まじ)” の例文
小姓がふすまを静かに引くと、白髪しらがまじりの安井の頭と、月代さかやきに赤黒いしみがぶちになっている藤井又左衛門の頭とが、並んで平伏していた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
俊助は近藤の隣へ腰を下しながら、こう云うハイカラな連中にまじっている大井篤夫おおいあつお野蛮やばんな姿を、滑稽に感ぜずにはいられなかった。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかも、それらの中には、五倍の大入道の顔、胡瓜きゅうりのような長っ細い顔、南瓜かぼちゃのように平べったい顔なども、幾十となくまじっている。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ジヤサントなどをまじへてはどうだらう。アルベエルサマンの詩に、アンリ・ド・レニエの散文調の詩をまぜたやうなものがいいだらう。
官庁や、大寺が、によつきり立つてゐる外は、貴族の屋敷が、処々むやみに面積を拡げて、板屋や瓦屋が、まじり/\に続いてゐる。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
「毎夜、観客の中に百人近くの密偵がまじっているということだ。そして何か秘密の方法で、舞台上ぶたいうえの首領と通信をしているそうだ」
間諜座事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ね、母様、あのおやしきの坊ちゃんの、青だの、紫だのまじった、着物より、花の方がうつくしいって、そういうのね。だもの、先生なんざ。
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
恐怖をまじえた憐憫の情から両手をただ挙げていただけであったのに、今は、亡霊のような彼の顔を自分の暖かな若い胸に休ませて
死んだ人のうちには、御爺さんも御婆さんもあるが、時には私よりも年歯としが若くって、平生からその健康を誇っていた人もまじっている。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
有島氏がこゝまで話して来ると、聴衆ききてまじつてゐた西洋婦人は鷦鷯みそさゞへのやうに口をとがらせて「ち、ち、ち……」と鋭い音を立てた。
辛辣しんらつ諧謔かいぎゃくまじりに、新聞記者へ説明されましたもので『この地球表面上に棲息している人間の一人として精神異状者でないものはない』
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
兎も角も、ざっと洗って、元の床へ納めてやりましたがね、あの病人は誰が何んと言ったって、正真正銘の、まじりっ気無しの病人ですよ。
銭形平次捕物控:239 群盗 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
仏七万遍になってから後は昼夜念仏の外に余事をまじゆるということなく、何か人が来て法門の話でもする時にはそれを聞く為か
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
年齢は言わぬが誰を見てもセガレと呼び、角田の長泉寺の天鑑てんがん和尚などは百七つまで長命したのに、やはりセガレをもってまじわっていた。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
もし翰が持出した珍書の中にむかし弘前ひろさき医官渋江氏旧蔵のものがまじっていたなら、世の中の事はすべて廻り持であると言わなければならない。
梅雨晴 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
私ら二人は新年の挨拶以外に言葉をまじえたことはなかったとはいえ、どちらも十幾年の月日を忍耐して来た一番の古参である。
睡蓮 (新字新仮名) / 横光利一(著)
子供達は、お涌も時にまじつて、その土蔵の外の溝板どぶいたに忍び寄り、にわかに足音を踏み立てて「ひとりぼつち——土蔵の皆三」と声をそろへてわめく。
蝙蝠 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
しろ切干きりぼしさずにしたのであつた。切干きりぼしあめらねばほこりだらけにらうがごみまじらうがひるよるむしろはなしである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
当時もとどりを麻糸でい、地織木綿じおりもめんの衣服をた弘前の人々の中へ、江戸そだちの五百らがまじったのだから、物珍らしく思われたのもあやしむに足りない。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その中には太鼓たいこだのほらがいだののおとまじって、まるで戦争せんそうのようなさわぎが、だんだんとこちらのほうちかづいてました。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
もとよりどんなふうあそぶのかもらなかつたのだが、さてその窓向まどむかうから時折ときをり談笑だんせうこゑまじつてチヤラチヤラチヤラチヤラきこえてくる麻雀牌マアジヤンパイおと
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
名主文太夫は、野半天のばんてん割羽織わりばおりに、捕繩とりなわで、御領私領の入れまじった十一か村の秣場まぐさばを取り締まっているような人であった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
村長は四十五ぐらいで、痘痕面あばたづらで、頭はなかば白かった。ここあたりによく見るタイプで、言葉には時々武州訛ぶしゅうなまりまじる。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
残花道人つて桂川を渡る、期は夜なり、風は少しく雨をまじゆ、「昨日きのふ今日けふ五月雨さみだれに、ふりくらしたる頃なれど」
いまいましく片意地に疳張かんばった中にも娘を愛する念もまじって、賢いようでも年が若いから一筋に思いこんで迷ってるものと思えば不愍ふびんでもあるから
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
快活でく笑いく語りますが、如何どうかすると恐しい程沈欝な顔をして、半日何人なんびととも口をまじえないことがあります。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
