。なん圖々づう/″\しいんでせうね」そうしてなか獨白ひとりごとのやうに「自分じぶんでこそ毎日まいにちのやうにやつてるくせに」
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
そのなか夢心地ゆめごこち状態じょうたいにあきてくると、彼はうごきまわっておとをたてたくてたまらなくなった。そういう時には、楽曲がっきょくつくり出して、それをあらんかぎりのこえで歌った。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
今まで素朴であった村邑むらむらが工夫という渡り物の来たためにアブク銭が落ち込むので、農家はいずれもなかば飲食店のようになり、善良なりし村家むらや戸毎こごとから酒気溢れ
「君の意氣と人格そツくりぢや、なア」と、氷峰は仰向あふむいたからだをなかば起して義雄の方へ向いた。
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
利平は、なかば泣き出したい気持になった。「利助、利助」女房は、塀越しに呼びかけようとした。
(新字新仮名) / 徳永直(著)
孤鞍衝雨こあんあめをついて」などは繞石君得意のもので少女不言花不語しょうじょものいわずはなかたらずの所などはそでなかば顔を隠くして、君の小さい眼に羞恥しゅうちの情を見せるところなどすこぶる人を悩殺するものがあった。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
その断崖だんがいからなかば宙に乗出した危石の上につかつかと老人は駈上り、振返ふりかえって紀昌に言う。どうじゃ。この石の上で先刻の業を今一度見せてくれぬか。今更引込ひっこみもならぬ。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
学生時代に安達君の部屋が集会所の観を呈したのも奥さんの親切がなかしからしめたのである。
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
僕の演説を充分に解することはその期待せぬところであろう。もし彼らが僕の演説をなかばなりとも了解し得たならば彼の人は感心によく英語を話したと思ってくれるだろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
つばくろの白い腹がひらりとひとつ返る度毎に、空の色が澄んでくる、五月のなかばだった。
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
彦六一七六用意なき男なれば、今は何かあらん、いざこなたへわたり給へと、戸を明くる事なかばならず、となりの軒にあなやと叫ぶ声耳をつらぬきて、思はず一七七尻居しりゐに座す。
犬は犬同士でなかばは枯れなかばは萌えた草の上でじゃれころがっているばかりであった。
愉快な教室 (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
昨年中ご減禄仰せいだされ候末のこととて、撫育ぶいく仕るべき様これなく家来ども七百戸三千七百余人の人員を移住致させ候儀にござ候へば、早速の儀、なかば漁猟によって活路をひらき
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
ついこの冬の末にそれもこの二本松のお城下にあった話じゃそうに厶りまするが、怪談にうたは旅の憎じゃとか申すことで厶りました。多分修行なかばの雲水うんすいででも厶りましたろう。
十万石の怪談 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)