こま)” の例文
「ドツコイ旦那、あんたよりお駒ちやんに一つ注いで貰ひまへう。」と、首を左右に振りながら、おこまの鼻ツ先へ杯を突き出した。
父の婚礼 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「もらい物ですが、毅一きいさんとみいちゃんに。まだ学校ですか、見えませんねエ。ああ、そうですか。——それからこれはこまさんに」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
こまたけふもと大湯村と橡尾とちを村の間を流るゝたに川を佐奈志さなし川といふ、ひとゝせ渇水かつすゐせし頃水中に一てんの光あり、螢の水にあるが如し。
総督へ献上のこまとあって、伝吉、彦助と名乗る両名の厩仲間うまやちゅうげんのものがお口取りに選ばれ、福島からお供を仰せつけられて来たとのこと。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
現に二人の若い船頭が将棋をさしているが、そこは店の外で、電燈でんとうの光などは届かないのに、こまを動かすのに少しも不自由はなかった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
とめてもきかずに、若君源三郎が門之丞を案内にたて、こまをいそがせてあのお蓮さまの寮へ行き着いたのは、まだ宵の口であった。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
伊那丸いなまるの馬は、ひづめって横飛びにぶったおれた。咲耶子さくやこは、竿立さおだちとなったこまのたてがみにしがみついて、ほのおのまえに悶絶もんぜつした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鹿じかなく山里やまざとえいじけむ嵯峨さがのあたりのあきころ——みねあらし松風まつかぜか、たづぬるひとことか、覺束おぼつかなくおもひ、こまはやめてくほどに——
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
其処そこには一ぴきの竜のこま(たつのおとしご)の大きなのが、金銀、珊瑚さんご、真珠などの飾りのついたくらを置かれ、その上には魚の形をした冠に
竜宮の犬 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
そうして新しい甦生そせいの道へこまの頭を向け直させるような指導者としての役目をつとめるのがまさにこの定座であるように思われるのである。
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「では、川西万兵衛まんべえ、差し出がましゅうござるが吟味つかまつる。——音蔵殺し下手人やまがらおこま、ここへ引かっしゃい」
細君は下女げじょをよんで、自分のひよりげたをこまげたにとりかえさして、縁端えんばたこしをかけた。そうしてげたのあとをしてくれ、と下女にめいじた。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
陸はこまひづめの通れん限り、海はかいが漕ぎ得る限り、どこまでも戦うつもりじゃ、もしわしの言葉に異論があれば、即刻唯今、鎌倉へ引上げい
上州じやうしうの三山、浅間山あさまやま木曾きそ御嶽おんたけ、それからこまヶ嶽たけ——そのほか山と名づくべき山には、一度も登つた事のない私であつた。
槍ヶ岳紀行 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
自分の歌にはろくな者無之「こまとめてそでうちはらふ」「見わたせば花も紅葉もみじも」などが人にもてはやさるる位の者に有之候。
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
むなしき人は悟性さとりなし、その生るるよりして野驢馬のろばこまの如し」というが如き、余りに不当なる悪口というべきである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
鹿角かづの打ったるかぶとを冠り紺糸縅こんいとおどしよろいを着、十文字のやりっさげて、鹿毛なるこまに打ちまたがり悠々と歩ませるその人こそ甚五衛門殿でございました」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
はじめのうちは、老人ろうじんのほうがずっとつよくて、こまとしてしていましたが、しまいにはあたりまえにして、老人ろうじんかされることもありました。
野ばら (新字新仮名) / 小川未明(著)
そこは西に面した高い城壁の上であったが、あわい月光の下、人影とおぼしきものが数十体、まるで将棋しょうぎこまをおいたように並んでいるのであった。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
栗毛くりげこまたくましきを、かしらも胸もかわつつみて飾れるびょうの数はふるい落せし秋の夜の星宿せいしゅくを一度に集めたるが如き心地である。女は息を凝らして眼をえる。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
またある時は女が針為事はりしごとをしていると、男はそばでそれを見ている。骨牌かるたなんぞをもして見る。男はある日女に将棋のこまの行き道を教えたり何かもした。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
こまたけをめぐる未開墾の火山灰地帯と大沼の風光をつきぬけて、噴火湾岸の森からオシャマンベまで、さしむき熱海あたみから藤沢までの天地自然の夕まぐれを
こまだけであろう頂上の禿げた大きな山の姿が頭の上にあった。その山のいただきの処には蒼白あおじろい雲が流れていた。
竈の中の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ひま行くこまの足早くてうまの歳を迎うる今日明日となった。誠や十二支に配られた動物輩いずれ優劣あるべきでないが、附き添うた伝説の多寡に著しい逕庭ちがいあり。
近衛府このえふの有名な芸人の舎人とねりで、よく何かの時には源氏について来る男に今朝も「そのこま」などを歌わせたが
源氏物語:18 松風 (新字新仮名) / 紫式部(著)
そう思い返しながら、われとわが拳固こぶしをもって自分の頭をなぐって、はやり狂う心のこまつなぎ止めたのであった。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
別にわけということはないてすが、こんな汚ない仕事しことして、あんまりお金安いてすから、と云い捨て、李聖学はまた将棋の方に眼をやって、こまを一つ動かした。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