エイフツドクハク伊等イとう各國かくこく上等じやうとう船客せんきやくいづれも美々びゞしき服裝ふくさうして着席ちやくせきせる其中そのなかまじつて、うるはしき春枝夫人はるえふじん可憐かれん日出雄少年ひでをせうねんとの姿すがたえた。
そこには雑草にまじって野茨のいばらの花が白く咲いていたが、その雑草の中にななめに左の方へ往っている小さな草路くさみちがあった。登はその草路の方へ歩いて往った。
雑木林の中 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
すこをおいてから、Rこく婦人ふじんが一つて、やゝなが叙事的歌詞じよじてきかしのやうなものを、多少たせうしぐさまじへてえんした。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
〔評〕南洲人にせつして、みだりまじへず、人之をはゞかる。然れども其の人を知るに及んでは、則ち心をかたむけて之をたすく。其人に非ざれば則ち終身しゆうしんはず。
それでも吹雪ふぶきの晩などは、雪まじりの冷い風が遠慮なく部屋の中に吹き込んで、朝起きて見ると炉の脇に雪が積っているようなことがたびたびであった。
なぞと冗談をまじえる余裕が出た。社長の書生をめて溜飲を下げたことから鳧さんが談判に来たことに移って
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
添毛そへげをするのに一層勝手が好いからであるらしい。前に云ふのを忘れたが、髪結かみゆひの店には白髪まじりの附髷つけまげかつらまつたく白いのなどもおびたゞしくあるのである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
夫よりしてお花は日夜にちや下婢をなごの中に立まじり勝手もとの事などはたらくにぞ亭主はいとゞ不便に思ひ家内の者に言つけてお花をいたはらせければ下婢をなご仲間なかまにてもお花を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それはの家家からも二階からも起るらしい艶めかしい笑い声とまじって、かれののどすじを締めつけるような衝動的な調子でからみついてくるのであった。
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
これはうもならぬそのやうに茶利ちやりばかりはですこ眞實しんところかしてくれ、いかに朝夕てうせきうそなかおくるからとてちつとはまことまじはづ良人おつとはあつたか
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
夜路よみちをひた走りに走って鶴見地獄に出た。この鶴見地獄というのも昨年の春から爆発したものだそうである。泥土でいどまじえない清透せいとうな熱湯を噴出している。
別府温泉 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
確かに、それは地下室かられ聞えて来るのです。その上にジャージャーと云う激しい水の音にまじって、う、う、と云う悲鳴のような声が聞えるのです。
計略二重戦:少年密偵 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
日の光りを透さずに、枝と枝とがまじえて、空を塞いでいる。白い幹が赤い幹と交って突立つったっているのが目に入った。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
 花見の中にまじりて行けば美人が綺羅きらを着飾りて沢山出で来る故に、あのやうな女を我妻わがつまにしたい、このやうな娘も我妻にしたいと思ふといふことなり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ただその間に辛辣しんらつな風気がまじることがある。潔癖があったからである。それで思い切ったこともしかねない。現に人の好んでせぬことを独力で敢てした。
なに事をなすにも感情をまじえることは危険である。むろん感情と一口に言っても高尚こうしょうな感情もあるが、言うまでもなく今述べる感情は一時の客気かっきである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
濁ったくれないほのおがちらちらとして動いている。客が二三人坐っている。その中にこの料理屋の亭主もまじっている。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
あふるるばかりの同情どうじょうもって、なにくれとはなしかけてくださいますので、いつのにやらわたくしほうでもこころ遠慮えんりょられ、丁度ちょうど現世げんせしたしいかたひざまじえて
日本のことわざにまじわりはたんとして水のごとしというのがある、日本人は水のごとしだ、清浄せいじょうだ、淡白たんぱくだ、どんな人とでも胸をひらいてまじわることができる。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
第九 食物しよくもつ衣服いふくごと分限ぶんげんによるは勿論もちろんなれど、肉食にくしよくあざらけくあたらしきしな野菜やさいわかやわらかなるしなえらぶべし。よく烹熟にたきして、五穀ごこくまじくらふをよしとすること
養生心得草 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
前日の夕方から始まった烈風まじりのみぞれが、夜半頃に風が柔らぎ、今ではまったく降りやんだのであるが、依然厚い雪雲の層にさえぎられて、空のどこにも光がない。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
独特のユーモアをふんだんにまじえながら、終始軽快なアレグロのテンポで書き流してゆく手紙のなかに、当人の正体を捕えることは案外なほどむずかしいのだ。
前額から顱頂にかけて薄くなつた毛髪と、顳顬部の手入れした白毛をまじへた毛髪と、眉間の溝、鼻唇溝、さういふものまで、あらむ限りの筆力を以て描いてゐる。
茂吉の一面 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
もしも自然しぜん貝殼かひがらがつもつたものとすれば、そのうちには、きっとべられないをさないかひまじつてゐなければならないはずだのに、おほきいじゆくしたかひばかりであり
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)