天皇を兵庫の御道筋おみちすじまで御迎え申し上げたその時の有様を形にしたもので、おそれ多くも鳳輦ほうれんの方に向い、右手めて手綱たづなたたいて、勢い切ったこま足掻あがきを留めつつ
アパート支配人江川作平さくへい氏とその老妻おこまさんは、家賃の取立などは随分きびしく、因業者いんごうものの様に云われていたが、二人とも実は仲々の仏性ほとけしょうで、みなし児蘭子を
江川蘭子 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
たわむれに邪推してみて、ふざけていたら、たしかな証拠があります等と興覚めの恐ろしい事を真顔で言われて、総毛立った。冗談からこまが出たとは、この事だ。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
人形の締めているだらりの帯には、大方兄のキリレンコにでも知慧ちえを借りたのであろう。黒地にペインテックスで桂馬けいま飛車ひしゃの将棋のこまが描いてあるのであった。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
岩代の燧岳ひうちたけ、越後のこまたけ、八海山等皆巍然ぎぜんとして天にてうし、利根水源たる大刀根岳は之と相拮抗きつこうして其高きをあらさふ、越後岩代の地方に於てはけつしてゆきを見ざるに
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
一昨年おととしの夏わが休暇たまはりてここに来たりし頃、城の一族とほのりせむと出でしが、イイダの君が白きこますぐれてく、われのみきゆくをり、狭き道のまがり角にて
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
阪本天山翁、宝暦六年の『木曾きそこまたけ後一覧記のちのいちらんき』に、前岳まえだけの五六分目、はい松の中に一夜を明す。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
博勞等ばくらうらぞろ/\つながつてんだから、みねはうでも谷底たにそこはうでも一大變たいへんだあ、さうすつとこま子奴等こめらひゝんなんてあばさけてぱか/\ぱか/\とはこびがちがつてらな
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
十二月十四日に宿のかみさんに転宿のことを話し、翌十五日に日本媼にほんおうなのところに引越して来た。その晩に将棋を差したが、こまも盤も大戦前の留学生が置いて行つたものである。
日本大地震 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
挙げてさしまねかるることもあらば返すにこまなきわれは何と答えんかと予審廷へ出る心構えわざと燭台しょくだい遠退とおのけて顔を見られぬが一の手と逆茂木さかもぎ製造のほどもなくさらさらときぬの音
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
此萩の花ざかりにこまの悠遊する画趣がしゅが想われ、こんな所に生活する彼等が羨ましくなった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
これ余の始めて木曜会におもむきしいはれなり。木曜会の事はここにいはずとも既にその主人が手記せるもの『こまのいななき』といふ書の中に掲げられたれば就きてるこそよけれ。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
連れていって頂戴ちょうだいよう! と、ある晩スパセニアが冗談をいったことからこまが出て、パパが日本を出てから、もう三十六年にもなるから、生きているか死んでいるかわからぬが
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
すると狸の子は棒をもってセロのこまの下のところを拍子ひょうしをとってぽんぽん叩きはじめました。それがなかなかうまいので弾いているうちにゴーシュはこれは面白おもしろいぞと思いました。
セロ弾きのゴーシュ (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そんな気配を悟られてまたもやゼーロンの気勢がくじけたら一大事だと憂えたから、血を吐く思いの悲壮な喉を搾りあげて、魔の住む沼もいばらの径も、吾がこまの蹄に蹴られ……と
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
もし桜がなかったらどうであろう、春風長堤をふけども落花にいななけるこまもなし、南朝四百八十寺、いらか青苔せいたいにうるおえどもよろいそでに涙をしぼりし忠臣の面影おもかげをしのぶ由もなかろう
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
台広だいびろこまの、上方唄かみがたうたの三味線の音がゆるく響くと、涙がくゆってくるのであった。
大橋須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
やれ懐かしかったと喜び、水はぬるみ下草はえた、たかはまだ出ぬか、雉子きじはどうだと、つい若鮎わかあゆうわさにまで先走りて若い者はこまと共に元気づきて来る中に、さりとてはあるまじきふさよう
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
戦いが始まる前いつものように猩々緋の武者が唐冠の兜を朝日に輝かしながら、敵勢を尻目にかけて、大きく輪乗りをしたかと思うと、こまの頭を立てなおして、一気に敵陣に乗り入った。
(新字新仮名) / 菊池寛(著)
められる方が災難さ。目隠しが低い鼻の上へずっこけてえらみ討ちに捕まえるんだもの、やり切れないよ。御覧よ、先刻さっきお前さんに嘗められたおこまちゃんの頬が、火脹ひぶくれになったじゃないか
空にはつんとした乙女おとめのようなえた美しい雲が飛んだ。しかし失望のような黒い長い影を地上にひいて過ぎて行った。さらに調べを変えて戦いを歌い、剣戟けんげきの響きやこまひづめの音を歌った。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
この地衣こけのために、いははいろ/\うつくしい模樣もようもんあらはしてゐます。日本につぽんでは木曾きそ御嶽おんたけこまたけはこのたい位置いちがよくわかります。このたい上部じようぶはそれこそ地衣こけもないはだかのまゝの岩石がんせきです。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
旅衣たびごろもうべこそさゆれ。こまの くらたかねに、みゆきつもれり
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)